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年買法(年倍法)とは?中小企業M&Aの売却相場の計算方法

M&Aで自社の会社を売却しようと考えたとき、多くの経営者がまず気になるのは「自社にはいったいいくらの値段がつくのか」という点でしょう。仲介会社やM&Aアドバイザーとの初回面談で「年買法」という聞き慣れない言葉を耳にし、提示された金額の根拠がよく分からないまま話が進んでしまうケースは少なくありません。
「時価純資産+営業利益の◯年分」というシンプルな説明だけでは、なぜその年数なのか、自社の技術力やブランド力、取引先との関係といった数字に表れにくい価値がどこまで反映されているのか、疑問を感じる方も多いはずです。特に、会社を長年育ててきた経営者であればあるほど、簡易な計算式だけで自社の価値が決まってしまうことに納得できない気持ちを抱くのは自然なことです。
年買法は、中小企業のM&Aで実務上非常によく使われる企業価値評価の手法ですが、計算のシンプルさゆえに「なぜその数字になるのか」を正しく理解しないまま交渉に臨んでしまうと、本来得られたはずの評価を見落としたり、逆に過大な期待を抱いたまま交渉が難航したりするリスクがあります。
そこで本記事では、年買法の基本的な計算式から、適正年数(年数倍率)の考え方、他の企業価値評価手法との違い、メリット・デメリット、そして売り手として実務で気をつけるべきポイントまでを、中小企業M&Aの実務に即して解説します。
この記事の監修者

森沢 雄太
一般社団法人
M&Aセカンドオピニオン協会
代表理事
外資系銀行でのウェルスマネジメント業務を経て、日本M&Aセンターに入社。譲渡側アドバイザーとして100件超の成約に関与し、野村證券出向や福岡支店立ち上げも経験。2018年に日本投資ファンド立ち上げに参画し、投資先の再生にも成功。2022年、合同会社M&Aプレップを創業し、仲介会社・ファンドへの支援やオーナー向け売却準備、買収支援など幅広く展開。2024年には売却支援事業拡大のため株式会社企業経営支援機構を設立し代表に就任。加えて、M&Aにおける利益相反や情報格差の是正を目的とし、代表理事として一般社団法人M&Aセカンドオピニオン協会を設立。
年買法(年倍法)とは

年買法の定義と基本的な考え方
年買法(ねんばいほう、年倍法とも表記)とは、企業の時価純資産に、一定期間分の営業利益(またはこれに準じる利益指標)を上乗せして株式価値を算定する評価手法です。「時価純資産+のれん代」という発想に基づいており、貸借対照表の純資産をベースとするコストアプローチに、将来の収益力を反映させる要素(インカムアプローチの発想)を組み合わせた、いわば両者の折衷的な評価方法として位置づけられます。
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計算がシンプルで専門的な財務知識がなくても直感的に理解しやすいため、中小企業のM&A実務では、株式価値の目安を算出する際の代表的な手法のひとつとして広く用いられています。中小企業庁「中小M&Aガイドライン(第3版、2024年8月30日公表・2025年1月1日適用)」の参考資料でも、純資産法(簿価純資産法・時価純資産法)で算出した金額に数年分の利益を加算する考え方が、譲渡額算定の一例として紹介されています。ただし、これはガイドラインが年買法という手法を公式な標準として定めているという意味ではなく、実務で広く使われている複数の簡便的な算定方法のひとつとして触れられているものである点には注意が必要です。
なぜ中小企業M&Aで広く使われるのか
中小企業のM&Aでは、上場企業のM&Aのように株価や将来キャッシュフローの詳細な予測に基づく複雑な評価モデルを用いることが難しいケースが多くあります。非上場企業には市場株価が存在せず、将来の事業計画も精緻に作り込まれていないことが一般的だからです。
年買法は、決算書に基づく時価純資産と、直近の営業利益(またはこれに近い利益指標)という、比較的入手しやすい情報だけで計算できるため、次のような場面で重宝されています。
- 交渉の初期段階で、売り手・買い手双方が価格のイメージをすり合わせるとき
- M&A仲介会社が、売却を検討する経営者に対して概算の評価額を示すとき
- 精緻な事業計画に基づくDCF法(ディスカウント・キャッシュ・フロー法)を用いるほどの規模ではない、小規模な案件の目安を算出するとき
ただし、年買法はあくまで簡便的な目安を示す手法であり、最終的な譲渡価格は、財務・法務のデューデリジェンス(DD)の結果や、買い手企業とのシナジー、交渉の経緯などを踏まえて決定されるという点は押さえておく必要があります。
年買法の計算式と計算の手順

基本的な計算式
年買法の基本的な計算式は、次のとおりです。
株式価値 = 時価純資産 + 営業権(のれん代) 営業権(のれん代)= 実質営業利益 × 年数倍率(実務上の目安として2〜5年程度とされることが多い)
つまり、貸借対照表の純資産を時価に修正した金額に、直近の収益力を一定年数分乗じた金額(営業権)を加算することで、会社の株式価値を算出します。この「営業権」の部分が、目に見えない技術力・ブランド力・顧客基盤・従業員の専門性といった、いわゆる「のれん」に相当する価値を表現していると理解されています。
なお、M&Aの評価においては「企業価値」(事業全体の価値)と「株式価値」(企業価値から有利子負債等を差し引いた、株主に帰属する価値)が区別して語られることがあります。年買法は、非上場の中小企業における株式価値の目安を算出する手法として使われますが、実務では両者が厳密に区別されずに語られる場面も少なくないため、専門家との打ち合わせで提示された数値がどちらを指しているのか、意識しておくと理解が深まります。
時価純資産の算出
時価純資産とは、貸借対照表上の帳簿純資産を、時価ベースに修正した金額です。中小企業の決算書は、税務上の観点から資産・負債が簿価(取得時の価格)のまま計上されていることが多く、実態の時価と乖離しているケースが少なくありません。代表的な修正項目には、次のようなものがあります。
| 修正項目 | 修正の考え方 |
|---|---|
| 保有不動産 | 取得時の簿価から、取引事例・路線価・鑑定評価等を参考にした直近の時価に個別に修正 |
| 有価証券 | 取得原価から、直近の時価(市場価格)に修正 |
| 保険積立金 | 帳簿上の金額から、解約返戻金相当額に修正 |
| 不良債権・滞留在庫 | 回収不能・販売不能と見込まれる部分を資産から減額 |
| 退職給付債務 | 将来支給が見込まれる退職金相当額を負債として計上 |
| 簿外債務 | 未払残業代、訴訟リスクなど帳簿に現れていない債務を負債として計上 |
これらの修正を経て算出された時価純資産は、帳簿上の純資産よりも大きくなることもあれば、逆に不良資産や簿外債務の存在によって小さくなることもあります。
営業権(のれん)の考え方
営業権は、「実質営業利益 × 年数倍率」で算出します。実質営業利益とは、決算書上の営業利益をそのまま用いるのではなく、経営者個人への役員報酬のうち会社経営に直接関係しない部分や、本業と関係のない一時的な収益・費用を調整した、いわば会社の”正常な稼ぐ力”を表す利益です。
たとえば、オーナー経営者が同族会社にありがちな高額な役員報酬を受け取っている場合、これを一般的な水準の報酬額に置き換えて利益を再計算することで、買収後も継続的に見込める収益力に近づけます。この調整作業は「正常収益力の算定」と呼ばれ、年買法の精度を大きく左右する重要な工程です。なお、年買法で用いる利益指標は営業利益をベースに説明されることが多い一方、実務ではEBITDA(利払い・税引き・減価償却前利益)に近い考え方で補正するケースもあり、どの利益指標を基準にしているかを確認しておくことも、評価額を正しく理解するうえで役立ちます。
具体的な計算例
年買法の計算イメージを、簡略化した数値例で確認してみましょう。
| 項目 | 金額(目安) |
|---|---|
| 帳簿上の純資産 | 8,000万円 |
| 時価修正(不動産含み益等) | +2,000万円 |
| 時価純資産 | 1億円 |
| 実質営業利益(正常化後) | 1,500万円 |
| 年数倍率 | 3年 |
| 営業権(のれん代) | 4,500万円 |
| 株式価値(目安) | 1億4,500万円 |
上記はあくまで計算の仕組みを理解するための簡略例であり、実際の評価額は業種・規模・財務内容によって大きく異なります。具体的な自社の評価額は、税理士や公認会計士、M&A仲介会社などの専門家に相談のうえで算出することをおすすめします。
適正年数(年数倍率)の考え方

一般的な目安
年買法における「年数倍率」は、営業権の算定に用いる係数であり、実務上は2年から5年程度の範囲で設定されることが多いとされています。特に3年前後を目安とするケースが多いという指摘も見られますが、これは法令や公的な統計で定められた基準ではなく、あくまで実務慣行として定着している目安である点に注意が必要です。解説によっては1年から5年程度とより幅広いレンジを示すものもあり、統一的な基準があるわけではなく、業種や案件の個別事情によって採用される年数は変わってきます。
年数倍率の考え方は、買い手側の視点に立つと理解しやすくなります。買い手企業は、支払ったのれん代(営業権部分の対価)を、買収後の利益によって何年で回収できるかという「投資回収期間」の発想で年数を捉えていることが多いためです。回収期間が短いほど買い手にとってのリスクは低くなる一方、売り手にとっては評価額が抑えられる方向に働きます。
年数倍率を左右する要因
年数倍率は一律に決まるものではなく、次のような要素を踏まえて交渉の中で調整されます。
- 事業の継続性・安定性(長期契約の有無、顧客の分散度合いなど)
- 収益の成長性・将来性(市場の成長トレンド、新規事業の有無など)
- オーナー個人への依存度(キーマンリスクの大小)
- 業界特有のリスク(規制動向、参入障壁、技術革新のスピードなど)
- 買い手にとってのシナジー効果の見込み
一般的には、収益基盤が安定しており、特定の経営者個人に依存する度合いが低い事業ほど、年数倍率は高めに評価されやすい傾向があるといわれています。反対に、景気変動の影響を受けやすい業種や、オーナーの個人的な人脈・技術に強く依存している事業では、年数倍率が低めに設定される傾向があります。ただし、これも交渉によって変動する要素であり、断定的な基準として捉えるべきではありません。
年買法と他の企業価値評価手法との違い

M&Aにおける企業価値評価の手法は、大きく「コストアプローチ」「インカムアプローチ」「マーケットアプローチ」の3つに分類されます。年買法はこの3つのうち、コストアプローチとインカムアプローチの考え方を組み合わせた、いわば折衷的な手法として位置づけられています。
コストアプローチ・インカムアプローチ・マーケットアプローチそれぞれの詳細は企業価値評価(バリュエーション)の3つの方法で詳しく解説しています。
3つのアプローチと代表的な手法
| アプローチ | 考え方 | 代表的な手法 |
|---|---|---|
| コストアプローチ | 貸借対照表の純資産をベースに評価する | 簿価純資産法、時価純資産法 |
| インカムアプローチ | 将来のキャッシュフローを現在価値に割り引いて評価する | DCF法(ディスカウント・キャッシュ・フロー法) |
| マーケットアプローチ | 類似する上場企業や取引事例と比較して評価する | 類似会社比較法、EBITDAマルチプル法 |
| 折衷的手法 | 純資産に将来の収益力を加味して評価する | 年買法(年倍法) |
各手法との比較
DCF法は、将来複数年分の事業計画に基づくキャッシュフローを、一定の割引率で現在価値に割り引いて企業価値を算出する手法です。理論的な精緻さでは優れていますが、精度の高い事業計画の策定や割引率の設定に専門知識を要するため、中小企業のM&Aでは詳細な事業計画の作成自体が難しい場合が多く、活用のハードルが高くなることがあります。
EBITDAマルチプル法は、類似する業種・規模の企業の売買実績や上場企業の株価倍率をもとに、対象企業のEBITDA(利払い・税引き・減価償却前利益)に一定の倍率を乗じて評価する手法です。市場での取引実態を反映しやすい一方、中小企業では参照できる類似取引データが限られるという制約があります。
純資産法(簿価純資産法・時価純資産法)は、貸借対照表の純資産をそのまま、あるいは時価に修正して評価する手法です。計算は簡便ですが、将来の収益力やのれんに相当する無形の価値が反映されにくいという欠点があります。
年買法は、この純資産法の簡便さを土台にしながら、営業権という形で将来の収益力を加味する点に特徴があります。ただし、年買法には理論的な裏付けが乏しいという指摘もあります。年数倍率の設定に明確な根拠がなく、将来キャッシュフローを個別に予測するDCF法のような精緻さは持ち合わせていません。この点は、年買法を用いる際に売り手として理解しておくべき重要な限界です。
年買法のメリット

年買法が中小企業M&Aの実務で広く使われる背景には、次のようなメリットがあります。
- 計算方法がシンプルで、財務の専門知識がなくても大まかな評価額をイメージしやすい
- 決算書があれば算出できるため、詳細な事業計画の策定が不要
- 売り手・買い手の双方にとって、交渉のたたき台となる価格イメージを短時間で共有できる
- 純資産という客観的な数値を土台にしているため、極端に不合理な評価になりにくい
特に、M&Aの検討を始めたばかりの経営者にとっては、「自社にどの程度の値段がつきそうか」という大まかな相場観を早い段階で把握できることは、その後の意思決定を進めるうえで大きな助けになります。専門的な評価モデルを一から構築するには相応の時間とコストがかかりますが、年買法であれば比較的短期間で概算の評価額を得られる点は、実務上の大きな利点といえます。
年買法のデメリット・限界

一方で、年買法には売り手として見落としてはならないデメリット・限界もあります。
DCF法などと比べた理論的な精緻さの限界
年買法における年数倍率は、将来のキャッシュフローを個別に予測して積み上げたものではなく、実務慣行や専門家の経験則として定着してきた目安です。「なぜ3年なのか」「なぜ5年ではないのか」という問いに対して、DCF法のような理論的な説明を用意することは難しく、この点はDCF法などの精緻な評価手法と比較した際の年買法の限界として理解しておく必要があります。
将来の成長性が反映されにくい
年買法は、直近の実績である時価純資産と実質営業利益をベースに算出するため、将来の成長性や市場環境の変化が十分に反映されない場合があります。将来大きな成長が見込める事業であっても、直近の利益水準が低ければ、その将来性が評価額に十分に織り込まれない可能性があります。
業種によっては実態と乖離しやすい
設備投資や在庫を多く抱える業種と、人材の専門性が価値の源泉となるサービス業とでは、時価純資産や営業利益の持つ意味合いが大きく異なります。年買法は業種特性を個別に織り込む仕組みを持たないため、画一的に適用すると実態と乖離した評価になるおそれがあります。
売り手にとって過小評価になりやすい局面もある
将来性を重視した交渉がしにくいという特性上、成長途上の事業や、大型投資を経て収益化がこれから本格化する事業などでは、年買法による評価額が実態より低く出やすいという見方もあります。売り手としては、年買法による評価額だけを鵜呑みにせず、自社の将来性をどのように交渉材料として提示できるかを、専門家とともに検討する視点が重要です。
年買法を実務で使う際の注意点

年買法を用いて自社の評価額を検討する際、売り手として押さえておきたい実務上のポイントを整理します。
修正純資産の算出は丁寧に行う
時価純資産の算出は、単に決算書の数字を並べるだけでなく、不動産や有価証券の含み損益、保険積立金の解約返戻金相当額など、複数の項目を個別に確認する作業が必要です。この算出を簡易的に済ませてしまうと、本来の企業価値を正しく反映できません。デューデリジェンス(DD)の段階で買い手側の専門家が詳細に確認する項目でもあるため、売り手としても早い段階で自社の資産・負債の実態を把握しておくことが望ましいといえます。
デューデリジェンスで具体的に何が確認されるかはM&Aのデューデリジェンス(DD)で詳しく解説しています。
簿外債務のリスクを把握しておく
未払残業代や訴訟リスク、保証債務など、決算書に明示的に計上されていない簿外債務は、デューデリジェンスの過程で発覚すると、評価額の引き下げ交渉や、最終契約における表明保証条項での責任追及につながる可能性があります。売却を検討する段階で、労務・法務のリスクを社内で棚卸ししておくことは、交渉を有利に進めるうえでも重要な準備といえます。
実質営業利益の正常化を怠らない
オーナー経営者への役員報酬や、個人的な支出が会社の経費として計上されているケースでは、これらを一般的な水準に調整した「正常収益力」を算出する必要があります。この調整を行わないまま決算書の営業利益をそのまま用いると、実態よりも低い(あるいは高い)評価額が算出されてしまうおそれがあります。
多くの経営者にとって、自社の決算書を第三者の目線で見直す機会は多くありません。第三者の中立的な視点を交えて自社の実質的な収益力を確認しておくことで、交渉時に根拠のある説明ができるようになります。
条件の妥当性について、仲介会社とは別の中立的な立場から意見を聞いてみるのも、有効な準備の一つです。
年買法だけでM&Aの価格を決めるべきではない理由

ここまで見てきたように、年買法は簡便で分かりやすい反面、理論的な精緻さには限界があります。実務上、年買法は「価格交渉の出発点となる目安」として位置づけられており、最終的な譲渡価格をこれだけで決定することは推奨されません。
M&Aの価格全体がどのように決まるのか、算定方法から高く売るコツまで知りたい方はこちら

他の評価手法と併用する
年買法で算出した評価額を、DCF法やEBITDAマルチプル法など他の手法による評価額と比較検討することで、評価の妥当性を多角的に検証できます。複数の手法から算出された評価額にどの程度の幅があるかを把握しておくことは、交渉における自社のスタンスを整理するうえでも役立ちます。
最終的には交渉によって決まる
株式価値は理論値だけで決まるものではなく、買い手企業が対象企業に見出すシナジー効果、業界内での希少性、買収を急ぐ事情の有無など、さまざまな要素を踏まえた交渉の結果として決定されます。年買法による評価額はあくまで交渉のたたき台であり、そこからどのように条件を積み上げていくかが、売り手にとっての実質的な成果を左右します。
市場環境や競合の動向も考慮する
同業種のM&A成約事例や、買い手企業からの引き合いの状況といった市場環境も、価格形成に影響を与えます。年買法の計算式には表れないこうした市場動向を踏まえた交渉戦略を持てるかどうかも、売り手にとって重要な視点です。
年買法と混同されやすい用語の整理

M&Aの初期相談では、年買法以外にもさまざまな専門用語が登場します。特に「レーマン方式」は、年買法と同じ場面で語られることが多いものの、両者はまったく異なる概念です。
レーマン方式との違い
年買法は「企業の株式価値をいくらと評価するか」を算出する手法である一方、レーマン方式は「M&A仲介会社やFA(フィナンシャル・アドバイザー)に支払う成功報酬をどう計算するか」を定める手法です。レーマン方式は、譲渡金額(または移動総資産額など)に一定の料率を段階的に乗じて手数料を算出する考え方ですが、実務では株式価値を基準とする方式、株式価値に負債を加えた移動総資産を基準とする方式など複数のバリエーションが存在し、仲介会社やFAによって定義が異なる点に注意が必要です。中小M&Aガイドライン(第3版)では、契約締結前に手数料の算定方法や最低報酬額を書面で明示することが仲介者・FAに求められており、契約前にどの方式が採用されているかを必ず確認することが重要です。
レーマン方式による手数料の仕組みはM&Aの成功報酬とレーマン方式で詳しく解説しています。
年買法(株式価値の算定)とレーマン方式(手数料の算定)は、それぞれ別の場面で使われる異なる概念であることを理解しておくと、専門家との打ち合わせで混乱を避けられます。
「営業権」と「のれん」の違い
会計上の「のれん」は、M&Aで支払った取得対価と、取得した識別可能純資産の公正価値(時価)との差額として、買収後の決算上で計上される会計処理上の概念です。一方、年買法における「営業権」は、あくまで株式価値を算定するための計算過程で用いる概念であり、両者は密接に関連しますが、厳密には異なる文脈で使われる用語です。
業種による年買法の活用傾向

年買法は業種を問わず広く用いられていますが、業種特性によって評価の考え方に一定の傾向が見られます。あくまで一般的な傾向であり、個別の案件では大きく異なる場合がある点にご留意ください。
| 業種特性 | 評価における傾向 |
|---|---|
| 設備投資が大きく資産保有型の業種(製造業など) | 時価純資産の比重が相対的に大きくなりやすい |
| 人材の専門性・ノウハウが価値の源泉となる業種(サービス業・IT関連など) | 営業権(のれん)部分の比重が大きくなりやすい |
| 景気変動の影響を受けやすい業種 | 将来の不確実性を踏まえ、年数倍率が保守的に設定されやすい |
| 許認可や資格保有者への依存度が高い業種(建設業など) | 資格保有者の継続在籍見込みが評価に影響しやすい |
このように、自社がどのような価値の源泉を持つ業種に属しているかによって、年買法の評価結果の受け止め方や、交渉で強調すべきポイントは変わってきます。自社の業種特性を踏まえたうえで、どの要素が評価額に反映されにくいのかを事前に把握しておくことが、納得感のある交渉につながります。
年買法の評価額に納得できないときの実務チェックリスト

年買法によって提示された評価額に違和感がある場合、次のようなポイントを確認してみることをおすすめします。
- 時価純資産の算出で、不動産や保険積立金などの含み損益が適切に反映されているか
- 実質営業利益の算出で、役員報酬や一時的な損益が適切に調整されているか
- 年数倍率の設定根拠について、業種特性や自社の強みが考慮されているか
- 年買法以外の評価手法(DCF法やEBITDAマルチプル法など)でも試算されているか
- 提示された評価額が、あくまで交渉の出発点であることを前提とした説明を受けているか
これらの点について、提示元の仲介会社やアドバイザーから十分な説明を受けられない場合、評価の前提や計算根拠について中立的な第三者に確認してみることも一つの選択肢です。売却を急ぐあまり、評価額の妥当性を十分に検証しないまま話を進めてしまうと、後になって「もっと条件を交渉できたのではないか」という後悔につながりかねません。
提示された評価額に納得できないときは、中立的な第三者への相談も選択肢の一つです

年買法に関するよくある質問(FAQ)
年買法と年倍法は同じものですか?
はい、同じ評価手法を指します。「年買法」「年倍法」はどちらも実務上使われる呼称であり、算定方法に違いはありません。文献や仲介会社によって表記が分かれているだけで、内容は共通しています。
年買法の年数倍率に決まりはありますか?
法令や公的な基準で定められた統一的な年数はありません。実務上は2年から5年程度の範囲で、業種特性や交渉状況に応じて個別に設定されることが一般的です。提示された年数の根拠について、担当者に説明を求めることをおすすめします。
年買法で赤字企業は評価されませんか?
赤字企業であっても、時価純資産がプラスであれば一定の評価額が算出されます。ただし、営業権(のれん)部分については、直近の利益がマイナスの場合、上乗せが難しくなる傾向があります。赤字の理由(一時的な要因か構造的な要因か)によって、評価の考え方は変わってきます。また、年買法の計算上は評価額が算出できても、実際の譲渡可能性や最終的な譲渡価格は、赤字の原因、債務超過の有無、買い手が見込むシナジー効果などによって大きく変わる点にも留意が必要です。
年買法とDCF法はどちらを使うべきですか?
案件の規模や事業計画の精緻さによって使い分けられます。中小企業のM&Aでは、事業計画の詳細な策定が難しいケースが多いため年買法が広く使われますが、複数年の収益予測が可能な場合は、DCF法による評価も参考にすることで、より多角的な検討ができます。
年買法による評価額は交渉で変わりますか?
はい、変わります。年買法による評価額はあくまで交渉のたたき台であり、最終的な譲渡価格はデューデリジェンスの結果やシナジー効果、買い手企業の意向などを踏まえた交渉によって決定されます。
のれん(営業権)はマイナスになることもありますか?
理論上、正常収益力(実質営業利益)がマイナスの場合、営業権部分もマイナスとして計算されることがあります。ただし実務上は、営業権をゼロとして扱い、時価純資産を中心に評価額を検討する整理が用いられることもあります。この扱いは案件や仲介会社によって異なるため、事前に確認しておくとよいでしょう。
年買法の計算は自分でもできますか?
決算書があれば大まかな試算は可能ですが、時価純資産の算出には不動産や保険積立金の時価評価、簿外債務の洗い出しなど専門的な判断が必要な項目が多く含まれます。実質営業利益の正常化についても、どこまでを調整項目とするかの判断が評価額に大きく影響します。精度の高い評価額を把握したい場合は、税理士・公認会計士やM&A仲介会社などの専門家に相談しながら算出することをおすすめします。
まとめ
年買法は、時価純資産に営業権(実質営業利益×年数倍率)を加算するシンプルな計算式で、非上場中小企業の株式価値の目安を算出する際によく用いられる、中小企業M&Aで広く使われている評価手法です。計算の分かりやすさというメリットがある一方、年数倍率の設定に明確な理論的根拠がないこと、将来の成長性が反映されにくいことなど、見落としてはならない限界も存在します。
提示された評価額をそのまま受け入れるのではなく、時価純資産や実質営業利益の算出根拠を確認し、必要に応じて他の評価手法とも比較しながら、自社の価値を正しく理解した上で交渉に臨むことが、納得感のあるM&Aの実現につながります。
M&Aインサイトでは、完全無料・成功報酬なしで、売り手経営者に100%寄り添う中立的な第三者意見を提供しています。年買法による評価額の妥当性や、仲介会社から提示された条件について、専門家の視点から確認したいという方は、ぜひ一度ご相談ください。
監修:森沢雄太(一般社団法人M&Aセカンドオピニオン協会 代表理事) 日本M&Aセンター出身、M&A成約実績100件超。売り手経営者に寄り添う中立的な立場から、M&Aに関する疑問・不安に無料でお答えしています。