不動産M&Aとは?スキーム・税金・メリット・デメリットを売り手目線で徹底解説

不動産M&Aを検討する経営者と専門家が会議室でビル模型を前に打ち合わせをしているシーン

不動産を保有する会社を売りたい、あるいは後継者がいないまま廃業を考えている——そうした状況で「不動産M&A」という言葉を耳にした経営者は少なくないでしょう。しかし、「M&Aと不動産売買はどう違うのか」「どんな税金がかかるのか」「自社に合ったスキームはどれか」といった疑問を抱えたまま、情報収集の入り口で止まっているケースも多く見受けられます。

そこで本記事では、不動産M&Aの基本的な概念から、株式譲渡・会社分割といったスキームの違い、税務上の取り扱い、売り手・買い手それぞれのメリット・デメリット、実際の流れや事例まで、売り手経営者が知っておくべき情報を体系的に解説します。

この記事の監修者

M&Aセカンドオピニオン協会

代表理事 森沢 雄太

外資系銀行でのウェルスマネジメント業務を経て、日本M&Aセンターに入社。譲渡側アドバイザーとして100件超の成約に関与し、野村證券出向や福岡支店立ち上げも経験。2018年に日本投資ファンド立ち上げに参画し、投資先の再生にも成功。2022年、合同会社M&Aプレップを創業し、仲介会社・ファンドへの支援やオーナー向け売却準備、買収支援など幅広く展開。2024年には売却支援事業拡大のため株式会社企業経営支援機構を設立し代表に就任。加えて、M&Aにおける利益相反や情報格差の是正を目的とし、代表理事として一般社団法人M&Aセカンドオピニオン協会を設立。

目次

不動産M&Aとは

不動産会社の経営者が専門家から不動産M&Aの仕組みについて説明を受けているシーン

不動産M&Aとは、不動産(土地・建物など)を保有する会社ごと売買する手法です。不動産そのものを売却するのではなく、その不動産を所有する法人の株式や事業を譲渡することで、実質的に不動産の取得・移転を実現します。

買い手にとっては「不動産を取得する目的」で会社を買収するケースが多く、一方で売り手にとっては「会社や事業の承継手段」として活用されます。同じ不動産の移転でも、手続きや税金の取り扱いが通常の不動産売買とは大きく異なるため、正しい理解が重要です。

不動産売買との違い

通常の不動産売買では、土地・建物という資産そのものを取引します。この場合、売り手が個人であれば譲渡所得課税、法人であれば法人税等の課税対象となります。買い手には不動産取得税・登録免許税が課税され、また売買契約書などの課税文書に係る印紙税は、売り手・買い手の双方が納税義務者となるのが原則です。

一方、不動産M&Aでは不動産を直接売買するのではなく、その不動産を保有する会社の株式を譲渡します。そのため、対象となる課税の種類や税率が異なり、場合によっては税負担を大幅に抑えられるケースがあります。また、手続き面でも、不動産の所有権移転登記が不要になることが多く、取引コストの削減につながることもあります。

比較項目不動産売買不動産M&A(株式譲渡)
取引対象不動産(土地・建物)会社の株式
所有権移転登記必要原則不要
不動産取得税買い手に課税原則課税なし
登録免許税課税あり原則課税なし
売り手の課税譲渡所得税株式譲渡所得税
簿外債務の引き継ぎなしあり(リスク要因)

不動産M&Aが注目される背景

近年、不動産M&Aへの関心が高まっている背景には、いくつかの構造的な要因があります。

まず、中小不動産会社における後継者不在問題です。中小企業庁の中小企業白書でも示されているとおり、中小企業経営者の高齢化が進むなか、後継者を確保できない企業にとってM&Aを活用した第三者承継が有力な選択肢となっています。不動産業界もその傾向が顕著で、廃業という選択肢の代わりにM&Aによる事業承継を選ぶ経営者が増えています。

また、不動産M&Aには税制上の優遇効果が生じる場面があり、特に高額の不動産を保有する会社の売買において、通常の不動産売買と比べて売り手・買い手双方にとってコスト面でメリットが出やすい構造があります。こうした節税効果への注目も、件数増加を後押ししています。

さらに、国内の不動産市場における競争激化・DX対応の遅れ・人口減少による地方物件の収益低下といった経営課題を背景に、規模の拡大や経営資源の補完を目的とした戦略的なM&Aも増えています。不動産M&Aはもはや大企業だけの手法ではなく、中小企業・オーナー企業にとっても現実的な選択肢となっています。

不動産M&Aの3つのスキーム

複数の選択肢を並べた資料を前に比較検討している日本人経営者と専門家のシーン

不動産M&Aで活用される主なスキーム(取引手法)は、株式譲渡・会社分割(新設分割+株式譲渡)・事業譲渡の3種類です。それぞれ手続き・税務・リスクの観点で特徴が異なります。

株式譲渡による不動産M&A

株式譲渡とは、不動産を保有する会社の株式を買い手に売却する方法です。売り手(株主)が保有する株式を買い手に譲渡することで、会社の支配権が移転し、結果として会社が所有する不動産も実質的に買い手の管理下に移ります。

この手法の特徴は、手続きが比較的シンプルである点です。不動産の所有権移転登記が不要なため、不動産取得税や登録免許税が原則として発生しません。売り手が個人株主の場合、上場・非上場ともに原則として申告分離課税(約20.315%)が適用されます。ただし、発行会社(自社)への株式売却などの特例的なケースでは、一部がみなし配当として総合課税の対象となる場合があります。法人株主の場合は法人税等が課税され、実効税率は中小法人で約33.6%、大企業で約30.6%程度が目安となります(資本金規模等により変動)。株主の属性によって税負担が異なるため、いずれの場合も個別に税理士へ確認することを推奨します。いずれにしても、通常の不動産直接譲渡に比べて税負担を抑えられるケースがあります。

ただし、会社ごと売却するため、簿外債務(貸借対照表に記載されていない負債)や税務リスクなども買い手が引き継ぐことになります。そのため、買い手はデューデリジェンス(DD)と呼ばれる事前調査を徹底して行う必要があります。デューデリジェンスとは、買収対象会社の財務・法務・税務・不動産の権利関係などを詳細に調査するプロセスです。

会社分割(新設分割+株式譲渡)による不動産M&A

会社分割とは、既存の会社から特定の不動産や事業を切り出し、新しい会社(新設会社)に承継させたうえで、その新設会社の株式を買い手に売却する手法です。

具体的には、次のような流れで進みます。まず、不動産を保有する既存会社(A社)から対象不動産を新設会社(B社)に移転します(新設分割)。次に、A社がB社の株式を取得し、最後にA社がそのB社株式を買い手に譲渡します。

この手法のメリットは、売り手が希望する不動産だけを切り出して売却できる点です。会社全体のリスクを買い手に引き継がせることなく、特定の不動産に関連する権利・義務だけを移転できます。ただし、新設分割の要件を満たす必要があり、税務上の取り扱いも複雑になります。税理士や専門家との綿密な検討が欠かせないスキームです。

事業譲渡による不動産M&A

事業譲渡とは、会社が保有する特定の事業(不動産管理事業・賃貸事業など)とその事業に付随する資産・負債を個別に買い手に移転する方法です。

株式譲渡と異なり、移転する資産・負債を個別に選択できる点が特徴です。不動産の名義変更(所有権移転登記)が伴うため、不動産取得税や登録免許税がかかりますが、売り手が不要な債務を切り離して売却できるため、リスク管理の観点から選択されることがあります。

3つのスキームのうち、不動産M&Aで最も活用頻度が高いのは株式譲渡で、次いで会社分割(新設分割+株式譲渡)です。どのスキームが自社に最適かは、保有不動産の規模・種類、会社の財務状況、売り手の税務上の状況などによって異なります。

以下の表で3つのスキームの特徴を横断的に比較しておきます。

比較項目株式譲渡会社分割(新設分割+株式譲渡)事業譲渡
手続きの複雑さ低い高い中程度
売り手の税負担(個人株主)比較的低い(約20.315%)要件次第で軽減可法人税が発生
買い手の不動産取得税原則なし要件を満たす場合のみ非課税あり
簿外債務の引き継ぎあり(全部)限定的選択可
特定資産のみ売却不可可能可能
専門家関与の必要性必要特に必要必要
主な活用場面会社全体の承継特定不動産の切り出し事業・資産の選択的移転

この比較表からわかるように、会社全体を引き継いでもらいたい場合や税負担を抑えたい場合は株式譲渡が、特定の不動産だけを売却したい場合や簿外債務を切り離したい場合は会社分割または事業譲渡が適しています。自社の状況に合ったスキームを選ぶためにも、早い段階で専門家に相談することをおすすめします。

不動産M&Aにかかる税金

財務資料と税務書類を広げて検討している日本人経営者のオフィスシーン

不動産M&Aを検討する際、税金の理解は欠かせません。通常の不動産売買と比較した場合の税負担の違いを理解することで、どのスキームが適切かを判断する基礎となります。

通常の不動産売買・会社清算時の税金

参考として、不動産M&Aを選択しない場合(不動産を直接売却または会社清算)にかかる主な税金を整理します。

不動産を直接売却する場合、売り手法人には法人税・地方法人税・法人住民税・法人事業税等が課税されます(法定実効税率は企業規模にもよりますが概ね30〜34%程度)。その後、会社を清算して株主に残余財産を分配する際には、みなし配当課税(最大約55%の総合課税)が発生するケースがあります。個人が直接不動産を売却する場合は、短期譲渡所得(所有5年以下)で39.63%、長期譲渡所得(所有5年超)で20.315%の税率が適用されます(いずれも復興特別所得税を含む。2037年分まで適用)。

また、買い手が不動産を直接取得する場合は、不動産取得税(原則4%・住宅等は3%)と所有権移転登記に係る登録免許税(土地1.5%・建物2%が基本)のほか、売買契約書の印紙税が課されます。印紙税は課税文書の作成者である売り手・買い手の双方が納税義務者となるのが原則です。

株式譲渡スキームの税金

株式譲渡スキームでは、売り手の主な課税対象は株式の売却益です。売り手が個人株主の場合、上場・非上場ともに原則として申告分離課税(税率約20.315%:所得税15.315%+住民税5%)が適用されます。ただし、発行会社への売却など特例的なケースでは、一部がみなし配当として総合課税の対象となる場合があるため、個別の状況を税理士に確認することが重要です。法人株主の場合は法人税等が課税され、実効税率は中小法人で約33.6%、大企業で約30.6%程度が目安となります(資本金規模等により変動)。

買い手側には、不動産取得税・登録免許税は原則として発生しません(会社の所有権は変わらないため)。ただし、株式取得後に会社の内部取引として不動産を移動させると別途課税が生じる場合があります。

このように、株式譲渡スキームは特に売り手の税負担を軽減しやすく、中小不動産会社の売買で選ばれやすい手法です。

会社分割スキームの税金

会社分割(新設分割)を活用したスキームでは、分割時に適格要件を満たせば、分割した会社(A社)での課税を繰り延べ(非課税)にできる場合があります。これを「適格分割」と呼びます。

適格分割に該当するかどうかは、事業継続要件・従業員引き継ぎ要件・株式継続保有要件に加え、対価の内容・分割会社と承継会社との支配関係・事業関連性など、複数の条件を満たす必要があり、要件の判定は非常に複雑です。条件を満たさない「非適格分割」の場合は、分割時に時価で資産を譲渡したとみなされ、課税が発生します。

また、不動産取得税についても、地方税法上の一定要件を満たす場合のみ非課税となり、要件を満たさない分割では課税されるため注意が必要です。

また、税務当局から「租税回避行為」とみなされるリスクもあるため、スキーム設計には税理士・公認会計士などの専門家の関与が不可欠です。

なお、本記事に記載している税率・税制の内容は執筆時点の法令に基づく一般的な説明です。税率や特例は毎年の税制改正で変わることがあるため、実際の取引にあたっては必ず税理士等の専門家に最新情報を確認してください。

スキーム売り手の主な課税買い手の不動産取得税登録免許税
不動産直接売買法人税+みなし配当課税ありあり
株式譲渡株式譲渡所得税(個人:約20.315%)原則なし原則なし
会社分割(適格)分割時は繰り延べ可地方税法の要件を満たす場合のみ非課税一部軽減あり
事業譲渡法人税ありあり

不動産業種別のM&Aポイント

都市部と郊外の複数の不動産物件を俯瞰した都市風景とビジネスパーソンのシーン

不動産M&Aは「不動産会社」だけを対象とする取引ではありません。業種によって売却・買収の目的や、活用されるスキーム・価格算定の考え方が異なります。自社の業種に近いケースを確認しておきましょう。

業種M&Aの主な目的(売り手)主に使われるスキーム価格算定のポイント
不動産賃貸業保有物件の売却・事業承継株式譲渡物件時価+収益還元
不動産管理会社後継者不在・事業集約株式譲渡管理戸数・収益力
不動産仲介会社事業承継・廃業回避株式譲渡・事業譲渡従業員・顧客基盤
ホテル・旅館建物・土地の売却会社分割・株式譲渡不動産時価+収益力
ゴルフ場施設・土地の活用転換株式譲渡・事業譲渡土地評価+事業価値
商業ビル・マンション保有会社高額不動産の節税売却株式譲渡不動産鑑定評価

業種ごとに、デューデリジェンスで重点的に調査される項目も異なります。たとえば、ホテル・旅館では建物の劣化度・耐震基準の適合状況、不動産管理会社では管理委託契約の継続性や従業員との雇用契約の内容が重視されます。自社の業種に特有のリスクを事前に整理しておくことが、スムーズな交渉につながります。

不動産M&Aのメリット

M&A成立後に安心した表情で握手する日本人経営者と専門家のシーン

自社の状況に照らして、どのメリットが特に重要かを確認しましょう。

売り手側のメリット

税負担の軽減が期待できる

前述のとおり、株式譲渡スキームを活用した場合、通常の不動産売買(直接売却+会社清算)と比べて税負担を大幅に抑えられるケースがあります。特に高額な不動産を保有する会社では、税引き後の手取り額が大きく変わることもあります。

従業員の雇用や取引先との関係を維持しやすい

不動産売買だけでなく、会社ごとM&Aを行う場合、従業員の雇用関係や既存の取引先との契約がそのまま継続されやすいという特徴があります。廃業した場合に生じる従業員の雇用喪失・取引先への影響を最小化できる点は、経営者として会社への責任を全うするうえで大きな意味を持ちます。

後継者問題の解決

後継者がいない場合でも、会社をM&Aによって第三者に引き継ぐことで、事業の継続と廃業コストの回避が可能になります。不動産管理・賃貸事業を長年営んできた会社の場合、廃業よりも事業承継(M&A)の方が従業員・顧客・地域にとってもメリットが大きいケースが多いです。

不動産売買に伴うコスト・手続きの省略

株式譲渡の場合、不動産の所有権移転登記が不要なため、不動産移転に伴う登記費用(登録免許税・司法書士費用など)が発生しません。高額不動産の取引では、このコスト差が相当の額になることもあります。ただし、M&A仲介会社やFA(財務アドバイザー)への手数料・着手金・専門家費用は別途発生しますので、これらのコストも含めて総合的に検討することが重要です。

買い手側のメリット

不動産取得に伴うコスト削減

不動産取得税・登録免許税の負担を回避または軽減できるため、市場流通している同等物件を直接購入するよりも実質的な取得コストが低くなるケースがあります。

優良物件への参入機会

市場に出回りにくい優良物件や、特定エリアで強みを持つ不動産会社を丸ごと取得できるため、新規エリア進出や事業拡大において迅速な戦略実行が可能になります。

既存の取引関係・管理ノウハウの引き継ぎ

不動産管理会社や仲介会社を取得した場合、既存の顧客・テナント・管理契約・人材もまとめて引き継ぐことができます。ゼロから事業構築するよりも短期間で収益基盤を確立できる点は、買い手にとって大きな価値となります。

不動産M&Aのデメリットと注意点

重要書類を丁寧に確認している日本人経営者と専門家が慎重に対話しているシーン

不動産M&Aにはメリットがある一方で、売り手・買い手ともに事前に理解しておくべきリスクや注意点があります。

売り手側のデメリット

簿外債務が存在する場合の売却への影響

会社を売却する際、貸借対照表(B/S)に記載されていない簿外債務(未払い残業代・訴訟リスク・環境汚染対応費用など)が発覚すると、買い手側の評価が下がり、売却価格の引き下げや交渉の難航につながります。事前に自社の財務・法務状況を整理・開示することが重要です。

売却価格の算定が複雑

不動産の時価評価と会社全体の企業価値評価の両方が絡むため、適正価格の算定に専門的な知識が必要です。買い手側のアドバイザーとの交渉では、情報格差が売り手側に不利に働く場合があります。売り手自身も企業価値の算定方法について基本的な理解を持っておくことが大切です。

相手先探しや交渉に時間がかかる

不動産M&Aは通常のM&Aよりも専門性が高いため、適切な相手先を見つけるまでに時間を要する場合があります。また、デューデリジェンスを含めた全体のプロセスは、一般的に6か月〜1年程度かかることも想定しておく必要があります。

買い手側のデメリット

引き継ぐリスクへの対応コスト

株式譲渡では、対象会社の過去の税務リスク・訴訟リスク・環境問題なども引き継ぐ可能性があります。デューデリジェンス(事前調査)で問題を把握しきれなかった場合、クロージング(取引完了)後に予期しないコストが発生するリスクがあります。

土地の短期所有とみなされるケース

株式譲渡後、短期間で保有不動産を売却した場合、税務当局から「実質的な短期土地譲渡」とみなされ、重課税(通常の法人税に加えて追加税率)が課される可能性があります。この点は特に注意が必要で、取得後の不動産活用計画を慎重に立てる必要があります。

税制上、不動産M&Aが困難なケース

税務書類を前に専門家から慎重な説明を受けている日本人経営者のシーン

不動産M&Aのスキームによっては、税制上の制約から実施が難しいケースがあります。代表的なものを理解しておきましょう。

株式譲渡後の短期不動産売却

株式譲渡で会社を取得した後、その会社が保有する土地を短期間(取得から5年以内)に売却すると、「短期所有土地の譲渡」として通常の法人税に加えて土地の譲渡益に対する追加課税(10%)が行われる制度(短期所有土地等の特別課税)があります。

ただし、この制度は土地取引の活性化を目的として長年にわたり課税が停止されており、令和8年度税制改正によって適用停止措置の期限がさらに3年延長され、令和11年3月31日まで停止が継続されることになりました。そのため現時点では当該追加課税は発生しませんが、制度自体は存続しており、停止措置の継続は税制改正次第です。買い手が不動産の転売を目的とする案件では、この点について最新の税制情報を税理士に確認することが不可欠です。

新設分割スキームでの租税回避と判断されるリスク

会社分割(新設分割)を活用したスキームで、税務当局から「専ら租税回避を目的とした行為」とみなされると、本来適格分割として非課税処理できる取引が否認されるリスクがあります。

特に、不動産を切り出すことだけを目的とした新設分割で、事業実態が伴わないと判断されるケースが該当します。税務リスクの回避には、事業継続の実態を明確にした構造設計と、税理士・公認会計士の事前確認が必要です。

不動産M&Aの一般的な流れ

M&Aのプロセスを段階的に確認しながら進める日本人経営者と専門家チームのシーン

不動産M&Aのプロセスは、大きく「検討・準備」「交渉・基本合意」「デューデリジェンス」「最終契約・クロージング」の4段階に分かれます。

検討から基本合意まで

まず、売り手側が自社の事業価値・保有不動産の評価・売却の目的と条件を整理します。M&A仲介会社やアドバイザーに相談し、買い手候補の選定・アプローチを開始します。

双方の関心が一致したら、秘密保持契約(NDA)を締結したうえで、会社概要や財務情報の開示が行われます。その後、条件交渉を経てLOI(基本合意書:Letter of Intent)を締結します。LOIとは、取引の主要条件(価格・スキーム・スケジュールなど)について売り手・買い手が合意した文書です。法的拘束力は限定的ですが、交渉の枠組みを固める重要なステップです。

デューデリジェンスからクロージング

基本合意後、買い手側はデューデリジェンス(DD)を実施します。財務DD・法務DD・税務DD・不動産DDなど多岐にわたる調査が行われ、通常1〜2か月程度かかります。

デューデリジェンスの結果を踏まえて最終的な価格・条件を確認し、DA(最終契約書:Definitive Agreement)を締結します。DAとは、株式譲渡契約書などの最終的な拘束力のある契約書を指し、これに署名することで取引が確定します。

その後、代金決済と株式の引き渡し(クロージング)が行われ、M&Aが完了します。全体のプロセスは案件規模にもよりますが、一般的に6か月〜1年程度かかります。

フェーズ主な内容目安期間
検討・準備企業価値評価・アドバイザー選定・資料作成1〜3か月
相手探し・交渉買い手候補選定・トップ面談・条件交渉1〜3か月
基本合意LOI締結1か月
デューデリジェンス財務・法務・税務・不動産調査1〜2か月
最終契約・クロージングDA締結・代金決済1か月

不動産M&Aの価格相場と企業価値評価

企業価値評価の資料とグラフを確認している日本人経営者と専門家のシーン

不動産M&Aの価格は、保有不動産の時価評価を中心に決まります。一般的に活用される評価方法をおさえておきましょう。

時価純資産法

不動産M&Aで最もよく使われる評価方法が時価純資産法です。会社が保有するすべての資産・負債を時価(市場価値)に評価し直したうえで、「時価資産合計-時価負債合計=時価純資産」を企業価値の基礎とします。不動産が主要資産である場合、不動産鑑定士による評価が重要な役割を果たします。

取引事例法

類似する不動産M&A取引の実績をもとに価格を算定する方法です。不動産業界では特に、同規模・同地域・同業態の売買事例を参考にすることで、相場感を把握しやすくなります。

EBITDAマルチプル法

不動産賃貸・管理会社など収益を生み出す事業を主体とする会社では、EBITDA(税引き前利益+減価償却費の概念)に業界水準の倍率(マルチプル)をかけて企業価値を算定する方法も用いられます。EBITDAマルチプル法とは、会社の収益力に基づいた評価手法で、事業の継続価値を重視する場合に適しています。

実際の取引では、複数の評価方法を組み合わせて価格の妥当性を検証するケースが多く、最終的な価格は売り手・買い手の交渉によって決まります。自社の保有不動産が市場でどう評価されるかを事前に把握しておくことが、交渉を有利に進めるための第一歩です。

不動産M&Aの価格交渉では、自社に有利な条件を引き出すためにも、独立した専門家のセカンドオピニオンが有効な場面があります。M&Aインサイトが提供する無料のM&Aセカンドオピニオン相談では、売り手経営者が一方的に不利な条件で進んでいないかを中立的な立場から確認できます。

不動産M&Aの事例

事業承継に成功した不動産会社の経営者が次世代経営者と前向きに対話しているシーン

実際の不動産M&Aがどのように行われているかを知ることで、自社の案件との比較検討がしやすくなります。近年の不動産業界における主要なM&A事例を紹介します。

不動産再生事業への活用

不動産会社が収益性の低下した物件を保有する中小企業をM&Aで取得し、リノベーションや用途変更によって価値を高めるケースがあります。この手法では、買い手が不動産の潜在価値を見込んで企業ごと取得することで、通常の不動産購入よりも低いコストで優良物件を確保する事例が見られます。

後継者不在会社の事業承継型M&A

地方の中小不動産会社において、オーナー経営者の高齢化・後継者不在を背景に、同業他社や異業種企業へのM&Aによる事業承継が進んでいます。このような案件では、長年培った顧客基盤・地域信頼・物件管理ノウハウが評価されることが多く、廃業よりも大きな価値で会社を引き継いでもらえるケースもあります。

異業種からの不動産業界参入

小売業・ホテル業・ゴルフ場運営会社など、不動産を多く保有する異業種企業が不動産M&Aを活用して保有資産の最適化を図る事例もあります。主要事業の縮小に伴い、保有不動産を会社ごと売却することで、廃業コストを抑えながら関係者へのダメージを最小化した例も見られます。

これらの事例に共通するのは、単純な不動産売買よりもM&A手法を活用することで、売り手・買い手双方にとってより合理的な取引が実現できているという点です。

不動産M&Aに関するよくある質問

不動産M&Aについて専門家に気軽に質問している日本人経営者のシーン

不動産M&Aを初めて検討する経営者から特に多く寄せられる質問をまとめました。

不動産M&Aと不動産売買、どちらが売り手に有利ですか?

一概にどちらが有利とは言えませんが、高額の不動産を保有する法人が株式譲渡スキームを選択した場合、通常の不動産売買・会社清算と比べて手取り額が大きくなるケースが多く見られます。ただし、保有不動産の規模・取得時期・会社の財務状況・株主構成などによって結果は変わります。必ず税理士や専門家に試算してもらったうえで判断することが重要です。

不動産M&Aにかかる費用(手数料)の目安はどのくらいですか?

M&A仲介会社やアドバイザーに依頼する場合、成功報酬として成約金額の数%程度の手数料が発生するのが一般的です。業界では「レーマン方式」と呼ばれる段階的な料率設定(成約金額が大きいほど料率が下がる方式)が広く使われています。また、着手金・月額顧問料が別途かかる場合もあるため、依頼前に費用体系を明確に確認することが大切です。

買い手が見つかるまでどのくらいかかりますか?

案件の規模・業種・売却希望価格・タイミングなどにより大きく異なります。一般的には、専任のアドバイザーに依頼してから買い手候補が見つかるまでに数か月、その後の交渉・デューデリジェンス・クロージングまで含めると全体で6か月〜1年程度を見込んでおくのが現実的です。売り手側の準備(財務資料の整備・会社概要書の作成など)が早いほど、プロセスをスムーズに進めやすくなります。

売り手は会社をすべて手放さなければなりませんか?

会社全体を売却する(株式100%譲渡)ケースが多いですが、株式の一部を残して買い手と共同経営を続けるケースや、特定の事業・不動産だけを切り出して売却するケース(会社分割・事業譲渡)もあります。売り手の意向と買い手の条件次第で、さまざまな形の取引が可能です。自社に合った形を探すためにも、複数のスキームを比較検討することをおすすめします。

よくある疑問ポイント
税金はどちらが安い?株式譲渡の方が売り手の税負担を抑えやすいケースが多い
手数料の相場は?レーマン方式で成約金額の数%程度が一般的
買い手が見つかるまでの期間専任依頼から数か月〜、全体では6か月〜1年が目安
会社を全部売らないといけない?一部売却・事業譲渡など柔軟な形も選択可能
従業員の雇用は守られる?株式譲渡では雇用契約がそのまま継続されやすい
簿外債務が心配事前の内部調査と開示が売り手にとっても重要

まとめ

不動産M&Aの検討を前向きに進める決断をした日本人経営者が窓の外を見ているシーン

不動産M&Aは、通常の不動産売買では実現しにくい節税効果・コスト削減・事業継続を同時に追求できる手法として、近年多くの経営者に活用されています。ただし、スキーム選択・税務判断・価格交渉・デューデリジェンスなど、各プロセスには高度な専門知識が必要です。

本記事で解説した内容を簡単に振り返ると、次のようになります。不動産M&Aには株式譲渡・会社分割・事業譲渡の3つのスキームがあり、それぞれ税金・手続き・リスクの観点で特徴が異なります。売り手にとって最も税負担を抑えやすいのは株式譲渡スキームですが、簿外債務の引き継ぎリスクへの対応も必要です。価格算定は時価純資産法を中心に複数の方法を組み合わせて行われ、業種によって重視されるポイントも変わります。

特に売り手経営者にとっては、M&A仲介会社や買い手から提示された条件が本当に適正なのか、自社に最適なスキームが選ばれているのかを独立した立場から確認することが、後悔のないM&A実現への重要なステップです。

不動産M&Aに関する疑問や不安がある場合は、成約実績100件超の専門家が監修するM&Aセカンドオピニオン(無料相談)をご活用ください。売り手に100%寄り添う中立的な立場から、M&Aの条件・スキーム・進め方について率直なアドバイスをお伝えします。


監修:森沢雄太(一般社団法人M&Aセカンドオピニオン協会 代表理事 / 日本M&Aセンター出身 / M&A成約実績100件超)

参考資料

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