M&Aとは?意味・目的・手法・流れを売り手経営者向けにわかりやすく解説【2026年最新】

M&Aとは何か意味・目的・手法・流れをわかりやすく解説する売り手経営者向け記事のアイキャッチ

「M&Aという言葉は聞いたことがあるけれど、自分の会社に関係するとは思っていなかった」——そう感じている経営者は少なくありません。しかし現在、日本では毎年数千件ものM&Aが中小企業を中心に成立しており、後継者問題や事業の成長戦略として、M&Aはごく一般的な経営判断のひとつになっています。

経営者の高齢化が進む一方で、「息子や娘に会社を継がせたくない」「廃業よりも従業員の雇用を守りたい」「自分が築いた事業を次の世代につなぎたい」という声は年々増えています。そうした背景から、M&Aへの関心が高まっているのは自然な流れです。

とはいえ、M&Aは複雑な手続きや専門用語が多く、「どこから調べればいいかわからない」「何を準備すればいいのか」と戸惑う方も多いでしょう。そこで本記事では、M&Aの基本的な意味や定義から、目的・メリット・デメリット、主要な手法、具体的な流れ、企業価値評価、費用・税務まで、売り手経営者の視点に立ってわかりやすく解説します。M&Aをはじめて調べている方でも、読み終えた後には全体像が把握できるよう構成しています。

また、M&Aに関する情報はインターネット上に膨大に存在しますが、その多くは仲介会社や買い手側が発信しているものです。本記事では、売り手経営者が知っておくべき「自分を守るための知識」を中心に、偏りのない視点でお伝えします。特に、仲介会社との契約前に確認すべき点や、価格・条件交渉で見落としがちなポイントについても丁寧に解説しています。


この記事の監修者

M&Aセカンドオピニオン協会

代表理事 森沢 雄太

外資系銀行でのウェルスマネジメント業務を経て、日本M&Aセンターに入社。譲渡側アドバイザーとして100件超の成約に関与し、野村證券出向や福岡支店立ち上げも経験。2018年に日本投資ファンド立ち上げに参画し、投資先の再生にも成功。2022年、合同会社M&Aプレップを創業し、仲介会社・ファンドへの支援やオーナー向け売却準備、買収支援など幅広く展開。2024年には売却支援事業拡大のため株式会社企業経営支援機構を設立し代表に就任。加えて、M&Aにおける利益相反や情報格差の是正を目的とし、代表理事として一般社団法人M&Aセカンドオピニオン協会を設立。

目次

M&Aとは?基本的な意味と定義

M&Aの意味と定義を示すビジネスイメージ

M&Aとは、「Mergers and Acquisitions(マージャーズ・アンド・アクイジションズ)」の略称で、日本語では「合併と買収」を意味します。具体的には、複数の企業が一つになる「合併(Mergers)」と、ある企業が別の企業や事業を取得する「買収(Acquisitions)」を合わせた概念です。

広義のM&Aでは、合併・買収だけでなく、株式譲渡・事業譲渡・会社分割・株式交換・資本業務提携なども含まれます。一方、狭義のM&Aは純粋な合併と株式取得による買収を指すことが多いですが、ビジネスの現場では広義の意味で使われるのが一般的です。

M&Aという言葉はもともと、大企業や上場企業の間で行われる大規模な企業再編を指すイメージがありました。しかし現在の日本では、売上高数千万円から数億円規模の中小企業でも日常的に行われており、経営者が事業承継や成長戦略を考えるうえで避けて通れないテーマになっています。

合併とは

合併とは、複数の法人が一つの法人に統合されることです。代表的な形態として、存続する会社が消滅する会社を吸収する「吸収合併」と、既存の会社が解散し、新たに設立した会社に統合される「新設合併」の2種類があります。合併後は一つの法人格として事業が継続されるため、取引先との契約や許認可が原則として引き継がれます。

買収とは

買収とは、ある企業が別の企業の株式や事業を取得し、支配権を得ることを指します。株式を取得する形式(株式譲渡・TOBなど)と、事業そのものを取得する形式(事業譲渡)に大別されます。買収後も売り手企業の法人格が残るケースが多く、中小企業のM&Aでは特に「株式譲渡」による買収が主流となっています。


M&Aの現状・件数の推移(2026年最新)

日本のM&A市場の最新動向と件数推移を表すビジネスイメージ

日本のM&A市場は高水準を維持しながら増加傾向にあります。レコフデータの集計(公表ベース)によると、2023年の日本企業のM&A件数は4,015件、2024年は4,700件(前年比17.1%増)、2025年は5,115件(前年比8.8%増)と、件数・金額ともに過去最高を更新し続けています。特に中小企業・小規模事業者を対象とした事業承継型M&Aが件数増加を牽引している点が注目されます。

M&Aが増加している背景

M&Aが増加している最大の要因は、中小企業経営者の高齢化と後継者不在問題です。中小企業庁の調査によれば、中小企業経営者の平均年齢は上昇を続けており、今後10年以内に廃業が見込まれる企業は数十万社にのぼるとも言われています。

そのなかで「廃業ではなく、会社を誰かに引き継いでほしい」と考える経営者が増え、第三者へのM&Aが有力な選択肢として広まっています。また、政府もM&Aによる事業承継を積極的に支援しており、事業承継・引継ぎ支援センターの設置や補助金制度の整備が普及を後押ししています。

買い手側の事情も見逃せません。自社だけでの新規事業立ち上げや人材採用が難しいなか、M&Aによって既存の事業・技術・ノウハウ・人材をまるごと取得するほうが効率的だと判断する企業が増えています。売り手と買い手の双方にとって、M&Aが合理的な選択肢として定着してきたと言えるでしょう。

また、政府・行政の積極的な後押しも普及に拍車をかけています。中小企業庁は2020年3月に「中小M&Aガイドライン」を策定・公表し、売り手・買い手ともにM&Aを安心して進められる環境整備が進みました。その後、2021年4月には「中小M&A推進計画」が策定され、同年8月にはM&A支援機関登録制度が創設されました。この制度では、登録を希望するM&A支援機関に対してガイドラインの遵守宣言を求めており、一定の要件を満たした仲介業者・アドバイザーが公表されています。ガイドラインはその後も改訂が続き、2023年9月に第2版、2024年8月には第3版が公表されています。最新の第3版では、手数料の事前説明義務の強化、不適切な買い手への対応、経営者保証の取り扱いなど、近年のトラブルを踏まえた内容が盛り込まれています。こうした制度的な整備により、かつては「大企業だけのもの」というイメージが強かったM&Aが、今では地方の中小企業にとっても身近な経営選択肢になっています。

加えて、デジタル化の進展によってM&Aマッチングプラットフォームが普及し、以前は仲介会社を通じなければ接触できなかった買い手候補へのアクセスが容易になりました。案件情報が効率的に流通するようになったことで、売り手・買い手双方の選択肢が広がり、成約件数の増加につながっています。


M&Aの歴史と日本での発展

M&Aの歴史と日本における発展の変遷を表すビジネスイメージ

M&Aは欧米、とりわけアメリカで長い歴史を持つ経営手法です。19世紀末から20世紀初頭にかけて、アメリカでは鉄鋼・石油・鉄道などの産業で大規模な企業合併が相次ぎ、巨大独占企業が形成されました。その後も1960年代のコングロマリット型M&A、1980年代のLBO(レバレッジド・バイアウト)ブーム、1990〜2000年代のグローバルM&Aの拡大と、時代ごとに特徴的な波が繰り返されてきました。

日本においては、戦後の財閥解体以降しばらくM&Aへの抵抗感が強く、企業の合従連衡は主に系列・グループ内での再編という形で行われていました。1990年代のバブル崩壊後、経営不振企業の救済や事業再生の手段としてM&Aが注目されはじめ、2000年代以降は商法・会社法の改正によって手法が多様化・整備されました。特に2006年5月施行の会社法以降、株式交換・会社分割などの組織再編スキームが整理・活用されやすくなり、M&A市場は急速に成長しました。

2010年代以降は、中小企業の事業承継問題が深刻化するなかで、後継者不在を背景とした第三者承継型M&Aが急増しています。かつては「会社を売ること=失敗」というイメージがありましたが、現在では「地域雇用を守る前向きな決断」として社会的にも広く受け入れられるようになっています。


M&Aの目的とメリット

M&Aの目的とメリットを売り手・買い手の視点で表すビジネスイメージ

M&Aを検討する目的は、売り手と買い手それぞれで異なります。自社の立場に即して理解しておくことが重要です。

売り手側の目的・メリット

売り手にとってM&Aを選択する最大の目的は、事業の継続と雇用の維持です。後継者がいない場合、廃業という選択肢を取ると、従業員は職を失い、取引先との関係も途絶えます。M&Aによって事業を買い手に引き継ぐことで、こうしたリスクを回避できます。

創業者・オーナー経営者にとっては、株式譲渡による対価(売却益)の獲得も大きなメリットです。長年にわたって育て上げた会社の価値を「見える形」で受け取ることができ、老後の生活資金や次の事業の元手にもなります。

また、大企業グループの傘下に入ることで、資金力・ブランド力・販路・人材など、これまで自社単独では持てなかった経営資源を活用できるようになります。赤字続きだった会社がM&A後に黒字転換した事例や、後継者問題を抱えていた企業が大手グループに参画することで安定的な経営基盤を得た事例は数多く存在します。

売り手側の主なメリットをまとめると、後継者不在でも事業・雇用を継続できること、株式売却による創業者利益(キャピタルゲイン)の確保、大手・成長企業グループのリソースを活用した事業拡大、個人保証(連帯保証)の解消、経営者としての引退タイミングを自ら設定できることなどが挙げられます。

買い手側の目的・メリット

買い手にとってのM&Aの主な目的は、事業の拡大・強化です。新規市場への参入、技術・ノウハウの獲得、優秀な人材の確保、顧客基盤の拡充などを、ゼロから構築するよりも短期間・低コストで実現できます。

シナジー効果(相乗効果)も重要な動機のひとつです。売り手の持つ強みと自社の経営資源を組み合わせることで、単独では達成できなかった収益向上やコスト削減を実現するケースがあります。また、後継者問題を抱える優良中小企業を早期に取得することで、競合他社に先んじて市場シェアを拡大する戦略もあります。

シナジー効果には、売上増加につながる「売上シナジー」と、コスト削減につながる「コストシナジー」の2種類があります。売上シナジーの例としては、売り手の販路に買い手の商品・サービスを追加展開することや、双方の顧客基盤を相互活用してクロスセルを実現することなどが挙げられます。コストシナジーの例としては、重複する管理部門の統合や、仕入れ・調達の一本化による原価低減などがあります。ただし、こうしたシナジーは絵に描いた餅になりやすく、PMI(経営統合プロセス)の巧拙によって実現度が大きく変わります。


M&Aのデメリットと注意点

M&Aのデメリットとリスク・注意点を慎重に確認するビジネスイメージ

M&Aはメリットだけでなく、リスクや注意点も存在します。特に売り手経営者は、契約後に取り返しのつかない状況を避けるため、事前に主なデメリットを把握しておくことが重要です。

売り手側のデメリット・注意点

まず、M&A後の経営方針の変更リスクがあります。売り手が希望していた「従業員の雇用維持」「社名の存続」「取引先との関係継続」などが、買い手の都合によって変更される可能性がゼロではありません。契約締結前に、こうした条件をしっかりと確認し、可能な範囲で契約書に明記することが重要です。

次に、情報漏洩リスクです。M&Aの検討段階では、自社の財務情報・顧客情報・従業員情報など機密性の高い情報を買い手候補に開示する必要があります。秘密保持契約(NDA:Non-Disclosure Agreement)の締結が前提となりますが、情報管理の体制については慎重に確認する必要があります。

また、M&Aのプロセスには相応の時間がかかります。一般的に最低でも半年、長い場合は1〜2年以上を要するケースもあります。その間、経営者の負担が増加し、本業に支障をきたすリスクもあります。

表明保証(M&Aの最終契約書において、売り手・買い手双方が自社の状況について「これが事実である」と表明・保証すること)に関する問題も重要です。クロージング(M&A取引の最終的な完了)後に、売り手が開示していなかった簿外債務や法的問題が発覚した場合、売り手が補償責任を負うことがあります。デューデリジェンス(買い手による対象企業の詳細調査)への対応を含め、正確な情報開示が求められます。

買い手側のデメリット・注意点

買い手にとっては、デューデリジェンスで発覚しなかった潜在リスクの顕在化、PMI(ポスト・マージャー・インテグレーション:M&A後の経営統合プロセス)の失敗による企業価値の毀損、キーマンの離職による技術・ノウハウの流出などが主なリスクとして挙げられます。

以下の表に、売り手・買い手それぞれのデメリット・注意点をまとめます。

立場デメリット・注意点対策の方向性
売り手M&A後の経営方針・雇用条件の変更リスク契約書に雇用維持・社名存続などの条件を明記する
売り手情報漏洩リスク(財務・顧客・従業員情報)NDAを必ず締結し、情報管理の体制を確認する
売り手表明保証違反による補償リスク事前に自社の状況を正確に把握・開示する
売り手プロセス長期化による本業への影響余裕を持ったスケジュールで進める
買い手潜在リスク(簿外債務・訴訟リスクなど)の顕在化DDを十分に実施し、契約条項で保護を図る
買い手PMI失敗による従業員離職・企業価値毀損早期にPMI計画を策定し丁寧な統合を進める
買い手期待したシナジーが実現しないリスクシナジーの前提・根拠を事前に精緻に検証する
買い手M&Aコスト(手数料・DD費用等)の負担費用対効果を事前に十分に試算する

M&Aの主な手法・スキーム

株式譲渡・事業譲渡など主なM&A手法とスキームを表すビジネスイメージ

M&Aの手法(スキーム)は多様であり、目的・状況・税務面などに応じて最適なものが選ばれます。以下の表に主要な手法の特徴をまとめます。

手法概要売り手の法人格主な用途手続きの複雑さ
株式譲渡オーナーが保有株式を買い手に譲渡存続中小企業の事業承継に最多使用比較的シンプル
事業譲渡特定の事業・資産・契約を選択的に譲渡存続一部事業の売却・切り離しやや複雑(個別契約の引き継ぎが必要)
会社分割(吸収分割)事業の一部を既存の別会社に承継存続グループ内再編・事業部門の切り出し複雑
会社分割(新設分割)事業の一部を新設会社に承継存続事業の独立・分社化複雑
吸収合併存続会社が消滅会社を吸収統合消滅完全な経営統合・グループ再編複雑
新設合併既存会社が解散し、新設会社に統合消滅対等合併非常に複雑
株式交換対象会社の全株式を取得会社の株式と交換存続(完全子会社化)上場・非上場企業の完全子会社化複雑
第三者割当増資特定の第三者に新株を発行して資金調達存続資本参加・資本業務提携比較的シンプル
資本業務提携株式の一部取得+業務連携協定の締結存続完全支配を伴わないパートナーシップシンプル

株式譲渡

株式譲渡は、売り手企業の株主(多くの場合、オーナー経営者)が保有する株式を買い手に譲渡する方法です。中小企業のM&Aでは最もよく使われる手法です。会社の権利・義務・契約・許認可がすべて引き継がれるため、手続きがシンプルで事業の継続性が高いという特徴があります。売り手経営者にとっては株式売却益(キャピタルゲイン)を得られます。

事業譲渡

事業譲渡は、会社のすべての事業ではなく、特定の事業(または資産・契約・従業員)を選択的に買い手に譲渡する方法です。「一部の事業だけを売りたい」「不採算部門を切り離したい」「特定の事業だけを残したい」といった場合に有効です。ただし、株式譲渡とは異なり、許認可や契約の引き継ぎには個別の手続きが必要になるケースが多く、手続きが煩雑になる場合があります。

会社分割

会社分割は、ある会社の事業の一部または全部を分割し、別の会社(既存または新設)に承継させる手法です。グループ内再編や特定事業部門の切り出しに活用されることが多く、吸収分割と新設分割の2種類があります。

合併

合併は複数の法人が一つの法人に統合される形式です。法人格が消滅するため手続きは複雑になりますが、経営資源の完全統合という点では最も徹底した手法です。


M&Aの流れ・プロセス

M&Aの全体プロセスと流れのステップを表すビジネスイメージ

M&Aは複数のフェーズに分かれており、全体で数ヶ月から1年以上かかることが一般的です。売り手経営者として、各段階で何が起きるかを把握しておくと、スムーズに進めることができます。

検討・準備フェーズ

まず、M&Aを行うかどうかを判断する段階です。自社の現状(財務状況・事業内容・後継者の有無など)を整理し、M&Aの目的と条件の方向性を定めます。この段階でM&A仲介会社やアドバイザーへの相談を始めるのが一般的です。

秘密保持契約(NDA)の締結後、アドバイザーと仲介契約(または専任契約)を結び、企業概要書(IM:インフォメーション・メモランダム)の作成など、交渉に向けた準備を進めます。また、ノンネームシート(企業名を伏せた概要資料)を作成し、買い手候補へのアプローチを開始します。

この準備段階でしっかりと自社の強みと課題を整理しておくことが、その後の交渉を有利に進めるうえで非常に重要です。財務諸表の整備、簿外債務の有無の確認、許認可・契約状況の把握などを事前に行っておくことで、デューデリジェンス(DD)での対応がスムーズになります。

特に、M&Aを検討し始めた段階で確認しておきたいポイントとして、過去3〜5期分の決算書(貸借対照表・損益計算書・キャッシュフロー計算書)の整備状況、主要取引先・仕入先との契約内容や関係の安定性、許認可・資格の保有状況と譲渡可否、従業員の雇用契約・就業規則・退職給付の状況、不動産(土地・建物)の所有形態と評価、金融機関との借入状況と個人保証の有無などが挙げられます。これらの情報を事前に整理しておくことで、アドバイザーとの初回相談もスムーズに進み、買い手候補に提示する資料の質が高まります。結果として、M&Aのプロセス全体を短縮し、より有利な条件での交渉につながります。

交渉フェーズ

買い手候補とのトップ面談(経営者同士の直接面会)を経て、買い手から意向表明書が提出されます。条件のすり合わせが進むと、基本合意書(LOI:Letter of Intent)の締結に至ります。LOIには、譲渡価格・スキーム・独占交渉権などが記載されますが、法的拘束力は原則として限定的です。

基本合意書締結後、買い手によるデューデリジェンス(DD)が実施されます。DDは財務・法務・税務・労務・ビジネスなど複数の分野にわたり、売り手は各種資料の提供や質問への回答が求められます。DDの結果によっては、価格や条件の見直しが発生することもあります。デューデリジェンスとは、直訳すると「適正な注意・調査」という意味であり、買い手が買収対象企業のリスクや実態を詳細に調査するプロセスです。

最終契約フェーズ・クロージング

DDの結果を踏まえた最終条件の交渉を経て、最終契約書(DA:Definitive Agreement)が締結されます。最終契約書には、譲渡価格・表明保証・クロージング条件などが詳細に記載されます。その後、所定の手続きが完了すると、クロージング(M&Aの実行・決済)を迎えます。

クロージング後は、PMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)として経営統合の作業が始まります。人事・組織・システム・文化の統合は、M&Aの成否を左右する重要な段階です。

PMIは「M&Aの真の勝負」とも言われるほど重要なプロセスです。買い手側にとっては、期待していたシナジーを実現できるかどうかがここで決まります。売り手側(前経営者・従業員)にとっても、新しい体制のなかで自分たちがどのように扱われるかが明確になる段階であり、不安を感じる従業員が多い時期でもあります。

PMIの主要課題としては、人事制度・給与体系の統合、業務プロセスと管理システムの統一、企業文化・風土の融合、顧客・取引先への丁寧な説明と関係維持などが挙げられます。M&A後に従業員の離職が相次いだり、取引先との関係が悪化したりするケースの多くは、PMIが不十分だったことに起因しています。売り手経営者としては、クロージング前の段階から「どのように従業員・取引先にM&Aを伝え、引き継ぐか」を買い手と丁寧に協議しておくことが、M&A後の円滑な統合に直結します。

M&Aの流れ全体図(売り手視点)

ステップ主な内容目安期間
① 検討・情報収集M&A専門家への初回相談、自社分析、目的・条件の整理1〜2ヶ月
② 準備・NDA締結仲介契約締結、企業概要書(IM)・ノンネームシート作成1〜2ヶ月
③ 買い手候補へのアプローチ買い手候補へのノンネーム打診、関心確認1〜3ヶ月
④ トップ面談経営者同士の直接面会、条件のすり合わせ1〜2ヶ月
⑤ 基本合意書(LOI)締結譲渡スキーム・価格・独占交渉権などの合意1ヶ月程度
⑥ デューデリジェンス(DD)買い手による財務・法務・税務・労務調査1〜2ヶ月
⑦ 最終条件交渉DD結果を踏まえた価格・条件の最終調整1ヶ月程度
⑧ 最終契約書(DA)締結表明保証・クロージング条件を含む最終契約2〜4週間
⑨ クロージング株式・代金の受け渡し、M&Aの実行完了数日〜2週間
⑩ PMI(経営統合)人事・組織・業務・システムの統合作業6ヶ月〜数年

M&Aにおける企業価値評価(バリュエーション)

M&Aにおける企業価値評価バリュエーションの手法を表すビジネスイメージ

M&Aにおいて「自分の会社はいくらで売れるのか」は、売り手経営者にとって最も気になる点のひとつです。この価値算定のプロセスをバリュエーション(企業価値評価)と呼びます。バリュエーションには主に3つのアプローチがあり、それぞれ性質が異なります。

コストアプローチ(純資産法)

コストアプローチは、企業が保有する純資産(資産から負債を差し引いた額)をベースに企業価値を算出する方法です。最もシンプルで客観的な評価方法ですが、会社の将来的な収益力や無形資産(ブランド・技術・人材など)が反映されにくいという特徴があります。簿価純資産法と時価純資産法があり、中小企業のM&Aでは時価純資産法が比較的よく使われます。時価純資産法では、貸借対照表上の資産・負債を時価に洗い替えたうえで純資産を算出します。

マーケットアプローチ(類似会社比較法・EBITDAマルチプル法)

マーケットアプローチは、上場している類似企業の株価や市場データをもとに、評価対象企業の価値を算定する方法です。代表的な指標として、EBITDA(Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation and Amortization:税引前・金利支払前・減価償却前の利益)に一定の倍率(マルチプル)をかけて企業価値を算出するEBITDAマルチプル法があります。EBITDAは簡単に言えば「会社の稼ぐ力」を示す指標であり、業種ごとの相場倍率との組み合わせで評価額が算出されます。

インカムアプローチ(DCF法)

インカムアプローチは、企業が将来生み出すキャッシュフロー(現金収支)を現在の価値に換算することで企業価値を評価する方法です。DCF法(Discounted Cash Flow法:割引現在価値法)が代表的で、将来の収益予測に基づくため成長性の高い企業に適しています。ただし、将来予測の前提が評価額に大きく影響するため、その妥当性が重要です。

3つの評価アプローチ比較

アプローチ主な手法メリットデメリット向いているケース
コストアプローチ時価純資産法、簿価純資産法客観的・シンプル将来収益力・無形資産を反映しにくい資産保有型企業、不動産・投資会社
マーケットアプローチ類似会社比較法(EBITDAマルチプル等)市場実態を反映しやすい非上場企業は類似企業が見つかりにくい同業上場企業との比較が可能な場合
インカムアプローチDCF法将来収益力・成長性を反映できる将来予測の前提に左右される高成長企業、将来キャッシュフローが安定している企業

実際のM&Aでは、これらの手法を複数組み合わせて評価を行うことが一般的です。特に中小企業では、年買法(年倍法)と呼ばれる「時価純資産+営業利益×複数年分」というシンプルな計算が実務上の目安として用いられることもあります。

企業価値評価において売り手が特に注意すべき点は、「評価方法の選択によって算出される価格が大きく変わる」という事実です。たとえば、収益力が高い会社であればインカムアプローチ(DCF法)で高い評価が得られますが、資産は少なくても利益率が高い会社でコストアプローチを適用すると低い評価になるケースがあります。反対に、不動産など資産を多く保有している会社はコストアプローチで高く評価されることもあります。

仲介会社やアドバイザーがどの評価手法を用いてどのように企業価値を算定しているかを理解し、「本当にその価格が自社の実態を正しく反映しているか」を確認することが重要です。提示された価格に疑問を感じる場合や、複数の仲介会社に相談して価格に大きな差があると感じる場合には、第三者の専門家にセカンドオピニオンを求めることが有効な手段となります。

自社の企業価値が適正に評価されているかどうかを確認したい場合は、M&Aの専門家に相談することをお勧めします。M&Aインサイトの無料相談では、現在検討中の条件が適正かどうかについても、中立的な立場からアドバイスを受けることができます。


M&Aにかかる費用・手数料の相場

M&Aにかかる費用と仲介手数料の相場を表すビジネスイメージ

M&Aを進めるにあたっては、仲介会社やアドバイザーへの手数料が発生します。費用体系は会社によって異なりますが、代表的なものを把握しておきましょう。

仲介手数料の体系

中小企業のM&Aでは、仲介会社(売り手・買い手双方の間に立ち、マッチングから契約まで支援する機関)に依頼するケースが多く見られます。手数料体系は主に着手金・月額報酬(リテイナーフィー)・中間金・成功報酬の組み合わせで構成されます。

着手金は、仲介契約締結時に支払う初期費用です。無料の会社もあれば、数十万円〜数百万円を請求する会社もあります。月額報酬として毎月固定額を支払う形式を採用している会社もあります。

最も大きな費用は成功報酬で、M&Aが成立したときに支払う手数料です。多くの場合、「レーマン方式」で計算されます。レーマン方式とは、取引金額の階層ごとに料率を段階的に乗じて算出する方式です。ただし、基準となる価額(株式譲渡価格・移動総資産・企業価値など)は支援機関によって異なるため、何を基準にしているかを事前に確認することが重要です。中小M&Aガイドラインでも、手数料の基準や計算方法の説明を仲介会社に求めるよう、売り手経営者に対して注意喚起しています。

レーマン方式による成功報酬の計算例

取引金額の区分料率(目安)
5億円以下の部分5%
5億円超〜10億円以下の部分4%
10億円超〜50億円以下の部分3%
50億円超〜100億円以下の部分2%
100億円超の部分1%

例えば「5億円以下5%」のテーブルを前提に計算すると、取引金額が3億円の場合は3億円×5%=1,500万円が目安となります。ただし実務では階段式で各区分の金額に段階的に料率を乗じる計算を採用している会社もあり、計算の基準となる価額(株式譲渡価格・移動総資産・企業価値など)も支援機関によって異なります。また最低手数料の設定がある場合はその金額が適用されます。最終的な手数料は契約前に必ず書面で確認することが重要です。

その他の関連費用

仲介手数料以外にも、デューデリジェンスを実施する際の外部専門家(公認会計士・弁護士・税理士など)への費用が発生することがあります。規模や内容によって幅がありますが、中小企業のDD費用は数十万円〜数百万円程度になることが多いです。

M&Aに関連する費用を一部補助する公的支援制度(事業承継・引継ぎ補助金など)も設けられる場合があります。ただしこれらの補助金は公募年度ごとに内容・対象経費・申請要件が変わるため、利用を検討する際は事業承継・引継ぎ支援センターや中小企業庁の公式サイトで最新の公募情報を確認してください。


M&Aに関する税務

M&Aにおける株式譲渡と事業譲渡の税務処理を表すビジネスイメージ

M&Aで発生する税金は、選択するスキームや個人・法人のいずれで株式を保有しているかによって大きく異なります。主要なポイントを整理します。

売り手側に発生する税務

個人オーナーが株式譲渡でM&Aを行う場合、株式の売却益(取得価額と譲渡価額の差額)に対して、所得税・住民税・復興特別所得税が課されます。税率は原則として申告分離課税の約20.315%(所得税15%+復興特別所得税0.315%+住民税5%)です。

ただし、2025年分の所得から「ミニマムタックス(極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置)」が適用されています。これは、基準所得金額が3.3億円を超える場合に適用対象となり得る制度で、3.3億円控除後の所得に対する所得税負担が22.5%を下回る場合に差額を追加納税する仕組みです。ただし、実際に追加納税が生じるかは所得の種類・構成によって異なり、株式譲渡所得が中心のケースでは概ね10億円を超えてくる水準から影響が出やすいとされています。株式譲渡益が数億円以上に及ぶ大型案件では20.315%を上回る実効税率となる可能性があるため、早い段階で税理士に個別相談することが不可欠です。なお、ミニマムタックスの対象要件・税率は今後の税制改正でさらに見直される可能性があります。

法人が株式を保有していた場合(法人株主)、株式譲渡益は法人の益金に算入され、法人税等の課税対象となります。

事業譲渡を選択した場合は、売り手会社に消費税・法人税等が発生し、その後の配当等に関して個人株主に追加の税負担が生じる場合があります。株式譲渡に比べて税務上の取り扱いが複雑になるケースがあるため、事前に税理士に相談することが重要です。

また、M&Aによって取得した対価に不動産が含まれる場合は、不動産取得税や登録免許税が発生する可能性があります。

売り手・買い手の税務比較(株式譲渡 vs 事業譲渡)

比較項目株式譲渡(個人株主)事業譲渡
売り手の主な税金譲渡所得税約20.315%(申告分離課税)会社に法人税等・消費税、個人株主に配当課税等
買い手の主な税金取得株式は資産計上、のれん税務処理が必要取得資産を各科目で計上・減価償却可能
消費税課税なし(有価証券の譲渡は非課税)棚卸資産・固定資産等に消費税が課税される
簿外債務の引き継ぎ会社ごと引き継ぐ(リスクあり)選択した資産・負債のみ引き継ぐ
手続きの複雑さ比較的シンプル契約引き継ぎ等が必要で複雑

M&Aの税務は複雑であり、スキームの選択次第で納税額が大きく変わります。いずれの場合も専門家(税理士・公認会計士)への相談は必須です。


M&Aの相談先の選び方

M&Aの相談先・仲介会社やアドバイザーの選び方を表すビジネスイメージ

M&Aを進めるにあたって、どこに相談するかは非常に重要な選択です。主な相談先とその特徴を整理します。

M&A仲介会社

M&A仲介会社は、売り手・買い手双方の間に立ち、マッチングから契約締結まで一括してサポートする専門機関です。中小企業のM&Aでは最も利用されるルートです。成功報酬型が主流で、着手金・月額報酬・成功報酬の組み合わせが一般的です。売り手・買い手双方から報酬を受け取る立場であるため、一方の利益を最優先することが構造的に難しい側面がある点は理解しておく必要があります。

ファイナンシャル・アドバイザー(FA)

FAは、売り手または買い手の一方のみから依頼を受けて交渉・助言を行う専門家です。依頼した側の利益を最大化するために動くため、利益相反の問題が生じにくいとされています。大企業のM&Aでは一般的ですが、中小企業では仲介形式と比べてコストが高くなる傾向があります。

事業承継・引継ぎ支援センター

全国の都道府県に設置されている公的機関で、事業承継やM&Aに関する無料相談を受け付けています。民間機関への橋渡しも行っており、まず公的機関に相談することも選択肢のひとつです。

金融機関・士業事務所

メインバンクや取引のある金融機関がM&A支援を行っているケースがあります。また、税理士・弁護士・公認会計士もM&Aに関するアドバイスを提供しています。M&Aの専門性という点では仲介会社と比べて経験値に差がある場合もあります。

M&Aマッチングサイト(プラットフォーム)

インターネット上でM&Aの売り手・買い手をマッチングするサービスです。手数料が比較的低く手軽に始められる反面、交渉や手続きを自社で行う必要があるため専門知識が必要になります。小規模なM&Aに向いているケースもあります。

複数の相談先を比較検討したうえで、自社の状況に合ったパートナーを選ぶことが重要です。仲介会社から提案を受けている最中でも、その内容が妥当かどうか、独立した専門家の視点から確認することをお勧めします。M&Aセカンドオピニオン(無料相談)では、完全無料・成功報酬なしで、売り手の立場から中立的なアドバイスを受けることができます。

なお、M&A支援機関を選ぶ際には、以下のポイントを確認するとよいでしょう。まず、担当者のM&A実務経験と成約実績の数・質を確認することが大切です。M&A仲介は専門性の高い業務であり、担当者の経験値によってサポートの質が大きく変わります。次に、費用体系の透明性です。着手金・月額報酬・成功報酬の有無と金額を事前に書面で確認し、成功報酬の計算基準(取引金額の定義)も明確にしておくことが重要です。また、得意とする業種・規模帯を把握することも有益です。自社の業種・規模に近い案件を多く手がけている機関は、買い手候補のネットワークも充実しているケースが多いです。


M&Aを成功させるためのポイント

M&Aを成功させるための重要ポイントと準備を表すビジネスイメージ

M&Aは「成立させること」がゴールではなく、M&A後も事業が順調に続いてこそ、売り手・買い手双方にとっての成功と言えます。成功に向けた重要ポイントを押さえておきましょう。

目的と希望条件を明確にする

M&Aを検討する前に、「なぜM&Aをするのか」「何を最優先したいのか」を明確にしておくことが不可欠です。従業員の雇用維持なのか、売却価格の最大化なのか、自身の引退後の事業継続なのか——優先順位が明確でないまま交渉を進めると、後から「こんなはずではなかった」という後悔につながりかねません。

経営理念・ビジョンの引き継ぎを重視する場合は、買い手候補の企業文化・経営方針との適合性を丁寧に確認することが重要です。価格だけでなく、「どんな会社に引き継いでほしいか」という観点が、M&A後の従業員・取引先・顧客にとっても大きな意味を持ちます。

自社の強みと課題を正確に把握する

買い手候補から見て自社のどこが魅力的なのかを客観的に把握しておくと、交渉や企業価値評価において有利に働きます。また、財務上の問題点や法的リスクは早期に把握し、可能な限り解消しておくことが、スムーズなデューデリジェンスにつながります。

特に「簿外債務」(貸借対照表に計上されていない債務・偶発債務)の有無は、DDで必ず確認される重要な項目です。租税債務・係争中の訴訟・保証債務・退職給付引当金の不足などが後になって発覚すると、価格の引き下げや交渉破談につながる可能性があります。

適切なタイミングで動く

M&Aは会社の状態が良いうちに動くことが基本です。業績が悪化してから売却を検討しても、企業価値が低下しているため条件が不利になりやすいです。「もう少し業績が良くなってから」と先延ばしにすることが、結果的に機会損失につながることも少なくありません。

また、経営者が高齢になってから動き始めると、体力・判断力の面で交渉が負担になる場合もあります。「まだ早い」と思うタイミングで情報収集を始め、余裕を持ったスケジュールで進めることが理想です。

信頼できる専門家を選ぶ

M&Aには多くの専門家が関与しますが、「誰に相談するか」が成否に大きく影響します。仲介会社やアドバイザーの選定においては、実績・費用体系・得意分野・誠実さを総合的に評価することが重要です。特に売り手として「自分の利益を守ってくれる立場かどうか」を確認することが大切です。

M&Aの検討初期段階では、まずニュートラルな立場からアドバイスをもらえる環境を整えることをお勧めします。

仲介会社と専任契約を結ぶ前の段階で、第三者の専門家に「自社の状況でM&Aを進めることが適切か」「どのような条件・スキームが自分にとって有利か」を確認しておくことで、その後の交渉をより主体的に進めることができます。仲介会社はM&Aを成立させることで報酬を得る立場であるため、売り手としての交渉余地や代替選択肢について、必ずしも積極的に情報提供してくれるとは限りません。売り手の立場で中立的に助言してくれる専門家を早い段階で確保することが、M&Aを自分の望む条件で進めるうえで重要な準備のひとつです。


中小企業のM&Aと事業承継

中小企業のM&Aと後継者問題・事業承継を表すビジネスイメージ

日本の中小企業が直面する最大の経営課題のひとつが、後継者問題です。中小企業庁の統計によれば、休廃業・解散件数の多くが後継者不在を理由としており、技術・ノウハウ・雇用の喪失につながっています。

M&Aは、こうした問題に対する現実的な解決策として広く認識されるようになっています。かつては「会社を売る=恥」「他人に渡すのは寂しい」というイメージもありましたが、現在では「事業を守り、従業員の雇用を引き継ぐための前向きな決断」として受け止める経営者が増えています。

事業承継の3つの方法とM&Aの位置づけ

事業承継には大きく3つの方法があります。親族内承継(子や親族への引き継ぎ)、役員・従業員承継(社内の後継者への引き継ぎ)、そして第三者承継(M&Aによる引き継ぎ)です。

中小企業庁の調査では、近年は親族内承継の割合が減少し、第三者承継(M&A)の割合が増加傾向にあります。かつては事業承継といえば「息子・娘に引き継ぐ」が当たり前でしたが、後継者候補の意向や能力、経営環境の複雑化などを背景に、第三者への引き継ぎを選ぶ経営者が増えています。

親族内承継は後継者との関係性が深く、経営理念の継続がしやすい反面、後継者に経営能力・意欲がない場合のリスクや、相続税・贈与税の問題が生じやすい点がデメリットです。役員・従業員承継は社内事情に精通した人材に引き継げる利点がありますが、買い取り資金の調達が課題になることが多いです。第三者承継(M&A)は資金面・事業継続性の観点では優位な選択肢ですが、適切な買い手探しと丁寧な条件交渉が成功の鍵を握ります。

後継者候補がいない・適切な人材がいないという状況では、第三者承継(M&A)が唯一の現実的な選択肢になることも多くあります。また、後継者候補がいる場合でも、M&Aによって大手グループの傘下に入るほうが事業の継続性・安定性の観点で優れていると判断するケースもあります。

廃業とM&Aの比較

比較項目廃業M&A(第三者承継)
従業員の雇用原則として終了原則として継続(条件による)
事業の継続終了継続される
経営者の手取り清算後の残余財産(債務超過の場合ゼロ以下も)株式譲渡対価として受け取り可能
取引先への影響取引終了原則継続(引き継ぎ後も関係維持)
手続きの期間数ヶ月〜1年程度半年〜2年程度
費用負担清算費用が発生仲介手数料等が発生(成功報酬型の場合は成立後)

廃業を選択すると、長年積み上げてきた顧客との関係・従業員のキャリア・技術やノウハウがすべて失われます。一方、M&Aであれば、こうした無形の価値を次の経営者に引き継ぐことができ、地域の雇用・経済にとってもプラスになります。

後継者不在以外のM&A活用シーン

後継者問題以外にも、以下のような場面でM&Aが選択肢になります。事業の選択と集中(ノンコア事業の売却)、資金調達・財務基盤の強化、競合や業界再編への対応、創業者の引退・リタイアメントプランニング、赤字事業・債務超過企業の再建手段などが挙げられます。

たとえば、複数の事業を手がけるオーナー企業が、採算の取れていない周辺事業を売却することで、経営資源を主力事業に集中させるケースがあります。また、個人事業主が事業規模拡大を目指すなかで、買い手側としてM&Aを活用して既存の事業・顧客・人材を取得するケースも増えています。M&Aはあくまで手段のひとつであり、自社の経営課題に対して最も合理的な解決策かどうかを冷静に見極めることが、長期的な観点で重要です。

事業の状況がどのようなものであれ、まず専門家に現状を相談し、M&Aが最適な選択かどうかを判断することが出発点になります。


M&Aでよく出てくる重要用語集

M&Aで使われる重要な専門用語・キーワードを解説するイメージ

M&Aの検討・交渉過程では、多くの専門用語が登場します。初めて目にする言葉に戸惑わないよう、売り手経営者として最低限押さえておきたい用語を整理します。

用語読み方意味・解説
NDA(秘密保持契約)エヌディーエーM&A交渉開始前に締結する、情報漏洩防止のための契約。Non-Disclosure Agreementの略
IM(企業概要書)アイエム買い手候補に開示する自社の詳細情報をまとめた資料。財務・事業・組織などを記載
ノンネームシート企業名を伏せて会社の概要を記載した資料。買い手候補の関心確認に使用
LOI(基本合意書)エルオーアイ売り手・買い手が主要条件(価格・スキームなど)に合意したことを示す文書。Letter of Intentの略
DD(デューデリジェンス)ディーディー買い手が買収前に対象会社のリスク・実態を詳細に調査するプロセス。Due Diligenceの略
DA(最終契約書)ディーエークロージング条件・表明保証などを含む最終的な売買契約書。Definitive Agreementの略
表明保証ひょうめいほしょう売り手・買い手それぞれが自社の状態について「事実である」と表明・保証する契約条項
クロージング株式・代金の受け渡し等、M&A取引が最終的に完了する手続き
PMIピーエムアイM&A成立後の経営統合プロセス。Post-Merger Integrationの略
レーマン方式M&Aの仲介手数料算出に広く使われる計算方式。取引金額に応じた料率で計算
のれん買収価格が純資産を上回る差額。ブランド・顧客基盤・技術など無形価値の反映
バリュエーション企業価値評価のこと。コスト・マーケット・インカムの3アプローチがある
EBITDAイービットダー税引前・金利支払前・減価償却前利益。企業の稼ぐ力を示す指標
簿外債務ぼがいさいむ貸借対照表に計上されていない負債・偶発債務。DDで発覚すると条件変更の原因に

これらの用語は、M&Aの各フェーズで実際に登場します。意味を理解したうえで交渉に臨むことで、アドバイザーや買い手との会話を主体的に進めることができます。


M&Aに関するよくある質問

M&Aに関してよくある疑問と質問への回答を表すビジネスイメージ

M&Aを初めて検討する経営者から多く寄せられる疑問について、わかりやすく回答します。

赤字・債務超過でもM&Aはできますか?

赤字や債務超過の企業でも、M&Aが成立するケースはあります。買い手にとって魅力的な要素(特定の許認可・顧客基盤・技術・人材など)があれば、純資産がマイナスでも買収対象となり得ます。ただし、一般的に企業価値の算定は下がりやすく、条件が厳しくなる傾向があります。

M&Aにどれくらいの期間がかかりますか?

一般的には最短でも6ヶ月〜1年程度が目安です。案件の複雑さや買い手候補の状況によっては、2年以上かかることもあります。後継者問題などで時間的な制約がある場合は、早めに動き始めることが重要です。

M&Aは社員に内緒で進められますか?

M&Aの検討段階では、秘密保持の観点から社員に情報を開示しないことが一般的です。クロージング後(または直前)に適切なタイミングで説明するのが通例です。情報が早期に漏れると、社員の離職や取引先との関係悪化につながるリスクがあります。

個人保証(連帯保証)はM&Aで解消されますか?

株式譲渡の場合、買い手が個人保証の引き受けを求めるケースと、M&Aを機に解消されるケースがあります。金融機関との交渉も必要になるため、早い段階で確認・調整を進めることが望ましいです。

M&Aの相談は費用がかかりますか?

相談先によって異なります。仲介会社では初回相談無料というケースが多いですが、その後の契約には費用が発生します。また、成約実績のある専門家によるセカンドオピニオン(第三者意見)サービスの中には、完全無料・成功報酬なしで対応しているものもあります。

M&Aセカンドオピニオンとは何ですか?

M&Aセカンドオピニオンとは、仲介会社や買い手から提示された条件・価格・スキームなどについて、独立した第三者の専門家から中立的な意見をもらうサービスです。「この価格は適正か」「この条件は一般的か」「他に選択肢はないか」といった疑問に答えてもらえます。M&Aの経験がない経営者にとって、情報の非対称性を是正するうえで有効な手段です。

会社を売却した後、経営者はどうなりますか?

M&A後の元経営者の処遇はケースによって異なります。クロージング直後に完全に退任するパターン、一定期間(6ヶ月〜数年)は顧問・相談役として会社に関与し続けるパターン、引き続き役員として残るパターンなどがあります。買い手にとっては前経営者の知識・人脈・経験が重要な価値を持つことが多く、一定期間の関与を求められるケースが多いです。引退の時期・条件については、最終契約書の締結前に明確に合意しておくことが重要です。

M&Aで従業員の雇用は守られますか?

雇用の継続は、売り手経営者にとって最も気になる点のひとつです。株式譲渡の場合、会社の法人格がそのまま存続するため、従業員の雇用契約も原則として引き継がれます。ただし、M&A後に組織再編が行われ、条件の変更や人員調整が行われる可能性はゼロではありません。雇用維持の期間・条件について、契約書に明記することや、買い手の姿勢・企業文化を事前に確認することが重要です。なお、事業譲渡の場合は従業員一人ひとりの個別同意が必要になるため、手続き面でより丁寧な対応が求められます。


まとめ・無料相談のご案内

M&Aセカンドオピニオン無料相談への誘導を表すビジネスイメージ

本記事では、M&Aの基本的な意味・定義から、目的・メリット・デメリット、主要な手法(株式譲渡・事業譲渡・合併など)、具体的な流れ・プロセス、企業価値評価(バリュエーション)の方法、費用・税務、成功のポイント、相談先の選び方まで、売り手経営者の視点から網羅的に解説しました。

M&Aは正しい知識を持って臨むことで、売り手・買い手双方にとって意義のある取引となります。特に売り手経営者にとっては、「会社を適正な価格で、信頼できる相手に引き継ぐ」ことが最も重要な目標であり、そのためには情報の非対称性を解消することが欠かせません。

M&Aを検討するうえで重要なのは、「誰から情報を得るか」です。仲介会社はM&Aの成立から報酬を得る立場にあるため、売り手にとって必ずしもすべての選択肢が提示されるわけではありません。M&Aを本当に自分の利益になる形で進めるためには、独立した立場から中立的に助言してくれる専門家の存在が心強い支えになります。

現在、仲介会社から提案を受けている段階の方、M&Aを検討し始めたばかりの方、条件が適正かどうか判断できない方など、どの段階の方でもお気軽にご相談ください。

仲介会社からの提案内容について「この条件は適切なのか」「もっと良い条件を引き出せるのではないか」と感じている方は、成約実績100件超の専門家が対応するM&Aセカンドオピニオンサービスをご活用ください。完全無料・成功報酬なしで、売り手の立場から中立的なアドバイスを提供しています。

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監修:森沢雄太(一般社団法人M&Aセカンドオピニオン協会 代表理事/日本M&Aセンター出身/M&A成約実績100件超)

運営:出口戦略株式会社(M&Aインサイト ma-insight.com)

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