事業譲渡とは?メリット・デメリット・手続きの流れを売り手経営者向けに徹底解説

事業譲渡とは何かを考える中小企業経営者

「事業の一部を売りたいが、会社そのものは残したい」「後継者がいないが、従業員や取引先への影響を最小限にしたい」――事業の行き先を真剣に考えはじめると、こうした悩みが次々と浮かんできます。そしてその解決策を検索するなかで、「事業譲渡」という言葉に行き着いた経営者の方も多いのではないでしょうか。

事業譲渡は、会社を丸ごと売却する株式譲渡とは異なり、売りたい事業だけを選んで第三者に引き渡せる柔軟なM&A手法です。法人格を残したまま資金を得たり、不採算部門を切り離して本業に集中したりと、中小企業の経営者にとってさまざまな場面で活用できます。しかし手続きの複雑さや税務処理、従業員・取引先への影響など、理解しておくべき点が数多くあるのも事実です。

そこで本記事では、事業譲渡の定義と基本的な仕組みから、メリット・デメリット、手続きの流れ、発生する税金、成功のポイントまで、売り手経営者の目線でわかりやすく解説します。事業承継や会社の再建・売却を検討しはじめた方に、意思決定の土台となる知識を提供することを目的としています。


この記事の監修者

M&Aセカンドオピニオン協会

代表理事 森沢 雄太

外資系銀行でのウェルスマネジメント業務を経て、日本M&Aセンターに入社。譲渡側アドバイザーとして100件超の成約に関与し、野村證券出向や福岡支店立ち上げも経験。2018年に日本投資ファンド立ち上げに参画し、投資先の再生にも成功。2022年、合同会社M&Aプレップを創業し、仲介会社・ファンドへの支援やオーナー向け売却準備、買収支援など幅広く展開。2024年には売却支援事業拡大のため株式会社企業経営支援機構を設立し代表に就任。加えて、M&Aにおける利益相反や情報格差の是正を目的とし、代表理事として一般社団法人M&Aセカンドオピニオン協会を設立。

目次

事業譲渡とは何か――会社法上の定義と基本的な仕組み

事業譲渡の定義と仕組みを解説する弁護士と経営者

事業譲渡とは、会社が営む事業の全部または一部を、特定の第三者(個人・法人)に対して対価(譲渡代金)と引き換えに引き渡す取引のことです。会社法は第467条において事業の全部譲渡・重要な一部譲渡等に関する株主総会承認を定めており、第468条では一定の場合にその承認を要しない旨(略式・簡易手続)を規定しています。また、第21条では譲渡会社の競業避止義務を定めており、事業譲渡を単なる資産売買とは区別された独自の法的概念として位置づけています。

会社法が事業譲渡を一般の資産売買と区別して規制する最大の理由は、「組織的一体性」にあります。単に機械や在庫を売るのではなく、顧客リスト・ブランド・ノウハウ・従業員・取引先関係といった事業を成立させているあらゆる要素をまとめて移転させる行為が事業譲渡です。そのため、事業の重要性に応じて株主総会の特別決議が必要になるなど、通常の物品売買とは異なる厳格なルールが適用されます。

事業譲渡における重要な特徴の一つは「個別承継」という点です。株式譲渡(後述)では株主が変わるだけで対象会社の資産・負債・契約・許認可はそのまま同一法人内に留まるため、買い手は「その会社ごと取得する」形になります。一方、事業譲渡では資産・負債・契約・従業員のいずれも、一つひとつ個別に移転手続きを行う必要があります。これは手続き面での煩雑さにつながる一方、買い手が引き継ぐ対象を精査・選別できるという大きなメリットでもあります。

事業譲渡の対象となる資産と権利

事業譲渡の対象には、有形資産(土地・建物・設備・在庫)と無形資産(ブランド・特許・ノウハウ・顧客リスト)の双方が含まれます。また、従業員との雇用契約や取引先との契約も個別に承継できます。ただし、許認可(飲食業の営業許可、建設業許可など)については原則として引き継ぐことができず、買い手側が改めて取得し直す必要があります。この点は事業譲渡特有の注意事項として、取引の前に必ず確認が必要です。

事業の「全部」と「一部」の違い

事業譲渡には「事業の全部譲渡」と「事業の一部譲渡」があります。全部譲渡の場合は株主総会の特別決議が必須となります(会社法第467条第1項第1号)。一部譲渡であっても、会社法第467条第1項第2号の規定により、譲り渡す資産の帳簿価額が総資産額の5分の1を超える重要な事業の一部を譲渡する場合は同様に特別決議が求められます(定款でこれを下回る割合を定めた場合はその割合)。いずれの場合も、取締役会設置会社では事前に取締役会の決議が必要です。


事業譲渡と他のM&A手法の違い

事業譲渡と株式譲渡など複数のM&A手法を比較検討するシーン

M&Aには複数の手法(スキーム)があります。事業譲渡の特徴をより深く理解するために、よく比較される株式譲渡・会社分割・合併との違いを整理します。

株式譲渡との違い

株式譲渡は、売り手が保有する会社の株式を買い手に売却する手法です。株式が移転することで経営権は買い手側に移りますが、対象会社の法人格はそのまま存続します。一方、事業譲渡では売り手の法人格はそのまま存続し、譲渡代金は会社(法人)が受け取ります。

比較項目事業譲渡株式譲渡
法人格の扱い売り手の法人格が存続対象会社の法人格は存続(経営権が買い手に移る)
対価の受取先法人(会社)株主(個人)
引き継ぎ方式個別承継同一法人内に留まる(承継は生じない)
許認可の扱い再取得が必要そのまま引き継げる
負債の扱い選択的に引き継ぎ可能すべて引き継ぐ
手続きの複雑さ比較的複雑比較的シンプル

売り手の立場からは、「法人格を残したい」「一部の事業だけを手放したい」「負債を引き継がせたくない」という場合に事業譲渡が有効です。逆に、経営者個人として売却益を得たい場合や手続きをシンプルにしたい場合は株式譲渡が選ばれるケースが多くなります。

会社分割との違い

会社分割も事業の一部を切り離す手法ですが、組織法上の行為として包括承継が認められている点が事業譲渡と大きく異なります。会社分割では労働契約承継法の適用により従業員の保護が手厚い一方、簿外債務なども含めてすべてが包括的に引き継がれるリスクがあります。税務上の取り扱いも異なるため、どちらを選ぶかは税理士や弁護士を交えて慎重に検討する必要があります。

合併との違い

合併は複数の会社が一つになる組織再編手法であり、吸収合併では消滅会社の権利義務がすべて存続会社に包括承継されます。事業譲渡とは目的・規模感・法的効果のいずれも異なるため、通常は比較対象として並べるよりも、まず「事業を売る(買う)のか、会社ごと統合するのか」という方向性を先に定めることが重要です。


事業譲渡が向いているケース

事業承継・後継者不在に悩む経営者が専門家に相談するシーン

事業譲渡はすべての状況に適した手法ではありません。以下のようなケースで特に有効性を発揮します。

法人格を残して事業を継続したい場合

「会社そのものは残したいが、特定の事業だけを売りたい」という場合、事業譲渡は最も適した選択肢の一つです。たとえば、複数事業を営む中小企業が採算の合わない事業部門を切り離し、残った主力事業に経営資源を集中させるケースが典型例です。法人格が残るため、譲渡後も既存の取引関係や信用を活用して経営を続けることができます。

後継者不在で特定事業の存続を図りたい場合

事業承継問題の解決策として事業譲渡を選ぶ経営者も増えています。後継者が見つからない中、廃業を選ぶのではなく、育て上げた事業やブランドを意思ある買い手に引き継いでもらうことで、従業員の雇用継続や取引先との関係維持を図れます。中小企業庁の「事業承継・引継ぎ支援センター」も、こうした事業譲渡型の承継を積極的に支援しています。

不採算事業の整理・選択と集中を図りたい場合

特定の事業が赤字続きであっても、買い手企業にとっては価値があるケースがあります。たとえば地域密着の製造業者が持つ工場設備や技術ノウハウは、同業他社や業界参入を目指す企業にとって魅力的な買収対象となり得ます。不採算事業を切り離すことで財務体質を改善しつつ、譲渡代金を得られる点も事業譲渡の強みです。

採算部門と不採算部門が混在している場合

「A事業は好調だが、B事業が足を引っ張っている」という状況は中小企業でも珍しくありません。不採算事業を切り離すことで残存事業の財務体質が改善し、金融機関からの評価が上がる可能性があります。また、不採算部門であっても特定の技術・設備・顧客基盤を持つ場合、それを高く評価する買い手が見つかることがあり、廃業より大きなリターンが得られるケースもあります。

簿外債務リスクを避けて買収したい場合(買い手視点)

買い手の立場では、株式譲渡と異なり引き継ぐ資産・負債を個別に選択できることが大きなメリットです。簿外債務(会計帳簿に記載されていない債務)やオフバランス負債を承継しなくて済むため、買収後のリスクを抑えることができます。特に初めてM&Aを検討する中小企業が買い手となる場合、事業譲渡は「欲しいものだけ取る」ことができる手法として有力な選択肢となります。


事業譲渡のメリット

事業譲渡のメリットを確認して安心する売り手経営者

売り手側のメリット

譲渡する事業を自由に選択できる

事業譲渡では、売り手が「どの事業を・どこまで」譲渡するかを細かく設定できます。主力事業を残しつつ赤字部門だけを売る、あるいは特定ブランドのみを手放すといった柔軟な設計が可能です。株式譲渡では「その会社ごと」取得する形になるため特定事業だけの切り出しは難しく、この点は事業譲渡ならではの特徴です。

法人格・経営権を維持できる

譲渡後も会社は存続するため、残した事業を引き続き経営することができます。オーナー経営者として他の事業を続けたい方、または引き続き会社を経営しながら一部事業の出口戦略を取りたい方には特に有効です。

必要な資産・従業員を手元に残せる

個別承継の性質から、売り手は「残す資産」と「渡す資産」を明確に区別できます。特定の土地・設備・ブランドを社内に残すことができるほか、従業員についても事業に必要な人材を自社に留める選択が可能です。

譲渡代金(キャッシュ)を法人として得られる

事業譲渡の対価は法人が受け取ります。得られた資金を残存事業への設備投資や債務返済、新規事業の立ち上げ資金として活用できます。

後継者不在問題を解決できる

育てた事業やブランドを廃業させずに存続させることができ、従業員の雇用を守ることにもつながります。社会的な意義という面でも、事業譲渡は廃業に比べて大きなメリットがあります。

買い手側のメリット

買い手にとっては、引き継ぎたい資産・人材・ノウハウだけを選んで取得できる点が最大のメリットです。また、事業譲渡では買収対価と取得純資産の差額が税務上「資産調整勘定」として計上され、60か月(5年間)にわたる損金算入が可能になる節税効果(株式譲渡では生じない)、不要な簿外債務を回避できるリスク管理の面でも有利です。新規事業への参入コストを抑えつつ、既存の顧客基盤や許認可(再取得が必要なものを除く)を活用した迅速な事業展開が期待できます。


事業譲渡のデメリットと注意点

事業譲渡の注意点を専門家と確認する経営者

売り手側のデメリット

手続きが煩雑になりやすい

個別承継の性質上、資産・契約・雇用のすべてについて個別に承継手続きを行う必要があります。取引先との契約変更通知、金融機関との調整、不動産の名義変更登記など、株式譲渡に比べて格段に手間と時間がかかります。

株主総会の特別決議が必要になる場合がある

重要な事業の全部または一部を譲渡する場合、株主総会において議決権の3分の2以上の賛成が必要な特別決議が求められます。オーナー経営者であれば通常は問題になりませんが、少数株主の存在や反対株主への対応が必要になるケースもあります。

競業避止義務が生じる

会社法第21条は、事業譲渡を行った会社に対して競業避止義務を課しています。具体的には、当事者の別段の意思表示がない限り、譲渡会社は同一の市町村(特別区・政令指定都市の区を含む)およびこれに隣接する市町村の区域内において、事業を譲渡した日から20年間、同一の事業を行ってはなりません。

なお、契約(特約)によって競業避止義務の期間・地域を調整することは可能です。ただし、特約の効力は事業を譲渡した日から30年以内に限られます(同法第21条第2項)。期間の短縮に上限はなく、双方合意のうえで5年・10年等に設定することもできます。売り手経営者として今後の事業展開を計画する際には、競業避止義務の範囲と期間を契約締結前に弁護士と十分に確認することが重要です。

許認可が引き継げない

飲食業・建設業・宅地建物取引業など、業種によって許認可が事業の根幹となる場合、事業譲渡では許認可を移転できないため買い手が改めて取得する必要があります。許認可の再取得に時間を要する業種では、事業の引き継ぎに想定以上の期間がかかる場合があります。

譲渡益に対して課税が生じる

事業譲渡で得た利益(譲渡益)は法人税の課税対象です。売却価格から譲渡資産の簿価や関連費用を差し引いた譲渡益に対して、法人税・地方法人税・法人住民税・法人事業税が課されます。大きな譲渡益が見込まれる場合は、事前に税理士への相談が不可欠です。

買い手側のデメリット

買い手にとっては、各資産・契約を個別に引き継ぐための手続きコスト・時間的コストが大きい点、許認可の再取得が必要な場合があること、従業員の同意取得と雇用条件の再設定が必要な点などがデメリットとして挙げられます。また、消費税(課税資産に対して課される)や不動産取得税・登録免許税(不動産が含まれる場合)など、株式譲渡にはない税負担が生じます。


事業譲渡の手続きと流れ

事業譲渡の手続きと流れを整理するビジネスシーン

事業譲渡は多くのステップを経て完了します。全体の流れを把握することで、実際の取引においても冷静な判断が可能になります。

① 事前準備・社内検討

まず、売り手は「何を」「なぜ」「いくらで」譲渡するかという基本方針を固めます。譲渡する事業の範囲、対象資産・負債のリスト、引き継ぎ対象従業員、希望価格帯(相場感の把握を含む)などを整理します。この段階でM&Aアドバイザーや仲介会社に相談を始めることが一般的です。

② 取締役会での決議

売り手・買い手ともに、事業譲渡の方針について取締役会で決議を行います(取締役会設置会社の場合)。

③ マッチング・交渉(トップ面談)

M&A仲介会社やFA(財務アドバイザー)を通じて買い手候補を探し、秘密保持契約(NDA)締結後に具体的な交渉を始めます。候補企業へのアプローチには、ノンネームシート(会社名を伏せた事業概要書)を使うことが一般的です。関心を示した企業には、より詳細な情報が記載されたIM(インフォメーション・メモランダム)を開示します。トップ面談を経て条件の擦り合わせが進み、基本合意書(LOI:Letter of Intent)を締結することで交渉の大枠が固まります。LOIは法的拘束力が限定的なものが多いですが、価格・スキーム・スケジュールなどの主要条件を文書化することで、以降の交渉の方向性が定まります。

④ デューデリジェンス(買収監査)

基本合意書締結後、買い手側が売り手の事業に関する財務・法務・税務・労務などの実態調査を行います。これがデューデリジェンス(DD)と呼ばれるプロセスです。売り手経営者は必要な資料を開示し、買い手の疑問に誠実に対応することが求められます。DDの結果次第で最終価格や条件が修正されることがあります。

⑤ 株主総会での特別決議

重要な事業の全部または一部を譲渡する場合は、株主総会で特別決議(議決権の3分の2以上の賛成)を得る必要があります。反対株主からの株式買取請求への対応も、この時期に行います。

⑥ 事業譲渡契約の締結

デューデリジェンスと株主総会の特別決議を経て、最終的な事業譲渡契約(DA:Definitive Agreement)を締結します。契約書には譲渡資産・負債の詳細、従業員の引き継ぎ条件、競業避止義務の範囲、表明保証条項などが盛り込まれます。表明保証とは、売り手が「開示した情報に虚偽はない」ことを契約書上で保証する条項で、万一虚偽があった場合の補償責任が生じます。

⑦ クロージング(効力発生・引き渡し)

契約書に定めたクロージング日(効力発生日)に、事業の引き渡しと対価の支払いが行われます。これと並行して、資産の名義変更・登記手続き、取引先・金融機関への通知、従業員への説明と個別同意取得、許認可の再申請などを進めます。クロージング後も一定期間は引き継ぎサポート期間として、前経営者が関与するケースも多くあります。


事業譲渡にかかる税金

事業譲渡の税務を税理士と確認する経営者

事業譲渡では、売り手(法人)と買い手(法人)の双方に複数の税金が発生します。事前に概算を把握しておくことが、交渉の判断材料としても重要です。

売り手側(譲渡企業)にかかる主な税金

法人税(および地方法人税・法人住民税・法人事業税)

事業譲渡によって生じた譲渡益(売却価格 − 譲渡資産の簿価 − 譲渡費用)は、通常の法人所得と合算のうえ法人税の課税対象となります。現行の法人税率は所得800万円超の部分について23.2%(普通法人・中小法人共通)です。資本金1億円以下の中小法人については、年800万円以下の所得部分に対して本則19%より低い15%の軽減税率が適用される特例が設けられており(令和9年3月31日開始事業年度まで延長)、これに地方法人税・法人住民税・法人事業税等を加味した実効税率は概ね30%前後と解説されることが多い水準です。ただし、自治体の超過税率の有無や各種優遇措置の適用により実際の負担率は変動します。なお、事業年度に他の損失がある場合は損益通算でき、繰越欠損金がある場合はその範囲内で課税所得を圧縮することも可能です。譲渡益が多額になるほど税負担も大きくなるため、株式譲渡との比較も含めた税負担シミュレーションを事前に税理士と行うことを強くお勧めします。

消費税

事業譲渡では、課税資産(棚卸資産・機械設備・ブランドなど)の譲渡は消費税の課税取引となります。ただし、土地は非課税、有価証券の譲渡も原則非課税です。買い手が課税事業者であれば仕入税額控除が適用されるため、消費税の実質的な負担は買い手にとっての資金繰りの問題として現れるケースもあります。

買い手側(譲受企業)にかかる主な税金

消費税

上述の通り、課税資産の取得に伴い消費税が発生します。適格請求書等保存方式(インボイス制度)の導入後は、インボイスの取り扱いにも注意が必要です。

不動産取得税

事業譲渡に不動産が含まれる場合、買い手は不動産取得税(都道府県税)を納付する必要があります。ただし、不動産取得税には一定の非課税措置や軽減措置が存在するため、対象物件の内容に応じて税理士に確認することを推奨します。

登録免許税

不動産の名義変更登記には登録免許税がかかります。土地・建物それぞれの固定資産税評価額に税率を乗じた金額が課税されます。

税金の計算は事業の内容や規模によって大きく異なります。事業譲渡を具体的に検討する段階では、税理士への相談のうえで税負担のシミュレーションを行うことが不可欠です。


事業譲渡の会計処理・仕訳の基本

事業譲渡の会計処理を確認する専門家と経営者

事業譲渡の会計処理は、売り手・買い手ともに重要な論点です。ここでは基本的な考え方を整理します。

売り手側の会計処理

売り手は、譲渡した資産・負債の簿価を帳簿から取り除き(帳簿価額を貸方・借方に計上)、受け取った対価との差額を「事業譲渡益」または「事業譲渡損」として損益に計上します。税務上は、この譲渡損益が法人税の課税所得に加算・減算されます。

買い手側の会計処理・のれんの処理

買い手は取得した各資産・負債を時価で計上します。このとき、支払対価の合計が取得純資産(資産−負債)の時価合計を上回る場合、その差額が「のれん(営業権)」として資産計上されます。のれんは日本の会計基準(J-GAAP)では20年以内の合理的な期間にわたって規則的に償却することが求められます(具体的な償却年数は事業の実態に応じて個別に設定します)。

ここで注意が必要なのは、会計上の償却と税務上の処理は一致しない点です。税務上、事業譲渡で生じるのれんに相当する差額は「資産調整勘定」として扱われ、法人税法第62条の8に基づき60か月(5年)で均等に損金算入されます。会計上の20年以内の償却とは別建ての処理となるため、実際の税負担の試算には税理士への確認が不可欠です。株式譲渡では資産調整勘定が発生しないのに対し、事業譲渡では5年間にわたって損金算入できる点は、買い手にとっての節税メリットの一つです。IFRS(国際財務報告基準)では定期償却ではなく減損テストが行われますが、中小企業の多くはJ-GAAPを適用しています。

逆に支払対価が取得純資産の時価を下回る場合は「負ののれん」が発生し、発生時に一括して特別利益として計上します(税務上は差額負債調整勘定として60か月で益金算入)。


事業譲渡の価格の考え方と評価方法

事業価値評価の方法を検討するビジネスシーン

事業譲渡の価格は、「いくらで売れるか」を正確に把握するうえで最も重要な要素の一つです。価格算定には複数の方法があり、実際の取引では複数の手法を組み合わせることが一般的です。

純資産法(コストアプローチ)

会社の保有する資産から負債を差し引いた純資産額を基準とする方法です。譲渡対象事業に属する資産・負債を時価で洗い直し、その差額を事業価値の目安とします。計算がシンプルで理解しやすい一方、将来の収益力やブランド価値を十分に反映できない場合があります。

DCF法(インカムアプローチ)

事業が将来生み出すキャッシュフローを一定の割引率で現在価値に換算する方法です。将来の収益力を評価できるため、成長性の高い事業や無形資産が重要な事業の評価に向いています。ただし、将来予測の前提条件によって価格が大きく変動するため、作成されたビジネスプランの合理性が重要です。

類似会社比較法(マーケットアプローチ)

EBITDAマルチプル(税引前・償却前利益の倍数)など、類似する業種・規模の企業の取引事例や上場企業の株価指標を参考に事業価値を算定する方法です。市場での相対的な価値を把握しやすい一方、中小企業では参考となる事例の入手が難しい場合もあります。

実際の事業譲渡では、これらの手法を組み合わせて価格レンジを算出し、最終的な価格は売り手・買い手の交渉によって決まります。売り手として適正価格を把握し、不当に安く売ることを防ぐためにも、専門家による企業価値評価(バリュエーション)を事前に受けることを強くお勧めします。

なお、事業譲渡の価格算定においてよく使われる「のれん(営業権)」とは、企業が持つブランド力・顧客基盤・技術ノウハウ・組織力などの超過収益力を金額で表したものです。純資産額を超えた価格で売却できる場合、その差額がのれんとして認識されます。買い手がのれんに対してどれだけの価値を感じるかは業種・交渉力・タイミングによっても異なるため、複数の買い手候補と競争的な交渉を進めることで、より高い評価を引き出せる場合があります。


事業譲渡の注意点とリスク

事業譲渡における従業員・取引先への影響を確認する経営者

従業員への影響と対応

事業譲渡では、従業員は「個別承継」の対象となるため、買い手への転籍には従業員一人ひとりの同意が必要です(会社分割とは異なり、労働契約承継法の適用はありません)。従業員が転籍を拒否した場合には、売り手側での雇用維持か解雇(要件を満たす場合)かの判断が必要になります。また、転籍に同意した従業員であっても、雇用条件(給与・役職・勤務地など)が変わる場合には丁寧な説明が不可欠です。経営者として誠実に従業員と向き合い、十分な説明と話し合いを行うことが、円滑な引き継ぎのために不可欠です。雇用条件の引き継ぎについては労務士・弁護士への相談も検討してください。

取引先・顧客への影響

取引先との契約は個別承継が必要なため、すべての取引先に通知し、場合によっては同意を取り付ける必要があります。主要取引先が事業譲渡に反対したり、引き継ぎを拒否したりするケースも想定されるため、事前のリレーション管理が重要です。特に特定の取引先への依存度が高い事業では、この点がM&Aの実現可能性に影響することもあります。

情報管理の重要性

M&Aの交渉プロセスでは、自社の財務情報・顧客情報・技術情報などの機密データを開示する場面が生じます。秘密保持契約(NDA)の締結・管理を徹底し、情報漏洩による競争上のリスクを最小化することが重要です。

簿外債務・潜在リスクへの対処

売り手は、デューデリジェンスにおいて買い手から財務・法務・税務上のリスクを徹底的に調査されます。未払賃金・係争中の訴訟・環境規制への未対応など、表面に出ていないリスクが発覚した場合、価格引き下げや案件破談の原因となります。経営者としては、事前に自社の状況を正確に把握し、開示すべき情報を誠実に提供する姿勢が取引成立の近道です。


事業譲渡を成功させるためのポイント

事業譲渡についての疑問を専門家に質問する経営者

早期に専門家チームを組成する

事業譲渡には、M&Aアドバイザー・税理士・弁護士・労務士など複数の専門家が関与します。特に税務・法務の判断は専門的知識が求められ、判断の誤りが後に大きな損失につながることがあります。「検討し始めたら早めに相談する」ことが成功の第一歩です。

譲渡する事業の範囲を明確に設定する

「何を売るか」を曖昧にしたまま交渉を進めると、後から論点が広がって交渉が難航します。資産・負債・契約・従業員のリストアップを事前に行い、「売るもの」と「残すもの」を明確にしておくことが重要です。

適正な企業価値の把握と価格目線の設定

感覚的な希望価格では買い手との乖離が生じやすくなります。専門家による客観的な企業価値評価を受けたうえで、現実的な価格レンジを把握してから交渉に臨むことが交渉を有利に進めるうえで効果的です。

セカンドオピニオンの活用

M&Aアドバイザーや仲介会社からの提案内容が本当に自社にとって最適かどうか、不安を感じる経営者は少なくありません。一つの意見だけで判断するのではなく、第三者の専門家に内容を確認してもらうセカンドオピニオンの活用が、売り手経営者の利益を守るうえで有効です。M&Aインサイトを運営するラグーン合同会社が提供する「M&Aセカンドオピニオン(https://ma-second-opinion.jp/)」では、完全無料・成功報酬なしで、売り手経営者の立場に立った中立的なアドバイスを受けることができます。M&A成約実績100件超の専門家監修のもと、提案内容の妥当性確認から手続き全般の疑問解消まで対応しています。


事業譲渡に関するよくある質問

事業譲渡を成功させるためにセカンドオピニオンを活用する経営者

Q. 事業譲渡は個人(個人事業主)でも行えますか?

はい、個人事業主も事業譲渡は可能です。ただし個人事業主の場合は会社法上の株主総会や取締役会は存在しないため、法人の場合とは手続き面が異なります。税務上の取り扱いも法人と異なり、個人事業主が行う事業譲渡では、譲渡する資産の内容に応じて課税区分が異なります。たとえば棚卸資産の売却益は事業所得、土地・建物などの不動産は譲渡所得(分離課税)、機械設備等の固定資産は総合課税の譲渡所得とされるなど、一律ではありません。このため個人事業主の事業譲渡は資産ごとの税務区分の把握が特に重要であり、必ず税理士に確認することが不可欠です。

Q. 事業譲渡の完了までにかかる期間はどのくらいですか?

規模や状況によって大きく異なりますが、一般的な中小企業の事業譲渡では、検討開始から最終契約・クロージングまでに3ヶ月〜1年程度かかるケースが多いとされています。買い手探し(マッチング)に時間がかかる場合や、デューデリジェンスで問題点が発覚した場合には、さらに長期化することもあります。早期に専門家に相談を始め、準備を整えた状態で交渉に臨むことが、スムーズな進行につながります。

Q. 事業譲渡において従業員に告知するタイミングはいつが適切ですか?

一般的には、基本合意書(LOI)の締結後、デューデリジェンスが進んだ段階で経営幹部に共有し、最終契約締結後のクロージング前後に全従業員へ説明するケースが多いとされています。ただし、情報漏洩リスクや従業員の動揺・離職リスクとのバランスを考慮して判断する必要があります。従業員への説明方法・タイミングは、M&Aアドバイザーや労務士と事前に綿密に協議しておくことが望ましいです。

Q. 赤字事業でも事業譲渡は成立しますか?

赤字事業であっても、買い手側にとって価値があれば事業譲渡は成立し得ます。設備・立地・技術・顧客基盤・ブランドなど、財務数値に表れにくい価値を持つ事業は、特定の買い手にとって高い戦略的価値を持つことがあります。ただし、純粋に事業価値が低い場合は価格が低くなる、または買い手が見つからないこともあります。まずは専門家に事業の客観的な価値を評価してもらうことが重要です。

Q. M&Aアドバイザーに依頼せずに事業譲渡を進めることはできますか?

費用を抑えたい場合など、仲介会社を使わずに直接交渉するケースも存在します。しかし、適切な買い手の選定・価格交渉・契約書作成・デューデリジェンス対応など、専門知識が求められる場面が多く、独力で進めることで思わぬ損失を被るリスクもあります。最低限、税理士・弁護士のサポートは受けることを強く推奨します。また、現在付き合っているアドバイザーの提案内容に不安がある場合は、セカンドオピニオンを活用して内容を検証することも有効です。


まとめ――事業譲渡は「準備」と「情報」が成否を分ける

本記事で解説してきた通り、事業譲渡は中小企業の経営者が活用できる最も柔軟なM&A手法の一つです。事業の一部だけを売却できる、法人格を維持できる、買い手が引き継ぐ資産を選別できる――こうした特徴は、事業承継・経営再建・選択と集中など、さまざまな経営課題の解決に役立ちます。

一方で、個別承継に伴う手続きの複雑さ、税務・法務上の論点の多さ、従業員・取引先への影響など、単独で対処しようとすれば見落としのリスクが高い要素も数多くあります。「なんとなく検討を始めた」段階から、早期に専門家に相談することが、後悔のない意思決定につながります。

事業譲渡や事業承継についてさらに詳しく知りたい方、現在受けている提案の内容を第三者に確認してもらいたい方は、ぜひM&Aセカンドオピニオンの無料相談をご活用ください。


参考リンク


本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の税務・法務判断の根拠となるものではありません。具体的な事業譲渡の検討にあたっては、税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。

監修:森沢雄太(一般社団法人M&Aセカンドオピニオン協会 代表理事)

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