M&Aの種類と手法一覧|株式譲渡・事業譲渡・合併の違い

M&Aの種類とスキームを比較・検討している経営者のイメージ

会社を売りたい、あるいは事業を誰かに引き継いでほしいと考えはじめたとき、多くの経営者が最初に直面するのが「M&Aにはどんな種類があるのか」という問いです。株式譲渡、事業譲渡、合併、会社分割……耳にしたことはあっても、それぞれの違いや自社にどれが合うのかが分からないまま、専門家に相談することをためらっている方も多いのではないでしょうか。

M&Aのスキーム(手法)を誤って選択すると、想定外の税負担が生じたり、従業員や取引先への影響が大きくなったりするリスクがあります。手法の選択は取引の成否を左右する重要な意思決定であり、「なんとなく一般的だから」という理由で決めてよいものではありません。

M&Aの種類は体系的に整理すると理解しやすくなります。大別すると「狭義のM&A(買収・合併・分割)」と「広義のM&A(資本提携・業務提携)」に分かれ、それぞれに複数のスキームが存在します。どのスキームを選ぶかは、売り手の目的、税務上の影響、従業員の処遇、取引先との関係など多くの要素によって変わります。

そこで本記事では、M&Aの種類を体系的に整理し、各スキームの仕組み・メリット・デメリット・税務上の特徴を売り手目線で解説します。スキームの選び方のポイントや失敗しがちなパターン、よくある質問まで網羅しているので、M&Aを検討しはじめた経営者の方にとって、判断の土台となる知識を得ていただけます。


目次

M&AとM&Aスキームの基本

M&Aとスキームの基本を資料で確認している経営者のイメージ

M&Aとは「Mergers(合併)and Acquisitions(買収)」の略で、企業や事業の全部または一部を、他の会社や個人に引き継がせる取引の総称です。日本では後継者不在問題や事業承継の課題を背景に、中小企業のM&Aが年々増加しています。帝国データバンクの調査(2025年)によると、後継者不在率は50.1%にのぼり、M&Aが事業承継の現実的な選択肢として広く認知されるようになってきました。

M&Aの基本的な仕組みと目的については、こちらの記事でわかりやすく解説しています。

M&Aの「スキーム」とは、具体的な手続きの枠組みや手法のことを指します。目的は同じ「会社・事業の引き継ぎ」であっても、どのスキームを使うかによって、売り手が受け取る対価の種類・税率、引き継ぐ権利義務の範囲、従業員や取引先への影響、手続きの複雑さが大きく異なります。

M&Aスキームの選択は、一度決めたからといって簡単に変更できるものではありません。交渉が進んだ段階でスキームを変更すると、デューデリジェンス(DD)のやり直しや契約書の組み替えが必要になり、時間・コストが増大します。また、スキームによっては税務上の取り扱いが根本的に変わるため、初期段階での適切な選択が非常に重要です。売り手の経営者が「専門家に任せればよい」と思いがちな領域ですが、最低限の知識を持つことで、提案されたスキームの妥当性を自分なりに評価することができます。

M&Aの広義と狭義の分類

M&Aは広義と狭義で分類するのが一般的です。

狭義のM&Aは、法人格または事業の支配権・所有権が明確に移転する取引を指します。株式の移転、事業資産の包括的な承継、組織の再編などがこれにあたります。株式譲渡・事業譲渡・会社分割・合併・株式交換・株式移転が代表的な手法です。

広義のM&Aは、資本関係や業務上の協力関係を通じて企業間の連携を深める手法を含みます。資本提携(出資を通じた協力)や業務提携(契約ベースの協力)がこれにあたり、直接的な支配権の移転には至らないケースも含まれます。第三者割当増資も、既存株主が直接対価を受け取らない資金調達・資本提携の手段として、広義のM&Aに分類されるのが一般的です。

実務の場では「M&Aの種類」というと主に狭義のスキームを指すことが多く、本記事でも狭義のスキームを中心に解説します。

売り手経営者がスキームを理解すべき理由

買い手や仲介会社が「このスキームで進めましょう」と提案してきたとき、売り手側が内容を理解していないと、自分に不利な条件に気づかないまま交渉が進むリスクがあります。スキームの基礎知識は、専門家とのコミュニケーションを円滑にし、納得感のある意思決定につながります。スキームの選択は最終的に売り手自身が判断すべき問題であり、その判断を支える知識として、以下の解説をご活用ください。

M&Aスキームの種類一覧と比較

M&Aスキームの種類を比較表で検討しているシーンのイメージ

主なM&Aスキームの概要と基本的な特徴を比較すると以下のとおりです。

スキーム移転するもの売り手の対価売り手の税率(目安)許認可の承継手続きの難易度
株式譲渡会社全体(株式)現金20.315%(申告分離課税)原則維持されるが、業種によっては変更届等が必要(※1)
事業譲渡特定の事業・資産現金法人税(実効税率約30%前後、中小企業・所得区分により変動)原則承継されない(届出のみで対応できる場合もあるが、再取得が必要なケースが多い)(※1)
吸収合併会社全体(法人格消滅)株式または現金原則課税繰延べ(適格の場合)要個別確認(※1)
新設合併会社全体(法人格消滅)新設会社の株式同上要個別確認(※1)
吸収分割特定事業(包括承継)株式または現金スキームにより異なる要個別確認(※1)中〜高
新設分割特定事業(包括承継)新設会社の株式同上要個別確認(※1)中〜高
株式交換子会社株式親会社株式または現金原則課税繰延べ(適格の場合)原則維持されるが、グループ構成変更に伴い届出・承認が必要な業種あり(※1)
株式移転子会社株式持株会社の新株同上同上(※1)
第三者割当増資新株なし(会社への払込み)(※2)低〜中

(※1)許認可の承継可否は、スキームの種類だけでなく許認可の種類・個別の業法・行政判断によって異なります。承継・再取得・届出の要否は所管官庁に事前に確認することが不可欠です。株式譲渡であっても建設業の経営事項審査や宅建業の変更届など、業種によっては手続きが必要な場合があります。

(※2)第三者割当増資は既存株主(売り手)が直接対価を受け取るものではなく、会社に資金が払い込まれます。広義のM&A・資本提携の手段として分類されることが一般的です。

※税率・税務上の取り扱いはスキームの詳細・要件により異なります。最終的な判断は税理士・弁護士等の専門家にご確認ください。

買収に分類されるM&Aの代表的な手法

買収スキームについて専門家が説明しているイメージ

買収とは、ある企業が他の企業の株式や事業を取得し、経営権を獲得することです。中小企業のM&Aで最も多く活用されているのが買収スキームで、なかでも株式譲渡と事業譲渡の利用頻度が特に高い傾向があります。

株式譲渡

株式譲渡は、売り手(株主)が保有する株式を買い手に譲渡することで、会社全体の経営権を移転する手法です。会社そのものを売買するイメージに最も近く、中小企業のM&Aでは最も一般的なスキームとされています。

株式譲渡の詳細な仕組みと手続きは、株式譲渡の仕組みと手続きを詳しく見るで詳しく解説しています。

株式を譲渡した売り手には、個人株主の場合、株式の売却益(譲渡益)に対して申告分離課税が適用されます。税率は所得税・住民税・復興特別所得税を合わせて20.315%です(国税庁)。

売り手にとって大きなメリットは、会社が保有する許認可・契約・雇用関係が原則として維持されやすく、会社の「箱」ごと引き渡すことができる点です。ただし、建設業の経営事項審査や宅建業の変更届など、業種によっては株式譲渡後も所管官庁への変更届出・再許可手続きが必要な場合があります。実務上の手続きとしては、株主名簿の書換え、株式譲渡契約書(SPA)の締結、クロージング条件の充足確認など複数の工程が発生しますが、他のスキームと比べると手続きが比較的シンプルです。

一方で、売り手の立場からの注意点として、簿外債務(帳簿に載っていない隠れた負債)もそのまま買い手に承継されるため、デューデリジェンス(DD)で発覚した場合には価格の下方修正や契約破棄につながるリスクがあります。売り手は情報を正確に開示することが信頼関係の構築と取引の円滑化につながります。

株主総会決議については、会社の定款や株式譲渡制限の有無によって必要な手続きが変わります。譲渡制限株式の場合、取締役会または株主総会の承認が必要な場合があります。また、売り手経営者以外に複数の株主が存在する場合、全株式の取得を目指すには各株主との個別交渉が必要になることが実務上の課題となることがあります。

事業譲渡

事業譲渡は、会社全体ではなく特定の事業や資産・負債を個別に選択して買い手に譲渡する手法です。「会社(法人格)」は売り手のもとに残り、特定の事業だけを切り出して売却するイメージです。

事業譲渡の詳細なメリット・デメリットについては、事業譲渡の意味とメリット・デメリットで詳しく解説しています。

売り手としては、残したい事業や資産は手元に置きながら、不採算事業を売却したり、後継者のいない事業だけを引き継いでもらったりと、柔軟な設計が可能です。また、事業譲渡では売り手が引き継がせたい負債だけを対象とすることができるため、簿外債務の引き継ぎ範囲を一定程度限定できる面があります。ただし、契約・不法行為・労務問題などに起因する実質的な責任が残るケースもあるため、専門家による入念な確認が必要です。

税務面では、事業を売却した際の利益は法人税の課税対象となります。また、売却後の資金を株主に還元する場合、配当等の形で追加の課税が生じる可能性があります。さらに、消費税の取り扱いや、のれん(ブランド価値や顧客関係などの超過収益力)の計上方法など、税務上の論点が多く、税理士への事前確認が不可欠です。

手続き上の注意点として、許認可は原則として承継されません。業種・許認可の種類によっては届出のみで対応できる場合もありますが、多くのケースでは買い手が事業を継続するために行政機関への再申請が必要になります。介護・建設・飲食など許認可が事業の根幹にかかわる業種では、この点が特に重要です。従業員の雇用についても、事業譲渡の場合は個別の同意取得が必要であり、株式譲渡よりも手続きが煩雑になります。

重要な事業譲渡(会社の全事業譲渡や主要事業の譲渡)を行う場合、会社法に基づいて株主総会の特別決議が必要になります。特別決議の成立には、原則として議決権を行使できる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要です(会社法第309条第2項)。

株式交換・株式移転

株式交換は、ある会社(対象会社)の全株式を別の会社(取得会社)に取得させ、対象会社を完全子会社にする手法です。売り手(対象会社の株主)は、保有していた株式を取得会社の株式または現金と交換します。

株式移転は、既存の会社が新たに設立した持株会社(ホールディングス)の完全子会社になる手法です。グループ経営の再編などによく使われます。

いずれのスキームも、売り手の株主は対価として株式を受け取るケースが多く、現金をすぐに手にするわけではない点が特徴です。税制上は、一定の要件を満たす「適格株式交換・移転」の場合、課税が繰り延べられます(法人税法)。許認可については、グループ構成変更に伴い保険業・銀行業・通信業など一部の業種では所管官庁への届出・承認が必要になる場合があるため、事前に確認が必要です。

第三者割当増資

第三者割当増資は、既存株主以外の特定の第三者(投資家・事業会社など)に対して新株を発行し、資金を調達する手法です。会社に資金が払い込まれる形となるため、売り手の既存株主が直接現金を受け取るわけではなく、M&Aの文脈では資本提携や出資受け入れの場面で活用されます。中小企業庁・M&A実務上は、広義のM&A・資本提携として分類されることが一般的です。

既存株主にとっては持ち株比率が下がる(希薄化する)デメリットがある一方、会社としては資金調達ができ、有力パートナーを株主として迎えることができるメリットがあります。段階的なM&Aの一歩目として活用されることもあります。

M&Aの種類(合併)

企業合併のプロセスを書類で確認している場面のイメージ

合併は、2つ以上の会社が1つの会社に統合される手法です。片方の会社が消滅し、その権利義務が存続会社または新設会社に包括的に承継されます。会社法上、合併には吸収合併と新設合併の2種類があります。

吸収合併

吸収合併は、一方の会社(消滅会社)が他方の会社(存続会社)に吸収され、消滅会社の法人格が消える手法です。消滅会社の株主は、存続会社の株式または現金を対価として受け取ります。

存続会社に消滅会社の資産・負債・契約が包括的に承継されるため、契約の個別移転手続きが不要という点でメリットがあります。ただし、許認可については個別の業法・行政判断により承継の可否や届出・承認の要否が異なるため、事前に所管官庁への確認が必要です。また、債権者保護手続き(官報公告・個別通知)や株主総会での特別決議が必要であり、手続きの負担は相応に大きくなります。特別決議の成立には、原則として議決権を行使できる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要です(会社法第309条第2項)。

大企業同士の経営統合では吸収合併がよく用いられますが、中小企業のM&Aでも活用されるケースがあります。消滅会社の取締役会・株主総会、存続会社の取締役会・株主総会のそれぞれで決議が必要になるなど、関係者が多く手続きが複雑になります。

新設合併

新設合併は、統合される複数の会社がすべて消滅し、新たに設立した会社に権利義務を引き継がせる手法です。既存の会社が1つも残らない点が吸収合併との最大の違いです。

新設合併では、許認可の扱いが個別の業法・行政判断によって異なり、再取得・届出・承認が必要な場合があります。手続き上も煩雑になりやすいことから、実務での採用例は少ない傾向があります。特に許認可が事業の継続に必須な業種では、事前に管轄官庁への確認が不可欠です。

M&Aの種類(会社分割)

会社分割の手続きを検討している経営者のイメージ

会社分割は、会社の事業の一部または全部を切り離し、別の会社に承継させる手法です。事業譲渡と異なる点は、権利義務が「包括的に」承継される(個別の同意取得なしに)という点です。これにより、多数の契約・資産・負債を一括して移転できます。

吸収分割

吸収分割は、分割会社の事業を既存の会社(承継会社)に引き継がせるスキームです。分割会社は法人格を維持したまま、特定の事業だけを切り出すことができます。分割会社が受け取る対価は、承継会社の株式または現金です。

従業員の雇用は事業に紐づいて包括的に承継されますが、労働契約承継法に基づく通知・異議申出手続きが必要です。許認可については、種類・業法・行政判断によって承継の可否や届出・再取得の要否が異なるため、個別に所管官庁への確認が必要です。

新設分割

新設分割は、分割する事業を受け入れるための新しい会社を設立し、その新設会社に事業を承継させる手法です。子会社として独立させた後、その子会社株式を売却するというM&Aの流れでよく活用されます。

事業を整理・再編してから売却するための準備手続きとして使われることが多く、買い手にとっても「欲しい事業だけ」を受け取りやすい設計が可能です。新設会社の設立手続きが発生するため、吸収分割より時間がかかる点を念頭に置く必要があります。

広義のM&Aに含まれる手法:資本提携・業務提携

資本提携・業務提携の合意シーンのイメージ

資本提携は、企業同士が互いに株式を取得したり、一方が他方に出資したりすることで、資本上のつながりを持つ手法です。完全な支配権の移転には至らないケースが多く、対等な協力関係を維持しながらシナジー効果を追求する際に選ばれます。出資比率は様々で、数%から50%未満程度まで幅があります。

業務提携は、資本関係を持たずに契約ベースで特定分野(販売・製造・技術開発・物流など)で協力する手法です。リスクが低い一方、関係の拘束力も弱く、相手先の経営判断次第で協力関係が解消されるリスクもあります。

資本提携と業務提携は単独で活用されるほか、M&Aの前段階として信頼関係を構築する目的で活用されることもあります。特に業界内での再編や大企業との連携を模索する中小企業にとって、段階的なM&Aへの足がかりとして検討される選択肢の一つです。

売り手が手法を選ぶ際の比較ポイント

売り手経営者がM&A手法の比較ポイントを検討しているイメージ

どのスキームが自社に適しているかを判断するには、複数の観点から検討することが必要です。

目的と残したいものを明確にする

まず「何を達成したいのか」「何を手元に残したいのか」を整理します。会社全体を売却して引退したい場合、特定の不採算事業だけを整理したい場合、後継者に事業を引き継ぎたい場合など、目的によって適したスキームが変わります。

事業の一部だけを売りたい場合は、事業譲渡か会社分割の検討が先行します。会社全体を引き継いでもらいたい場合は、株式譲渡が有力な選択肢になります。

税務上の影響を確認する

スキームによって売り手が最終的に手にする金額(手取り)は大きく変わります。個人株主が株式譲渡で得る売却益には20.315%の税率が適用されますが(国税庁)、事業譲渡の場合は会社に法人税がかかったうえ、株主に資金を還元する際にも配当等の課税が生じる可能性があるなど、複数の段階で税負担が生じることがあります。

税務面の検討なしにスキームを選ぶのは危険であり、必ず税理士を交えた試算を行ってから判断することが重要です。税理士への相談コストを惜しんだ結果、手取りが数百万円単位で変わるケースは珍しくありません。

従業員・取引先への影響を考慮する

売り手にとって従業員の雇用維持や取引先との関係継続は大切な関心事です。スキームによって、従業員の雇用がどう扱われるか(包括承継か個別同意が必要か)、取引先との契約が自動承継されるかどうかが異なります。

株式譲渡では会社の権利義務がそのまま維持されるため、従業員や取引先への影響が比較的小さい傾向があります。事業譲渡では個別の同意・移転手続きが発生するため、その分の手間と時間を見込む必要があります。

手続きの複雑さと期間を把握する

株式譲渡は手続きがシンプルで比較的短期間で完了できますが、合併や会社分割では債権者保護手続き、株主総会の特別決議など法的手続きが多く、時間がかかります。

スキームごとの標準的な期間の目安は、株式譲渡で3〜6か月程度、合併・分割で6か月〜1年程度とされることが多いですが、デューデリジェンスの範囲・資金調達の状況・許認可対応の有無によって大きく変動します。案件の複雑さや関係者の数によっても変わるため、あくまで目安として捉えてください。経営者の年齢や健康状態、事業の状況によっては「できるだけ早く完了させたい」という要望も出てきます。現実的な計画を立てるうえでも、スキームごとの期間感を把握しておくことが重要です。

スキームの選択に迷ったとき、また「提案された条件が適切かどうか判断できない」と感じる場面では、中立的な第三者の視点を持つ専門家に意見を求めることも一案です。M&Aインサイトでは、成功報酬なし・完全無料でスキームの段階からご相談いただけます。無料相談はこちら

手法別の主なメリット・デメリットまとめ

M&A手法のメリット・デメリットを整理している専門家のイメージ
スキーム売り手の主なメリット売り手の主な注意点
株式譲渡手続きシンプル・税率が低い(20.315%)・許認可原則維持・雇用継続簿外債務もそのまま引き継がれる・全株式取得を目指す場合に各株主との個別交渉が必要・業種により変更届等が必要な場合あり
事業譲渡引き継ぐ範囲を選択できる・負債を切り離しやすい・柔軟な設計許認可は原則承継されない(届出で足りる場合もあるが再取得が必要なケース多い)・従業員の個別同意が必要・法人税課税
吸収合併権利義務が包括承継・効率的な統合手続き煩雑・特別決議が必要・債権者保護手続き・許認可は個別確認要
新設合併同上許認可は個別業法・行政判断により再取得が必要な場合あり・実務での採用例少ない
吸収分割事業を切り出しやすい・包括承継・柔軟な構造手続き複雑・労働契約承継法上の手続き・許認可は個別確認要
新設分割売却準備として使いやすい・子会社化から売却へ準備に時間がかかる・手続きのステップが多い
株式交換完全子会社化・適格要件充足で課税繰延べ対価が株式のため現金化に時間がかかる・業種によりグループ再編後の届出・承認が必要
第三者割当増資資金調達・有力パートナーの確保既存株主の持ち株比率が下がる(対価は会社に払込まれる)

M&Aにおける法的手続きと関連法規

M&Aの法的手続きを弁護士と確認している経営者のイメージ

M&Aの各スキームは、会社法に基づいて実施されます。株式譲渡・事業譲渡・合併・会社分割・株式交換・株式移転のいずれも、会社法上の手続きが定められており、それを踏まえた書類作成・機関決定が必要です。

また、M&Aの規模によっては独占禁止法(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律)に基づく公正取引委員会への届出が必要になる場合があります。届出基準は、当事会社グループの国内売上高合計などの規模によって定められており、大規模取引では事前審査が行われます。詳細な基準は公正取引委員会の企業結合審査に関するガイドラインで確認してください。

さらに、上場企業が関与するM&Aでは金融商品取引法が関係します。TOB(株式公開買い付け)は、一定の上場株式等の取得について公開買付けによることを求める制度です。2026年5月1日施行の改正金融商品取引法(令和6年改正)により、従来の「3分の1ルール」から「30%ルール」へ閾値が引き下げられ、市場内取引も一定の場合に規制対象となりました(金融庁)。上場企業が関与するM&Aを検討する場合は、金融庁の最新情報を確認することが必要です。

秘密保持契約(NDA)は、M&Aプロセスの初期段階で締結し、売り手・買い手双方の情報漏洩を防ぐために不可欠な契約です。意向表明書(LOI)と基本合意書(MOU)はそれぞれ異なる役割を持ちます。LOIは主に買い手側から売り手側へ提示する意向・条件を示す文書で、原則として法的拘束力を持ちませんが、独占交渉権など一部の条項は例外的に拘束力を持つ場合があります。MOUは当事者間で基本条件を合意する文書ですが、こちらも原則として法的拘束力は持たず、条項によっては拘束力が認められる場合があります。最終的な取引条件は最終契約書(DA:Definitive Agreement)で定め、クロージング(手続きの完了)をもってM&Aが成立します。

デューデリジェンスとスキームの関係

デューデリジェンスの調査書類を確認しているビジネスシーンのイメージ

デューデリジェンス(DD)とは、買い手が対象企業・事業の実態を詳しく調査するプロセスです。財務DD・法務DD・税務DDなどが一般的に実施されます。

デューデリジェンスの具体的な内容と進め方については、デューデリジェンスの目的と進め方で詳しく解説しています。

スキームによってDDの焦点が異なります。株式譲渡では会社全体の簿外債務・未払い税金・訴訟リスクなどが重点的に調査されます。事業譲渡では対象事業の収益性・契約の移転可否・許認可状況が確認されます。

DDで問題が発見されると、買い手から価格の引き下げ(プライスダウン)を求められたり、場合によっては取引が白紙に戻ったりすることもあります。売り手としては、事前に自社の財務状況・契約状況・法的リスクを整理し、買い手との信頼関係を構築することがスムーズなM&Aにつながります。

中小企業がM&Aスキームを選ぶ際の実務的な考え方

中小企業経営者がM&Aスキームについて実務的に検討しているイメージ

中小企業のM&Aでは、規模・業種・目的によって適したスキームが異なります。中小M&Aガイドライン(第3版、2024年8月策定・公表、中小企業庁)においても、売り手経営者がスキームの基礎を理解したうえで専門家と協議することの重要性が強調されています。

経営者が高齢で後継者がいない場合

事業承継型のM&Aでは、株式譲渡が最もシンプルで多く採用されています。会社全体を引き継いでもらうことで、従業員の雇用・取引先との関係が維持されやすく、経営者の引退後も事業が継続する可能性が高まります。

帝国データバンク(2025年調査)によると、経営者の平均年齢は60.8歳に達しており、後継者不在問題を背景に株式譲渡による事業承継型M&Aは増加傾向にあります。

特定事業だけを売却したい場合

コア事業を残して不採算事業だけを手放したい、あるいは本業に集中するために周辺事業を売却したい場合は、事業譲渡または会社分割(吸収分割・新設分割)が選択肢になります。事業譲渡は手続き上の手間はかかりますが、売却対象の範囲を柔軟に設計できます。

グループ再編・子会社化を目的とする場合

大企業が中小企業を子会社化する場合、株式取得(株式譲渡)か株式交換が一般的です。対価として自社株式を用いることで現金支出を抑えながら完全子会社化できる点が、株式交換の活用目的の一つです。

スキーム選択で売り手が陥りやすい失敗パターン

M&Aスキームの落とし穴を専門家と確認している経営者のイメージ

M&Aのスキームを検討する際、売り手側が見落としがちなポイントを整理します。

スキーム選択に不安がある方は、M&Aセカンドオピニオンにご相談ください。

税務シミュレーションなしに進めてしまうケースが代表的な失敗パターンです。「いくら手に入るか」を考えるとき、売却価格だけを見ていると、税引後の手取りが期待よりも大幅に少ない結果になる場合があります。スキームごとに税負担が異なるため、手取りベースで比較することが重要です。

次に、許認可の扱いを見落とすケースがあります。介護・医療・建設・飲食など許認可が必要な業種では、事業譲渡を選んだ場合に許認可の再取得が必要となり、事業継続に支障をきたすことがあります。また、合併や会社分割においても許認可の扱いは個別業法・行政判断によって異なるため、スキームを問わず事前に所管官庁への確認が不可欠です。

また、表明保証(M&A契約において売り手が一定の事実を保証する条項)の内容を十分に理解しないまま契約してしまうケースも見られます。取引完了後に問題が発覚した場合、表明保証違反として損害賠償を求められることがあるため、契約内容の精査は欠かせません。

さらに、少数株主への確認を後回しにしてしまうケースも注意が必要です。売り手の経営者以外に株主がいる場合、全株式の取得を目指すには各株主からの個別譲渡が必要です。交渉の終盤で問題が発覚すると、取引全体が滞る原因になります。

独自視点①:スキームと統合後プロセス(PMI)の関係

M&A成約後の統合プロセス(PMI)を推進しているビジネスチームのイメージ

M&Aはスキームの選択で終わりではなく、成約後の統合プロセス(PMI:Post Merger Integration)が事業の行方を左右します。スキームによってPMIの難易度や優先課題が異なります。

PMIの具体的な進め方と成功のポイントについては、M&A後の統合(PMI)を成功させるポイントで詳しく解説しています。

株式譲渡の場合、会社の組織・人員がそのまま移行するため、PMIの初期フェーズは経営方針の共有・企業文化の融合が中心になります。買い手と売り手で経営スタイルや意思決定の速度が大きく異なる場合、PMI期間中に従業員の離職やモチベーション低下が起きやすい傾向があります。

事業譲渡では、事業の受け入れ先(買い手)のオペレーションに新たな人員・システム・取引先を組み込むプロセスが発生します。事業の切り出し範囲が明確な分、PMIのスコープも絞りやすい側面があります。

合併の場合は2つの組織が1つになるため、人事制度の統一・業務プロセスの標準化・ITシステムの統合など、課題が多岐にわたります。PMIを計画的に進めるためにも、スキーム選択の時点でPMIの難易度を意識しておくことが重要です。

中小企業庁の「中小PMIガイドライン」(2022年3月策定)では、特に中小企業のM&A後の経営統合において、経営者のコミュニケーション・従業員への丁寧な説明・早期の信頼構築が成功の鍵になると指摘されています。スキームを選ぶ段階から「成約後に何が起きるか」を想像しておくことが、長期的な視点でのM&A成功につながります。

独自視点②:スキームと資金調達・ファイナンスの関係

M&Aの資金調達・ファイナンス戦略を検討しているシーンのイメージ

売り手の視点からは見落とされがちですが、買い手がどのように資金を調達するかもスキームの選択に影響します。

現金での株式譲渡の場合、買い手は自己資金・金融機関からの融資(M&Aローン)・ファンドからの出資などを組み合わせて調達します。買い手の資金調達能力が低い場合、アーンアウト条項(一定期間の業績達成を条件に追加の対価を支払う仕組み)が設けられることがあります。アーンアウトは売り手にとって将来の追加収入の可能性がある一方、業績目標の達成可否というリスクも伴います。

株式交換の場合は買い手が現金を支払わずに対価として自社株式を渡すため、資金調達の負担が軽減されます。ただし売り手が受け取る株式の価値は、買い手企業の業績・市場評価によって変動するリスクがあります。

ロックアップ条項(キーマン条項とも呼ばれる)は、売り手経営者が一定期間、経営に関与し続ける留任義務を定めるものです。売り手としては「いつ完全に引退できるか」というスケジュール感を事前に確認しておくことが重要です。

スキームと資金調達の関係は複雑であり、交渉過程で条件が変化することもあります。売り手は「最終的にいくら手元に残るか」という観点で、受け取る対価の種類・確実性・受取時期を総合的に判断することが重要です。

M&Aスキームを選ぶ前に確認したいチェックリスト

M&Aスキーム選択前のチェックリストを確認している経営者のイメージ

以下の項目を事前に整理しておくと、専門家への相談がスムーズになります。

  • 会社全体を売りたいか、特定の事業だけを売りたいか
  • 売却後に残したい事業・資産・従業員はいるか
  • 自社が保有する許認可の一覧と、各スキームでの承継可否を所管官庁に確認したか
  • 株主(自分以外の株主)全員の意向を確認したか
  • 現時点での財務状況(簿外債務・未払い税金・係争中の訴訟など)を把握しているか
  • スキームごとの税引後手取りを試算したか(税理士確認済みか)
  • 希望する取引完了時期と、各スキームの手続き期間を照合したか
  • 売却後の自分の役割(顧問として残る・完全退任など)を考えているか
  • 従業員・取引先への開示タイミング・方法を検討したか
  • M&A仲介・アドバイザーに対してスキームの前提を共有したか

M&Aの種類に関するよくある質問(FAQ)

M&Aの種類に関する疑問を専門家に相談している経営者のイメージ

Q1. 株式譲渡と事業譲渡、どちらが売り手にとって有利ですか?

どちらが有利かは、売り手の目的・状況によって異なります。一般的に言われる税負担の違いとして、個人株主が株式譲渡で得る利益には20.315%の税率が適用されますが(国税庁)、事業譲渡では会社に法人税がかかったうえで株主への資金還元にも課税が生じる可能性があるため、実質的な税負担が重くなるケースがあります。一方、事業の一部だけを売りたい場合や、特定の負債を引き継がせたくない場合は事業譲渡が適している場面もあります。具体的な試算は必ず税理士に依頼してください。

Q2. M&Aスキームは当事者同士で自由に選べますか?

基本的には売り手・買い手双方が協議して選択しますが、法的な要件・許認可・税務上の制約、また対象会社の株主構成などによって、特定のスキームが使えない場合があります。また、スキームによっては株主総会での特別決議が必要なため、主要株主の合意が前提になります。

Q3. M&Aで従業員の雇用はどうなりますか?

スキームによって異なります。株式譲渡では会社の法人格がそのまま維持されるため、雇用契約も基本的には継続します。事業譲渡では従業員を新たな事業承継先に移籍させる場合、個人ごとの同意が必要です。会社分割では労働契約承継法に基づく通知・異議申出手続きが必要になります。いずれの場合も、売り手として雇用維持を重視するならば、最終契約書に雇用継続の義務付け条項を盛り込むことを検討してください。

Q4. のれんとは何ですか?スキームによって扱いが違いますか?

のれんとは、純資産額を超えて評価される企業・事業価値の部分で、ブランド・顧客基盤・技術・ノウハウなどが含まれます。スキームによって会計処理が異なります。株式譲渡の場合、買い手の個別財務諸表上では取得した株式が「子会社株式」等として処理されるため、のれんは計上されません。ただし、買い手が連結財務諸表を作成する場合には、株式の取得原価と対象会社の時価純資産の差額として連結上ののれんが計上されることがあります。一方、事業譲渡では、譲渡対象となる識別可能な資産・負債の時価純資産額と譲渡対価との差額がのれんとして算定され、買い手の個別財務諸表に計上されるとともに、税務上の損金算入も可能です。詳細は税理士・公認会計士にご確認ください。

Q5. 中小企業でも合併は利用できますか?

はい、規模に関わらず会社法上の手続きを踏めば合併は実施できます。ただし合併は手続きが煩雑で、債権者保護手続きや株主総会の特別決議など、時間とコストがかかります。特別決議の成立には、原則として議決権を行使できる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要です(会社法第309条第2項)。中小企業同士のM&Aでは、手続きのシンプルさから株式譲渡や事業譲渡のほうが実務で多く使われる傾向があります。合併を選択する場合は、弁護士・司法書士などの専門家によるサポートが不可欠です。

Q6. M&Aスキームを変更することはできますか?

交渉の過程でスキームを変更することはあります。ただし、検討が進んだ段階でスキームを変更すると、デューデリジェンスのやり直しや契約書の組み替えが必要になるため、時間・コストが増大します。最初の段階でスキームの方向性をしっかり検討し、専門家の意見を踏まえたうえで確定させることが望ましいです。

Q7. M&Aのスキームはいつ決めるべきですか?

スキームは、M&Aの交渉初期段階(意向表明書の段階まで)に方向性を確認し、基本合意書(MOU)の締結時点で明確にするのが一般的です。スキームが決まると、その後のデューデリジェンスや最終契約書の内容が変わってきます。スキームの選択は専門家(M&Aアドバイザー・税理士・弁護士)と連携して進めることを強くおすすめします。

Q8. 許認可の承継がうまくいかない場合はどうすればよいですか?

許認可の承継可否は、行政機関(都道府県・市区町村・国の出先機関)への事前確認が必要です。スキームによって承継の扱いが変わる傾向がありますが(株式譲渡では原則維持されやすく、事業譲渡では再申請が必要なケースが多い)、個別の業法・行政判断によっても異なります。M&Aの初期段階から所管官庁への照会を行うことが重要です。専門家(行政書士・弁護士)のサポートを得ながら進めることをおすすめします。

まとめ

M&Aの種類は、大きく「狭義のM&A(株式譲渡・事業譲渡・合併・会社分割・株式交換・株式移転)」と「広義のM&A(資本提携・第三者割当増資・業務提携)」に分類されます。

売り手経営者にとって最も重要なのは、各スキームの仕組みとメリット・デメリットを理解したうえで、自社の目的・状況に最も合った手法を専門家と一緒に選択することです。「一般的だから株式譲渡で」という思考停止ではなく、税務上の手取り・従業員への影響・許認可の取り扱い・手続き期間などを総合的に検討することが、満足のいくM&Aにつながります。

スキームの選択に迷ったとき、また「提案されたスキームが本当に自社に合っているか確認したい」と感じたときは、中立的な専門家への相談を検討してみてください。M&Aインサイトでは、成功報酬なし・完全無料でM&Aセカンドオピニオンを提供しています。売り手に100%寄り添う立場から、スキームの検討段階から相談に応じています。

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