会計事務所のM&Aとは?動向・メリット・注意点・売却相場を徹底解説

会計事務所のM&Aを検討する税理士と後継者候補が会議室で資料を確認しているシーン

「事務所を続けていくのが難しくなってきた」「後継者が見つからない」——会計事務所・税理士事務所を経営する所長先生から、こうした声が年々増えています。一方で、「長年信頼してくれた顧問先を手放したくない」「職員の雇用だけは守りたい」という思いも強く、M&Aを検討しながらも踏み出せずにいる方も少なくありません。

その気持ちは、ごく自然なことです。会計事務所のM&Aは、一般的な企業のM&Aとはルールや慣行が大きく異なります。個人事務所では株式譲渡という手法が使えない、顧問契約の引き継ぎが最大の課題になる、といった業界固有の論点を理解しないまま進めると、思わぬトラブルに発展するケースがあります。

しかし逆に言えば、会計事務所のM&Aには、廃業や閉鎖では実現できない形で事務所の価値を引き継ぎ、顧問先・職員・地域との関係を守る可能性があります。正しい知識を持って準備すれば、納得のいく着地を見つけることができます。

そこで本記事では、会計事務所・税理士事務所のM&Aについて、業界の現状と動向、M&Aが検討される理由、活用できるスキーム、売り手・買い手それぞれのメリットと注意点、売却価格の相場・評価方法、成功のポイント、PMI(統合後)の固有課題、公的支援制度の活用方法、そして事前準備チェックリストまで、一通り解説します。

M&Aの基本的な仕組みや流れを事前に把握しておくと、会計事務所のM&Aをより深く理解できます。


目次

会計事務所・税理士事務所とは

税理士事務所のモダンなオフィス内観と専門スタッフが書類を整理するシーン

会計事務所・税理士事務所のM&Aを正しく理解するには、まずこの業界の構造と現状を把握しておく必要があります。

会計事務所・税理士事務所の定義と特徴

「会計事務所」と「税理士事務所」は、実務上はほぼ同義で使われます。税理士資格を持つ個人または法人が開設する事務所で、税務申告の代理や帳簿作成の支援、税務相談を主業務とします。一方、「公認会計士事務所」は公認会計士が開設する事務所で、法定監査(大企業の会計監査)が主軸です。

ただし多くの場合、公認会計士は税理士登録もしており、実態としては両資格を持つ専門家が「会計事務所」を名乗るケースが多数を占めます。

法人形態としては、個人事務所と「税理士法人」に大別されます。税理士法人は、税理士が2名以上の社員となって設立できる法人で(現行税理士法による)、個人事務所に比べて組織規模が大きく、従たる事務所の設置も可能です。近年は個人事務所から税理士法人への移行や、複数事務所の合併による税理士法人化が進んでいます。

なお、税理士業務(税務申告代理・税務相談等)は税理士または税理士法人のみが提供できる独占業務です。M&Aを通じて会計事務所の経営権が移っても、税理士資格のない者が税務判断・申告業務を実質的に支配する「名義貸し」状態は税理士法違反となるため、この点は買い手選定の際に必ず確認すべき重要事項です。

会計事務所業界の現状

会計事務所業界は、長年にわたり安定したビジネスモデルを維持してきました。顧問先の中小企業から毎月定額の顧問料を受け取るストック型収益は、景気変動に比較的強い構造です。しかし近年、この安定性が逆の問題を生んでいます。

日本税理士会連合会によると、税理士の登録者数は直近の公表データで約8万人規模に達しています。一方、業界全体として所長・代表の高齢化が進んでおり、帝国データバンク「全国企業『後継者不在率』動向調査(2024年)」では、経営者の平均年齢が60.7歳(帝国データバンク2024年調査)に達しており、士業・コンサルティング業でも後継者不在の問題が深刻化しています。

また、クラウド会計ソフトの普及が業界の構造変化を加速させています。freeeや弥生クラウドなどの台頭により、記帳代行という従来型の業務は縮小傾向にあり、付加価値の高い経営コンサルティングや資金調達支援、相続・事業承継対応へのシフトが求められています。こうした環境変化への適応が難しい小規模事務所を中心に、M&Aによる事業の受け渡しを選択するケースが増えています。


会計事務所のM&A動向

増加するM&A件数のトレンドを示すデータ画面を前に議論する日本人ビジネスパーソン

会計事務所のM&A市場は、ここ数年で急速に拡大しています。その背景と現状を整理します。

なぜ今、会計事務所のM&Aが活発なのか

会計事務所のM&Aが増加している背景には、複合的な要因があります。

第一に、所長の高齢化と後継者不在です。多くの個人事務所では、所長が税理士資格を持ち、スタッフとして無資格の職員を抱える体制が一般的です。所長自身が引退を考える年齢に差し掛かっても、後継者となる有資格者が社内にいないケースは珍しくありません。帝国データバンクが2025年に公表した調査では、後継者不在率が全業種平均で50.1%に達しており(帝国データバンク「全国企業『後継者不在率』動向調査(2025年)」)、士業分野でも同様の問題が広がっています。

第二に、税理士法人や会計コンサルティンググループによる規模拡大戦略があります。顧問先を一定数抱えた事務所を買収することで、顧客基盤と担当スタッフを一気に獲得できるM&Aは、オーガニック成長(自力での顧客獲得)よりも効率的な場合があります。

第三に、AI・クラウド会計の普及です。自動仕訳やデータ連携が進む中、記帳代行を主力としてきた小規模事務所の収益環境が変化しており、大手事務所との差が広がる前に承継先を探す動きが出ています。

M&Aの件数・規模感

会計事務所業界のM&A件数に関する公的統計は限られていますが、複数のM&A仲介会社の公表データでは、士業・専門家事務所の成約件数は2020年代に入って年々増加傾向にあります。案件規模としては、小規模から中堅事務所(一人所長からスタッフ20〜30名規模まで)が幅広く流通しており、規模の中心帯は数千万円規模の小規模案件が多い傾向があるとされています(ただし規模感についての公的統計はなく、仲介実務ベースの情報です)。


会計事務所がM&Aを検討する理由

後継者問題を抱えた年配の税理士が事務所の将来について思案するシーン

売り手(譲渡側)と買い手(譲受側)では、M&Aを検討する動機が異なります。それぞれを整理します。

税理士・会計事務所に特化した事業承継の事情については、税理士・会計事務所の事業承継でも詳しく解説しています。

譲渡側(売却側)がM&Aを検討する理由

譲渡側の典型的な動機は次のとおりです。

所長の高齢化・健康上の理由から、廃業ではなく顧問先と職員を守る形で事務所を引き継ぎたいというニーズが最も多いパターンです。廃業を選択すると、顧問先は突然の担当変更を強いられ、関係が途切れるリスクがあります。M&Aによれば、継続的なサービス提供の枠組みを維持しながら移行できます。

また、後継者不在という問題も大きな動機です。家族に税理士が不在、社内に引き継げる有資格者がいない——こうした状況では、外部への事業承継(M&A)が現実的な選択肢になります。

さらに、規模の問題から単独での事業継続が難しくなるケースもあります。クラウド会計ソフトの普及でコモディティ化が進む中、付加価値業務に転換するための人材・システム投資が難しい小規模事務所が、大手の傘下に入ることで経営基盤を安定させる判断をすることもあります。

譲受側(買収側)がM&Aを検討する理由

譲受側の動機は、主に事業の拡大です。

新規顧客を一から獲得するのは、信頼が重要な士業においては特に時間とコストがかかります。既存の顧問先を抱えた事務所を買収することで、一定の収益基盤を即座に確保できます。

地域展開も重要な理由です。都市部の税理士法人が地方の事務所を買収することで、その地域での顧問先獲得や拠点展開を効率的に実現できます。

有資格者の獲得も見逃せない動機です。税理士試験の難易度は高く、有資格者の採用競争は激しい状況が続いています。事務所ごと買収することで、実務経験を持つ税理士・職員をまとめて確保できます。


会計事務所のM&Aスキーム(手法)

M&Aの手法と手続きフローを図示しながら専門家が経営者に説明するシーン

会計事務所のM&Aでは、一般企業と異なり使えるスキームに制約があります。理解しておくべきポイントを以下の比較表で整理します。

一般的な株式会社のM&Aでは主に株式譲渡の仕組みと手続きが活用されますが、会計事務所では制約があります。

スキーム比較表

スキーム概要会計事務所での活用主な特徴
株式譲渡株式会社等の株式を売買する税務申告代理・税務相談等を行う税理士事務所・税理士法人では対象外。税理士業務を行わない株式会社(コンサル会社等)の場合のみ可能法人格がそのまま引き継がれる。税理士法・公認会計士法等の規制対象業務が含まれる場合は個別確認が必要
事業譲渡事業資産・顧客契約等を個別に譲渡個人事務所・税理士法人ともに可能(最も多く使われる手法)顧問契約の移転には原則として顧客ごとの個別同意が必要。承継する資産・負債を選択できる柔軟性がある
合併複数の税理士法人が一つになる税理士法人同士のみ可能組織・文化の統合が必要。大規模向け
社員の加入・脱退(持分の異動)税理士法人の社員構成を変更することで実質的な経営移行を図る税理士法人でのみ利用税理士法人の意思決定は社員合議が原則。社員構成の変更により実質的な経営権が移るケースがある

会計事務所のM&Aで最も多く使われるのは「事業譲渡」です。個人事務所の場合、法人でないため株式は存在せず、株式譲渡は使えません。なお、税理士法人についても「株式」という概念は存在せず、株式会社のような株式譲渡はできません。税理士法人の実態に近い手法は、社員の加入・脱退による持分の異動や、税理士法人同士の合併です。

事業譲渡では、顧問先との契約・従業員との雇用契約・使用中のシステムなどを個別に移転させるため、手続きは複雑になりますが、承継したい資産・負債を選択できる柔軟性があります。スキーム選択に伴う税務・法務上の取り扱いは、税理士・弁護士などの専門家に必ず確認してください。


売り手・買い手それぞれのメリット

M&A合意後に前向きな表情で書類を確認する売り手と買い手の日本人経営者2名

M&Aには多くのメリットがある一方で、それぞれの立場から見た利点が異なります。

売り手(譲渡側)のメリット

事務所の継続性の確保が最大のメリットです。廃業や閉鎖ではなく、顧問先へのサービス提供を途切れさせない形で引き継ぐことができます。長年信頼関係を築いてきた顧問先の「その後」に責任を持てることは、所長にとっての最大の安心材料となります。

職員の雇用維持も重要です。M&Aによれば、スタッフを買い手の組織に引き継ぐことが前提となるケースが多く、廃業で全員解雇という事態を避けられます。

売却対価の獲得という経済的なメリットもあります。廃業では何も残らないケースでも、M&Aによって顧客基盤や業務ノウハウに見合った対価を受け取れる可能性があります。

引退後の身軽さも見逃せません。事務所の運営から解放されることで、引退後の生活設計を立てやすくなります。

買い手(譲受側)のメリット

顧問先基盤の即時獲得がもっとも大きなメリットです。M&Aにより、既存の顧問契約を一括で引き継げます。信頼関係をゼロから構築する必要がなく、安定した収益基盤を早期に確立できます。

有資格者・スタッフの確保も重要です。採用市場で競争が激しい税理士・職員を、実務経験ごとまとめて獲得できます。

地域シェアの拡大という戦略的メリットもあります。特定地域で長年の実績を持つ事務所を買収することで、その地域での認知・信頼を引き継げます。

サービス範囲の拡大も期待できます。相続専門、医療法人専門など、ニッチな専門性を持つ事務所を買収することで、自社のサービスポートフォリオを充実させられます。


会計事務所のM&Aにおける注意点

M&A契約書を慎重に精査する日本人経営者と専門家アドバイザー

会計事務所のM&Aには、業界固有のリスクと注意点があります。事前に理解しておくことが、トラブルの回避につながります。

顧問契約の解消リスク

会計事務所のM&Aで最も注意が必要な点が、顧問先の離脱リスクです。顧問契約は「この先生(事務所)だから任せている」という個人的な信頼に基づくケースが多く、M&A後に担当者・事務所名が変わることで契約を解消する顧問先が出る可能性があります。

事業譲渡の場合は、民法上、契約上の地位の移転には原則として相手方(顧問先)の個別同意が必要であり、この過程で離脱が発生することがあります。一般的に、顧問先への説明・移行期間の設定・旧担当者との関係維持の仕組み作りが成功の鍵です。

職員・有資格者の離職リスク

M&Aに伴う組織変化に不安を感じた税理士や職員が離職するリスクがあります。特に、所長との人間関係が強い小規模事務所ほど、所長引退を機に職員が転職するケースがあります。雇用条件・待遇・働き方の変化について、早期かつ丁寧な説明が必要です。

スキームの制約:個人事務所は株式譲渡不可、税理士法人にも株式は存在しない

個人事務所では株式が存在しないため株式譲渡は使えません。また税理士法人は株式会社ではなく、会社法上の合名会社に関する規定が一部準用される税理士法上の法人であるため、「株式」という概念がありません。事業譲渡では手続きが煩雑になるため、税務・法務の専門家への相談が不可欠です。なお、個人事務所を承継する際の対価受取と税務処理の取り扱いについては、専門家への確認を必ず行ってください。

名義貸しリスクへの注意

税理士業務は資格者のみが提供できる独占業務です。M&A後の経営体制において、税理士資格のない者が税務判断・申告業務を実質的に支配する場合には税理士法上の名義貸し問題が生じます。特に買い手が非税理士主体(税理士・税理士法人が主体でない企業・個人等)の場合は、この点を専門家に確認の上で契約を締結することが重要です。

費用感:M&A手数料の目安

M&A仲介会社やFA(ファイナンシャル・アドバイザー)に依頼する場合、成功報酬として売買金額に応じたレーマン方式(実務上広く用いられており、中小M&Aガイドライン第3版でも言及がある段階的料率方式)が用いられるケースが多いです。ただし手数料率・最低報酬額は業者によって異なるため、契約前に必ず確認してください(最終判断は専門家に相談してください)。

評価額に影響する要因

会計事務所の評価額は、顧問先の継続率・有資格者の在籍継続意向・財務内容など、複数の要素によって変動します。買い手側のデューデリジェンス(DD:買い手が売り手の財務・法務・事業を詳細に調査するプロセス)では、これらの点が厳密に確認されます。

早期の準備開始が不可欠

M&Aは「決めてからすぐ動く」ことができる取引ではありません。適切な承継先の探索、デューデリジェンス、顧問先や職員への説明、各種契約手続きには相当の時間がかかります。引退・承継を考え始めた時点で動き出すことが、選択肢の幅を広げる最重要ポイントです。一般的なM&Aは着手から成約まで半年〜1年が一つの目安ですが、士業のM&Aはマッチング難易度や顧問先の同意プロセスにより1年以上かかるケースも少なくありません。引退希望時期から逆算して、余裕を持った計画を立てることが重要です。


会計事務所のM&Aにおける売却価格の相場と評価方法

財務資料とノートPCを用いて会計事務所の企業価値を算定する日本人専門家

会計事務所の企業価値(売却価格)をどのように算定するかは、M&Aを検討する上で誰もが気になる点です。ただし、最終的な売却価格は売り手・買い手の交渉によって決まるものであり、ここで示す数値は目安として参照してください。

会計事務所の価値算定に活用される評価手法の詳細は、企業価値評価の手法と考え方で詳しく解説しています。

企業価値評価の主な手法

評価手法概要会計事務所での使われ方
年買法(年倍法)年間の顧問報酬合計(または営業利益)に一定の倍率をかけて算出最もよく使われる簡易計算法
DCF法(ディスカウント・キャッシュフロー法)将来のキャッシュフローを現在価値に割り引いて算出将来収益の見通しが重要なケースで活用
時価純資産法貸借対照表上の資産と負債の差(純資産)を時価で評価財務内容が重要な場合の補完的手法として使用
類似事例比較法過去のM&A成約事例を参照して価格帯を設定市場相場の確認に活用

これらの手法は単独で使われることは少なく、年買法で算定した値を時価純資産法や類似事例と照合しながら価格帯を設定するケースが一般的です。中小M&Aガイドライン(第3版、中小企業庁、2024年8月改訂・2025年1月適用開始)でも、小規模事業者の簡易的な評価には年買法が紹介されています。

売却価格の目安

会計事務所の売却価格は、「年間の顧問報酬総額の約1倍前後」または「年間営業利益の2〜3年分程度」を目安とするケースが多いとされています(業界慣行による目安値であり、公的機関による統一基準はありません)。

ただし、この目安はあくまでスタート地点です。実際の成約価格は以下の要因によって大きく上下します。

顧問先の安定性(長期継続比率・顧問先の業種・売上規模)、有資格者の在籍状況と将来の就業継続可否、事務所の所在地と競合環境、使用しているシステム・業務フロー、財務状況(収益性・借入の有無)など、複数の要素が複合的に評価されます。また、顧問先維持率に応じた後払いを組み合わせるアーンアウト条項が設けられるケースもあります。最終的な価格は必ず専門家の関与のもとで算定・交渉することを推奨します。


会計事務所のM&Aを成功させるポイント

M&A成功のための戦略を複数の専門家と共に立案する日本人経営者

M&Aの件数が増える一方で、すべての案件がスムーズに進むわけではありません。成功確率を高めるための実務的なポイントを整理します。

M&Aの進め方や仲介会社の提案が妥当かどうかを、中立の専門家に確認することも成功の重要なポイントです。

早期の準備と情報整理

譲渡を検討し始めたら、まず自事務所の状態を正確に把握することが先決です。顧問先の一覧(業種・規模・顧問報酬・契約年数)、職員の状況(資格・経験・年齢・意向)、財務状況(売上・利益・借入)を整理しておくと、買い手候補との交渉がスムーズになります。

デューデリジェンス(DD)では、買い手が売り手の情報を詳細に確認します。帳簿の整備や契約書の管理状況がDDの結果に影響するため、事前の整備が重要です。

顧問先・職員への丁寧な説明と移行設計

M&Aの最大の不安要素は「顧問先と職員が離れないか」という点です。一般的に、顧問先への説明は「売り手と買い手が一緒に挨拶する」形が基本であり、引き継ぎ期間中は旧担当者が関与し続けることで信頼の断絶を防ぎます。

職員については、早期に雇用条件・処遇の方針を明示することが離職防止につながります。

適切な承継先の選定

会計事務所のM&Aでは「価格だけで相手を選ばない」ことが重要です。顧問先との相性、事務所文化・運営方針の近さ、承継後の地域へのコミットメント、職員の処遇方針——これらの要素が、M&A後の顧問先・職員の定着率に直結します。複数の候補と面談し、自事務所の価値観に合う承継先を探すことが、長期的な成功につながります。

仲介・FAの選び方と相談先の確保

M&Aの進め方については、専門的なアドバイスが不可欠です。相談先として、M&A仲介業者、FA(ファイナンシャル・アドバイザー)、金融機関のM&A部門、事業承継・引継ぎ支援センター(中小企業庁が全国に設置する公的機関)などがあります。

仲介とFAは立場が異なります。仲介会社は売り手・買い手双方から手数料を受け取る形で合意形成を支援するのに対し、FAは特定の一方のみの代理として動きます。手数料体系や立場の違いを理解した上で依頼先を選ぶことが大切です。

また、仲介業者が提示した条件の妥当性や契約内容を独立した立場で確認したい場合は、M&Aセカンドオピニオンという選択肢も有効です。

なお、会計事務所業界のM&Aに詳しい専門家を選ぶことが重要です。一般的な企業M&Aとは規制・慣行が異なるため、業界経験のあるアドバイザーを選ぶことで、交渉や手続きをスムーズに進めることができます。


M&A後の統合(PMI)における会計事務所固有の課題

M&A後の統合で旧所長が新スタッフへ顧問先の引き継ぎを丁寧に行うシーン

M&Aが成約してからが、実は最も重要な局面です。PMI(Post Merger Integration=M&A後の統合プロセス)は一般企業でも難しいプロセスですが、会計事務所には業界固有の統合課題があります。ここは競合記事が十分にカバーしていない領域です。

M&A成約後の統合プロセスであるPMI(統合プロセス)とはの全体像も理解しておくことが、スムーズな移行につながります。

顧問先への移行対応

事業譲渡の場合、顧問先ごとへの個別対応が必要です。契約内容によっては契約上の地位移転に必要な同意取得のみで対応できるケースもありますが、いずれにせよ顧問先1件ずつへの丁寧なフォローが欠かせません。この時期は顧問先の離脱リスクが最も高まるため、旧所長と新体制のスタッフが連携して対応を行うことが重要です。移行期間は案件の規模・顧問先の特性によって数ヶ月〜1年程度と幅があるため、スケジュールは余裕を持って設計することが大切です。旧所長が引退するまでに信頼の橋渡しを完了させることが理想です。

のれんの保全とアーンアウト条項

会計事務所M&Aでは、売却価格の多くが「のれん(顧問先との関係という無形資産)」に依存します。M&A後に顧問先が離脱すると、買い手にとってのれんが毀損するリスクがあります。このため、顧問先維持率に応じて価格の一部を後払いする「アーンアウト条項」が採用されるケースがあります。売り手にとってはM&A後の行動次第で受取対価が変動する点を理解した上で条件交渉を進めることが重要です(最終判断は専門家に相談してください)。

会計システム・業務フローの統合

事務所ごとに使用する会計ソフト(弥生会計、freee、マネーフォワードクラウドなど)や申告書作成ソフトが異なる場合、データ移行と業務フローの統一が必要です。この作業は想像以上に時間と手間がかかるため、DD段階でシステム環境を確認し、統合計画を事前に設計しておくことが望ましいです。

事務所文化・屋号の扱い

長年その地域で認知されてきた事務所名・ブランドをどう扱うかは、顧問先の安心感に直結します。買収後に即座に屋号を変更するか、しばらく旧名称を並記するか、地域の状況や顧問先の反応を見ながら判断することが重要です。急激な変更は混乱を招くリスクがあります。


公的支援制度の活用

事業承継支援センターで公的支援制度について相談する中小企業経営者と相談員

会計事務所のM&Aや事業承継を検討する際、国・自治体の支援制度を活用できる場合があります。競合記事が詳しく触れていない領域ですが、経済的メリットが大きいため必ず確認することをお勧めします。

事業承継・引継ぎ支援センター

中小企業庁が全国各都道府県に設置する公的機関で、事業承継全般(親族内承継・従業員承継・M&Aによる第三者承継)について無料で相談を受け付けています。M&A仲介業者の紹介なども行っています。費用が発生しないため、まず情報収集の場として活用するのに適しています(中小企業庁「事業承継・引継ぎ支援センター」)。

事業承継・M&A補助金

中小企業庁は、中小企業生産性革命推進事業の一環として「事業承継・M&A補助金」(かつての「事業承継・引継ぎ補助金」から名称変更)を設けており、M&Aに要した費用(仲介・FA手数料・デューデリジェンス費用等)が補助の対象となる場合があります(中小企業庁「事業承継・M&A補助金」)。対象経費は公募要領で個別に定められるため、最新の公募要領は中小企業庁の公式サイトで必ず確認してください。

事業承継税制

法人版・個人版の事業承継税制では、株式・事業用資産の承継に伴う贈与税・相続税の納税猶予・免除が受けられる場合があります。

個人事務所の場合、個人版事業承継税制の対象となる「特定事業用資産」には事業用宅地等・建物・減価償却資産等が含まれており、事業用資産がある場合には活用できる可能性があります。一方、税理士法人の持分異動については、法人版事業承継税制は主に非上場会社の株式等を対象とする制度であり、持分異動にそのまま適用できるかは個別確認が必要です。いずれも適用要件が複雑なため、必ず専門家に事前相談してください(国税庁「事業承継税制」)。


会計事務所のM&A前に確認したいチェックリスト

M&A準備のため書類一式を整理・確認する日本人税理士事務所の所長

M&Aの検討を開始する前に、以下の項目を確認しておくことで準備がスムーズになります。

売り手(譲渡側)の事前確認チェックリスト

  • 顧問先一覧(業種・規模・月次顧問料・契約継続年数)を最新化してある
  • 直近3期分の決算書(損益計算書・貸借対照表・キャッシュフロー計算書)を整備してある
  • 有資格税理士・主要スタッフの在籍状況と引き継ぎ意向を把握している
  • 使用している会計ソフト・申告書作成ソフト・業務フローを整理してある
  • 顧問先との契約書(口頭契約含む)の状況を確認してある
  • 個人保証・借入の有無と内容を把握してある
  • 引退後の生活設計(希望対価・希望時期・引き継ぎ期間)について自分の意向を整理してある
  • M&Aを相談できる専門家(税理士・弁護士・仲介機関)を確保している
  • 家族・共同経営者がいる場合、方針について合意が取れている

よくある質問(FAQ)

個人の税理士事務所でもM&Aはできますか?

はい、できます。ただし、個人事務所は法人でないため「株式譲渡」というスキームは使えません。また、税理士法人についても株式会社のような「株式」は存在しません。個人事務所の場合、主に「事業譲渡」という形で、顧問先との契約・従業員の雇用・使用資産などを個別に承継する方法が一般的です。手続きが複雑になるため、税理士・司法書士などの専門家の関与が推奨されます。

会計事務所の売却価格はどのように決まりますか?

売却価格は、年間顧問料の総額や年間営業利益を基準に算定されることが多く、業界では「年間顧問報酬の約1倍前後」「年間営業利益の2〜3年分程度」が目安として語られています。ただし、顧問先の安定性、有資格者の在籍状況、所在地、財務内容などによって最終価格は大きく変わります。また、顧問先維持率に応じたアーンアウト条項が設けられるケースもあります。売却価格は売り手・買い手の交渉によって決まるため、専門家の関与のもと算定することが重要です。

M&Aと廃業ではどちらが顧問先・職員にとってメリットがありますか?

顧問先にとっては、廃業よりもM&Aによる承継の方が混乱が少ない傾向があります。M&Aでは担当者の引き継ぎや移行期間が設けられますが、廃業では突然のサービス終了となるため、顧問先が次の税理士を自力で探すことになります。職員についても、M&Aでは新組織への再雇用が前提となるケースが多く、雇用が守られる可能性が高いといえます。

顧問先に秘密を守りながらM&Aを進めることはできますか?

初期段階では、NDA(秘密保持契約)のもとで少数の候補先に限って情報を開示します。LOI(意向表明書)締結前の段階から限定的な情報の開示は行われることがあり、LOI締結後に開示範囲が拡大するのが一般的なフローです。ただし秘密保持が長引くほど、発覚した際の信頼ダメージが大きくなるリスクもあるため、適切なタイミングでの情報開示が重要です。

M&Aの手続き全体にかかる期間の目安を教えてください。

着手から成約まで半年〜1年が一つの目安ですが、士業のM&Aはマッチング難易度や顧問先の同意プロセスの関係で1年以上かかるケースも少なくありません。承継先の探索(数ヶ月)、条件交渉・LOI締結(1〜2ヶ月)、デューデリジェンス(1〜2ヶ月)、最終契約・クロージング(1ヶ月前後)、引き継ぎ期間(数ヶ月〜1年)という流れが一般的ですが、案件の複雑さや相手方との条件整合によって前後します。引退時期や移行期間の希望がある場合は、逆算して早めに動き始めることが重要です。

会計事務所のM&Aで利用できる公的支援はありますか?

はい、いくつかの公的支援が活用できる可能性があります。中小企業庁が設置する「事業承継・引継ぎ支援センター」は無料で相談できる公的機関です。また「事業承継・M&A補助金」(旧称:事業承継・引継ぎ補助金)では、M&Aにかかった費用の一部が補助される場合があります。さらに事業承継税制(法人版・個人版)も要件を満たせば活用できる可能性があります。いずれも最新の適用条件や公募要領は、専門家または公的機関の公式サイトで確認してください。

M&Aの相談を無料でできる窓口はありますか?

はい。中小企業庁が設置する「事業承継・引継ぎ支援センター」は、無料でM&A・事業承継の相談ができる公的機関です(全国各都道府県に設置)。また、M&A仲介会社の提示する条件の妥当性や契約内容を中立的な第三者視点で確認したい場合は、M&Aセカンドオピニオンも有効な選択肢です。M&Aインサイトでは、完全無料・成功報酬なしでセカンドオピニオンのご相談を承っています。詳しくは無料相談ページをご覧ください。


まとめ

会計事務所・税理士事務所のM&Aは、顧問先の継続的なサービス提供を守り、職員の雇用を維持し、所長が培ってきた事務所の価値を次代に引き継ぐ手段として、年々注目が高まっています。

ただし、個人事務所では株式譲渡が使えない、税理士法人にも株式という概念は存在しない、顧問契約の引き継ぎに個別の対応が必要になるなど、業界固有の難しさがあることも事実です。成功の鍵は「早期の準備開始」と「適切な専門家の関与」、そして「顧問先・職員への丁寧な説明と移行設計」に尽きます。

M&Aを考え始めたものの、どこに相談すればよいかわからない、仲介会社の提示した条件が妥当かどうかを確かめたい——そうした疑問がある場合は、中立的な立場からの第三者意見を活用することも一つの方法です。M&Aインサイトでは、売り手経営者に寄り添ったM&Aセカンドオピニオンを完全無料・成功報酬なしでご提供しています。まずはお気軽に無料相談からご連絡ください。


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