薬局M&Aの基礎知識を徹底解説|調剤薬局オーナーが知っておくべき動向・手法・価格相場

薬局M&Aの基礎知識と業界動向を解説する記事のイメージ

「このまま薬局を続けていけるだろうか」——薬価改定や調剤報酬の引き下げが続くなかで、こうした不安を抱える調剤薬局の経営者は少なくありません。後継者が見つからない、薬剤師の採用が年々難しくなっている、競合のドラッグストアチェーンが近くに出店してきた。そうした複合的な課題が重なる中で、M&A(合併・買収)による事業承継を選択する薬局オーナーが急速に増えています。

しかし、「M&Aを検討したい」と思っても、どこから手をつければいいのかわからない、専門用語が多くて話についていけない、という方も多いのではないでしょうか。

そこで本記事では、調剤薬局のM&Aについて基礎から丁寧に解説します。業界の現状から主な手法・価格相場・進め方のポイントまで、売り手側の経営者が本当に知っておくべき情報を体系的にまとめました。


この記事の監修者

M&Aセカンドオピニオン協会

代表理事 森沢 雄太

外資系銀行でのウェルスマネジメント業務を経て、日本M&Aセンターに入社。譲渡側アドバイザーとして100件超の成約に関与し、野村證券出向や福岡支店立ち上げも経験。2018年に日本投資ファンド立ち上げに参画し、投資先の再生にも成功。2022年、合同会社M&Aプレップを創業し、仲介会社・ファンドへの支援やオーナー向け売却準備、買収支援など幅広く展開。2024年には売却支援事業拡大のため株式会社企業経営支援機構を設立し代表に就任。加えて、M&Aにおける利益相反や情報格差の是正を目的とし、代表理事として一般社団法人M&Aセカンドオピニオン協会を設立。

目次

調剤薬局業界の現状とM&Aが増加する背景

調剤薬局業界の市場動向とM&A増加の背景を示すビジネスイメージ

調剤薬局業界は現在、大きな構造変化の局面を迎えています。業界全体でM&Aの件数が増加している背景には、複数の要因が絡み合っています。

市場規模と店舗数の動向

直近の統計では、日本の調剤薬局の店舗数は全国でおよそ6万店超とされており、コンビニエンスストアよりも多い水準で推移しています(厚生労働省等の統計より)。しかし、近年は店舗数の伸びが鈍化し、地域によっては過当競争が顕在化しています。調剤医療費は高齢化の進行に伴い増加傾向にあるものの、薬価改定や調剤報酬改定によって1店舗あたりの収益性は年々低下しています。

こうした状況を受け、個人経営や中小規模の薬局を中心に、M&Aによる事業の売却・統合を検討するオーナーが増えています。中小企業庁の調査でも、中小企業全体における後継者不在率は依然として高く、薬局業界も例外ではありません。

調剤薬局業界でM&Aが加速する理由

薬局業界でM&Aが急増している主な背景として、以下の要因が挙げられます。

薬価・調剤報酬改定への対応

薬価は原則2年に1度の「本改定」が実施されていますが、2021年度以降は本改定のない中間年にも「中間年改定」が行われており、実質的に毎年改定が続いています。全体的にはマイナス改定が中心となっており、薬局経営の収益性に影響を与えています。加えて調剤報酬も、かかりつけ機能の評価や対人業務へのシフトが進むなかで、特定の加算等の算定要件が見直される傾向にあります。規模の小さい薬局ほど収益への影響が大きく、経営の持続が難しくなっています。

後継者不在問題

薬局経営者の高齢化が進む一方、親族内に後継者がいないケースが増えています。なお、薬局の開設者(経営者・オーナー)が薬剤師である必要は法律上ありませんが、薬局の管理者として薬剤師(管理薬剤師)を必ず設置しなければなりません。そのため、親族内に適切な後継者や管理薬剤師の確保先がなければ、事業の継続が難しくなるケースがあります。M&Aは、後継者問題を解決する有力な手段として注目されています。

薬剤師不足と採用難化

薬剤師の求人倍率は高水準が続いており、個人薬局が大手チェーンと競って採用するのは現実的に難しくなっています。薬剤師が確保できなければ、処方箋の受け入れ枠が制限され、収益が頭打ちになります。大手グループに属することで採用力を補完できるM&Aは、この問題への現実的な対応策でもあります。

かかりつけ薬局化への対応

政府は地域における「かかりつけ薬局」機能の強化を推進しており、在宅医療への対応や24時間相談体制の整備が求められています。こうした体制を個人薬局が単独で整えるのは費用・人員の両面で困難です。組織の一員となることで、体制整備のハードルが下がります。

薬局DXへの対応

電子処方箋の普及や、オンライン服薬指導の制度化など、薬局業界でもデジタル化の波が押し寄せています。システム投資や業務変革への対応は、個人薬局にとって大きな負担です。M&Aを通じてより大きな組織の一員になることで、こうしたDX対応を組織的に進められます。


薬局M&Aの主な手法と特徴

薬局M&Aの株式譲渡と事業譲渡の手法を比較検討するビジネスイメージ

薬局のM&Aには主に「株式譲渡」と「事業譲渡」の2つの手法があり、それぞれ特徴が大きく異なります。どちらを選ぶかによって、税務上の扱いや手続きの複雑さが変わるため、自社の状況に合った手法を選ぶことが重要です。

項目株式譲渡事業譲渡
譲渡対象会社(株式)そのもの特定の事業・資産
引き継ぐもの資産・負債・従業員・許認可選択した資産・契約のみ
許認可の再取得原則不要必要(保険薬局指定を含む)
手続きの複雑さ比較的シンプル個別契約の移転が必要
売り手の税務原則として申告分離課税(個人の場合、概ね20.315%が目安。ただし個別状況により異なるため税理士への確認が必要)法人税等がかかる場合あり
買い手の簿外リスク負担引き継ぐ引き継がない

株式譲渡

法人薬局を経営している場合、最も一般的な手法が株式譲渡です。売り手は保有する株式を買い手に譲渡し、会社そのものを引き渡します。既存の許認可(保険薬局の指定など)や従業員との雇用契約がそのまま引き継がれるため、手続きの負担が比較的少ない点が特徴です。

売り手個人が株式を譲渡して得た利益は「株式の譲渡所得」として課税され、原則として申告分離課税の対象となります。目安となる税率は概ね20.315%ですが、取得費・譲渡費用・特例適用の有無などにより実際の税額は変わる場合があります。具体的な税務については、必ず事前に税理士にご確認ください。

薬局M&Aの主な手法と特徴

薬局のM&Aには主に「株式譲渡」と「事業譲渡」の2つの手法があり、それぞれ特徴が大きく異なります。どちらを選ぶかによって、税務上の扱いや手続きの複雑さが変わるため、自社の状況に合った手法を選ぶことが重要です。

項目株式譲渡事業譲渡
譲渡対象会社(株式)そのもの特定の事業・資産
引き継ぐもの資産・負債・従業員・許認可選択した資産・契約のみ
許認可の再取得原則不要必要(保険薬局指定を含む)
手続きの複雑さ比較的シンプル個別契約の移転が必要
売り手の税務原則として申告分離課税(個人の場合、概ね20.315%が目安。ただし個別状況により異なるため税理士への確認が必要)法人税等がかかる場合あり
買い手の簿外リスク負担引き継ぐ引き継がない

株式譲渡

法人薬局を経営している場合、最も一般的な手法が株式譲渡です。売り手は保有する株式を買い手に譲渡し、会社そのものを引き渡します。既存の許認可(保険薬局の指定など)や従業員との雇用契約がそのまま引き継がれるため、手続きの負担が比較的少ない点が特徴です。

売り手個人が株式を譲渡して得た利益は「株式の譲渡所得」として課税され、原則として申告分離課税の対象となります。目安となる税率は概ね20.315%ですが、取得費・譲渡費用・特例適用の有無などにより実際の税額は変わる場合があります。具体的な税務については、必ず事前に税理士にご確認ください。

事業譲渡

事業譲渡は、会社全体ではなく特定の店舗や事業だけを売却する手法です。複数店舗を展開している薬局が一部の店舗だけをM&Aで売却し、残りを継続経営するケースなどで活用されます。ただし、保険薬局の指定は事業譲渡によっては承継されないため、買い手が新たに開設許可の申請・取得手続きを行う必要があります。具体的なスケジュールや手続きの詳細は所轄の地方厚生局等への事前確認が不可欠です。


売り手(譲渡側)のメリット・デメリット

薬局売却を検討する経営者がM&Aのメリットとデメリットを確認しているイメージ

M&Aで薬局を売却することを検討している経営者にとって、メリットとデメリットの両面を正確に把握しておくことが大切です。

売り手のメリット

後継者問題の解決

親族や社内に後継者がいなくても、薬局の事業を第三者に引き継いでもらうことができます。閉局によって患者様に迷惑をかけることなく、スタッフの雇用も守ることが可能です。

まとまった現金の確保

長年かけて築いた薬局の事業価値を、売却によって現金化できます。老後の生活資金や次のビジネスへの投資資金として活用することができます。

経営リスクからの解放

薬価改定リスクや調剤報酬の引き下げリスク、薬剤師確保の問題など、今後も続くと予測される経営上のリスクから解放されます。

従業員・患者様の継続的な保護

薬局を廃業した場合と比べ、M&Aではスタッフの雇用が継続し、患者様も引き続き同じ薬局でサービスを受け続けられることが多く、地域医療への貢献が継続できます。

売り手のデメリット・注意点

M&A後の経営方針の変化

買い手の方針によっては、これまでの薬局のブランドや診療スタイル、スタッフの処遇が変更されることがあります。条件交渉の段階で「従業員の雇用継続」「店舗名の維持」などを確認しておくことが重要です。

表明保証リスク

株式譲渡の場合、契約時に「知らなかった簿外債務や法令違反がない」という表明保証(保証する申告)を行います。後から問題が発覚した場合、売り手が補償を求められる可能性があるため、デューデリジェンス(詳細調査)の前に自社の状況を整理しておくことが大切です。

情報漏洩リスク

M&Aの検討は極めて機密性が高い情報です。スタッフや取引先に早期に知られると、退職や取引停止といった問題につながることがあります。情報管理には細心の注意が必要です。


薬局M&Aの価格相場と評価方法

薬局M&Aの価格相場と企業価値評価の方法を検討するビジネスイメージ

薬局の売却価格(M&A価格)は、業種の特性上、一般的な企業と異なる評価要素が加わります。

価格算定の基本的な考え方

薬局M&Aでは、主に以下の2つの評価手法が組み合わせて使われます。

年買法(年倍法)

「営業利益(またはEBITDA)× 数年分 + 純資産」という考え方で価格を算定する方法です。薬局M&Aの実務では、営業利益ベースで概ね2〜5年分に純資産を加えた金額が一つの目安として用いられることがありますが、あくまでも交渉の出発点となる簡便な値付けの考え方であり、公的に統一された基準があるわけではありません。実際の価格は収益性・立地・処方箋構成・買い手とのシナジー等によって大きく変動します。

純資産法(簿価純資産法・時価純資産法)

会社の純資産(資産 − 負債)を基準に価格を算定する方法です。収益性よりも保有資産に重点を置いた評価方法で、小規模薬局で使われることがあります。

価格に影響する主な要素

薬局M&Aにおいて売却価格に影響する要素は多岐にわたります。

評価要素高く評価される条件
処方箋枚数処方箋枚数は重要な評価要素の一つ。地域性・応需先医療機関・在宅対応・収益性・買い手とのシナジーなどを踏まえて総合評価される
立地・門前医療機関安定した医療機関(内科・整形外科など)の門前
薬剤師在籍数管理薬剤師を含む複数名が在籍
在庫状況適正在庫・廃棄ロスが少ない
収益安定性数年間の業績が安定している
後継者問題の有無早期に相談している(売り急ぎ感がない)
場所・エリア買い手の既存ネットワークとの相乗効果

処方箋枚数と処方元の医療機関との関係は、薬局の収益安定性に直結します。特定の医療機関に依存しすぎている場合(いわゆる「門前薬局」の中でも、1か所のみに依存する形態)は、その医療機関が閉院・移転した際の収益リスクとして評価に影響します。

なお、M&A価格は最終的に買い手との交渉によって決まるものであり、上記はあくまでも目安です。適正価格を把握するためには、薬局業界に精通した専門家による査定を受けることを強くお勧めします。


薬局M&Aの基本的な流れ

薬局M&Aの相談から成約までのプロセスと流れを示すビジネスイメージ

薬局のM&Aは、相談から成約まで一般的に6か月〜1年程度かかります。全体の流れを把握しておくことで、いたずらに焦ることなく冷静な判断ができるようになります。

M&Aプロセスの全体像

①情報収集・専門家への相談(1〜2か月)

まずは、M&Aについての基礎知識を身につけ、信頼できる専門家に相談します。仲介会社やFA(財務アドバイザー)への相談は無料のケースが多いですが、契約内容や手数料体系はよく確認しましょう。

②企業価値評価・売り出し価格の設定(1〜2か月)

専門家が薬局の財務情報・店舗情報をもとに企業価値を評価し、売り出し価格の目安を提示します。この段階で「秘密保持契約(NDA)」を締結し、情報管理を徹底します。

③買い手候補の選定・ノンネームでの打診(1〜3か月)

買い手候補に対し、薬局名を伏せた概要情報(ノンネームシート)を提示します。関心を持った候補には秘密保持契約を締結したうえで詳細情報を開示します。

④トップ面談・条件交渉(1〜2か月)

売り手経営者と買い手のトップが直接面談し、経営方針や従業員の処遇などについて話し合います。条件面での合意が得られたら、LOI(基本合意書)を締結します。LOIとは、M&Aの基本的な条件(価格・スキーム・独占交渉権など)を文書化したものです。

⑤デューデリジェンス(DD)(1〜2か月)

買い手が売り手の財務・法務・労務などを詳細に調査します(これをデューデリジェンス、略してDDと呼びます)。薬局の場合、保険薬局の指定状況、薬剤師の資格・雇用契約、処方元医療機関との関係なども調査対象となります。売り手はこの段階で必要な資料を準備・開示します。

⑥最終契約(DA)・クロージング

DDで問題がなければ、最終譲渡契約書(DA)を締結し、対価の支払いと株式・事業の引き渡しが行われます。これをクロージングと呼びます。


薬局M&Aで売り手が押さえておくべき重要ポイント

薬局M&Aで売り手経営者が専門家にセカンドオピニオンを相談しているイメージ

実際にM&Aを進めるにあたって、売り手側の経営者が知っておくべき大切なポイントをまとめます。

有資格者(薬剤師)の在籍状況を整える

買い手が薬局を評価するうえで、「管理薬剤師を含む薬剤師が何名在籍しているか」は非常に重要なポイントです。薬剤師の確保が難しい業界だからこそ、すでに優秀な薬剤師が在籍している薬局は買い手にとって大きな魅力となります。M&Aを検討する前から、採用・定着に取り組んでおくことが価格交渉にも有利に働きます。

早期に専門家へ相談する

「もう少し業績が回復してから」「もう少し状況が見えてから」と考えているうちに、最適な売却タイミングを逃してしまうケースは少なくありません。処方枚数が減少傾向にある、主要な薬剤師が退職した後では、買い手の評価が下がることがあります。

一般的に、業績が安定している時期・先を見越して早めに相談することが、より良い条件でのM&A成功につながります。

M&A仲介会社の手数料体系を確認する

M&A仲介会社やFAには、着手金・中間金・成功報酬などの手数料が発生します。手数料の計算方式はレーマン方式(成約価格に対して一定割合を掛ける方式)が一般的ですが、会社によって料率や計算の基準が異なります。相談前に費用体系を確認しておくことが重要です。

なお、仲介会社は売り手と買い手の双方から手数料を受け取ることが一般的であり、厳密な意味での「売り手側の代理人」ではない点も認識しておきましょう。

セカンドオピニオンの活用

M&Aの意思決定は、多くの経営者にとって人生最大級の判断です。仲介会社やFAから提示された条件や交渉内容が自分にとって適切かどうか、第三者の専門家に確認することで、見落としを防ぐことができます。

M&Aセカンドオピニオンは、特定の会社と利益関係を持たない立場で、売り手経営者の疑問や不安に中立的な視点からアドバイスを提供するサービスです。M&Aインサイトが運営する「M&Aセカンドオピニオン」では、完全無料・成功報酬なしで相談を受け付けています。すでに仲介会社との交渉が進んでいる段階でも活用いただけます。


まとめ:薬局M&Aは「情報と専門家」が成否を分ける

薬局M&Aは、後継者問題の解決や経営リスクへの対応として、多くの薬局経営者にとって現実的な選択肢となっています。一方で、価格交渉・手法の選択・情報管理など、適切に対処しなければリスクになりうる要素も少なくありません。

成功するM&Aのために大切なのは、業界に精通した専門家の知見を活用しながら、売り手として必要な情報と判断軸を持つことです。仲介会社から最初に提示された条件をそのまま受け入れるのではなく、納得できるまで疑問を解消したうえで意思決定することが、後悔のないM&Aにつながります。

「検討を始めたばかりで、まず話を聞きたい」という段階でも問題ありません。M&Aの専門家への相談は、多くの場合無料で始められます。


無料相談・お問い合わせのご案内

薬局M&Aについて「まず専門家の意見を聞きたい」「今進んでいる交渉について第三者に確認してほしい」という方は、M&Aセカンドオピニオンの無料相談をご活用ください。完全無料・成功報酬なし、売り手に100%寄り添う立場で、中立的なアドバイスを提供しています。

この記事の監修者

M&Aセカンドオピニオン協会

代表理事 森沢 雄太

外資系銀行でのウェルスマネジメント業務を経て、日本M&Aセンターに入社。譲渡側アドバイザーとして100件超の成約に関与し、野村證券出向や福岡支店立ち上げも経験。2018年に日本投資ファンド立ち上げに参画し、投資先の再生にも成功。2022年、合同会社M&Aプレップを創業し、仲介会社・ファンドへの支援やオーナー向け売却準備、買収支援など幅広く展開。2024年には売却支援事業拡大のため株式会社企業経営支援機構を設立し代表に就任。加えて、M&Aにおける利益相反や情報格差の是正を目的とし、代表理事として一般社団法人M&Aセカンドオピニオン協会を設立。


本記事に記載の法令・税制情報は執筆時点のものです。最新情報は中小企業庁や専門家にご確認ください。
参考:中小企業庁 事業承継・引継ぎ支援

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