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子会社売却(カーブアウト)とは?売却の流れ・価格・親会社側の注意点

「カーブアウト」という言葉を、大企業の事業再編や事業売却のニュースで目にしたことはあっても、具体的に何を指す言葉なのか、自社の経営とどう関係するのか、いまひとつイメージできないという経営者は少なくありません。M&Aや事業承継について調べ始めたばかりの段階では、株式譲渡・事業譲渡・会社分割・スピンオフといった似た言葉が次々と出てきて、それぞれの違いが分かりにくく感じられるのも無理はないでしょう。
カーブアウトは、もともとソニーのVAIO事業やオリンパスの映像事業といった大企業の事業再編の文脈で語られることが多い言葉です。しかし実際には、複数の事業を営む中小企業が、後継者不在の一事業だけを切り出して第三者に譲渡し、雇用と事業を守りながらコア事業に経営資源を集中させる、という選択肢としても関係してくる考え方です。
そこで本記事では、カーブアウトの基本的な意味から、スピンオフ・スピンアウトとの違い、会社分割と事業譲渡という2つの手法、メリット・デメリット、実施手順と期間の目安、企業価値評価やカーブアウト財務諸表の考え方、費用相場、実施時の注意点、具体的な事例、よくある失敗パターンまで、売り手経営者の視点で体系的に解説します。
この記事の監修者

森沢 雄太
一般社団法人
M&Aセカンドオピニオン協会
代表理事
外資系銀行でのウェルスマネジメント業務を経て、日本M&Aセンターに入社。譲渡側アドバイザーとして100件超の成約に関与し、野村證券出向や福岡支店立ち上げも経験。2018年に日本投資ファンド立ち上げに参画し、投資先の再生にも成功。2022年、合同会社M&Aプレップを創業し、仲介会社・ファンドへの支援やオーナー向け売却準備、買収支援など幅広く展開。2024年には売却支援事業拡大のため株式会社企業経営支援機構を設立し代表に就任。加えて、M&Aにおける利益相反や情報格差の是正を目的とし、代表理事として一般社団法人M&Aセカンドオピニオン協会を設立。
カーブアウトとは

カーブアウト(Carve-out)とは、企業が自社の事業の一部(事業部門や子会社)を切り出し、投資ファンドや他の事業会社といった外部の資本のもとで独立させる一連の取り組み全体を指す言葉です。英語の「carve out(彫り出す、切り出す)」に由来しており、彫刻のように、企業という大きな塊から特定の事業だけを丁寧に切り出すイメージで使われています。
多くの場合、事業の経営権そのものを譲渡先に移す形が取られますが、後述するソニーやオリンパスの事例のように、譲渡後も親会社が少数の持分を残すケースもあります。カーブアウトは必ずしも資本関係が完全に断ち切られることを意味するわけではなく、譲渡の対価や譲渡後の関与のあり方は案件ごとの契約内容によって変わる点に留意が必要です。
ここで押さえておきたいのは、カーブアウトという言葉自体は、株式譲渡や事業譲渡、会社分割といった特定の法的スキーム(手続き)を指すものではないという点です。カーブアウトは、事業の切り出しから譲渡先の選定、契約、譲渡後の移行対応までを含む「プロジェクト全体」を表す言葉であり、実際の切り出しには後述する会社分割や事業譲渡といった手法が組み合わせて用いられます。
カーブアウトを含むM&A全体の基礎知識をあらためて押さえておきたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。

カーブアウトの対象になりやすい事業の特徴
カーブアウトの対象となるのは、親会社グループの中の一事業部門であるケースが多く見られます。こうした事業部門は、独立した決算書を持たず、損益情報がグループ全体の決算の一部としてしか管理されていないことが一般的です。そのため、カーブアウトを実施する際には、対象事業だけの売上・費用・資産・負債を切り分けて可視化する作業が必要になり、この点が通常の会社・グループ全体を売却する場合のM&Aとは異なる実務上の難しさにつながります。
カーブアウトとカーブインの違い
カーブアウトが「売り手側が事業を切り出す」視点の言葉であるのに対し、買い手側が他社の事業部門を取得して自社グループに取り込むことは「カーブイン」と呼ばれることがあります。ただし、カーブインはカーブアウトほど広く定着した標準用語ではなく、実務の現場で使われる呼称の一つと捉えておくのが適切です。同じ取引を、切り出す側から見ればカーブアウト、受け入れる側から見ればカーブインという関係にあり、いずれも中小企業の事業拡大・多角化の手段として活用される場面があります。
カーブアウトが注目される背景

カーブアウトという手法が近年注目を集めている背景には、企業の事業ポートフォリオを見直す動きの広がりがあります。複数の事業を抱える企業が、成長性の低い事業や自社の強みと関連性の薄い事業(ノンコア事業)を切り離し、収益性の高いコア事業に経営資源を集中させる「選択と集中」の考え方が、大企業・中堅企業を問わず浸透してきていることが大きな要因です。ノンコア事業の切り出しは、後継者不在の解消だけを目的に行われるとは限らず、資本効率の改善や財務体質の強化といった財務戦略の一環として検討されることも多く、事業承継の文脈だけに限られるものではありません。
M&A市場全体の動向を見ても、事業の切り出しや譲渡を伴う取引は増加傾向にあります。帝国データバンクが公表した「2025年度のM&A動向と2026年度の展望」(レコフデータの集計をもとにした分析)によると、2025年度のM&A件数(公表ベース)は5,228件と前年度比10.9%増加し、取引金額も43兆334億円と前年度比88.0%の大幅増となり、件数・金額ともに過去最高を更新しました。
こうした市場全体の活発化に加えて、中小企業の現場では後継者不在という構造的な課題も背景にあります。帝国データバンクの2025年調査によると、全国の後継者不在率は50.1%に達しており、依然として半数前後の企業で後継者が定まっていない状況が続いています。複数の事業を営む企業の中には、後継者を確保できる主力事業は自社で存続させつつ、後継者確保が難しい一部の事業だけをカーブアウトの形で第三者に譲渡し、雇用と事業の継続を図るという選択をするケースも見られます。
カーブアウトとスピンオフ・スピンアウトの違い

カーブアウトとしばしば混同される言葉に「スピンオフ」「スピンアウト」があります。いずれも事業を独立させる点は共通していますが、独立の方法や資本関係の扱いに違いがあります。
| 項目 | カーブアウト | スピンオフ | スピンアウト |
|---|---|---|---|
| 主な意味 | 事業を切り出し第三者(投資ファンド等)に譲渡すること | 事業を切り出し、親会社の株主に新会社株式を按分交付して独立させること | 事業を切り出し、経営陣・従業員が主体となって独立すること |
| 対価の受け取り手 | 親会社(売却対価を得る) | 親会社の既存株主(新会社株式を受け取る) | 独立する事業側(新たな資本構成で出発) |
| 親会社との資本関係 | 譲渡後は原則として関係が縮小・整理される | 株主構成を通じて緩やかにつながる場合がある | 独立性が高く、親会社との関係は薄い |
| 主な目的 | ノンコア事業の整理、資金調達、選択と集中 | 事業の独立による経営の機動性向上、株主価値の最大化 | 経営陣主導の新規事業立ち上げ、起業的な独立 |
スピンオフやスピンアウトは法律上の明確な定義があるわけではなく、実務上の呼称として使われている点に注意が必要です。一方でカーブアウトは、第三者への「売却」を伴う点が最大の特徴であり、親会社側は事業を手放す対価として資金を得られるという違いがあります。
カーブアウトの主な手法

カーブアウトを実現するための具体的な法的手法としては、主に「会社分割」と「事業譲渡」の2つが用いられます。どちらの手法を選ぶかによって、必要な手続きや承継されるものの範囲、譲渡先企業に求められる対応が大きく異なります。
会社分割
会社分割は、会社法上の組織再編行為として位置づけられる手法です。対象事業に関する権利義務は、契約・雇用契約を含めて包括的に承継先へ引き継がれるため、事業譲渡のように個別の契約を一つひとつ巻き直す必要がない点が特徴です。ただし、法的には包括承継が認められる場合でも、取引先との契約書に会社分割を理由とする解除条項や事前承諾条項(いわゆるチェンジオブコントロール条項)が定められているケースがあり、実務上は主要な契約について事前に内容を確認し、必要に応じて取引先と調整しておくことが望まれます。また、許認可については個別法の定めによって扱いが異なり、通知のみで承継できるもの、承継後に個別の許可・届出が必要なもの、会社分割では承継できず新規取得が原則となるもの(貸金業・宅地建物取引業など)に分かれるため、対象事業に関わる許認可の扱いは業種ごとに事前確認が欠かせません。また、包括承継であるがゆえに、把握しきれていない簿外債務まで一緒に引き継いでしまうリスクがある点にも注意が必要です。会社分割には、既存の会社に事業を承継させる「吸収分割」と、新たに会社を設立して承継させる「新設分割」の2種類があります。
事業譲渡
事業譲渡は、会社法上の組織再編行為ではなく、個別の資産・契約等を移転する取引行為として行われる手法です。ただし、事業の全部または重要な一部を譲渡する場合には、会社法上、株主総会の特別決議など一定の手続きが必要になる点には留意が必要です。株式の変動を伴わず、譲渡する資産・負債・契約・従業員の範囲を個別に選んで切り分けられるため、不要な負債や資産を除外しやすいという利点があります。一方で、取引先との契約や許認可は原則として自動的には引き継がれないため、契約の巻き直しや許認可の再取得、従業員の個別同意を得たうえでの雇用契約の再締結といった個別対応が必要になります。
事業譲渡の仕組みやメリット・デメリット、手続きの流れについては、事業譲渡で詳しく解説しています。
| 項目 | 会社分割 | 事業譲渡 |
|---|---|---|
| 法的性質 | 会社法上の組織再編行為 | 会社法上の取引(重要な事業譲渡は株主総会決議等の手続きが必要) |
| 承継の方法 | 包括承継(権利義務が一括で移転、契約上の解除条項等には個別の注意が必要) | 個別承継(資産・契約を個別に移転) |
| 許認可の扱い | 個別法による(通知のみで足りるもの・個別の許可や届出が必要なもの・承継できず新規取得が原則のものがある) | 原則再取得が必要 |
| 雇用契約 | 労働契約承継法に基づき承継されるが、対象労働者への通知・協議、異議申出の手続きが法律で定められている | 従業員の個別同意を得たうえで再契約が必要 |
| 簿外債務のリスク | 引き継ぐリスクがある | 遮断しやすい |
| 選ばれやすい基準 | 権利義務を包括的に移したい場合 | 移転対象を個別に選別したい場合 |
一般的に、特定の資産・契約だけを切り分けたい場合には事業譲渡が選ばれやすく、対象事業の権利関係が複雑で許認可・契約を含めて包括的に引き継ぎたい場合には会社分割が選ばれる傾向があります。どちらが適しているかは、対象事業の規模そのものよりも、許認可・契約関係・簿外債務の切り分けの必要性によって変わるため、専門家に個別の状況を確認することが欠かせません。
カーブアウトのメリット

カーブアウトには、事業を切り出す親会社側と、切り出されて独立する事業側の双方にメリットがあります。
親会社側にとっては、ノンコア事業を整理することで、経営資源(人材・資金・時間)を成長性の高いコア事業に集中させられる点が大きな利点です。あわせて、事業の売却対価として資金を得られるため、コア事業への設備投資や新規事業への投資原資として活用できます。事業規模が小さくなることで、貸借対照表がスリム化し、経営の意思決定スピードが上がるという効果も期待できます。
切り出される事業側にとっては、独立した経営体制を持つことで、親会社グループの意思決定プロセスに縛られない、迅速な経営判断が可能になる点がメリットです。投資ファンドの傘下に入る場合は、専門的な経営支援やガバナンス強化のノウハウを受けられることもあり、新たな出資者・提携先からの資金調達の道が広がる可能性もあります。
中小企業の売り手経営者にとって特に意味を持つのは、複数の事業を営んでいる場合に、後継者を確保しにくい一事業だけをカーブアウトの形で譲渡し、他の事業は自社で継続するという選択肢が取れる点です。会社全体を譲渡する決断は経営者にとって重く感じられがちですが、事業単位での切り出しであれば、事業と雇用を守りながら、経営者自身は主力事業の経営に専念するという柔軟な意思決定がしやすくなります。
カーブアウトのデメリット・リスク

一方で、カーブアウトには売り手・買い手の双方が事前に理解しておくべきデメリットやリスクも存在します。
切り出される事業がこれまで親会社グループの管理部門(経理・人事・情報システムなど)に依存していた場合、独立後にこうしたバックオフィス機能が不足し、日常業務に支障が出るおそれがあります。管理体制をゼロから構築する必要が生じるため、想定より多くの時間とコストがかかるケースも珍しくありません。
従業員にとっては、これまで所属していた企業グループから切り離されることへの不安が生じやすく、モチベーションの低下や離職につながるリスクもあります。特に、カーブアウトの検討段階から従業員への説明が後回しになると、不安や憶測が先行し、優秀な人材の流出を招きかねません。
事業譲渡の手法を用いる場合には、対象事業に紐づく許認可が自動的には引き継がれず、新会社側で許認可を再取得する必要が生じることがあります。業種によっては再取得に時間がかかり、事業の継続性に影響する可能性があるため、早い段階での確認が不可欠です。同様に、取引先との契約についても、譲渡に伴って契約内容の見直しや相手方の同意取得が必要になる場合があり、対応を誤ると取引関係が途切れてしまうリスクもあります。
カーブアウトのリスクや進め方について、契約を進める前に中立的な第三者の意見を聞いてみる
カーブアウトの実施手順

カーブアウトは、事業の切り出しから譲渡完了、そして譲渡後の移行対応まで、複数の段階を経て進められます。一般的な流れと期間の目安は以下のとおりです。
デューデリジェンスや最終契約・クロージングまでを含む一般的なM&Aの流れは、こちらの記事でさらに詳しく解説しています。
| ステップ | 主な内容 | 期間の目安 |
|---|---|---|
| 1. 基本方針の策定 | 切り出す事業の特定、目的の明確化、関係者の意見集約 | 1〜2ヶ月 |
| 2. 承継範囲の決定 | 承継する資産・負債・契約・従業員の範囲を切り分け | 1〜2ヶ月 |
| 3. 会計情報の整理 | カーブアウト財務諸表の作成、共通費の配賦ルール確定 | 1〜3ヶ月 |
| 4. 譲渡先の選定・交渉 | 譲渡先候補の選定、デューデリジェンス(DD)対応、条件交渉 | 2〜4ヶ月 |
| 5. 最終契約・クロージング | 最終契約書(DA)の締結、対価の受け渡し | 1ヶ月前後 |
| 6. 移行対応(ポストクロージング) | TSA(トランジションサービス契約)による業務移行の支援 | 3ヶ月〜1年程度 |
※期間はあくまで一般的な目安であり、対象事業の規模・複雑さ、譲渡先との交渉状況によって前後します。
デューデリジェンス(DD)とは、譲渡先候補が対象事業の財務・法務・事業内容などを詳細に調査するプロセスを指します。案件によっては意向表明書(LOI)の前後に簡易的なビジネスDDが先行して行われることもありますが、財務・法務を含む本格的なDDは、基本合意書(MOU)の締結後に実施されるのが一般的な流れです。DDの結果を踏まえて条件が最終調整され、最終契約書(DA)の締結とクロージング(取引の実行)に至ります。最終契約書には、譲渡対象の状態について売り手が表明・保証する「表明保証」条項が盛り込まれることも多く(条項の有無や範囲は案件により異なります)、内容を十分に理解した上で契約に臨む必要があります。
カーブアウトにおける企業価値評価とカーブアウト財務諸表

カーブアウトを進める上で欠かせないのが、切り出す事業だけを対象とした企業価値評価と、その基礎となる「カーブアウト財務諸表」の作成です。
対象事業がこれまで親会社グループの決算に統合されていた場合、事業単体の売上・費用・資産・負債は明確に切り分けられていないことがほとんどです。カーブアウト財務諸表は、こうした対象事業の財務情報を、本社費や共通費の配賦、グループ内取引の消去、在庫・固定資産の按分といった一定のルールに基づいて作成する、特殊な財務諸表です。配賦の方法によって数値が変動しうるため、どのような前提でカーブアウト財務諸表が作成されたのかを、譲渡先候補にも丁寧に説明できるようにしておく必要があります。
企業価値評価の手法としては、将来のキャッシュフローを現在価値に割り引いて評価するDCF法、類似する上場企業のEBITDA倍率などを参考に評価するEBITDAマルチプル法、貸借対照表の純資産をベースに評価する純資産法などが用いられます。実務では、いずれか一つの手法だけで評価額を決めるのではなく、複数の手法を組み合わせて評価額の妥当な幅を検討するのが一般的です。事業の将来性や市場環境によって評価額は大きく変動しうるため、具体的な金額を断定的に語る情報には注意し、あくまで目安・幅として捉えることが大切です。
DCF法・EBITDAマルチプル法・純資産法といった企業価値評価の各手法の考え方は、こちらの記事で詳しく解説しています。
なお、対象事業が持つブランド力や技術力、取引関係といった無形の価値は、譲渡対価と対象事業の純資産額との差額として「のれん」に反映されることがあります。買い手側が期待するシナジー(相乗効果)の大きさによっても、評価額の考え方は変わってきます。
カーブアウトにかかる費用・専門家報酬の目安

カーブアウトを進めるにあたっては、財務アドバイザー(FA)・仲介会社への報酬に加えて、公認会計士・税理士によるカーブアウト財務諸表の作成支援、弁護士による契約書のレビューやデューデリジェンス対応など、複数の専門家への報酬が発生します。
FA・仲介会社の成功報酬については、譲渡金額に応じて手数料率が段階的に下がる「レーマン方式」が採用されるケースが多く見られます。業界で一般的に言われる料率の目安は、基準となる価額の1〜5%程度とされていますが、これは特定の公的機関が定めた標準料率ではなく、実際の料率表や最低手数料の設定は契約先によって差があります。あわせて、「基準となる価額」を株式価値(譲渡対価)とするか、企業価値(負債等を含めた総額)とするかによっても、実際に支払う金額が大きく変わる点には注意が必要です。譲渡金額が小さい案件でも一定額を下回らない「最低手数料」が設定されているケースも一般的で、その水準は契約先によって差があります。中小企業庁が公表する中小M&Aガイドライン(第3版・2024年〔令和6年〕8月改訂)では、統一的な料率を示すのではなく、契約前に「基準となる価額」の考え方や報酬額の目安を確認しておくことの重要性が示されています。
基準となる価額に応じて料率が段階的に下がるレーマン方式の詳しい計算方法については、こちらの記事で解説しています。
これらの専門家報酬は、対象事業の規模や複雑さ、依頼する専門家の範囲によって大きく変動するため、具体的な金額を事前に断定することはできません。提示された手数料体系が自社の案件規模に照らして妥当かどうか判断に迷う場合は、契約前に無料のセカンドオピニオンで確認するという方法もあります。
提示された手数料体系や進め方に不安がある場合は、契約前にセカンドオピニオンを活用する方法もあります。

カーブアウトを実施する際の注意点

カーブアウトを成功させるためには、手続き面だけでなく、実務上の細やかな配慮が求められます。ここでは特に見落とされがちな注意点を取り上げます。
従業員への説明とモチベーション維持
カーブアウトの検討が進んでいることが従業員に十分な説明のないまま伝わってしまうと、将来への不安からモチベーションが低下し、優秀な人材の離職につながるおそれがあります。適切なタイミングで、カーブアウトの目的や従業員の処遇に関する方針を丁寧に説明し、質問や懸念に応じる機会を設けることが重要です。
知的財産・情報システムの分離
対象事業が親会社グループと知的財産やITシステムを共有している場合、独立にあたってこれらを分離する作業が必要になります。どの知的財産が対象事業に含まれるのか、権利の移転手続きをどう整備するのかを事前に明確にしておかないと、分離作業が長期化し、譲渡後の事業運営に支障が出ることがあります。
TSA(トランジションサービス契約)の活用
カーブアウトでは、対象事業が独立した後も、独自の経理・人事・情報システムといった管理体制がすぐには整わないことが少なくありません。こうした場合に用いられるのが、TSA(Transition Service Agreement:トランジションサービス契約)です。TSAは、譲渡後の一定期間、親会社側が有償でバックオフィス機能を提供し続ける契約であり、独立した事業が自前の体制を構築するまでの「橋渡し」の役割を果たします。TSAの対象範囲や提供期間をあらかじめ明確にしておくことで、業務を途切れさせずに事業を維持しやすくなります。
契約の承継と経営者保証の扱い
取引先との契約や金融機関からの借入に付随する経営者保証(個人保証)の扱いも、事前に確認しておくべき重要な論点です。特に中小企業の場合、対象事業に紐づく借入について経営者個人が保証人になっているケースがあり、事業を切り出す際にこの保証をどう解除・引き継ぐかを譲渡先や金融機関と調整する必要があります。
カーブアウトの実施事例

カーブアウトの理解を深めるために、実際に公表されている事例を紹介します。ここで挙げる事例は、いずれも各社のプレスリリース等で公表されている一般に知られた取引です。
ソニーのVAIO事業カーブアウト(2014年)
ソニーは2014年2月、パソコン事業(VAIOブランド)を投資会社の日本産業パートナーズに事業譲渡することを公表しました。譲渡にあたっては新会社「VAIO株式会社」が設立され、日本産業パートナーズが95%、ソニーが5%を出資する形で事業が引き継がれました。ソニー本体はエレクトロニクス事業全体の収益性向上を目的にPC事業から撤退する一方、VAIOブランドと開発拠点は新会社のもとで存続し、独立した経営体制のもとで事業を継続することになりました。
オリンパスの映像事業カーブアウト(2020〜2021年)
オリンパスは、スマートフォンの普及によってデジタルカメラ市場が縮小し、映像事業が赤字基調となる中、2020年6月24日に日本産業パートナーズとの間で映像事業譲渡に関する意向確認書を締結し、同年9月30日に正式契約を締結しました。スキームとしては、オリンパスが新設した完全子会社に吸収分割で映像事業を承継させたうえで、2021年1月1日付でその株式の95%を日本産業パートナーズ側の特別目的会社に譲渡するという方法が取られました。映像事業を承継した新会社は、株式譲渡の完了後に「OMデジタルソリューションズ株式会社」として事業を継続し、「OM-D」「PEN」といった主要な製品ブランドを引き継ぎながら独立した経営体制のもとで事業を運営しています。なお、企業・カメラブランドとしての「OLYMPUS」は、契約上のライセンス期間を経て2021年10月に新ブランド「OM SYSTEM」へ移行しており、承継したのは製品ブランドと技術・ものづくりの系譜である点には留意が必要です。
これらの事例はいずれも大企業によるものですが、「ノンコア事業を切り出して専門の投資会社に託し、独立した経営のもとで事業の継続を図る」という考え方自体は、複数事業を営む中小企業が事業の一部を譲渡する際にも共通して参考になる視点です。
カーブアウトで失敗しやすいパターンと対策

カーブアウトの検討・実行段階では、いくつかの典型的な失敗パターンが見られます。事前に把握しておくことで、同じ失敗を避けやすくなります。
従業員への説明が後回しになり、切り出しが公表された段階で初めて情報が伝わることで、不安や不信感から離職者が相次いでしまうケースがあります。対策としては、検討の初期段階から、開示できる範囲で従業員に方針を伝え、丁寧なコミュニケーションを重ねることが有効です。
会計・システムの分離作業を過小評価し、想定より多くの時間とコストがかかってしまうケースも少なくありません。カーブアウト財務諸表の作成やITシステムの切り分けは専門性が高く、早い段階から会計士やITの専門家を交えて現実的なスケジュールを見積もることが対策になります。
契約承継の見落としにより、譲渡後に主要な取引先との契約が継続できず、事業運営に支障をきたすケースもあります。譲渡対象となる契約を事前に棚卸しし、相手方の同意が必要な契約を洗い出しておくことが欠かせません。
カーブアウト実施前に確認したいチェックリスト
- 切り出す事業の範囲(資産・負債・契約・従業員)を明確にできているか
- カーブアウト財務諸表を作成するための共通費配賦のルールを整理できているか
- 対象事業に紐づく許認可・知的財産・経営者保証の有無を洗い出せているか
- 独立後に必要となる管理機能(経理・人事・情報システム)の担い手を検討し、TSAの必要性を検討したか
- 従業員への説明タイミングと伝え方について方針を固めているか
- 提示されているFA・仲介会社の手数料体系が、自社の案件規模に照らして妥当か確認できているか
よくある質問
カーブアウトとM&Aは同じ意味ですか?
M&Aは、合併・買収を含む企業間取引全般を指す広い概念です。カーブアウトは、その中でも「企業が自社の事業の一部を切り出し、第三者への譲渡を通じて独立させる」取引を指す言葉であり(譲渡後も親会社が一部持分を残すケースを含みます)、M&Aの一形態と位置づけられます。
カーブアウトとカーブインの違いは何ですか?
同じ取引を、事業を切り出す売り手側の視点で見た場合が「カーブアウト」、事業を受け入れて自社グループに取り込む買い手側の視点で見た場合が「カーブイン」です。取引の実態は同じでも、どちらの立場から見るかによって呼び方が変わります。
中小企業でもカーブアウトはできますか?
複数の事業を営んでいる中小企業であれば、カーブアウトの考え方を活用できます。会社全体を譲渡するのではなく、後継者確保が難しい一事業だけを切り出して譲渡し、他の事業は自社で継続するという選択肢として検討されることがあります。
カーブアウトにかかる期間の目安はどれくらいですか?
基本方針の策定から最終契約・クロージングまでで半年〜1年程度が一つの目安ですが、対象事業の規模や複雑さ、譲渡先との交渉状況によって前後します。譲渡後の移行対応(TSAによる業務移行)にはさらに数ヶ月〜1年程度を要することもあります。
カーブアウトと事業譲渡は同じ意味ですか?
事業譲渡は、カーブアウトを実現するための法的手法の一つです。カーブアウトはプロジェクト全体を指す言葉であり、その手段として事業譲渡が使われる場合もあれば、会社分割という別の手法が使われる場合もあります。
カーブアウト後、切り出された事業の従業員の雇用条件はどうなりますか?
用いる手法によって扱いが異なります。会社分割の場合は労働契約承継法に基づき、対象事業に主として従事する労働者の雇用契約は原則として承継されますが、承継の有無について労働者・労働組合への通知や協議、異議申出といった手続きが法律で定められています。事業譲渡の場合は雇用契約が自動的には承継されないため、従業員の個別同意を得たうえで再契約する必要があり、労働条件について従業員との合意形成が必要になります。
まとめ
カーブアウトとは、企業が事業の一部を切り出し、投資ファンドや他の事業会社といった第三者への譲渡を通じて独立させる一連の取り組みを指す言葉(譲渡後も親会社が一部持分を残すケースを含む)であり、会社分割・事業譲渡といった具体的な手法を組み合わせて実行されます。スピンオフ・スピンアウトとの違いは、第三者への「売却」を伴う点にあり、親会社は売却対価を得ながらノンコア事業を整理し、コア事業に経営資源を集中できるメリットがあります。一方で、独立後の管理機能の不足や従業員の離職リスク、許認可・契約の承継問題といったデメリットもあるため、実施手順や費用の目安、TSAなどの実務上の工夫を理解した上で、慎重に検討を進めることが重要です。
複数の事業を営む中小企業にとっても、後継者不在の一事業だけを切り出して事業と雇用を守るという選択肢として、カーブアウトの考え方は参考になります。ただし、切り出す範囲の設計や財務諸表の整理、専門家報酬の妥当性など、判断に専門知識を要する場面が多いのも事実です。
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監修者情報
本記事は、一般社団法人M&Aセカンドオピニオン協会 代表理事・森沢雄太氏(日本M&Aセンター出身・M&A成約実績100件超)の監修のもと作成しました。記事内の情報は執筆時点(2026年7月)のものです。制度・統計・事例は今後変更・更新される可能性がありますので、最新情報は中小企業庁等の公的機関や各社の公表資料でご確認ください。個別の税務・法務判断については、税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。