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M&Aの流れを完全ガイド|検討・準備からクロージング・PMIまでの手順をわかりやすく解説

会社や事業の売却を考え始めたものの、M&Aが実際にどのような流れで進むのか、全体像がつかめずに不安を感じている経営者は少なくありません。初めてのM&Aでは専門用語が次々と出てきて、どの段階で何を判断すればよいのか、誰に相談すればよいのかが分かりにくいものです。「気づいたときには話が想定以上に進んでいて、後戻りしづらくなっていた」という声も実際に聞かれます。
一方で、M&Aの流れは大きくいくつかのフェーズに整理でき、各段階で「何が起こるのか」「売り手として何を確認すべきか」をあらかじめ知っておけば、落ち着いて意思決定を進められます。全体像を把握しているかどうかで、交渉での主体性や納得感は大きく変わります。
そこで本記事では、M&Aの全体的な流れを、検討・準備フェーズからマッチング・交渉、基本合意、デューデリジェンス、最終契約・クロージング、そして成立後のPMI(統合プロセス)まで、一連のステップとして順を追って解説します。あわせて、所要期間や費用の目安、売り手が見落としがちなリスク、そして流れの各段階で第三者の意見を活用する方法まで、初めての方にもわかりやすく整理します。
この記事の監修者

森沢 雄太
一般社団法人
M&Aセカンドオピニオン協会
代表理事
外資系銀行でのウェルスマネジメント業務を経て、日本M&Aセンターに入社。譲渡側アドバイザーとして100件超の成約に関与し、野村證券出向や福岡支店立ち上げも経験。2018年に日本投資ファンド立ち上げに参画し、投資先の再生にも成功。2022年、合同会社M&Aプレップを創業し、仲介会社・ファンドへの支援やオーナー向け売却準備、買収支援など幅広く展開。2024年には売却支援事業拡大のため株式会社企業経営支援機構を設立し代表に就任。加えて、M&Aにおける利益相反や情報格差の是正を目的とし、代表理事として一般社団法人M&Aセカンドオピニオン協会を設立。
M&Aとは?流れを理解するための基礎知識

M&Aの流れを正しく理解するには、まず「M&Aとは何か」と「どのような手法(スキーム)があるのか」を押さえておく必要があります。手法によって手続きの流れや必要な書類、税務上の取り扱いが変わるためです。
M&Aの意味と売り手にとっての目的
M&Aは「Mergers and Acquisitions」の略で、日本語では「合併と買収」と訳されます。一般には、会社や事業の経営権・所有権を、他の会社や個人に移転する取引全般を指します。広く捉えれば、資本提携や業務提携を含めて使われることもあります。
中小企業の売り手にとって、M&Aは単なる「会社を手放す行為」ではありません。後継者不在の解決策として事業を次の担い手に引き継ぐ「第三者承継」、従業員の雇用や取引先との関係を守る手段、創業者利益を確保する出口戦略など、複数の目的を同時に実現できる選択肢です。最初に「自社にとってM&Aで何を実現したいのか」を整理しておくことが、その後の流れ全体を左右します。
主なM&Aスキームの違い(比較表)
M&Aには複数の手法があり、中小企業で用いられる代表的なものは株式譲渡・事業譲渡・会社分割・合併・株式交換です。それぞれ、譲渡する対象や手続きの煩雑さ、許認可の引き継ぎ可否などが異なります。下表に主な違いを整理します。
| スキーム | 譲渡する対象 | 主な特徴 | 中小企業での位置づけ |
|---|---|---|---|
| 株式譲渡 | 発行済株式(=会社そのもの) | 会社の権利義務を包括的に引き継ぐ。手続きが比較的シンプル | もっとも多く用いられる代表的な手法 |
| 事業譲渡 | 特定の事業や資産・負債 | 引き継ぐ対象を個別に選べる。契約や許認可は原則として個別に巻き直しが必要 | 一部事業のみを切り出したい場合に有効 |
| 会社分割 | 事業に関する権利義務 | 事業を別会社に承継させる組織再編手法 | グループ再編や事業の切り出しで活用 |
| 合併 | 会社全体(消滅会社が解散) | 複数の会社を一つに統合する | 中小規模では比較的少ない |
| 株式交換 | 株式(完全子会社化) | 対価として買い手の株式を交付する手法もある | 上場企業などで用いられることが多い |
株式譲渡は、株主が保有する株式を買い手に売却し、会社の経営権を移転する手法です。会社の資産・負債・契約・許認可・従業員との雇用関係などを包括的に引き継げるため、手続きが比較的簡便で、中小企業のM&Aでもっとも多く選ばれています。一方の事業譲渡は、会社のなかの特定の事業や資産だけを切り出して譲渡する手法で、引き継ぐ範囲を当事者で個別に決められる柔軟性があります。ただし取引先との契約や従業員との雇用契約、許認可は原則として個別に承継・再取得の手続きが必要となり、手間がかかる傾向があります。
どのスキームが適しているかは、事業の状況、税負担、引き継ぎたい範囲などによって変わります。税務上の取り扱いは特に複雑なため、最終的な判断は税理士や弁護士などの専門家に確認することをおすすめします。中小企業のM&A全般の基礎については、中小企業のM&Aとは?現状・目的・流れから成功のポイントまでもあわせてご覧ください。
なお、スキーム選びでは業種特有の事情も影響します。たとえば許認可が事業の前提となる業種(建設業、運送業、医療・介護、飲食など)では、許認可を引き継げるかどうかが手法選択の分かれ目になります。株式譲渡なら法人格が維持されるため許認可も原則として引き継がれますが、許認可の種類や個別の業法によっては、変更届の提出や名義変更、再審査などが必要になる場合があります。一方、事業譲渡では許認可を個別に取り直す必要が生じるケースが多く、手続きや期間に影響します。また、不動産や設備を多く保有する業種、特定の人材や取引先への依存度が高い業種では、企業価値評価やデューデリジェンスで重視される論点も変わってきます。自社の業種ではどの点が論点になりやすいかを、早い段階で専門家とすり合わせておくとよいでしょう。
中小企業を取り巻く環境とM&Aが選ばれる背景

M&Aの流れを学ぶ前に、なぜ近年これほど中小企業のM&Aが注目されているのか、その背景となる市場動向を押さえておきましょう。背景を理解しておくと、自社がどのフェーズで何を意思決定すべきかが見えやすくなります。
後継者不在と経営者の高齢化
日本の中小企業では、経営者の高齢化と後継者不足が長く課題とされてきました。帝国データバンクの調査によると、社長の平均年齢は連続して上昇しており、2024年時点で60.7歳と過去最高を更新したとされています(出典:帝国データバンク、2024年)。経営者の高齢化が進むなか、事業承継の検討を要する経営者層が多く存在しているのが現状です。
後継者不在の状況は改善傾向にあるものの、依然として高い水準です。帝国データバンクの調査では、2025年の全国の後継者不在率は50.1%で、前年から2.0ポイント低下し、7年連続で改善したとされています(出典:帝国データバンク「全国企業『後継者不在率』動向調査(2025年)」2025年11月)。およそ2社に1社が後継者を確定できていない計算であり、親族内承継が難しい企業にとって、M&Aによる第三者への承継が現実的な選択肢として広がっています。
第三者承継(M&A)という選択肢の広がり
こうした環境を背景に、第三者への事業承継、すなわちM&Aの活用が公的にも後押しされています。全国に設置された公的な相談窓口である事業承継・引継ぎ支援センターでは、令和6年度の相談者数が2万3,000者を超え、開設以来の累計相談者数は15万者を超えました。第三者承継(M&A)に関する成約件数は2,132件と過去最高を更新したとされています(出典:中小企業基盤整備機構 プレスリリース、2025年5月)。
数値が示すのは、M&Aがもはや一部の大企業だけのものではなく、小規模な事業者にとっても身近な選択肢になっているという事実です。なお、事業承継の手段は大きく「親族内承継」「役員・従業員承継」「第三者承継(M&A)」に分けられます。親族や役員・従業員に引き継ぐ場合は、株式の承継にかかる税負担を軽減する事業承継税制(一定の要件のもとで贈与税・相続税の納税が猶予・免除される制度)の活用が検討されることもあります。一方で、引き継ぐ親族や社内人材がいない企業にとっては、第三者承継であるM&Aが現実的な解決策となります。だからこそ、初めてM&Aに臨む売り手が、流れと各段階のポイントを正しく理解しておくことの重要性が高まっています。
M&Aの全体的な流れ|検討からPMIまでを俯瞰する

具体的な各フェーズに入る前に、まずはM&A全体の流れを俯瞰しておきましょう。M&Aは大きく分けて「検討・準備」「マッチング・交渉」「基本合意・デューデリジェンス」「最終契約・クロージング」「成立後のPMI」という流れで進みます。下表は、検討開始からM&A成立後までの一般的なステップと、各段階で売り手が主に行うことをまとめたものです。
| ステップ | フェーズ | 主な内容 | 売り手の主な役割 |
|---|---|---|---|
| 1 | 検討・準備 | 目的整理、専門家への相談、企業価値の把握 | 方針決定、資料準備 |
| 2 | マッチング・交渉 | 秘密保持契約、ノンネーム提示、トップ面談、意向表明書 | 候補先の検討、面談対応 |
| 3 | 基本合意 | 基本合意書の締結、独占交渉権の付与 | 主要条件の確認 |
| 4 | デューデリジェンス | 買い手による財務・法務・税務などの調査 | 資料提出、質問対応 |
| 5 | 最終契約・クロージング | 最終契約書の締結、代金決済、経営権の移転 | 契約内容の確認、決済対応 |
| 6 | 成立後(PMI) | 統合プロセス、従業員・取引先への開示 | 引き継ぎ、関係者対応 |
この流れはあくまで一般的なモデルであり、案件の規模やスキーム、買い手の方針によって順序が前後したり、一部のステップが簡略化されたりすることもあります。重要なのは、それぞれの段階で「何が起こり、何を確認すべきか」を理解しておくことです。以下では、各フェーズを順番に詳しく見ていきます。
検討・準備フェーズの流れ

M&Aの出発点となるのが検討・準備フェーズです。ここでの準備の質が、その後の交渉力や成約の確度を大きく左右します。焦って次の段階に進むのではなく、土台を固めることが大切です。
M&Aの目的を明確にする
最初に行うべきは、M&Aの目的の明確化です。「後継者がいないため事業を存続させたい」「従業員の雇用を守りたい」「創業者利益を確保して引退したい」「成長のために大手の傘下に入りたい」など、目的によって優先すべき条件や相手の選び方が変わります。
たとえば、雇用の継続を最優先するなら、価格だけでなく買い手の経営方針や企業文化との相性が重要になります。価格を重視するなら、シナジー効果を見込める買い手を幅広く探すアプローチが有効です。目的が曖昧なまま進めると、交渉の途中で判断軸がぶれ、後悔につながりかねません。
専門家(仲介会社・FA)の選定と相談
M&Aは法務・税務・財務が複雑に絡む取引のため、多くの場合、専門家のサポートを受けながら進めます。代表的な支援者として、売り手と買い手の間に立って調整する仲介会社と、一方の当事者の利益のために助言するFA(フィナンシャル・アドバイザー)があります。それぞれ役割や立場が異なるため、自社の状況や目的に合った支援者を選ぶことが重要です。
専門家を選ぶ際は、実績や得意とする業種・規模、手数料体系などを複数比較したうえで判断するとよいでしょう。なお、相談先を一社に絞る前に、公的な相談窓口である事業承継・引継ぎ支援センターを活用したり、利害関係のない第三者に方針の妥当性を確認したりすることも、冷静な判断に役立ちます。
企業価値評価とスキームの検討
準備フェーズでは、自社の企業価値のおおよその把握と、適したスキームの検討も行います。企業価値評価(バリュエーション)の代表的な手法には、将来生み出すキャッシュフローを現在価値に割り引くDCF法、同業他社の指標と比較するEBITDAマルチプル(マルチプル法)、純資産を基準とする純資産法、純資産に数年分の利益を加える年買法(年倍法)などがあります。
これらはあくまで価格の目安を算定する手法であり、実際の譲渡価格は買い手との交渉で決まります。たとえば年買法では「時価純資産+営業利益の数年分」が一つの目安とされ、マルチプル法ではEBITDAなどの指標に倍率を掛けて算定しますが、用いられる倍率は業種・規模・成長性・市場環境によって大きく異なり、特定の倍率や金額を一律に当てはめられるものではありません。同じ会社でも、買い手が見込むシナジーや「のれん」(ブランドや顧客基盤など、純資産を超える価値)の評価によって、提示される価格には幅が生じます。相場の幅や変動要因を理解したうえで、自社にとって納得できる水準を考えておくことが、後の交渉での軸になります。具体的な算定は前提条件によって大きく変わるため、専門家による評価を受けることをおすすめします。
マッチング・交渉フェーズの流れ

方針が固まったら、買い手候補を探し、交渉に入るマッチング・交渉フェーズに進みます。この段階では情報管理が極めて重要になり、専門用語も多く登場します。
秘密保持契約(NDA)の締結
買い手候補と具体的な話を始める前に、まず秘密保持契約(NDA:Non-Disclosure Agreement)を締結します。NDAは、M&Aの検討過程で開示する財務情報や顧客情報などの機密情報を、目的外に使用したり第三者に漏らしたりしないことを取り決める契約です。
M&Aの検討が外部に漏れると、従業員の動揺、取引先の不安、競合への情報流出といったリスクが生じます。NDAは、こうした情報漏洩を防ぎ、安心して情報を開示するための前提となる重要な手続きです。
ノンネームシートと企業概要書(IM)による情報開示
買い手候補に自社を紹介する際は、まず社名を伏せた「ノンネームシート」と呼ばれる概要資料が用いられます。業種・地域・規模・おおまかな財務状況などを匿名で示し、買い手の関心を確認する段階です。買い手が関心を示し、NDAを締結したうえで初めて、社名を含む詳細を開示する「ネームクリア」へと進みます。
その後、買い手の本格的な検討材料として、より詳しい情報をまとめた企業概要書(IM:Information Memorandum)を提示します。IMには事業内容、財務状況、強み、将来性などが整理されており、買い手はこれをもとに買収の可否や条件を検討します。
トップ面談
買い手が前向きに検討を進める段階になると、売り手と買い手の経営者同士が直接顔を合わせるトップ面談が行われます。トップ面談は条件を細かく交渉する場というより、経営理念や事業への思い、企業文化、従業員への姿勢などを相互に確認し、信頼関係を築く場としての意味合いが強いものです。
売り手にとっては、「この相手に会社を託せるか」を見極める重要な機会です。雇用の継続や事業の方向性など、価格には表れない条件についても、この場で率直に確認しておくとよいでしょう。
意向表明書(LOI)の提出
トップ面談などを経て買い手が買収の意思を固めると、買い手から意向表明書(LOI:Letter of Intent)が提出されることがあります。LOIは、買収希望価格やおおまかな条件、想定スケジュールなどを書面で示すもので、現時点での買い手の考えを確認する材料となります。
LOIの条件は最終決定ではなく、その後の交渉やデューデリジェンスの結果によって変わり得ます。売り手は、提示された条件を一面的に受け取るのではなく、複数の観点(価格・雇用・支払い方法・引き継ぎ条件など)から多角的に比較検討することが大切です。
基本合意の締結とデューデリジェンス(DD)

交渉が進み、主要な条件についておおむね合意できた段階で、基本合意書を締結し、買い手による詳細調査(デューデリジェンス)へと進みます。M&Aの流れのなかでも、案件の成否を左右する山場のひとつです。
基本合意書(MOU)に盛り込まれる主な内容
基本合意書は、MOU(Memorandum of Understanding)とも呼ばれ、現時点で合意した主要条件を確認する書面です。譲渡価格の目安、スキーム、スケジュール、独占交渉権、デューデリジェンスへの協力、秘密保持などが盛り込まれます。なお、これらの書面の呼称は実務上ゆれがあります。中小企業庁の「中小M&Aガイドライン」では基本合意書の別称としてLOI・MOUが挙げられている一方、一般的な実務では買い手から示される意向表明書をLOIと呼ぶことも多く、用語は必ずしも統一されていません。大切なのは文書の名称ではなく、各条項に法的拘束力があるかどうかを一つひとつ確認することです。
ここで注意したいのが、基本合意書の法的拘束力です。多くの場合、価格などの取引条件そのものには拘束力を持たせず、独占交渉権や秘密保持といった一部の条項のみに拘束力を持たせます。ただし、案件や契約内容によっては、価格や一定の事前承諾事項などにも拘束力を持たせるケースもあります。どの条項がどこまで拘束するのかは文言次第で変わるため、締結前に弁護士などへ確認しておくことが重要です。
独占交渉権とその意味
基本合意書では、買い手に対して一定期間の独占交渉権が付与されるのが一般的です。これは、その期間中、売り手が他の買い手候補と交渉しないことを約束するものです。買い手は、独占交渉権を前提に、費用と時間をかけてデューデリジェンスを行います。
売り手にとっては、独占交渉権を付与すると他の候補と並行して比較しにくくなる点に留意が必要です。期間の長さや条件は、納得できる内容かどうかをよく確認したうえで合意するようにしましょう。
デューデリジェンス(DD・買収監査)で調査される項目
基本合意後、買い手は対象会社の実態を詳しく調べるデューデリジェンス(DD)を実施します。「買収監査」と訳されることもありますが、会計監査のような法定の監査とは異なり、買い手が任意に行う調査手続きです。DDは、買い手が「事前に聞いていた情報と実態に相違がないか」「想定外のリスクが潜んでいないか」を確認するためのプロセスで、財務・税務・法務・労務・事業など多面的に行われます。財務・税務面では公認会計士や税理士、法務面では弁護士といった専門家が関与するのが一般的です。
主な調査対象としては、財務諸表の正確性、簿外債務(帳簿に載っていない債務)や偶発債務の有無、税務リスク、係争・訴訟の有無、許認可や契約関係、労務問題などが挙げられます。ここで重大な問題が見つかると、価格の見直しや、場合によっては交渉の中止につながることもあります。
売り手がデューデリジェンスで準備しておくべきこと
DDをスムーズに乗り切るために、売り手側にも準備が求められます。決算書や契約書、許認可関連の書類、労務関連資料などを整理し、買い手からの質問に正確かつ迅速に回答できる体制を整えておくことが大切です。
このとき、不利になりそうな情報を隠そうとするのは得策ではありません。後から問題が発覚すると、表明保証違反として最終契約後に責任を問われたり、信頼を損なって破談につながったりするおそれがあります。マイナス材料も含めて誠実に開示し、対応策をあわせて説明する姿勢が、結果的に交渉を円滑にします。情報整理や開示範囲の判断に迷う場合は、利害関係のない専門家に相談しておくと安心です。なお、ここまでの段階で提示された条件が妥当かどうか不安を感じたら、契約を急ぐ前に中立的な第三者に確認してみるのも一つの方法です。判断に迷う場合は、無料のセカンドオピニオン窓口を活用することもできます。
最終契約の締結とクロージング

デューデリジェンスの結果を踏まえて最終的な条件を調整し、合意に至れば、いよいよ最終契約の締結とクロージング(取引の実行)へと進みます。M&Aの法的な完了に向けた最終段階です。
最終契約書(DA)と表明保証
最終条件の交渉がまとまると、最終契約書(DA:Definitive Agreement)を締結します。株式譲渡であれば株式譲渡契約書(SPA)がこれにあたります。最終契約書には、譲渡価格、支払い方法、譲渡の前提条件、表明保証、契約解除の条件などが詳細に定められます。
なかでも売り手が理解しておきたいのが「表明保証」です。表明保証とは、開示した財務・法務などの情報が真実かつ正確であることを、売り手が買い手に対して保証する条項です。契約後に表明保証の内容と異なる事実が判明した場合、売り手が損害賠償などの責任を負うことがあります。範囲や条件を十分に確認し、保証できない事項は事前に開示・調整しておくことが重要です。
このほか、一定期間の業績に応じて追加対価を支払うアーンアウト条項や、売り手経営者が一定期間会社に残って引き継ぎを行うロックアップ(キーマン条項)が設けられることもあります。これらは将来の支払いや働き方に関わるため、内容を正確に理解しておきましょう。
クロージングの実務とエスクロー
最終契約の締結後、契約に定められた前提条件(クロージング条件)を満たしたうえで、クロージングを迎えます。前提条件には、必要な許認可の取得・届出、株主総会や取締役会の承認、主要な取引先の同意、金融機関の承諾などが含まれることがあります。クロージングとは、株式や事業の引き渡しと譲渡代金の決済を行い、経営権を実際に移転させる手続きです。これにより取引の主要部分が実行されます。ただし、表明保証やアーンアウトなど、クロージング後も継続する契約上の義務がある点には注意が必要です。また、法的な効力が生じる時点は、株式譲渡・事業譲渡・組織再編といったスキームや契約条件によって異なるため、自社のケースではどの時点で何の効力が発生するのかを契約書で確認しておきましょう。
取引によっては、代金の一部を第三者機関に一時的に預けるエスクローという仕組みが用いられることもあります。これは、表明保証違反などが後で判明した場合に備えて、支払いの一部を保留しておくための仕組みです。クロージングで何を行い、いつ代金が支払われるのかは、契約書に沿って事前に正確に把握しておきましょう。
M&A成立後の流れ|PMI(統合プロセス)

M&Aはクロージングで終わりではありません。むしろ、当初の目的を実現できるかどうかは、成立後の統合プロセス(PMI)にかかっているといっても過言ではありません。売り手経営者も、引き継ぎ期間中はこのプロセスに関わることが多いため、流れを理解しておく価値があります。
PMI(Post Merger Integration)で取り組む主なこと
PMIは「Post Merger Integration」の略で、M&A成立後に行う経営統合のプロセスを指します。具体的には、経営方針や組織体制の統合、業務プロセスやシステムの統合、人事・労務制度の調整、企業文化のすり合わせなどに取り組みます。中小企業のPMIについては、中小企業庁が中小M&Aガイドラインとは別に、PMIに特化した指針として2022年3月に「中小PMIガイドライン」を策定し、その重要性と具体的な進め方を示しています(出典:中小企業庁「中小PMIガイドライン」2022年)。
PMIがうまくいかないと、期待したシナジー効果が得られなかったり、従業員のモチベーション低下や人材流出を招いたりすることがあります。買い手が主体となって進めることが多いものの、売り手経営者の協力が統合の成否を大きく左右します。
従業員・取引先への情報開示(ディスクロージャー)
M&A成立後には、従業員や取引先など関係者への情報開示(ディスクロージャー)が行われます。開示のタイミングや伝え方を誤ると、従業員の不安や離職、取引先との関係悪化につながりかねません。
特に従業員にとっては、雇用や処遇がどうなるかが最大の関心事です。買い手と協力し、誠実かつ丁寧に説明することで、不安を和らげ、円滑な引き継ぎにつなげることができます。売り手経営者がこれまで築いてきた信頼関係は、統合初期の混乱を抑えるうえで大きな力になります。
M&Aに要する期間と費用・手数料の目安

M&Aを検討する経営者が気になるのが、「どれくらいの期間がかかるのか」「どのような費用が発生するのか」という点です。ここでは一般的な目安を整理します。なお、実際の期間や金額は案件によって大きく異なるため、あくまで参考としてご覧ください。
M&Aに要する期間の目安
M&Aは、検討開始からクロージングまで、一般的に半年から1年程度かかることが多いとされています。ただしこれはあくまで目安で、小規模でシンプルな案件では3〜6か月程度で成立することもある一方、相手探しが難航したり、デューデリジェンスで論点が多かったりする大型・複雑な案件では1年以上に及ぶことも珍しくありません。各フェーズの大まかな期間の目安は下表のとおりです。
| フェーズ | 期間の目安 | 主なポイント |
|---|---|---|
| 検討・準備 | 1〜数か月 | 目的整理、専門家選定、資料準備 |
| マッチング・交渉 | 数か月程度 | 相手探しに時間がかかると長期化しやすい |
| 基本合意〜DD | 1〜2か月程度 | 調査範囲や論点の多さで変動 |
| 最終契約・クロージング | 1か月前後 | 前提条件の充足状況による |
| 成立後(PMI) | 数か月〜数年 | 統合の深さによって継続的に取り組む |
期間を左右するのは、相手探しのしやすさ、情報開示の準備状況、論点の多さなどです。準備を早めに進め、必要な資料を整えておくことが、結果的にスムーズな進行につながります。
M&Aで発生する費用・手数料の内訳
M&Aで発生する費用には、支援者に支払う手数料と、デューデリジェンスなどで専門家に支払う実費があります。手数料の体系は支援者によって異なりますが、一般的には相談料、着手金、中間金、成功報酬といった項目で構成されます。相談料や着手金が無料の支援者もあれば、各段階で費用が発生する場合もあるため、契約前に体系を確認しておくことが重要です。
成功報酬の算定には、レーマン方式という計算方法が広く用いられています。これは、取引金額を一定の区分に分け、区分ごとに異なる料率を掛けて合算する方式です。一般的な料率の目安は下表のとおりですが、注意したいのは「取引金額」として何を基準にするかです。株式の価額(株式価値)を基準とする場合、負債を含めた企業価値(EV)を基準とする場合、負債を含む移動総資産を基準とする場合などがあり、どの基準を採用するかによって報酬額は大きく変わります。料率や最低報酬額も支援者によって異なります。
| 取引金額の区分 | 料率の目安 |
|---|---|
| 5億円以下の部分 | 5%程度 |
| 5億円超〜10億円以下の部分 | 4%程度 |
| 10億円超〜50億円以下の部分 | 3%程度 |
| 50億円超〜100億円以下の部分 | 2%程度 |
| 100億円超の部分 | 1%程度 |
これらはあくまで一般的な目安であり、最低報酬額が設定されているケースも少なくありません。費用の総額は案件規模や支援者によって大きく変わるため、複数の支援者の手数料体系を比較し、内訳と計算方式を事前に確認することをおすすめします。なお、税理士や弁護士に支払うデューデリジェンス費用や、契約書作成費用などが別途発生する点にも留意が必要です。
こうした手数料の確認は、国の指針でも重視されています。中小企業庁の「中小M&Aガイドライン」は2024年8月に第3版へ改訂され、仲介者・FAに対して、提供する業務の内容・質や手数料の額(相手方が支払う手数料を含む)などを依頼者へ説明することが求められています(出典:中小企業庁「中小M&Aガイドライン(第3版)」2024年)。契約前には、料率・最低報酬・算定基準だけでなく、依頼後に当事者同士が直接交渉することを制限する条項や、契約終了後の一定期間内に成約した場合に手数料が発生する「テール条項」の有無・期間についても確認しておくと安心です。
売り手目線のメリット・リスクと失敗を避けるポイント

ここまで流れを見てきましたが、M&Aには売り手にとってのメリットがある一方、見落としがちなリスクも存在します。両面を理解したうえで進めることが、後悔のない意思決定につながります。
売り手が得られる主なメリット
売り手にとってのメリットとして、まず後継者不在の問題を解決し、事業を存続させられる点が挙げられます。廃業を選べば失われてしまう技術やノウハウ、ブランド、雇用、取引先との関係を、次の担い手に引き継げます。
また、創業者が株式の対価を得ることで、引退後の生活資金や次の挑戦のための資金を確保できます。さらに、大手企業の傘下に入ることで、単独では難しかった成長戦略や事業拡大を実現できる可能性もあります。経営者個人にとっては、金融機関からの借入に付されることの多い個人保証(経営者保証)から解放されるケースがある点も、見逃せないメリットです。ただし経営者保証は自動的に解除されるわけではなく、金融機関との調整が必要になります。国は経営者保証に依存しない融資慣行を進めており、全国銀行協会・日本商工会議所が策定した「経営者保証に関するガイドライン」(2013年公表)や、事業承継時に焦点を当てたその特則(2019年公表)が整備されています。M&Aや事業承継の際は、これらを踏まえ、保証の解除・移行の時期と方法を契約段階で明確にしておくことが大切です。ただし、保証を解除するかどうかは最終的に金融機関の判断によるため、必ずしも希望どおりに進むとは限らない点も理解しておきましょう。
見落としがちなリスク・デメリットと失敗パターン
一方で、売り手が見落としがちなリスクもあります。たとえば、情報管理が不十分で検討段階の情報が漏れ、従業員の動揺や取引先の離反を招くケース。条件を十分に比較検討しないまま進め、後から「もっと良い条件があったのではないか」と感じるケース。表明保証の範囲を理解しないまま契約し、成立後に責任を問われるケースなどです。
よくある失敗パターンとしては、目的が曖昧なまま流れに乗ってしまう、価格だけを見て買い手の方針を確認しない、専門家任せにして自ら条件を理解しない、といったものが挙げられます。これらは、各段階で「何のために、何を確認すべきか」を意識することで多くを防げます。以下は、流れの各段階で売り手が確認しておきたいポイントを整理したチェックリストです。
- 【検討・準備】M&Aで実現したい目的(事業存続・雇用維持・価格など)に優先順位をつけたか
- 【検討・準備】支援者の実績・得意分野・手数料体系を複数比較したか
- 【マッチング・交渉】秘密保持契約の内容を確認し、情報管理の体制を整えたか
- 【マッチング・交渉】価格以外の条件(雇用・引き継ぎ・支払い方法)も確認したか
- 【基本合意】独占交渉権の期間や条件に納得しているか
- 【デューデリジェンス】不利な情報も含めて誠実に開示する準備ができているか
- 【最終契約】表明保証・アーンアウト・ロックアップの内容を理解しているか
- 【全般】提示された条件の妥当性を、利害関係のない第三者にも確認したか
M&Aの流れをより有利に進めるために|第三者の視点とデジタル活用

ここでは、上位の解説記事ではあまり触れられていない、M&Aの流れをより納得感をもって進めるための2つの視点を取り上げます。いずれも、初めてM&Aに臨む売り手にとって実務的に役立つ観点です。
各段階でセカンドオピニオン(第三者の意見)が役立つ場面
M&Aの流れのなかでは、売り手が「この条件は妥当なのか」「このまま進めて大丈夫か」と迷う場面が必ず訪れます。提示された価格、独占交渉権の期間、表明保証の範囲、手数料の水準など、判断材料が専門的で、自分だけでは妥当性を見極めにくいためです。
そうした場面で有効なのが、すでに関わっている支援者とは別に、利害関係のない第三者の意見(セカンドオピニオン)を求めることです。医療で複数の医師に意見を聞くのと同じように、M&Aでも第三者の視点を入れることで、見落としていた論点に気づいたり、条件の妥当性を客観的に確認したりできます。
とりわけ、売り手と買い手の双方の間に立って調整する仲介の形態では、構造上、双方の利益が完全には一致しない場面も生じえます。この点は中小M&Aガイドラインでも、利益相反への配慮や依頼者への説明が求められている論点です。だからこそ、いずれの当事者とも利害関係を持たない第三者の確認が、既存の支援者のサポートを補完する役割を果たします。これは特定の支援者を否定するものではなく、売り手が情報を十分に理解したうえで主体的に判断するための、もう一つの視点を加えるという位置づけです。
たとえばM&Aインサイトが提供するM&Aセカンドオピニオンは、完全無料・成功報酬なしで、売り手の立場に寄り添って中立的な意見を提供するサービスです。特定の取引を成立させることを目的としないため、売り手が安心して相談できる点が特徴です。基本合意の前やデューデリジェンスの前など、後戻りしにくい意思決定の手前で第三者の確認を入れておくと、納得感をもって流れを進められます。
デジタル化で変わるM&Aの進め方
近年、M&Aの各プロセスにもデジタルツールが取り入れられ、進め方が変わりつつあります。代表的なのが、クラウド上で機密資料を共有・閲覧管理できるオンラインデータルーム(バーチャルデータルーム)です。従来は紙の資料を一室に集めて開示していたデューデリジェンスも、オンライン上で安全に資料を共有し、誰がどの資料を閲覧したかを記録できるようになりました。
また、M&Aマッチングプラットフォームの普及により、地理的な制約を超えて買い手候補を探せるようになっています。これらのデジタル化は、情報管理の精度を高め、手続きの効率化やスピードアップに寄与します。一方で、機密情報をオンラインで扱う以上、アクセス権限の管理や情報漏洩対策はこれまで以上に重要です。便利なツールを活用しつつ、情報管理の基本を徹底する姿勢が求められます。
M&Aの流れに関するよくある質問(FAQ)

最後に、M&Aの流れについて、売り手の経営者からよく寄せられる質問にお答えします。
Q. M&Aは検討開始からどのくらいの期間がかかりますか?
一般的には、検討開始からクロージングまで半年から1年程度が目安とされています。ただし、相手探しやデューデリジェンスの状況によって変動し、より短く済むことも、長期化することもあります。早めに準備を進め、資料を整えておくことが、スムーズな進行につながります。
Q. M&Aの流れのなかで、もっとも重要なステップはどこですか?
一概には言えませんが、検討・準備フェーズでの目的の明確化と、基本合意・デューデリジェンスの段階が特に重要とされます。準備段階で軸を固めておくと交渉がぶれにくく、デューデリジェンスでは誠実な情報開示が信頼関係と成約の確度を左右するためです。
Q. 専門家に任せれば、売り手は何もしなくてよいのですか?
専門家のサポートは重要ですが、最終的に意思決定するのは売り手自身です。目的や条件の優先順位を自ら整理し、各段階で内容を理解しながら進めることが大切です。判断に迷う場面では、利害関係のない第三者の意見を取り入れることも有効です。
Q. 従業員にはいつ、どのように伝えればよいですか?
一般的には、情報漏洩のリスクを避けるため、原則として最終契約やクロージングの段階まで、開示する範囲を限定して進めます。成立後は、買い手と協力し、雇用や処遇の見通しを含めて誠実かつ丁寧に説明することが、円滑な引き継ぎにつながります。タイミングや伝え方は案件ごとに異なるため、専門家と相談しながら進めるとよいでしょう。
Q. M&Aにかかる費用はどのくらいですか?
支援者に支払う手数料(相談料・着手金・中間金・成功報酬など)と、デューデリジェンスなどの専門家費用が発生します。成功報酬にはレーマン方式が広く用いられますが、料率や基準、最低報酬額は支援者によって異なります。具体的な金額は案件規模や支援者により大きく変わるため、契約前に内訳と計算方式を確認することをおすすめします。
Q. 提示された条件が妥当かどうか不安です。どうすればよいですか?
提示価格や契約条件の妥当性に不安を感じる場合は、契約を急がず、利害関係のない第三者に確認する方法があります。客観的な視点を入れることで、見落としていた論点に気づける場合があります。完全無料で相談できる窓口もありますので、後戻りしにくい意思決定の前に活用するとよいでしょう。
まとめ

M&Aの流れは、検討・準備、マッチング・交渉、基本合意、デューデリジェンス、最終契約・クロージング、そして成立後のPMIという一連のステップで進みます。それぞれの段階で「何が起こり、売り手として何を確認すべきか」を理解しておくことが、納得感のある意思決定につながります。
後継者不在や経営者の高齢化を背景に、M&Aは中小企業にとっても身近な選択肢となりました。だからこそ、初めての売り手こそ全体像を把握し、目的を明確にし、各段階で主体的に判断する姿勢が大切です。特に、価格や契約条件など専門的で判断に迷う場面では、すでに関わっている支援者とは別に、利害関係のない第三者の意見を取り入れることで、より客観的に妥当性を確認できます。
M&Aインサイトでは、売り手の立場に100%寄り添う中立的な第三者として、完全無料・成功報酬なしのM&Aセカンドオピニオンを提供しています。「提示された条件は妥当だろうか」「この流れで進めて問題ないか」といった疑問や不安があれば、意思決定を進める前に、お気軽に無料相談・お問い合わせ窓口までご相談ください。
※本記事は、一般社団法人M&Aセカンドオピニオン協会 代表理事の森沢雄太氏(日本M&Aセンター出身、M&A成約実績100件超)の監修のもと作成しています。
※本記事で紹介した統計・制度・手数料などは、執筆時点の情報に基づく一般的な目安です。制度は改正される可能性があり、税務・法務の取り扱いは個別の状況によって異なります。最新の情報や個別の判断については、公的機関(中小企業庁・事業承継・引継ぎ支援センターなど)や、税理士・弁護士などの専門家にご確認ください。