警備会社のM&A|認定承継と人材確保の観点から

警備会社のM&Aを検討する経営者のイメージ

警備会社の経営者として、こんな悩みを抱えていませんか。

「警備員の採用がままならず、事業規模を維持するだけで精一杯だ」「後継者が見つからないまま、気づけば自分も60代になってしまった」「大手グループから打診を受けたが、そもそも適正価格がわからない」

警備業界は今、急速な再編の波の中にあります。人手不足の深刻化、最低賃金の継続的な引き上げ、AIやロボットを活用した大手のコスト削減競争……こうした構造変化の中で、M&Aを選択肢として真剣に検討する経営者が増えています。

M&Aの意味・目的・手法・全体の流れをまず基礎から押さえておきたい方はこちら

しかし、「M&Aは大企業のもの」「相手の言い値で買い叩かれるのではないか」という不安から、最初の一歩を踏み出せずにいる方も少なくありません。その不安の多くは、情報が少ないことから来ています。

そこで本記事では、警備会社のM&Aについて、業界特有の動向・売却相場の考え方・プロセスと成功のポイントまでを体系的に解説します。売り手経営者が知っておくべき実務情報を、中立的な立場からまとめました。



目次

警備業界の現状と構造的課題

警備業界の人手不足と構造的課題を象徴する警備員の様子

警備業界は、日本の社会インフラを支える産業として長年にわたり成長を続けてきました。しかし近年、業界全体が複数の構造的な課題に直面しています。これらの課題がM&Aの背景にも深く関係しています。

市場規模と業界の概要

警備業は、警備業法(昭和47年法律第117号)第4条に基づき、都道府県公安委員会の認定(許可に類する制度だが、法律上の用語は「認定」)を受ける必要がある規制業種です。業務内容は主に4種類に分類されます。1号警備(施設・設備の警備)、2号警備(交通誘導・雑踏警備)、3号警備(貴重品の運搬警備)、4号警備(身辺警備)です。

警察庁「令和6年における警備業の概況」(2025年公表)によると、2024年末時点の警備員数は約58万8千人(587,848人)、警備業者の売上高総額は約3兆4,478億円に達しており、安定した市場規模を保っています。商業施設、病院、工場、工事現場など、あらゆる産業で警備サービスへの需要は存在し、景気変動に比較的強い市場を形成しています。

また、同調査では警備業者10,811業者のうち、警備員100人未満の事業者が全体の約9割以上を占めており、中小規模の事業者が業界の大多数を形成していることが確認されています。一方でセコム・綜合警備保障(ALSOK)・セントラル警備保障・東洋テックといった大手企業と、地域に根ざした中小企業が共存する二極構造となっており、大手の資本力とスケールメリットを活かした規模拡大がM&A活発化の背景の一つになっています。

人手不足の深刻化と人件費高騰

警備業界最大の課題が、警備員の確保難です。警備業務は体力的な負担が大きく、夜間・休日対応も多い労働集約型産業であるため、若年層の入職者が少なく、警備員の高齢化が進んでいます。帝国データバンクの「人手不足に対する企業の動向調査(2024年)」によると、サービス業全体での人手不足感は7割近くに達しており、警備業もこの傾向を強く受けています。

加えて、最低賃金の毎年の引き上げは、労働集約型の警備業の収益を直撃します。売上高に占める人件費の割合が高い中小の警備会社ほど、採算確保が困難になっています。大手企業がAIカメラやロボット警備の導入によってコスト構造を改善していく中で、こうした技術投資の余力がない中小企業との競争力格差は広がりつつあります。こうした状況が、中小の警備会社にとってM&Aを現実的な選択肢として浮上させています。

後継者不在問題の深刻化

帝国データバンクの「全国企業『後継者不在率』動向調査(2025年)」によると、日本企業全体の後継者不在率は50.1%に達しています。警備業においても、創業者や現経営者の高齢化と後継者問題は顕著です。

警備会社は創業者の人脈や地域での信頼関係によって成り立っているケースが多く、「承継する技術やノウハウはあるが、それを引き継げる人材がいない」という状況に陥りやすい傾向があります。こうした後継者不在リスクへの対応策として、M&Aは現実的かつ有力な選択肢となっています。


警備会社のM&Aの動向

警備会社のM&A動向について話し合う経営者たち

警備業界のM&Aは、件数・多様性ともに増加傾向にあります。その背景と特徴を整理します。

同業者間のM&A:規模拡大と人材確保

最も件数が多いのが、警備会社同士のM&Aです。大手警備グループが地域の中堅・中小警備会社を傘下に収める形が典型的なパターンです。

大手から見た買収の主な目的は、(1)営業エリアの拡大と既存顧客契約の取得、(2)即戦力となる警備員の確保、(3)警備業運営に必要な認定の維持と資格者・有資格人材の確保、(4)地域での知名度・ブランドの活用です。特に警備員の採用難が続く現状では、「即戦力の人材をまとめて確保できる」点が買い手にとって大きな魅力となっています。

中小の警備会社が大手グループに加わることで、採用力・研修体制・設備投資力が大幅に向上します。個人保証の解除、事業の継続性確保、従業員の雇用維持という点でも、売り手にとってのメリットは大きいものがあります。

異業種からの参入と多角化

近年、警備業界への異業種参入も増えています。物流・清掃・ビルメンテナンス・介護事業者が、既存の顧客基盤と組み合わせることでシナジーを生み出そうと警備会社を買収するケースが見られます。

また、IT企業が警備会社を買収し、AIカメラやセンサーなどのセキュリティテクノロジーと有人警備を組み合わせた新しいサービスモデルを構築する動きも出てきています。デジタルトランスフォーメーション(DX)の波が警備業界にも押し寄せており、テクノロジーと人的警備の融合によって企業価値を高めようとする買い手の存在が、M&Aの新たな動機となっています。

事業承継目的のM&A

後継者問題を背景とした事業承継型のM&Aも増加しています。売り手経営者が引退を見据え、会社の存続と従業員の雇用を守ることを最優先の目的としてM&Aに踏み切るケースです。

地域密着型の中小警備会社が、同地域の同業者や隣接地域を拠点とする警備グループに会社を譲渡することで、長年培ってきた顧客との関係や地域での信頼を引き継いでもらうという形が多く見られます。


警備会社のM&A手法:売り手が知っておくべきスキームの種類

M&Aの手法・スキームを比較検討する資料

M&Aには複数の手法(スキーム)があります。警備会社の売却においてよく使われる代表的な手法を、売り手目線で整理します。

手法 概要 特徴(売り手視点)
株式譲渡 会社の株式をそのまま買い手に譲渡する 最もシンプル。会社全体が対象。オーナーに個人課税(申告分離課税20.315%=所得税及び復興特別所得税15.315%+住民税5%)が発生する。許認可もそのまま引き継がれる
事業譲渡 特定の事業・資産・契約を選択的に譲渡する 売りたい事業だけを譲渡できる。ただし警備業の許認可は承継されないため、買い手が都道府県公安委員会の認定(警備業法第4条)を別途取得する必要がある
会社分割 事業を切り出して別会社に引き継ぐ 特定事業部門のみを分けて譲渡したい場合に使う。手続きが複雑
合併 2社が1つの会社に統合される 完全統合型。中小警備会社では同族間の再編などで使われる

警備業の場合、注意が必要なのは事業譲渡を選んだ際の許認可の取り扱いです。警備業法上、警備業の認定(都道府県公安委員会が付与するもの:警備業法第4条)は会社単位で付与されるものであり、事業譲渡によって自動的に買い手に移転するわけではありません。一方、株式譲渡であれば会社そのものが継続するため、許認可・既存の顧客契約・雇用関係もそのまま引き継がれます。この理由から、多くの警備会社のM&Aでは株式譲渡が選択されます。

警備会社のM&Aで多くの場合に選ばれる株式譲渡の仕組みや手続きの流れについては、以下の記事で詳しく解説しています。

なお、株式譲渡による売却益への課税(申告分離課税20.315%=所得税及び復興特別所得税15.315%〔所得税15%+復興特別所得税0.315%〕+住民税5%。国税庁タックスアンサー No.1463「株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)」参照)は、あらかじめ税理士に確認しておくことが重要です。最終的な手取り額をシミュレーションしておく必要があります。


警備会社の企業価値評価と売却相場

警備会社の企業価値評価・売却相場を検討する経営者

「自分の会社はいくらで売れるのか」は、M&Aを検討する経営者にとって最大の関心事の一つです。警備会社の評価方法と相場感を解説します。

企業価値評価の3つの計算方法をより詳しく知りたい方はこちら

主な評価方法

警備会社のM&Aでは、以下の評価アプローチが用いられることが多いです。

年買法(時価純資産+営業権)は、中小企業のM&Aでよく使われる実務的な方法です。時価純資産(簿価純資産を時価に修正したもの)に、営業利益の数年分(おおむね2〜5年分)を加算して企業価値を算定します。警備業では「継続的な顧客契約の収益力」がのれんとして評価されます。計算の前提(修正年数や純資産の時価修正の範囲)は案件ごとに異なるため、税理士や専門家と確認することが必要です。

EBITDAマルチプル法は、EBITDA(営業利益+減価償却費等)に業界固有の倍率を掛けて企業価値を算定する方法です。収益力を直接評価するため、大手企業や財務投資家が買い手となるケースで多用されます。具体的な倍率は案件の規模・収益の安定性・買い手の戦略によって大きく異なるため、数倍程度という幅をもった参考値として考えるのが適切です。断定的な数値を示すことは難しく、最終的な価格は交渉によって決まります。

純資産法は、保有する資産から負債を差し引いた純資産で企業価値を評価する方法です。収益力よりも保有資産に着目する場合や、廃業検討との比較で用いられることがあります。

現実のM&Aでは、これらを組み合わせて複数の観点から価値を算定し、最終的に買い手・売り手の交渉によって価格が決まります。1つの方法だけを鵜呑みにするのではなく、複数の視点から自社の価値を把握しておくことが重要です。

警備業の収益構造と評価への影響

警備業は売上に占める人件費の割合が非常に高い業種です。規模や業務の種類によって差はありますが、人件費が売上の60〜80%程度に達するケースも珍しくありません。この収益構造は、買い手による評価において重要な前提となります。最低賃金の継続的な上昇局面において、人件費増を契約単価への転嫁や業務効率化でどこまで吸収できるか——この点が収益の安定性評価に直結します。

価格に影響する主な要因

売却価格は、財務指標だけでなく以下の定性的な要素にも大きく影響されます。

  • 顧客契約の安定性(長期継続契約の割合、解約リスク)
  • 警備員の定着率と平均勤続年数
  • 警備業法上の認定取得状況と法令遵守の実績
  • 管理部門の整備状況(業務が「オーナー頼み」でないか)
  • 警備設備・機械警備システムの保有状況
  • 財務の透明性(帳簿・申告の整合性)

特に警備業は人材依存度が高いため、「オーナー不在でも回る組織体制が整っているか」は買い手が最も重視するポイントの一つです。オーナー個人の人脈に依存した顧客基盤は、M&Aによるオーナー交代後のリスクとして買い手から低く評価される傾向があります。


警備会社をM&Aする売り手のメリット

M&Aによって前向きな未来を見据える経営者

M&Aは「会社を手放す」ことではなく、会社と従業員の未来を確保するための選択肢です。売り手経営者が得られる主なメリットを整理します。

後継者問題の根本的な解決

親族や社内に後継者がいない場合、M&Aは事業を継続させるための有効な手段です。創業以来培ってきた地域での信頼関係や顧客との関係を、廃業によってゼロにしてしまうのではなく、引き継いでもらうことができます。特に警備業は地域密着型のサービスであることが多く、廃業による顧客への影響・従業員への打撃を防ぐという意味で、M&Aを選択する経営者の声は多いです。

従業員の雇用継続と待遇改善

大手グループの傘下に入ることで、福利厚生の充実や研修体制の強化など、従業員にとってのメリットが生まれる場合があります。特に中小企業では難しかった賞与の安定化やキャリアパスの明確化が、大手グループの一員となることで実現しやすくなります。雇用条件の維持・継続は、交渉の段階で重要な条件として設定することができます。

まとまった売却資金の確保と個人保証の解除

株式譲渡によって、オーナーは株式の対価としてまとまった資金を得ることができます。また、多くの中小企業経営者が抱える金融機関への個人保証(経営者保証)についても、M&Aを機に解除される場合があります。個人保証の解除は金融機関との個別協議によって判断されるものであり、実務上は「経営者保証に関するガイドライン」の考え方も参照されます。案件の内容・買い手の信用力なども判断材料となるため、事前に金融機関に確認しておくことが必要です。

経営基盤の強化とスケールメリット

単独では難しかった採用強化・設備投資・IT化が、グループの資本力を活かすことで可能になります。大手グループの一員となることで、営業エリアの拡大や新サービスへの参入が現実的になるケースもあります。売却後もしばらく経営に関わる形(ロックアップ期間:売り手が会社に留まる義務を負う期間)を設ける場合は、グループの資源を活用して自社の成長を見届けることもできます。


買い手が高く評価する警備会社の特徴

買い手側が警備会社の評価ポイントを確認する様子

M&Aで有利な条件を引き出すためには、買い手が何を重視するかを理解しておくことが重要です。

顧客契約の継続性と取引先の分散

長期継続型の顧客契約(特に施設警備などの常駐型)を多数保有している会社は高評価を受けやすいです。反対に、1〜2社の大口顧客への売上集中度が高い場合、そのリスクは評価に反映されます。取引先の分散、契約の安定性、解約率の低さがポジティブな評価につながります。

自走できる組織体制

「オーナーが抜けても業務が回る」体制が整っているかどうかは、買い手が特に重視するポイントです。現場の主任・リーダーへの権限移譲が進んでいる会社、シフト管理・顧客対応が組織として機能している会社は、高く評価される傾向があります。M&Aの前から意識的に人材育成・組織整備を進めておくことが、評価額の向上につながります。

有資格者の確保と法令遵守

警備業法では、警備員指導教育責任者や機械警備業務管理者などの資格者の配置が義務付けられています。こうした法定資格の保有者が複数いることは、事業の継続性という観点で買い手にとって魅力です。また、過去の法令違反歴がないことも、デューデリジェンス(DD)において重要な確認事項となります。

財務の透明性

帳簿と実際の取引の整合性が取れていること、税務申告が適切に行われていることは、M&Aの前提条件です。「売上の一部が帳外取引になっている」「個人・法人の経費が混在している」といった状況は、DDでの指摘事項となり、価格引き下げや条件変更の原因になります。M&Aを検討し始めたら、まず財務の整備を税理士と連携して進めることをおすすめします。


マイナス評価になりやすいリスク要因

M&Aにおけるリスク要因を慎重に確認する様子

買い手からのマイナス評価につながりやすい要因も把握しておきましょう。

警備員の高齢化と定着率の低さ

警備員の平均年齢が高く、若手の採用・定着が進んでいない会社は、買収後の人材確保に懸念を持たれます。特に2号警備(交通誘導)は高齢化が顕著な分野であり、今後の事業継続性の観点から評価が下がる可能性があります。在籍する警備員の年齢構成・定着率・勤続年数のデータは、DDで必ず確認される項目です。

特定顧客・オーナーへの依存

売上の大部分が1社に依存していたり、顧客獲得がオーナーの個人的なネットワークに頼っている場合、オーナー交代後の売上維持が不確実として評価されます。M&Aの前から組織的な営業体制を整えておくことが、こうしたリスクを軽減する対策として有効です。

大手のデジタル化・AI化への対応遅れ

AIカメラ・センサー・クラウド型管理システムを活用した機械警備の比率が低く、有人警備のみに依存している会社は、コスト競争力の観点で懸念されることがあります。デジタル化への対応状況も、買い手の評価基準の一つになっています。設備の老朽化・システムの未整備は、価格交渉の材料にされやすい要因です。

法令違反・コンプライアンス上の問題

警備員への賃金不払い、警備業法違反の履歴、未払い残業代などのコンプライアンス上の問題は、DDで必ず精査されます。これらがある場合、価格の大幅な引き下げや、最悪の場合は取引の中断につながります。M&Aを意識し始めたら、社会保険の適正加入・残業代の適正処理を早めに整備しておくことが重要です。


警備会社M&AのプロセスとDD(デューデリジェンス)

M&Aのプロセスとデューデリジェンスの流れを確認する専門家たち

M&Aの一般的な流れを、警備業界の特性も踏まえて解説します。

全体の流れと期間の目安

M&Aは大きく「検討・準備」「マッチング・交渉」「最終合意・クロージング」の3フェーズに分かれます。全体のスケジュールは案件によって異なりますが、半年〜1年程度を想定しておくのが一般的です。

検討開始からクロージングまでのM&Aの流れを各ステップごとに詳しく確認したい方は、以下の記事も参考にしてください。

フェーズ 主なステップ 期間の目安
検討・準備 目的の整理、企業価値の概算把握、アドバイザー選定、NDA(秘密保持契約)締結 1〜3か月
マッチング・打診 IM(企業概要書)作成、買い手候補へのアプローチ、ノンネームでの打診、トップ面談 1〜4か月
基本合意・DD LOI(意向表明書)または基本合意書(MOU)締結、デューデリジェンス(財務・法務・人事等) 1〜3か月
最終交渉・契約 最終契約書(DA)の交渉・締結、クロージング条件の確認 1〜2か月
クロージング後 株式代金決済、役員・従業員への通知、PMI(統合作業)開始 継続

NDAとは秘密保持契約のことで、交渉開始の前に必ず締結します。IMとは企業概要書のことで、自社の事業内容・財務概要・売却の背景などをまとめたドキュメントです。LOI(意向表明書)は買い手が売り手に買収意向・概算価格・条件を示す書類であり、法的拘束力は持たないことが多いですが、その後の条件交渉の基礎となります。

警備業界特有のDDチェックポイント

デューデリジェンス(DD)とは、買い手が売り手の実態を詳細に調査するプロセスです。財務DD・法務DD・人事DDが主な柱となります。警備業では以下の項目が特に重点的に確認されます。

デューデリジェンスの目的・種類・流れを基礎から確認したい方はこちら

  • 警備業法第3条の欠格事由への該当確認(役員・重要使用人に犯罪歴・反社会的勢力との関係等がある場合、認定の取得・維持に重大な影響を及ぼすおそれがあるため最重要項目)
  • 警備業法上の認定の状況および各種変更届出(都道府県公安委員会への認定内容・役員変更届・営業所変更届等)
  • 有資格者の在籍状況(警備員指導教育責任者・機械警備業務管理者等の資格証)
  • 顧客別売上構成と主要契約の内容・残存期間・更新条件
  • 警備員の雇用契約・就業規則と実態の整合性
  • 未払い残業代・社会保険の適正加入状況
  • 設備・車両・機械警備機器の状態と耐用年数
  • 主要顧客との契約書の内容(中途解約条項・排他条項等)
  • 過去の労災・警備事故の有無と対処状況

売り手として事前に整備しておくべき書類は、決算書(3期分)・法人税申告書・登記事項証明書・主要顧客との契約書・警備業者標識(認定番号・公安委員会・有効期間等を記載したもの。2024年4月1日施行の警備業法改正により認定証は廃止され、標識の掲示・ウェブサイト掲載が義務付けられている。ただし常時使用する従業員数が5人以下の事業者等は適用除外)・変更届出書類の写し・就業規則・雇用契約書・有資格者の免状のコピーなどです。これらを事前にまとめておくと、DDがスムーズに進み、交渉の遅延を防ぐことができます。

クロージングとPMI(統合プロセス)

契約書(DA:最終契約書)の締結後、株式の引き渡しと代金決済が行われてM&Aは完了します(クロージング)。しかし、M&Aの本当の成否はその後のPMI(Post Merger Integration:統合プロセス)によって決まります。

警備業のPMIで特に重要なのが、(1)従業員への説明と不安の解消、(2)顧客への報告と関係の維持、(3)業務システムの統合、(4)組織文化の融合の4点です。警備員は契約ごとに現場配置されることが多く、「会社が変わった」という情報が広がれば離職につながるリスクがあります。

さらに警備業では、現場単位の契約を顧客が解約できる構造があるため、M&A前後にキーマンとなる警備員(現場を束ねるリーダー・主任)が離職した場合、顧客が警備会社を切り替えるリスクが高まります。こうしたキーマン警備員の引き留めはPMI計画の中で優先的に手を打つべき課題の一つです。買い手と協力して、「雇用条件を維持する」「引き続き同じ現場で働いてもらう」というメッセージを早期かつ丁寧に伝えることで、従業員と顧客の双方に安心感を持たせることが、PMIの成否を左右します。


警備会社M&Aを成功させるポイント

中立的な第三者に相談しながらM&Aを進める経営者

売却目的を自分の中で明確にしておく

M&Aを始める前に、「何を最優先に実現したいか」を自分の中で整理しておくことが重要です。「後継者問題を解決したい」「従業員の雇用を守りたい」「まとまった資金を確保したい」「自分は引退したい」……優先順位によって、買い手選びの軸も交渉の落とし所も変わってきます。目的が曖昧なまま交渉に入ると、途中で方向性が定まらず、交渉が長期化したり条件が悪化したりするリスクがあります。

財務の整備を早めに始める

M&Aの検討を始めてから慌てて財務を整備しようとしても、DDでの問題指摘を避けることはできません。少なくとも直近3期の申告・帳簿の整合性、個人・法人経費の分離、役員報酬の適正化などを、できれば2〜3年前から準備しておくことが理想的です。税理士との連携を早めに始めておくことが、M&Aの成否に直結します。

複数の買い手候補との並行検討

1社のみと交渉を進めると、価格・条件の交渉力が著しく低下します。複数の候補と並行して検討することで、競争原理が働き、条件が改善されやすくなります。また、異なる買い手から異なる条件・スキームが提示されることで、自社にとって最適な選択を比較しやすくなります。

従業員・顧客への情報開示のタイミング

M&Aの情報が交渉中に漏れると、従業員の離職や顧客の解約につながるリスクがあります。基本合意後、最終契約締結のタイミングまで情報管理を徹底し、クロージング時に適切な形で関係者に伝えることが大切です。警備員は直接現場での関係が深いため、個別の丁寧なフォローが重要です。

第三者の中立的な意見を活用する

M&Aアドバイザーや仲介会社から提示される条件が「本当に妥当か」を判断するのは、経験のない経営者には難しいことです。特に初めてM&Aを行う場合、特定の仲介会社に依存するだけでなく、中立的な立場からの意見を確認することで、条件の妥当性や見落とし事項を整理する視点が得られます。

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警備会社M&Aにおける売却前の準備チェックリスト

M&Aに向けて書類を整理・準備する経営者

M&Aを成功させるための事前準備として、以下の項目を確認してください。

  • 直近3期の決算書・法人税申告書が整備されている
  • 役員報酬と個人・法人経費が明確に分離されている
  • 主要顧客との契約書が整理・保管されている
  • 警備員の雇用契約書・就業規則が最新の状態に更新されている
  • 有資格者(警備員指導教育責任者等)の免状がすべて確認できる
  • 未払い残業代・社会保険の未加入がないか確認している
  • 警備設備・車両の状態と帳簿価額の整合性が確認されている
  • 警備業の認定の状況が最新になっており、警備業者標識が適切に掲示されている(2024年4月改正:認定証廃止・標識掲示義務化)
  • 役員・重要使用人に警備業法第3条の欠格事由(犯罪歴・反社会的勢力との関係等)がないことを確認している
  • オーナー不在でも業務が回るリーダー・管理者が育っている
  • M&Aの目的・優先順位(価格・雇用・引退後の関わり方等)が整理されている
  • 税理士と連携して個人への課税影響をシミュレーションしている

よくある質問(FAQ)

Q1. 警備会社のM&Aにはどれくらいの期間がかかりますか?

案件の内容・買い手候補の状況によって異なりますが、一般的には着手から最終契約・クロージングまで半年〜1年程度が目安です。DDの結果によって問題が発覚した場合や、条件交渉が難航した場合はさらに長期化することがあります。逆に、シンプルな構造の会社であれば3〜6か月程度で完了するケースもあります。

Q2. 従業員にはいつ、どのように伝えるべきですか?

案件によって差はありますが、情報漏えいのリスクや引き継ぎの必要性を踏まえ、基本合意後からクロージング前後にかけて行われることが多い傾向があります。それ以前に情報が漏れると従業員の動揺・離職につながるリスクがあります。伝えるタイミング・内容・方法は買い手と事前に協議し、「雇用条件は維持される」「会社は継続する」という安心感を与えることが重要です。

Q3. M&Aにかかる費用(手数料)はどのくらいですか?

M&Aアドバイザーや仲介会社を利用する場合、成功報酬として最終的な取引金額を基準にした手数料が発生するのが一般的です(レーマン方式が多く使われます)。中小M&Aガイドライン(第3版:2024年8月改訂、2025年1月より登録M&A支援機関への適用開始)では、手数料の計算根拠の開示と説明の透明性が求められています。また、仲介型のアドバイザーは売り手・買い手双方に利害関係を持つため、利益相反の状況についても事前に説明を受けることが推奨されます。手数料の種類(着手金・月額報酬・成功報酬)や計算方式は事前に確認し、複数社の条件を比較することをおすすめします。

Q4. M&A後もオーナーは会社に残る必要がありますか?

買い手の意向・買収の目的によって異なります。引退したい場合は、クロージング後1〜2年程度は業務の引き継ぎのためにロックアップ期間(売り手が会社に留まる義務を負う期間)を設けることが多いです。その期間と条件(役員報酬・業務内容)は交渉事項となります。「引退後も顧問として関わりたい」「完全に手を引きたい」といった希望は、早い段階から買い手に伝えておくことが重要です。

Q5. 赤字の警備会社でもM&Aは可能ですか?

赤字であっても、顧客契約の安定性・有資格警備員の確保という観点から買い手がつくケースはあります。ただし、赤字の原因が構造的なものか一時的なものかによって評価は大きく異なります。財務体質が厳しい場合でも、地域での知名度・長年の顧客関係・法定資格者の保有といった無形の価値が評価されることがあります。まず専門家に相談し、客観的な評価を把握することが第一歩です。

Q6. M&Aを進める際の情報管理の注意点は何ですか?

最も注意すべきは、交渉段階での情報漏洩です。「会社を売りに出している」という噂が広がると、警備員の離職・顧客の解約・取引先との関係悪化につながります。NDA(秘密保持契約)を必ず締結し、情報を知る社内の人間を最小限に絞ることが基本です。アドバイザーを利用する場合も、どの時点でどの情報を開示するかのルールを事前に確認してください。

Q7. 警備業法の認定はM&A後にどうなりますか?

株式譲渡の場合、会社そのものが存続するため、公安委員会の認定はそのまま維持されます。ただし、役員変更・代表者変更が生じた場合は変更届の提出が必要です。事業譲渡の場合は、買い手が警備業を営むには原則として都道府県公安委員会の認定(警備業法第4条)を新たに取得する必要があります。M&Aの手法選択にあたっては、許認可の取り扱いについて事前に弁護士・行政書士と確認しておくことが重要です。


まとめ

警備会社のM&Aは、人手不足・高齢化・後継者不在という業界の構造的課題を背景に、今後も増加が見込まれます。売り手経営者にとって、M&Aは「会社を手放す」ことではなく、「会社と従業員の未来を守るための選択肢」です。

適切な準備と情報収集によって、M&Aは売り手にとって大きなメリットをもたらすことができます。一方で、条件の妥当性を判断するための知識や、交渉過程での情報の非対称性への対処が難しいのも事実です。

特に初めてM&Aを経験する売り手経営者にとって、提示された条件が自社にとって本当に妥当かどうかを確認するためには、複数の視点が必要です。特定の会社だけに依存するのではなく、中立的な立場からのアドバイスを活用することで、より良い意思決定が可能になります。

M&Aインサイトでは、完全無料・成功報酬なしで、売り手経営者の視点に立ったM&Aセカンドオピニオンを提供しています。「条件が妥当かどうか確認したい」「まだ検討段階だが専門家の話を聞きたい」という方も、お気軽にご相談ください。


監修:森沢 雄太(もりさわ ゆうた) 一般社団法人M&Aセカンドオピニオン協会 代表理事。日本M&Aセンター出身。M&A成約実績100件超。

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