赤字が続いている会社を経営していると、「このまま続けていけるだろうか」「廃業するしかないのか」と不安を感じる経営者は少なくありません。金融機関からの借入返済、従業員の雇用維持、取引先への影響——さまざまなプレッシャーが重なるなかで、出口戦略としてM&A(会社売却)を検討し始めた方もいるでしょう。
しかし、「赤字の会社なんて誰も買ってくれないのではないか」という思い込みから、せっかくの選択肢を最初から排除してしまっているケースが多く見受けられます。
実際には、赤字会社であっても売却に成功した事例は数多く存在します。赤字という財務状況だけで会社の価値が決まるわけではなく、技術・人材・取引先・ブランドなど、財務諸表には表れない資産が評価される場合があるからです。
そこで本記事では、赤字の会社でもM&Aで売却できる理由や条件、具体的な売却手法、価格の算出方法、そして売却を成功に近づけるためのポイントまでを、売り手経営者の視点から詳しく解説します。廃業を検討する前に、ぜひ最後までご確認ください。

M&Aセカンドオピニオン協会
代表理事 森沢 雄太
外資系銀行でのウェルスマネジメント業務を経て、日本M&Aセンターに入社。譲渡側アドバイザーとして100件超の成約に関与し、野村證券出向や福岡支店立ち上げも経験。2018年に日本投資ファンド立ち上げに参画し、投資先の再生にも成功。2022年、合同会社M&Aプレップを創業し、仲介会社・ファンドへの支援やオーナー向け売却準備、買収支援など幅広く展開。2024年には売却支援事業拡大のため株式会社企業経営支援機構を設立し代表に就任。加えて、M&Aにおける利益相反や情報格差の是正を目的とし、代表理事として一般社団法人M&Aセカンドオピニオン協会を設立。
赤字の会社でもM&Aによる売却は可能か

「赤字=売れない」というのは誤解です。M&Aにおいて売却の可否は、損益計算書上の黒字・赤字だけで決まるわけではありません。
会社の売却価格や買い手のニーズは、純利益の有無よりも、その会社が保有する資産や将来性、買い手にとってのシナジー効果(相乗効果)によって大きく左右されます。中小企業庁が公表している「中小M&Aガイドライン(第3版)」でも、赤字企業や債務超過企業であっても中小M&Aが成立した事例が紹介されています。
もちろん、すべての赤字会社が売却できるわけではありません。また、黒字企業や資産超過企業と比べると、赤字会社のM&Aは難易度が上がることも事実です。買い手候補の数が限られやすく、交渉においても売り手側の立場が弱くなりやすい側面があります。「赤字でも売れる場合がある」という情報は正しいですが、過度に期待値を高めたまま進めると、実際の交渉段階でギャップを感じるケースもあります。現実的な視点を持ちながら、早めに専門家へ相談して自社の状況を客観的に把握することが、出口戦略を考えるうえでの重要な第一歩です。
しかし、「赤字だから売れない」と思い込んで選択肢を狭めることは、経営者にとっての機会損失につながる可能性があります。
赤字企業とはどのような状態を指すか
赤字企業とは、一般的に「当期純損失が発生している企業」を指します。売上高から費用をすべて差し引いた結果がマイナスになっている状態です。ただし、M&Aの文脈で「赤字会社」という場合は、営業赤字(本業での損失)を指すことが多く、営業利益や経常利益がマイナスの企業を意味します。
一時的な設備投資や事業再編によって当期損益が赤字になっているケースと、恒常的に本業が振るわない構造的な赤字とでは、M&Aにおける評価がまったく異なります。この区別を理解しておくことが、売却戦略を立てるうえで重要な出発点となります。
赤字でも買い手が現れる理由
赤字会社でもM&Aが成立する背景には、買い手側の目的や戦略が深く関係しています。
まず、買い手にとっての節税効果の可能性が挙げられます。赤字会社が保有する繰越欠損金(過去の赤字を将来の利益と相殺できる権利)は、その会社自身の将来所得との相殺が基本であり、単純な株式譲渡だけで買い手側の利益と自由に相殺できるわけではありません。ただし、適格合併などの組織再編やグループ通算制度を用いる場合でも、繰越欠損金の活用には税務上の制限規定があり、スキームと要件次第で限定的に活用できるにとどまります。税務上の扱いはスキームや要件によって大きく異なるため、専門家への確認が不可欠です。
また、赤字会社であっても、独自の技術・特許・許認可・ブランド・優良な顧客基盤・熟練した人材といった無形の価値を持っていれば、買い手にとって魅力的な投資対象になります。自社の事業を拡大したい、新規市場に参入したいと考えている買い手にとっては、ゼロから構築するよりも既存の基盤を取得するほうがコストと時間を節約できるからです。
さらに、事業規模の拡大やシナジー効果を目的とした買収では、赤字かどうかよりも「自社と組み合わせることでどれだけの価値が生まれるか」が重要な判断基準となります。
赤字会社が売却できるかどうかを左右する条件

赤字であっても売却が実現しやすい会社には、共通した特徴があります。逆に言えば、これらの要素を持っていない場合は、売却に向けた準備や改善が必要になります。
赤字の原因が明確で改善の見通しがある
買い手企業が最も懸念するのは「この赤字はいつまで続くのか」という点です。そのため、赤字の原因を自社で明確に分析できており、かつ改善策や将来的な黒字化のシナリオを示せる会社は、買い手にとってリスクが見えやすく、交渉が進みやすくなります。
たとえば「大型設備投資の減価償却が来期末に終わるため、翌期から大幅に損益が改善する見込みがある」「主力顧客の需要低下が一時的なもので、新たな取引先との契約が進んでいる」といった具体的な説明ができれば、赤字という状況そのものへの印象が変わります。
逆に赤字の原因が不明確だったり、構造的に解決が困難な状況であれば、売却条件が厳しくなったり、買い手が現れにくくなったりする可能性があります。
財務諸表に現れない強みを持っている
損益計算書が赤字でも、会社が保有する無形の強みが買い手にとっての価値になります。具体的には以下のような要素が評価の対象となります。
- 特許・商標・ノウハウなどの知的財産
- 業界固有の許認可(建設業許可、介護事業者指定など)
- 長年の取引実績がある安定した顧客基盤
- 業界内で高い評価を受けている技術者・専門人材
- 特定の地域や市場における競争優位性
これらは財務諸表上の「資産」として計上されていなくても、実際の事業価値として買い手に評価されることがあります。
将来の収益性が期待できる事業を持っている
業界全体の成長トレンドに乗っている、あるいは特定のニッチ市場でシェアを持っているといった場合は、現在の赤字よりも将来の収益ポテンシャルが重視されます。IT・介護・環境関連・食品製造など、社会的ニーズが高まっている業種の事業であれば、たとえ現在赤字であっても買い手の興味を引きやすいケースがあります。
赤字会社の主な売却手法

M&Aにはいくつかのスキーム(取引の枠組み)があり、赤字会社の場合もどの手法を選ぶかによって売却の実現可能性や売り手・買い手双方へのメリットが異なります。ここでは代表的な3つの手法を解説します。
株式譲渡
株式譲渡とは、売り手オーナーが保有する自社の株式を買い手に売却することで、会社の経営権を移転する方法です。中小企業のM&Aで最もよく使われる手法であり、手続きがシンプルで、会社の雇用関係や取引先との契約関係もそのまま引き継がれます。
赤字会社の場合、負債も含めて会社をまるごと引き渡すことになるため、買い手はデューデリジェンス(DD:買収前に行う詳細な調査)で財務・法務・税務の状況を細かく確認します。簿外債務(帳簿に計上されていない負債)や偶発債務(将来発生する可能性のある債務)が後から発覚するリスクがあるため、売り手側としては事前に自社の財務状態を正確に把握・開示しておくことが誠実な対応であり、交渉をスムーズに進めるためにも重要です。
売り手にとっては、株式売却益として所得を得られる点が特徴で、個人が保有する株式(非上場を含む)の売却益は原則として約20.315%の税率(申告分離課税)が適用されます。ただし、法人株主が株式を売却する場合は法人税等の対象となり、個人株主とは税負担の構造が異なります。
事業譲渡
事業譲渡とは、会社全体ではなく特定の事業や資産・負債を選んで買い手に譲渡する方法です。赤字部門を除いた収益性の高い事業だけを売却したり、逆に特定の事業のみを切り出して売却することができます。
赤字会社にとってのメリットは、会社全体を売却するのではなく「売れる部分だけを売る」という選択ができる点です。また、買い手側も引き受ける資産・負債を選べるため、不要なリスクを回避しやすくなります。
一方で、個別の契約・許認可・従業員についての同意取得が必要になる場合があり、手続きが煩雑になりやすいというデメリットもあります。税務上は、事業譲渡の対価を会社が受け取ることになるため、法人税・地方法人税・住民税・事業税等の課税対象となり、株式譲渡とは税負担の構造が大きく異なります。
合併・会社分割
合併とは、複数の会社が一つの会社に統合される形態です。吸収合併(存続会社が消滅会社を吸収する)と新設合併(複数の会社が解散して新会社を設立する)の2種類がありますが、合併を選択する場合は吸収合併が一般的です。なお、中小企業のM&A全体では株式譲渡が最も多く使われる手法であり、合併は特定の組織再編目的で選択されることが多いスキームです。
会社分割は、会社の一部の事業を新設会社または既存の他社に承継させる手法です。収益性の高い事業と赤字部門を分離し、良い事業だけを切り出して売却するという戦略的な活用が可能です。
これらの手法は手続きが複雑になりやすく、法的・税務的な検討が欠かせないため、専門家と連携しながら進めることが重要です。
赤字会社の売却価格はどのように算出されるか

「赤字だから価格はゼロに近いのでは」と思われる方もいるかもしれませんが、実際には赤字会社であっても企業価値評価の手法に基づいて売却価格が算定されます。価格に明確な「相場」はなく、買い手との交渉によって最終的な売却価格が決まります。
コストアプローチ(純資産法)
コストアプローチは、会社が保有する純資産(資産から負債を差し引いた金額)をベースに企業価値を算定する方法です。貸借対照表(バランスシート)をもとに時価ベースで資産・負債を評価し直す「修正純資産法」がよく使われます。
赤字会社の場合、収益力よりも資産価値に着目した評価が行われるケースが多く、不動産・設備・知的財産などの実物資産を多く保有している会社では、この方法で一定の評価額が算出されることがあります。ただし、負債が資産を上回る「債務超過」の状態では、純資産がマイナスになるため、買い手からの評価は厳しくなります。
インカムアプローチ(DCF法など)
インカムアプローチは、将来生み出すキャッシュフロー(現金収支)を現在価値に割り引いて企業価値を算定する方法です。代表的な手法がDCF法(ディスカウント・キャッシュフロー法)です。
現在は赤字であっても、将来の事業計画に基づく収益回復のシナリオが合理的に説明できる場合、インカムアプローチで一定の企業価値が算出されることがあります。ただし、予測の前提が楽観的すぎると買い手の信頼を損なうため、根拠のある計画を示すことが求められます。
マーケットアプローチ(類似会社比較法)
マーケットアプローチは、上場している類似企業の株価や、過去に成立した類似のM&A事例の取引倍率(EBITDAマルチプルなど)を参考に企業価値を算定する方法です。EBITDAとは税引前・支払利息・減価償却前の利益のことで、業種横断的な収益力の比較に使われます。
赤字会社の場合はEBITDAがマイナスになるケースもあるため、この方法を単独で使うのは難しい場合があります。複数の評価手法を組み合わせて、総合的に売却価格を検討するのが一般的です。
赤字会社の売却を成功に近づけるためのポイント

赤字の状態での売却は、黒字会社に比べて難易度が高いことは確かです。しかし、以下のポイントを意識して準備することで、売却の実現可能性を高めることができます。
赤字の原因を徹底的に分析し、説明できる状態にする
買い手は売却交渉の過程で必ず「なぜ赤字なのか」を確認します。このとき、売り手側が明確かつ誠実に説明できるかどうかが、交渉の行方を大きく左右します。
一時的な外部要因(コロナ禍の影響、原材料費の高騰など)による赤字なのか、それとも事業モデルや組織体制に構造的な課題があるのかを自社でしっかり分析し、改善策や対応状況とともに説明できる準備をしておくことが重要です。買い手が「このリスクは管理できる」と判断できる材料を提供できれば、交渉を前に進めやすくなります。
自社の強みを言語化して伝える
財務数値が良くない状況では、自社の強みをより明確に、具体的に伝えることが必要です。「うちには技術がある」という漠然とした表現ではなく、「OO分野で○件の特許を保有し、競合が参入困難な技術基盤がある」「主要取引先との取引継続年数は平均○年で、契約が長期的に安定している」といった形で、数値や事実に基づいた説明が説得力を持ちます。
譲れる条件と譲れない条件を整理しておく
売却条件の交渉では、売却価格のほかに従業員の雇用継続、自分自身の処遇、社名の存続、経営方針の維持など、さまざまな要素が議題になります。すべての条件にこだわりすぎると交渉が行き詰まるため、「絶対に守りたい条件」と「ある程度柔軟に対応できる条件」を事前に整理しておくことが、スムーズな交渉の鍵となります。
シナジー効果を見込める買い手を意識して探す
赤字会社の売却で価格を高めるためには、単に利回りを求める投資家よりも、自社との組み合わせで大きなメリットが生まれる「戦略的買い手」を見つけることが重要です。
たとえば、自社が持つ顧客基盤や販売網を活用したい他社、自社の技術を補完したい大企業、新しい地域市場への参入を目指している会社などがシナジー効果を見込める買い手候補として挙げられます。M&Aアドバイザーや仲介会社のネットワークを活用し、こうした候補先を広くアプローチすることが有効です。
売却のタイミングを見極める
赤字が続くなかで「もうダメだ」と判断してから慌てて売却を進めようとすると、売り手の立場が弱くなり、条件交渉で不利になるリスクがあります。資金繰りが逼迫してから動き出すのではなく、まだ時間的な余裕があるうちに情報収集を始めることが大切です。
「今すぐ売却する必要はないが、将来を考えると選択肢を把握しておきたい」という段階から専門家に相談することで、戦略的な準備ができます。
売却のタイミングや進め方について不安がある場合は、仲介会社に依頼する前に、中立的な立場からアドバイスをもらえるM&Aセカンドオピニオンの活用も選択肢の一つです。完全無料・成功報酬なしで売り手側の視点から状況を整理してもらえるため、まず情報を集めたい段階でも気軽に利用できます。
赤字会社の売却における注意点とリスク

赤字会社をM&Aで売却する際には、いくつかの注意点を理解しておく必要があります。特にデューデリジェンスの過程で問題が発覚すると、交渉が中断したり条件が大幅に変わったりする可能性があります。
簿外債務・偶発債務の事前確認
簿外債務とは、会計上の帳簿に計上されていない負債のことです。未払いの残業代、退職給付引当金の不足、係争中の訴訟リスク、連帯保証など、さまざまな形で存在する可能性があります。
買い手のデューデリジェンスで簿外債務が発覚すると、売却価格の引き下げや表明保証(売り手が財務状況について保証する契約上の約束)の条件が厳しくなる原因となります。売り手側は事前に自社の財務・法務状況を専門家と確認し、把握できている問題点は先に開示しておくほうが、長期的には信頼関係の構築につながります。
個人保証の扱い
中小企業の経営者の多くは、銀行借入に対して個人保証(経営者保証)を提供しています。M&Aで会社を売却した場合、個人保証の解除については買い手・金融機関との三者間での交渉が必要になります。「会社を売却すれば自動的に個人保証が外れる」わけではないため、事前に金融機関と協議しておくことが重要です。
経営者保証については、日本商工会議所・全国銀行協会等で構成する「経営者保証に関するガイドライン研究会」が策定・公表し、中小企業庁・金融庁が活用を促進している「経営者保証に関するガイドライン」を参考にしてください。
売却後も一定期間の競業避止義務が生じる場合がある
M&Aの契約には、売り手経営者が売却後に同一または類似の事業を行うことを一定期間禁止する「競業避止義務」が設けられることがあります。売却後の自分のキャリアプランに影響する可能性があるため、契約内容をよく確認し、必要に応じて条件交渉を行うことが重要です。
売却後の統合プロセス(PMI)への対応
PMI(Post-Merger Integration:買収後の統合プロセス)は、M&Aが成立した後に買い手企業が主導して行う経営統合の取り組みです。売り手経営者が関与する場面としては、一定期間にわたる引き継ぎ協力や役員としての継続勤務などが、契約上の取り決めとして定められることがあります。
なお、アーンアウト条項とは、将来の業績目標の達成に応じて追加の対価を支払う価格調整の仕組みであり、引き継ぎ支援のための在職とは別の概念です。赤字会社のM&Aでは業績回復を条件とした追加対価の設定が検討されるケースもあり、契約内容を事前によく確認することが重要です。
赤字の状況別:売却判断の目安

赤字の状態にはさまざまな段階があり、それぞれの状況によってM&Aの実現可能性や優先すべき対応が異なります。
| 赤字の状況 | M&A売却の可能性 | 優先すべき対応 |
|---|---|---|
| 一時的な赤字(外部要因・設備投資等) | 比較的高い | 赤字の理由と改善見通しを整理して積極的にアプローチ |
| 構造的な赤字だが資産・技術力あり | 条件次第で可能 | 強みを明確化し、シナジーを見込める買い手を探す |
| 債務超過(負債>資産) | 難しいが不可能ではない | 事業譲渡や会社分割による部分売却を検討 |
| 資金繰りが逼迫している状態 | 急いだ対応が必要 | 専門家への早期相談・私的整理の検討も含めて判断 |
債務超過の状態でも、事業の一部を切り出して収益性の高い部門だけを売却する事業譲渡や会社分割を活用することで、従業員の雇用を守りながら会社を整理できる可能性があります。
また、M&Aでの売却が難しい場合の選択肢として、事業承継・引継ぎ支援センター(全国各地に設置されている公的機関)への相談もあります。売り手・買い手のマッチング支援を無料で提供しており、中小企業の事業引き継ぎを専門的にサポートしています。
赤字会社の売却事例

実際にどのような赤字会社がM&Aで売却されているのか、参考になる事例をいくつか紹介します。いずれも個別の状況が異なりますが、赤字であっても売却が実現した背景を理解するうえで参考にしてください。
シャープの鴻海による支援・資本参加
電機大手のシャープは、液晶事業の収益悪化や多額の負債により業績が大幅に悪化し、2016年に台湾の鴻海精密工業(ホンハイ)による資本参加・再建支援を受けました。鴻海側は、シャープが保有するディスプレイ技術や国際的なブランド価値、生産基盤を評価した戦略的な取り組みでした。財務状況が悪化した状況でも、技術と知名度という強みが買い手の目的と合致した事例として知られています。
イーバンク銀行と楽天の資本・業務提携
インターネット銀行のイーバンク銀行(現・楽天銀行)は、2008年に楽天と資本・業務提携を結び、その後楽天グループとの連携を深めながら楽天グループの一員となりました。楽天の会員基盤と金融サービスを統合するシナジー効果が評価され、単体の収益性よりもグループ全体の戦略的価値が重視された事例です。
これらは大企業の事例ですが、中小企業でも同様の構図でM&Aが成立しています。独自技術や許認可、地域密着型のサービス基盤を持つ中小企業が、大企業や同業他社に買収されるケースは実際に多く存在します。赤字という財務状況よりも、買い手にとっての戦略的な価値が重視された結果であり、自社の強みを正しく理解し伝えることの重要性を示しています。
売却を進める前に確認すべき手続きの流れ

赤字会社のM&Aを進める際には、一般的なM&Aの流れと同様のプロセスをたどります。全体の流れを把握しておくことで、各段階で何を準備すべきかがわかりやすくなります。
M&Aの大まかな流れは以下のとおりです。
- 情報収集・専門家への相談(方向性の確認)
- アドバイザー・仲介会社との契約(支援体制の整備)
- 企業価値評価・売却条件の整理
- ノンネームシート・IM(インフォメーション・メモランダム)の作成と候補先へのアプローチ
- トップ面談(売り手・買い手の経営者同士の直接会談)
- LOI(基本合意書)の締結:売買条件の大枠を合意する文書
- デューデリジェンス(DD)の実施
- DA(最終契約書/Definitive Agreement)の締結
- クロージング(最終的な株式・資産の移転と代金の受け渡し)
赤字会社の場合は、特にデューデリジェンスの段階で財務・税務・法務の問題が発覚しやすいため、事前に自社の状況を整理し、開示できる情報を準備しておくことが重要です。
また、仲介会社やアドバイザーとの契約を結ぶ前に、契約形態(専任・非専任)や手数料体系(着手金・中間金・成功報酬の有無と金額)を十分に確認することをお勧めします。レーマン方式(売却価格に対して一定の料率をかける成功報酬体系)は多くの仲介会社やFAで採用例がありますが、会社規模や取引金額、依頼先によって手数料の体系や目安は大きく異なります。着手金・中間金の有無も含めて、契約前に必ず確認してください。
赤字会社のM&Aでは、プロセス全体にかかる期間が6ヶ月〜1年以上になることも少なくありません。買い手候補の選定や交渉に時間がかかるほか、デューデリジェンスで追加調査が発生すれば、さらに期間が延びることがあります。そのため、資金繰りに余裕があるうちに動き出すことが、選択肢の幅を広げるうえで非常に重要です。
売却前の準備として特に意識しておきたいのが、財務諸表・税務申告書(直近3期分)・登記事項証明書・主要な取引先との契約書などの基本書類の整備です。これらは買い手へのIM(インフォメーション・メモランダム:会社の概要をまとめた説明資料)作成やデューデリジェンスの際に必ず求められます。日頃から経理・法務の書類を整理しておくことが、スムーズな手続きの土台となります。
M&Aアドバイザーに依頼する前に知っておきたいこと

M&Aを進める際には、仲介会社やFA(ファイナンシャル・アドバイザー)といった専門家の支援を受けることが一般的です。しかし、どの専門家に依頼するかは非常に重要な判断であり、慎重に選ぶ必要があります。
仲介会社は売り手・買い手の双方から手数料を受け取るビジネスモデルが一般的です。それ自体は問題ではありませんが、売り手側にとって最善の条件を追求するというよりも、「取引を成立させること」が優先されるケースがあることも理解しておくべきです。
FAは売り手または買い手の一方だけを代理する専門家であり、依頼者の利益を最大化する立場で動きます。規模の大きいM&Aではよく使われますが、中小企業のM&Aでは仲介会社のほうが一般的です。どちらの形態にもそれぞれ特性があるため、自社の規模や状況に合った支援体制を選ぶことが大切です。
売り手経営者として重要なのは、仲介会社やアドバイザーから提示された条件や評価についても、「本当に自社の利益になっているのか」を客観的に確認する視点を持つことです。特に初めてM&Aを経験する経営者は、専門的な情報をそのまま受け取ってしまいがちです。
こうした情報の格差を補うために活用したいのが、M&Aセカンドオピニオンです。M&Aインサイトでは、日本M&Aセンター出身でM&A成約実績100件超の専門家が、完全無料・成功報酬なしの立場で、売り手経営者のご相談に応じています。すでに仲介会社と交渉中の方でも、条件が妥当かどうかを第三者の視点から確認するために利用されている方が増えています。
よくある質問

債務超過の会社でも売却できますか?
債務超過(負債が資産を上回る状態)でも、M&Aによる売却が実現したケースはあります。ただし、純資産がマイナスになるため、株式譲渡の価格は理論上ゼロ以下になり、実際には会社を「引き取ってもらう」形で対価がほとんどない取引や、買い手が債務の肩代わりをする形になることも多いです。
事業価値そのものが評価される場合は事業譲渡や会社分割という手法も有効です。また、私的整理(金融機関との任意交渉による債務整理)と組み合わせることで、売却可能な状態に改善してからM&Aを進める方法もあります。まずは専門家に現状を相談し、選択肢を整理することをお勧めします。
赤字の会社を売却する際の税金はどうなりますか?
売り手が個人オーナー(株主)の場合、株式譲渡によって得た売却益には約20.315%の税率(申告分離課税)が適用されます。一方、会社が事業を売却する事業譲渡の場合は、売却対価は法人の収入となり、法人税等が課税されます。
赤字が続いている会社の場合、繰越欠損金(過去の赤字の累積)があれば、売却益と相殺できる可能性もあります。具体的な税務処理は状況によって異なるため、税理士への確認が不可欠です。税務上の取り扱いを誤ると予期せぬ税負担が生じる可能性があるため、M&Aの検討段階から税務の専門家を交えて進めることを強くお勧めします。
売却後、従業員の雇用はどうなりますか?
株式譲渡の場合、会社の法人格がそのまま存続するため、従業員の雇用契約もそのまま引き継がれるのが原則です。事業譲渡の場合は、従業員個人ごとに同意を取得したうえで雇用契約を新たに結ぶ必要があります。
雇用の維持を売却条件に含めることは可能ですが、法的な拘束力の持たせ方や期間については慎重に契約条件を検討する必要があります。買い手候補を選ぶ段階から「雇用を守ってくれる会社かどうか」を重視することが、売り手経営者としての誠実な姿勢にもつながります。
赤字会社の売却には通常どれくらいの期間がかかりますか?
M&A全体のプロセスは、着手から最終的なクロージングまで、一般的に6ヶ月〜1年程度かかることが多いです。ただし、赤字会社の場合は買い手候補の選定や条件交渉に時間がかかるケースが多く、1年以上になることも珍しくありません。
期間を左右する主な要因として、買い手候補の数と絞り込みにかかる時間、デューデリジェンスで問題が発覚した場合の追加対応、金融機関との個人保証解除の交渉などが挙げられます。資金繰りが厳しい状況で急いで売却しようとすると、条件面で不利になるリスクがあります。売却を考え始めた段階で早めに専門家に相談し、十分な準備期間を確保することが、よりよい結果につながります。
まとめ:赤字でも諦める前にM&Aという選択肢を検討しよう

赤字の会社であっても、M&Aによる売却は十分に実現の可能性がある選択肢です。財務諸表上の赤字よりも、会社が持つ技術・人材・取引基盤・将来性といった要素が買い手にとっての価値になり得ます。
ただし、赤字状態での売却は黒字会社に比べて難易度が高く、準備の質が結果を左右します。赤字の原因を明確に分析し、自社の強みを具体的に伝え、シナジーを見込める買い手を見つけ、タイミングを見極めることが成功への道筋です。
また、M&Aのプロセスは複雑で、情報量の差が交渉に大きく影響します。「本当にこの条件でよいのか」「自分に不利な取引になっていないか」と感じたときは、一人で判断せず、中立的な専門家の意見を求めることが大切です。
M&Aセカンドオピニオンは、仲介会社とは異なる独立した立場から売り手経営者の疑問・不安にお答えします。赤字の状況でも相談できますので、まずは現状を整理するための一歩として、お気軽にご活用ください。
無料相談・お問い合わせはこちら(完全無料・成功報酬なし)
監修:森沢雄太(一般社団法人M&Aセカンドオピニオン協会 代表理事/日本M&Aセンター出身/M&A成約実績100件超)
