事業承継とM&Aの基礎知識|中小企業経営者が知っておくべき仕組みと流れを徹底解説

事業承継とM&Aの基礎知識を確認する中小企業経営者

「そろそろ会社の将来を考えなければ」「後継者が見つからない」——そう感じている経営者は、今や珍しくありません。2025年版中小企業白書によれば、中小企業の後継者不在率は官民の支援普及を背景に減少傾向にある一方、60歳以上の経営者が過半数を占める高齢化の状況は依然続いており、休廃業・解散件数は2023年以降再び増加傾向に転じています。

そのような状況の中、近年注目を集めているのがM&Aを活用した事業承継です。しかし「M&Aは大企業がするもの」「複雑で費用がかかりそう」といったイメージから、実態をよく知らないまま検討を後回しにしている経営者も多いのが現状です。

そこで本記事では、事業承継とM&Aの基本的な仕組みから、実際の流れ・メリット・デメリット・活用できる公的支援まで、売り手経営者の視点でわかりやすく解説します。これから事業承継を考え始める方にとって、最初の一歩を踏み出すための情報を網羅しています。


この記事の監修者

M&Aセカンドオピニオン協会

代表理事 森沢 雄太

外資系銀行でのウェルスマネジメント業務を経て、日本M&Aセンターに入社。譲渡側アドバイザーとして100件超の成約に関与し、野村證券出向や福岡支店立ち上げも経験。2018年に日本投資ファンド立ち上げに参画し、投資先の再生にも成功。2022年、合同会社M&Aプレップを創業し、仲介会社・ファンドへの支援やオーナー向け売却準備、買収支援など幅広く展開。2024年には売却支援事業拡大のため株式会社企業経営支援機構を設立し代表に就任。加えて、M&Aにおける利益相反や情報格差の是正を目的とし、代表理事として一般社団法人M&Aセカンドオピニオン協会を設立。

目次

事業承継とM&Aの基本的な関係

事業承継とM&Aの関係性を整理する経営者

事業承継とM&Aは、混同されることも多いですが、両者の関係を正しく理解することが検討の出発点になります。

事業承継とは何か

事業承継とは、現在の経営者が築いてきた会社・事業を、後継者へ引き継ぐことを指します。承継の対象は単に「経営の座」だけではなく、会社の株式・財産・取引先との関係・従業員・技術・ノウハウといった経営資源全般が含まれます。

事業承継の方法は、大きく以下の3つに分類されます。

  • 親族内承継:子や配偶者など身内に引き継ぐ方法。従来は最も一般的でしたが、近年は後継者となる親族がいないケースが増えています。
  • 従業員・役員への承継:社内の人材に引き継ぐ方法。会社をよく知る人物に任せられる安心感がある一方、株式取得の資金調達が課題になることがあります。
  • 第三者への承継(M&A):社外の第三者に会社・事業を売却・譲渡する方法。後継者が社内外に見つからない場合に有効な選択肢です。

後継者不足が深刻化するなか、第三者承継、すなわちM&Aを活用した事業承継は、中小企業においても現実的な選択肢として普及しつつあります。

M&Aとは何か

M&Aとは「Mergers and Acquisitions(合併と買収)」の略称で、企業の合併・買収・事業の譲渡などを通じて経営権を移転する取引全般を指します。事業承継の文脈では、主に「会社や事業を第三者に売却する」行為を指すことが多く、売り手経営者にとっては「事業を次世代に引き継ぐ手段のひとつ」として位置づけられます。

M&Aと聞くと大企業間の取引を想像しがちですが、実際には売上1億円未満の小規模な企業間でも活発に行われています。事業承継・引継ぎ支援センターなどの公的機関が無料で相談を受け付けており、中小企業・小規模事業者が活用しやすい環境が整いつつあります。

事業承継型M&Aの位置づけ

事業承継を目的としたM&Aは「事業承継型M&A」とも呼ばれ、主に以下のような状況で選択されます。

  • 親族・社内に後継者がいない、または後継者候補が承継を希望しない
  • 廃業よりも会社・雇用を守る方法を模索している
  • 経営者自身が引退後の資金確保を検討している
  • 会社を成長させてくれる相手先(買い手)に引き継ぎたい

後継者不足を背景に、国は事業承継型M&Aを政策的に後押ししており、補助金・相談窓口・ガイドライン整備などの支援制度を設けています。


M&Aによる事業承継のメリット

M&Aによる事業承継のメリットを検討する経営者

M&Aによる事業承継には、売り手(譲渡企業)側の経営者にとって具体的なメリットがいくつかあります。

後継者問題を根本から解決できる

後継者が見つからないまま年齢を重ねた場合、最終的に廃業を選ばざるを得なくなるケースがあります。廃業すると従業員の雇用が失われ、取引先にも多大な影響が及びます。M&Aによる第三者承継は、後継者不足という根本的な課題を解決する有力な手段です。

会社そのものを第三者に引き継ぐことで、事業・雇用・取引関係を維持したまま経営者が引退できます。特に地域に根ざした企業や、独自の技術・ノウハウを持つ企業にとって、廃業以外の選択肢として非常に重要な意味を持ちます。

創業者利益を得られる可能性がある

M&Aでは、売り手は株式や事業を一定の価格で譲渡するため、まとまった資金を受け取れます。これを「創業者利益」と呼びます。長年にわたって事業を育ててきた経営者が、その価値を適正に評価され対価を受け取ることができる点は、M&Aならではのメリットといえます。

売却価格は企業の財務状況・収益性・保有資産・ブランド力など多くの要素で決まります。専門家による企業価値評価(バリュエーション)を事前に受けることで、自社の適正な価値を把握することができます。

従業員の雇用と処遇が守られやすい

M&Aの手法によって、従業員の扱いは異なります。株式譲渡の場合は会社がそのまま存続するため、従業員の雇用関係は原則として維持されます。一方、事業譲渡の場合は労働契約が自動的には引き継がれず、従業員ごとに個別の同意が必要です。M&Aを検討する際は、採用する手法によって従業員への影響が変わる点を事前に把握しておくことが重要です。


M&Aによる事業承継のデメリットと注意点

M&Aによる事業承継の注意点を慎重に確認する経営者

メリットがある一方で、M&Aによる事業承継には売り手として理解しておくべき課題もあります。事前に把握しておくことで、適切な準備と対策が可能になります。

適切な買い手を見つけるのが容易ではない

M&Aを成立させるためには、自社の事業・文化・従業員を尊重してくれる適切な買い手を見つける必要があります。特に地方の中小企業や特定のニッチ市場に特化した企業の場合、マッチングに時間がかかることがあります。

M&A仲介会社やFAを活用することでマッチング先の選択肢は広がりますが、各社が持つネットワークや得意とする業種・規模は異なります。複数の専門家に相談することで、より多くの選択肢を得られます。

売却価格が期待通りになるとは限らない

売り手経営者が自社の価値を高く評価しているケースは多いですが、M&Aにおける価格は市場環境・業界動向・財務内容・シナジー効果など多くの要因に基づいて決まります。

主な企業価値評価の方法には以下のものがあります。

  • 純資産法:会社の純資産(資産-負債)を基準に価値を算出する方法。財務の透明性が高い企業に向いています。
  • DCF法(ディスカウント・キャッシュフロー法):将来得られるキャッシュフローを現在価値に割り引いて評価する方法。成長見込みのある企業の価値を反映しやすい手法です。
  • EBITDAマルチプル法:税引前・支払利息前・減価償却前利益(EBITDA)に業界の倍率をかけて算出する方法。業界比較がしやすい点が特徴です。

これらの評価方法の違いを知らないまま交渉に臨むと、自社に不利な条件を見逃してしまう可能性があります。

企業文化の統合に時間を要することがある

M&A後の経営統合(PMI)では、買い手企業と売り手企業の企業文化・業務プロセス・システムなどを統合する作業が必要になります。この統合プロセスがうまくいかないと、従業員のモチベーション低下や優秀な人材の離職につながることがあります。

クロージング(契約締結・株式譲渡の完了)後も、売り手経営者の引継ぎ期間・退任時期・引継ぎ後の役割を契約や実務上の合意であらかじめ整理しておくことで、スムーズな移行が期待できます。


M&Aによる事業承継の基本的な流れ

M&Aによる事業承継の流れとプロセスを確認する場面

M&Aによる事業承継は、一般的に以下のステップで進みます。各フェーズで必要な確認事項や専門家の関与について理解しておきましょう。

ステップ1:準備・方針の整理

まず経営者自身が「なぜM&Aをするのか」「どのような相手に引き継ぎたいのか」「引退後にどのような関与を希望するか」といった方針を整理します。この段階での目的の明確化が、後の交渉を円滑に進める基礎になります。

同時に、会社の財務状況・株主構成・許認可の状況・不動産や設備の状態なども確認します。複数の株主がいる場合は、M&Aを進めるための株主の理解を得ることも重要な準備のひとつです。

ステップ2:専門家への相談とマッチング

M&Aの専門家(仲介会社・FA・公的支援機関など)に相談し、買い手候補のマッチングを進めます。相手先が見つかると、売り手・買い手双方の概要を匿名で記載した「ノンネームシート」や「インフォメーション・メモランダム(IM)」が作成され、情報交換が始まります。

この段階では、情報管理が非常に重要です。M&Aの検討が社内外に漏れると、従業員の不安・取引先の動揺・競合他社への情報流出といったリスクがあります。秘密保持契約(NDA)を締結した相手のみと情報を共有することが基本です。

ステップ3:トップ面談とLOI(基本合意書)の締結

ノンネームでの打診を経て候補先が絞られると、売り手・買い手双方の経営者が直接会うトップ面談が行われます。互いの人柄・経営方針・将来ビジョンを確認する重要な場です。

面談後、条件が合意に近づくとLOI(Letter of Intent:基本合意書)が締結されます。これはM&Aの基本的な条件(価格の目安・スケジュール・独占交渉権など)を確認する書面で、法的拘束力が限定的な段階での合意文書です。ただし、このタイミングで「独占交渉期間」に入ることが多く、他の候補との交渉が制限される点には注意が必要です。

ステップ4:デューデリジェンス(DD)

LOI締結後、買い手側が売り手企業の実態を詳しく調査する「デューデリジェンス(Due Diligence:DD)」が実施されます。財務・法務・税務・人事・システムなど多岐にわたる調査が行われ、通常は数週間から数カ月かかります。

DDで問題が発見された場合、最終的な売却価格の調整や契約条件の変更につながることがあります。売り手としては、事前に自社の状況を正確に把握し、情報開示を誠実に行うことが重要です。

ステップ5:DA(最終契約書)の締結とクロージング

DDを経て最終条件が合意されると、DA(Definitive Agreement:最終契約書)が締結されます。株式譲渡の場合は「株式譲渡契約書(SPA)」がこれに該当します。

DAには取引価格・支払い条件・表明保証(売り手が自社の状態について保証する条項)・競業避止義務などが記載されます。特に表明保証の内容は、後のトラブル防止の観点から慎重に確認する必要があります。

契約締結後、株式・代金の受け渡し等が完了する「クロージング」をもってM&Aが成立します。

ステップ6:PMI(経営統合)

クロージング後は、買い手企業との経営統合(PMI)が始まります。業務プロセスの統一・システム移行・従業員へのコミュニケーションなど、円滑な統合に向けた取り組みが続きます。

売り手の経営者がすぐに完全に離れるのではなく、一定期間は経営の引き継ぎ・取引先への挨拶回り・従業員との関係維持などで関与するケースが多く見られます。


事業承継・M&Aで活用できる公的支援制度

事業承継M&Aの公的支援制度を調べる経営者

事業承継型M&Aに関しては、国・地方自治体が様々な支援制度を設けています。費用負担の軽減や手続きのサポートに活用できます。

事業承継・引継ぎ補助金

国が実施している「事業承継・M&A補助金」は、M&Aや事業承継に要する費用の一部を補助する制度です。売り手・買い手双方が対象となる枠があり、M&Aアドバイザリー費用・デューデリジェンス費用・PMI関連費用などが補助対象となります。

補助金の公募は年複数回行われており、枠ごとに対象経費・補助率・上限額が異なります。最新の公募情報や申請要領は、中小企業庁の公式サイトや補助金事務局のサイトで確認できます。

事業承継税制(特例措置)

後継者が非上場株式を相続・贈与により取得する際、一定の要件を満たせば相続税・贈与税の納税が猶予(実質的に免除)される制度です。親族内承継が主な対象ですが、M&Aを検討する前に税務上の選択肢として確認しておく価値があります。

事業承継・引継ぎ支援センター

全国各都道府県に設置されている公的機関で、後継者不在の中小企業の第三者承継(M&A)を無料でサポートしています。専門の相談員が、マッチングの仲介から手続きの案内まで一貫して支援しています。初めてM&Aを検討する経営者にとって、費用をかけずに相談できる公的な窓口として活用できます。


事業承継型M&Aを検討する際の重要なポイント

事業承継型M&Aを検討する際の重要ポイントを専門家と確認する場面

M&Aによる事業承継を成功させるためには、いくつかの視点で事前に準備を整えることが大切です。

早めに動き始めることの重要性

M&Aのプロセスは、着手から成約まで一般的に6ヶ月から1年以上かかります。経営者の健康状態の変化・業績の悪化・市場環境の変動などが起きた後では、選択肢が狭まる可能性があります。余裕を持って検討を始めることで、買い手の選定・価格交渉・PMIの準備など各フェーズに十分な時間をかけることができます。

自社の企業価値を事前に把握する

M&Aを検討する前に、自社の企業価値を専門家に評価してもらうことをお勧めします。財務内容・将来の収益性・保有資産・許認可・ブランド力・顧客基盤など、様々な観点から価値が算出されます。

適正な価値を把握していれば、買い手からの提示価格が妥当かどうかを自分自身で判断する材料になります。

複数の専門家の意見を比較する

M&A仲介会社に相談すると、「その会社のペースで進む」傾向があります。売り手にとって本当に有利な条件・タイミング・相手先かどうかを冷静に判断するために、複数の専門家の意見を聞いたり、セカンドオピニオンを活用したりすることが選択肢を広げることにつながります。

M&Aには情報の非対称性が存在します。売り手経営者が「よくわからないから専門家に任せる」という姿勢でいると、不利な条件を見逃してしまうリスクがあります。自分自身も基礎知識を持ったうえで交渉に臨むことが重要です。


まとめ:まず「知ること」から始める事業承継の検討

事業承継とM&Aの基本的な仕組みや流れを理解することは、将来の選択肢を広げる第一歩です。

M&Aは決して難しい話ではありません。後継者が見つからず廃業を考えている経営者にとっても、事業・雇用・技術を次世代につなぐ現実的な手段として機能します。一方で、価格交渉・デューデリジェンス・PMIなど各フェーズには専門的な判断が求められる場面も多く、信頼できる専門家のサポートが不可欠です。

M&Aを検討し始めた段階では、まず複数の相談窓口に情報収集を兼ねて話を聞いてみることをお勧めします。仲介会社への依頼を決める前に、中立的な第三者の視点から状況を整理することで、より納得のいく意思決定ができます。


M&Aセカンドオピニオンについて

M&Aの相談先を決める前に、「今の提案条件は適正か」「このタイミングで売るべきか」といった疑問を、成功報酬なしの中立的な立場から確認したい方には、M&Aセカンドオピニオンの活用をご検討ください。

M&Aセカンドオピニオンでは、M&A成約実績100件超の専門家が監修する完全無料のセカンドオピニオンサービスをご提供しています。仲介会社からの提案内容の確認・企業価値評価の妥当性確認・手続きに関するアドバイスなど、売り手経営者の立場に寄り添った中立的な意見を無料でお伝えします。

まずはお気軽にお問い合わせください。


本記事は、一般社団法人M&Aセカンドオピニオン協会 代表理事・森沢雄太氏の監修のもと作成しています。

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