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事業承継・引継ぎ支援センターとは?無料相談の使い方と限界

この記事の監修者

森沢 雄太
一般社団法人
M&Aセカンドオピニオン協会
代表理事
外資系銀行でのウェルスマネジメント業務を経て、日本M&Aセンターに入社。譲渡側アドバイザーとして100件超の成約に関与し、野村證券出向や福岡支店立ち上げも経験。2018年に日本投資ファンド立ち上げに参画し、投資先の再生にも成功。2022年、合同会社M&Aプレップを創業し、仲介会社・ファンドへの支援やオーナー向け売却準備、買収支援など幅広く展開。2024年には売却支援事業拡大のため株式会社企業経営支援機構を設立し代表に就任。加えて、M&Aにおける利益相反や情報格差の是正を目的とし、代表理事として一般社団法人M&Aセカンドオピニオン協会を設立。
事業承継・引継ぎ支援センターとは

「後継者がいないまま経営を続けている」「誰に相談すればいいのかわからない」——事業承継について考え始めた経営者の多くが、最初にこうした壁にぶつかります。身近に相談できる専門家がいない、相談すること自体に費用がかかりそうで踏み出せない、という声も少なくありません。
そんな売り手経営者が最初の相談先として検討したいのが、公的な相談窓口である「事業承継・引継ぎ支援センター」です。国の事業として全国47都道府県に48か所設置されており(東京都など複数の拠点を持つ地域もあります)、費用をかけずに事業承継の悩みを専門家に相談できる窓口として、多くの中小企業経営者に利用されています(出典:独立行政法人中小企業基盤整備機構プレスリリース、2026年5月29日発表)。
事業承継・引継ぎ支援センターは、中小企業庁が所管し「産業競争力強化法」に基づいて実施されている国の事業です。独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)が「中小企業事業承継・引継ぎ支援全国本部」として、助言やシステム運営、研修・広報などの面から各センターを支援する一方、実際の相談対応を担う各都道府県のセンターは、商工会議所や公益財団法人など地域の機関が国(経済産業局)の委託を受けて運営しています(出典:中小企業庁「事業承継」、東京商工会議所ほか各県センター公表情報)。運営主体は地域によって商工会議所・産業振興財団など形態が異なりますが、いずれも中小企業庁が所管する国の事業を地域の機関が委託を受けて運営するという構造になっています。
センターは2021年(令和3年)4月、第三者承継(M&A)支援を担っていた「事業引継ぎ支援センター」と、親族内承継支援を担っていた「事業承継ネットワーク」を統合する形で改組され、現在の名称になりました(出典:中小企業庁「事業承継・引継ぎ支援センター」資料、2022年)。この経緯もあり、親族内承継から第三者への引継ぎまで、事業承継に関する相談をワンストップで受け付けているのが特徴です。
そこで本記事では、事業承継・引継ぎ支援センターがどのような組織で、何を相談でき、どう活用すればよいのかを、情報収集段階の経営者向けにわかりやすく整理します。あわせて、公的機関だからこそ知っておきたい特徴や、民間の専門家との役割の違いについても触れていきます。
事業承継全体の基礎知識をまとめて確認したい方はこちら

センターが提供する3つの支援メニュー

事業承継・引継ぎ支援センターの支援内容は、大きく3つに分かれています。自社がどの状況に近いかを把握したうえで相談すると、初回の面談がスムーズに進みます。
親族内・従業員承継支援
子や親族、あるいは役員・従業員など社内の人材に会社を引き継がせたいと考えている経営者向けの支援です。経営者本人と後継者候補との対話を後押ししながら、事業承継計画の策定支援や、税務・法務の専門家(税理士・弁護士等)への橋渡しを行います。相続や自社株の評価、経営者保証(個人保証)の引き継ぎなど、親族間・社内間であっても整理すべき論点は多く、センターが中立的な立場で計画づくりを支援します。
第三者承継支援(M&A支援)
親族や社内に後継者がいない場合に、社外の第三者(他の会社や個人)への譲渡を支援するメニューです。株式譲渡・事業譲渡といった手法の説明、譲渡先候補の紹介・マッチングを経て、成約に向けた相談対応を行います。契約交渉の実務や最終契約書の作成といった専門的な工程は、センターが直接すべてを担うのではなく、必要に応じて民間のM&A仲介会社やFAとの連携のもとで進めるのが実務上の一般的な流れです。
第三者承継で用いられる代表的な手法である株式譲渡の仕組みは別記事で詳しく解説しています。
後継者人材バンク
後継者が見つからない事業者と、創業・独立を希望する個人とをマッチングする制度です。「ゼロから起業するより、既存の事業を引き継いで経営者になりたい」という人材を、後継者不在の中小企業・小規模事業者に橋渡しします。2025年度(令和7年度)は成約件数114件と過去最多を更新しました。新規登録した創業希望者は1,472者(2025年度の年間実績)、累計登録者数はセンター開設以来11,547者(2025年度末時点)となっています(出典:独立行政法人中小企業基盤整備機構プレスリリース、2026年5月29日発表)。
3つの支援メニューは対象者と関わり方が異なるため、自社がどれに近いかを次の表で確認してみましょう。
| 支援メニュー | 主な対象者 | 支援内容 |
|---|---|---|
| 親族内・従業員承継支援 | 子や親族、役員・従業員への承継を考えている経営者 | 後継者候補との対話支援、事業承継計画の策定支援、税理士・弁護士への橋渡し |
| 第三者承継支援(M&A支援) | 親族・社内に後継者がおらず社外への譲渡を検討する経営者 | 譲渡先候補の紹介・マッチング、成約に向けた相談対応、必要に応じ民間のM&A仲介会社・FAとの連携 |
| 後継者人材バンク | 後継者不在の事業者、創業・独立を希望する個人 | 事業を引き継ぎたい個人と後継者不在の事業者とのマッチング |
事業承継診断とは何か

センターの活動の入り口として位置づけられているのが「事業承継診断」です。これは、金融機関や商工会・商工会議所の経営指導員、税理士などが経営者を個別に訪問し、A4用紙1枚程度の簡易な診断票を用いて、後継者の有無や事業承継への準備状況を短時間でヒアリングする取り組みです(出典:中小企業庁「事業承継診断」。診断票は随時更新されており、最新の様式は中小企業庁サイトで確認できます)。
診断結果を踏まえて、後継者の有無や事業承継への準備状況に応じた支援(事業承継計画の策定支援、センターへの相談誘導など)につながる仕組みになっています。経営者自らセンターに足を運ぶ前に、身近な金融機関や商工会議所を通じて「プッシュ型」で課題を掘り起こす役割を果たしている点が特徴です。
こんな方はセンターへの相談を検討してみましょう

事業承継・引継ぎ支援センターは、次のような状況にある経営者にとって、最初の相談先として活用しやすい窓口です。
センター以外も含めた事業承継の相談先の選び方も参考にしてください。
- 後継者が決まっておらず、誰に相談すればよいかわからない
- 子や親族への承継を考えているが、進め方や税務面の論点が整理できていない
- 会社を売却・譲渡する選択肢を検討したいが、M&A仲介会社にいきなり相談するのは気が引ける
- 廃業する前に、第三者への引継ぎの可能性を確認しておきたい
- 相談に費用をかけたくない、まずは無料で話を聞いてみたい
一方で、すでに具体的な譲渡先候補がある、あるいは複数の仲介会社から提案を受けていて条件の妥当性を第三者視点で確認したい、といった段階にある経営者は、センターへの相談と並行して、民間の専門家に個別相談することが有効な場合もあります。
相談から成約までの流れ

センターの利用は、おおむね次のようなステップで進みます。案件の内容や地域によって前後することがあるため、目安として捉えてください。
第三者承継(M&A)全体の詳しい手続きはM&Aの流れで解説しています。
| ステップ | 主な内容 | 期間の目安 |
|---|---|---|
| 1. 相談予約 | 電話・Webサイトから最寄りのセンターへ面談を申し込む | 数日以内 |
| 2. 初回面談 | 経営状況や希望をヒアリングし、課題を整理する | 1回1時間程度 |
| 3. 支援方針の決定 | 親族内承継・第三者承継・後継者人材バンクのいずれで進めるか方向性を確認 | 1〜2回の面談 |
| 4. マッチング・調整 | 第三者承継の場合は譲渡先候補の紹介、必要に応じ民間支援機関への橋渡し | 数カ月〜1年以上かかることもある |
| 5. 成約に向けた手続き | 案件に応じて意向表明・基本合意・デューデリジェンス・最終契約(クロージング)等を経て成約に至る | 案件により大きく異なる |
第三者承継(M&A)は、相手探しから成約まで一般に半年から数年単位の時間を要することが珍しくありません。センターに相談したからといってすぐに譲渡先が見つかるとは限らない点は、あらかじめ理解しておくとよいでしょう。
費用と秘密厳守の取り扱い

事業承継・引継ぎ支援センターでの相談・助言・マッチング支援は、原則として無料です。初回面談だけでなく、事業承継計画の策定支援やマッチングの調整についても、センター自身が手数料を徴収することはありません(出典:中小企業庁「事業承継」、中小機構事業承継ポータルおよび各都道府県センター公表情報)。ただし、地域によっては税理士等の専門家派遣を利用する際に一定の自己負担が生じる場合があるほか、第三者承継支援の過程でセンターが民間のM&A仲介会社やFAを紹介した場合、その民間支援機関を利用する段階からは、当該会社の報酬体系(レーマン方式による成功報酬など)が別途発生する点には注意が必要です。
また、相談内容や経営情報については秘密厳守で取り扱われることが各センターで明記されています。「相談したことが取引先や従業員に知られるのでは」という不安を持つ経営者も多いですが、センター側も情報管理には配慮した運用を行っています。それでも、相談窓口の担当者が地域の商工会議所職員である場合、地元での人的つながりを気にする経営者もいます。その点が気になる場合は、地域外の専門家やオンライン相談が可能な民間サービスを併用する選択肢も検討に値します。
センターを利用するメリットと知っておきたい注意点

事業承継・引継ぎ支援センターを利用する最大のメリットは、公的機関ならではの中立性と、費用をかけずに相談できる点です。特定の仲介会社の利害に左右されず、事業承継の選択肢(親族内承継・従業員承継・第三者承継・廃業を含めた総合的な検討)をフラットに整理してもらえることは、情報収集段階の経営者にとって大きな安心材料になります。全国47都道府県に48か所の窓口があり、地域の商工会議所や金融機関との連携も強いため、地元の事情に詳しい支援を受けやすい点も強みです。
一方で、知っておきたい注意点もあります。センターは公的機関という性質上、担当者一人あたりが対応する相談件数が多く、案件によっては対応にペースがある点、マッチングの候補が必ずしも自社の希望条件に合致するとは限らない点は理解しておく必要があります。また、センターはあくまで中立的な支援・橋渡し役であり、条件交渉や契約書の細部にわたる実務対応は、最終的に税理士・弁護士や民間のM&A専門家が担う場面が多くなります。
公的機関と民間の専門家は対立するものではなく、段階に応じて役割が異なります。次の表で大まかな違いを整理します。
| 比較項目 | 事業承継・引継ぎ支援センター | 民間のM&A仲介会社・専門家 |
|---|---|---|
| 費用 | 原則無料 | 成功報酬制(レーマン方式等)が一般的 |
| 立場 | 公的機関として中立 | 仲介の場合は売り手・買い手双方の間に立つ、FAの場合は一方の代理人 |
| 強み | 費用がかからず幅広い選択肢をフラットに検討できる | 積極的なマッチング・専門的な交渉支援に強い |
| 向いている段階 | 情報収集・初期検討の段階 | 具体的な譲渡先候補があり、条件交渉を進めたい段階 |
すでに仲介会社から提案を受けている、あるいは提示された条件が妥当か判断に迷っているという段階では、公的機関への相談に加えて、成功報酬に依存しない中立的な第三者に個別で意見を求めるのも一つの方法です。
「セカンドオピニオン」という選択肢について詳しくはこちら

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事業承継・引継ぎ支援センターの活用実績

センターの利用実績は年々増加しています。2025年度(令和7年度)の年間実績は次のとおりです(出典:独立行政法人中小企業基盤整備機構プレスリリース、2026年5月29日発表)。
| 指標 | 2025年度(令和7年度)実績 |
|---|---|
| 新規相談者数 | 24,030者(過去最多) |
| うち第三者承継の新規相談者数 | 16,322者 |
| 第三者承継(M&A)の成約件数 | 2,265件(過去最多を更新) |
| 後継者人材バンクの成約件数 | 114件(過去最多を更新) |
| 後継者人材バンクの新規登録創業希望者数 | 1,472者(2025年度末時点の累計登録者数は11,547者) |
なお、帝国データバンクが2025年11月21日に公表した「全国『後継者不在率』動向調査(2025年)」によれば、全国の後継者不在率は50.1%と依然として高い水準にあります。後継者不在に悩む経営者が多い中で、センターの相談件数・成約件数がともに過去最多を更新していることは、公的な相談窓口としての認知が広がっていることの表れといえるでしょう。
後継者不在に直面した経営者が取れる具体的な対策は後継者がいない会社の選択肢で詳しく解説しています。
センターへの相談前に準備しておきたいことチェックリスト

初回面談を有意義なものにするために、次の点を事前に整理しておくとスムーズです。
- 会社の概要(業種・従業員数・直近数期分の決算状況)を簡単にまとめてある
- 後継者候補の有無と、本人の意思を確認したかどうかを整理してある
- 経営者自身が「いつまでに」承継・譲渡を終えたいか、大まかな時期の希望がある
- 個人保証(経営者保証)や自社株の保有状況など、承継に影響する事項を把握している
- 相談内容が外部に漏れることへの不安があれば、それを率直に伝える準備をしている
よくある質問
Q1. 事業承継・引継ぎ支援センターへの相談は本当に無料ですか? はい、センターでの相談・助言・マッチング支援は原則無料です。ただし、地域によっては税理士等の専門家派遣を利用する際に一定の自己負担が生じる場合があるほか、第三者承継支援の過程で民間のM&A仲介会社やFAを紹介され、そちらを利用する段階になると、当該会社の報酬体系に基づく費用が別途発生します。
Q2. 事業承継・引継ぎ支援センターと民間のM&A仲介会社は何が違うのですか? センターは中小企業庁が所管する公的機関で、相談は無料かつ中立的な立場で対応します。民間のM&A仲介会社は、レーマン方式などに基づく成功報酬を前提に、より積極的なマッチングや専門的な交渉支援を行う点が異なります。両者は対立するものではなく、センターから民間支援機関を紹介されるケースもあります。
Q3. 事業承継・引継ぎ支援センターに相談すると、必ず会社を売却しなければいけませんか? いいえ、そのようなことはありません。センターは親族内承継・第三者承継・後継者人材バンクといった複数の選択肢を中立的に整理する窓口であり、相談したからといって特定の方向へ誘導されることはありません。
Q4. 親族だけでなく従業員への承継でも相談できますか? はい、可能です。センターの親族内承継支援は子や親族に限らず、役員・従業員など社内の人材への承継(従業員承継)も対象に含まれます。後継者候補との対話支援や事業承継計画の策定支援を、親族内承継と同様に受けることができます。
Q5. 後継者人材バンクとはどのような制度ですか? 後継者が見つからない中小企業・小規模事業者と、創業・独立を希望する個人とをマッチングする制度です。2025年度(令和7年度)は成約件数114件と過去最多を更新しました(中小機構、2026年5月29日発表)。
Q6. 相談してから成約まで、どのくらいの期間がかかりますか? 案件によって大きく異なりますが、第三者承継(M&A)の場合、相手探しから成約まで半年から数年程度かかることが一般的です。親族内承継の計画策定支援であれば、より短期間で一定の道筋が見えることもあります。
Q7. 相談窓口が地元の商工会議所だと、情報が漏れないか心配です。 各センターは秘密厳守を明記して運用しており、相談情報の管理には配慮がなされています。それでも地域内でのつながりが気になる場合は、オンライン相談が可能な民間の専門家に個別で意見を求める方法も選択肢になります。
まとめ
事業承継・引継ぎ支援センターは、中小企業庁が所管し全国47都道府県に48か所設置された公的な相談窓口で、親族内・従業員承継支援、第三者承継支援、後継者人材バンクという3つのメニューを通じて、費用をかけずに事業承継の課題を整理できる点が大きな価値です。2025年度(令和7年度)は新規相談者数・成約件数ともに過去最多を更新しており、公的支援の認知と実績は着実に積み上がっています。
一方で、担当者一人あたりの対応件数の多さやマッチングのペースなど、公的機関ならではの特徴も理解した上で利用することが、後悔のない事業承継につながります。すでに具体的な譲渡条件の提示を受けている、あるいは複数の選択肢を比較検討する段階にある場合は、公的窓口と合わせて、成功報酬に依存しない中立的な専門家の意見を聞いておくことも、判断の精度を高める一つの方法です。
なお、本記事は一般社団法人M&Aセカンドオピニオン協会 代表理事の森沢雄太氏(日本M&Aセンター出身、M&A成約実績100件超)の知見を参考に、公的機関の情報を基に作成しています。
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