後継者がいない会社はどうすればいい?経営者が知るべき選択肢と対策を徹底解説

後継者がいない会社の経営者が選択肢を検討しているイメージ

「事業を続けたいが、後を継いでくれる人間がいない」——この悩みを抱える中小企業は、今や日本全国に数百万社規模で存在するとされています。子どもは別の道を歩んでいる、社内に適任者が見当たらない、いつかは解決できると先延ばしにしてきた…。そうしているうちに、気づけば自分自身の体力や判断力にも陰りが見え始めた、という方も少なくないでしょう。

後継者不在は、決して珍しい特殊事情ではありません。帝国データバンクの「全国後継者不在率動向調査(2024年)」によると、全国の企業の後継者不在率は52.1%にのぼります。つまり、2社に1社以上が同じ状況にあるのです。それだけ多くの経営者が、同じ不安と向き合いながら経営を続けています。

問題は、「後継者がいない」という現実をどう受け止め、何から手をつけるかです。廃業しかないと思い込んでいる方もいますが、実際には複数の選択肢があります。そして、その選択を急ぐ必要はなくても、準備を始めるタイミングを誤ると、選択肢が狭まっていくことも事実です。

そこで本記事では、後継者がいない会社の経営者が知っておくべき現状・リスク・選択肢・進め方を、売り手である経営者の目線で整理します。廃業とM&Aの違い、事業承継の流れ、準備のポイント、よくある失敗パターンまで、実務に役立つ情報をできる限り具体的に解説していきます。


目次

後継者がいない会社の実態——数字で見る深刻さ

後継者不在の中小企業の実態を示す資料を確認している経営者のイメージ

後継者問題は感覚的な課題としてとらえられがちですが、その実態は統計データが明確に示しています。まず現状を正確に把握することが、正しい判断への第一歩です。

事業承継全体の基礎知識については、こちらの記事でわかりやすく解説しています。

後継者不在率は依然として5割超

帝国データバンクが毎年実施している「全国後継者不在率動向調査」によると、2024年時点の後継者不在率は52.1%でした(2024年調査)。これは調査開始以来の最低値ではあるものの、依然として2社に1社以上が後継者未定という状況です。2018年をピークに改善傾向が続いていますが、その改善ペースは鈍化しており、先行きを楽観視できる段階にはありません。

また、2024年版「中小企業白書」(中小企業庁)では、2023年時点の後継者不在率が54.5%と記録されています。帝国データバンクの調査と中小企業白書では、調査対象・定義が異なるため数値に差がありますが、いずれも「後継者が決まっていない企業が半数超」という実態を示している点は共通しています。年齢層別では経営者が若いほど不在率が高い傾向があります。これは「まだ先の話」として準備が後回しになっているためと考えられ、早期の対策着手が重要であることを示しています。

後継者難倒産は高水準が続く

後継者不在が原因で経営が行き詰まる「後継者難倒産」も増加しています。帝国データバンクの「後継者難倒産の動向調査(2024年度)」によると、2024年度の後継者難倒産は507件に達し、2年連続で500件超という高水準が続きました。業種別では建設業(127件)が最も多く、製造業・サービス業が続きます。

後継者難で倒産した企業の経営者の平均年齢は倒産時点で69.8歳に及び、過去10年でみても70歳前後で推移しています(帝国データバンク「後継者難倒産の動向調査(2024年度)」)。適切なタイミングでの対応を怠った結果として倒産に至るケースが多いことがうかがえます。

黒字でも廃業を選ぶ経営者がいる現実

後継者不在問題でとくに見落とされがちなのが「黒字廃業」の存在です。業績は堅調で利益も出ている会社が、後継者を見つけられないまま廃業を選ぶケースは、社会課題として注目されています。中小企業庁の試算(2010年代後半当時)では、2025年までに70歳(平均的な引退年齢)を超える中小企業・小規模事業者の経営者は約245万人にのぼるとされていました。2025年はすでに経過しましたが、今もなお多くの経営者が後継者未定のままであり、問題は解消されていません。

業績が良い会社ほど、実は早期に動くメリットが大きくなります。企業の価値が高い段階でM&Aなどの選択肢を行使できるからです。この点は後述しますが、「黒字だから慌てなくていい」というのは大きな誤解です。

後継者不在が会社にもたらすリスク

後継者不在が会社にもたらすリスクを専門家と確認する経営者のイメージ

後継者がいないことを「まだ先の問題」として棚上げにしておくと、時間の経過とともに複数のリスクが積み重なっていきます。経営者自身が気づきにくい形で損失が進むケースも多く、誠実にリスクを把握しておくことが重要です。

経営者の突然の不在による経営危機

経営者が病気や事故によって突然業務を担えなくなった場合、後継者が決まっていない会社では経営が一気に空白になります。大企業のような引き継ぎ体制が整っていない中小企業では、代表者一人の判断・人脈・信用に依存していることが多く、経営者の不在が即座に取引先との信頼失墜や融資の打ち切りにつながることがあります。

この「不測の事態」リスクは、経営者の年齢が高くなるほど現実味を帯びます。後継者を決めておくことは、自分自身だけでなく従業員・取引先・家族を守るための備えでもあります。

従業員の雇用不安と人材流出

後継者が決まらない状況が長引くと、社内に不安が広がります。「この会社は将来どうなるのか」という疑念は、特に中核を担う中堅・ベテラン従業員の離職を招きやすく、彼らが抜けることで会社の実力が落ち、引き継ぎ先を探す段になってかえって買い手がつきにくくなる、という悪循環を生みます。

逆に言えば、経営者が後継者問題に対して誠実に向き合っている姿勢を示すことが、優秀な人材をつなぎとめることにもつながります。

準備不足による企業価値の低下

M&Aによる第三者承継を選ぶとしても、準備が不十分なまま交渉に入ると、企業価値が正当に評価されないリスクがあります。財務情報が整理されていない、経営者以外に属人化した業務が多い、顧客リストや契約書類が管理されていないといった状態は、買い手からの評価を下げる典型的な要因です。

企業価値を最大化した状態で売却に臨むためには、数年単位の準備期間を確保できると望ましいと言われています。早めに動き始めるほど選択肢が広がり、時間をかけて磨き上げた会社は良い条件での成約につながりやすくなります。

廃業コストの見落とし

「廃業すれば後腐れなく終われる」と考える経営者も多いのですが、廃業には相応のコストと手間がかかります。従業員への退職金の支払い、在庫・設備の処分費用、賃借物件の原状回復、取引先への精算、法人の解散・清算手続きに伴う費用と時間は、規模によっては相当な額になります。M&Aであれば事業や雇用を引き継いでもらいながら対価も受け取れる可能性がある点と比較したとき、廃業が必ずしも楽な選択肢ではないことがわかります。

後継者がいない経営者が取り得る4つの選択肢

後継者不在時の選択肢を複数の資料で比較検討している経営者のイメージ

後継者問題を前に、経営者が取り得る道は大きく4つに整理できます。それぞれに特徴とメリット・デメリットがあり、会社の状況・経営者の年齢・希望する結果によって最適な選択肢は異なります。

選択肢概要対価の有無雇用継続準備期間の目安
親族・社内への事業承継子や役員など身近な人物が引き継ぐ状況による基本的に継続5〜10年
M&A(第三者承継)外部の企業・個人に会社または事業を譲渡売却対価あり条件次第2〜5年
IPO(株式公開)株式を証券市場に上場して経営体制を分散。後継者問題の直接的な解決策ではなく限定的な手段資金調達継続5〜10年以上
廃業・清算会社を解散して事業を終了するなし(資産処分)終了6ヶ月〜2年

M&Aによる第三者への承継(第三者継承)については、第三者継承(M&Aによる承継)の仕組みと手続きで詳しく解説しています。

親族内承継や従業員への承継については、親族内承継・従業員承継のメリット・デメリットと手続きの流れで詳しく解説しています。

親族・社内への事業承継

子どもや親族、あるいは社内の幹部社員に事業を引き継がせる方法です。事業や会社の理念・文化・信頼関係が継承されやすく、周囲の納得感が得られやすいというメリットがあります。経営者の引退後も、培ってきたものが残ること自体に価値を感じる経営者にとっては、最も自然な形です。

一方で、後継者候補の経営能力が不足している場合の育成には相当な時間がかかります。また、親族への承継では株式の移転に伴う贈与税・相続税の問題が生じることも多く、事業承継税制(贈与税・相続税の納税猶予制度)の活用を含めた税務上の対策が不可欠です。詳細は税理士などの専門家への相談が必要です。

社員承継の場合は、株式取得のための資金調達が後継者にとって大きなハードルとなる点も考慮が必要です。

M&A(第三者承継)

外部の企業あるいは個人に、株式や事業を譲渡する方法です。近年、中小企業のM&Aは急速に普及しており、事業承継・引継ぎ支援センターへの相談件数・成約件数ともに増加傾向が続いています(中小企業庁、2025年版中小企業白書)。後継者不在の中小企業が、廃業ではなくM&Aで事業を存続させる事例は社会的にも広く認知されるようになりました。

売り手にとっての主なメリットは、会社や事業に見合った対価を受け取りながら従業員の雇用と事業の継続を実現できる点です。一方で、相手選びや条件交渉の過程に時間がかかること、デューデリジェンス(後述)など準備の手間が大きいことも知っておく必要があります。

M&Aには大きく「株式譲渡」と「事業譲渡」の2つの手法があります。株式譲渡は会社ごと譲渡するため手続きが比較的シンプルで、売り手経営者が現金を受け取りやすい形態です。事業譲渡は特定の事業部門だけを切り離して譲渡するもので、不採算部門を切り離して残りの事業を継続するケースや、主力事業のみを売却するケースに用いられます。どちらが適切かは会社の状況によって異なります。

IPO(株式公開)

株式を証券市場に上場する方法で、後継者問題の解決策として機能するのは限られたケースです。上場によって経営の担い手が社会に広がり、一人の後継者に依存しない体制を作れるというメリットがあります。ただし、IPOには高い業績・成長性・財務の透明性が求められるほか、準備に数年単位の時間とコストがかかります。中小・小規模事業者には現実的な選択肢になりにくいため、急成長中のスタートアップや中堅企業向きの手段と理解しておくとよいでしょう。

廃業・清算

後継者が見つからない場合の最後の手段ですが、前述のとおり費用と手続きの負担が伴います。廃業を選ぶ場合も計画的に行うことが重要で、従業員への丁寧な説明・退職金の準備・取引先への適切な連絡・在庫や設備の処分計画など、段取りをしっかり立てた「きれいな廃業」が望まれます。

後継者問題の現実的な解決策——M&Aによる第三者承継を正しく理解する

M&Aによる第三者承継のプロセスを専門家に説明してもらっている経営者のイメージ

後継者不在の中小企業にとって、現時点で最も普及が進んでいる選択肢がM&A(第三者承継)です。このセクションでは、M&Aの仕組み・流れ・注意点を売り手経営者の視点から解説します。

事業承継とM&Aの仕組みや流れについては、こちらの記事で詳しく解説しています。

M&Aとは何か——売り手にとっての意味

M&A(Mergers and Acquisitions)は「合併・買収」を意味する言葉で、後継者不在の文脈では主に「会社や事業を第三者に売却・譲渡する」ことを指します。「会社を売る」という言葉に抵抗を感じる経営者も多いのですが、事業・雇用・ブランドを守るための経営判断として、ポジティブに捉える経営者が増えています。

M&Aの本質は、事業の価値を認めてくれる相手に引き継いでもらうことです。買い手にとっても既存の人材・顧客・技術・ノウハウを活かした事業参入は大きなメリットであり、売り手と買い手の利益が一致しやすい取引です。

M&Aのプロセス——ステップと期間の目安

中小企業のM&Aは、一般的に次のステップで進みます。全体の所要期間は案件によって異なりますが、6ヶ月から1年半程度が多いとされています。

  1. 事前準備・情報整理(1〜3ヶ月):財務諸表・会社概要・顧客リスト・契約書類の整理。企業価値の概算算定もこの段階で行います。
  2. アドバイザーとの契約・案件化(1〜2ヶ月):M&A仲介会社やFA(ファイナンシャルアドバイザー)に依頼し、IM(企業概要書)やノンネームシート(会社名を伏せた概要)を作成します。ノンネームシートは、相手先に会社名が特定されないよう秘密保持を図りながら打診するための資料です。
  3. 相手先探し・マッチング(2〜6ヶ月):複数の候補先に打診を行い、関心を示した先とNDA(秘密保持契約)を締結した上で詳細情報を開示します。
  4. トップ面談・条件交渉(1〜3ヶ月):売り手経営者と買い手が直接面談し、事業の方向性・雇用の扱い・売却価格などについて話し合います。
  5. 意向表明書(LOI)・基本合意書(MOU)の締結(1〜2ヶ月):買い手が具体的な条件を書面で提示します。LOIは「この条件で買いたい」という意思表示、MOUはその内容を双方が確認した合意書です。法的拘束力が限定的な段階ですが、交渉の基盤になります。
  6. デューデリジェンス(DD)の実施(1〜2ヶ月):デューデリジェンスとは、買い手が行う詳細な実態調査のことです。財務・税務・法務・労務など複数の観点から会社の状況を調査します。想定外の債務や法的リスクが発見されると、条件変更や交渉破談につながることもあるため、売り手も事前に自社の状態を把握しておくことが重要です。
  7. 最終契約書(DA)の締結・クロージング(1〜2ヶ月):条件が合意されたら最終契約書(DA/株式譲渡契約書など)に署名・押印し、株式や事業の引き渡しと代金の支払いを行う「クロージング」で取引が完了します。

企業価値はどう決まるのか

中小企業のM&AでよくつかわるM&A評価手法には、主に次の3つがあります。実際の交渉では複数の手法を参考にしながら、最終的な売却価格が決まります。

評価手法概要向いているケース
年買法(年倍法)純資産+実態営業利益(オーナー報酬等の調整後)×数年分中小企業全般でよく使われる簡便な方法
EBITDAマルチプルEBITDA(利息・税金・償却前利益)×業界倍率安定した収益がある中堅企業
DCF法将来キャッシュフローの現在価値成長性が見込まれる企業
純資産法貸借対照表の純資産をベースに算定不動産・設備が主な資産の企業

EBITDA(イービットダー)は「Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation and Amortization」の略で、収益力を示す指標です。「のれん」(事業の超過収益力・ブランド価値・顧客基盤など、純資産を超えた企業価値)の大きさも売却価格に影響します。業種・規模・収益性・成長性によって相場は大きく異なり、小規模案件では倍率が低くなる傾向もあります。EBITDAの3〜7倍程度が語られることもありますが、あくまで一つの参考値であり、個別案件の条件・業種・規模によって大きく変動します。なお、仲介会社によって「株式価値ベース」のレーマン方式を採用するケースと「移動総資産ベース」を採用するケースがあるなど、手数料の算定前提も様々です。

企業価値の算定は専門的な知識が必要なため、最終判断は公認会計士・M&Aアドバイザーなどの専門家に確認することをお勧めします。

M&Aにかかる費用

M&Aで売り手が支払う費用の中心は仲介会社やFAへの手数料です。中小M&Aでは成功報酬型が一般的で、成約金額に応じたレーマン方式(売買金額の段階に応じた料率を設定する手法)で計算されることが多いです。成約金額が大きいほど料率は下がる仕組みで、たとえば5億円以下の部分には5%、5〜10億円の部分には4%…というように段階的に設定されます。なお具体的な料率は各社の契約内容によって異なります。

事業承継・引継ぎ支援センター(国が設置する公的窓口)は、相談・マッチング支援を無料で提供しています。ただし、センターを経由して民間M&A専門業者に引き継がれる場合など、成約に至る過程で専門家費用が発生するケースもあります(詳細は各センターに確認)。税務・法務のデューデリジェンスには税理士・弁護士費用が別途かかることも念頭に置いてください。

M&Aで売り手が見落としがちなリスクと注意点

M&Aには利点が多い反面、売り手として知っておくべきリスクもあります。

情報漏洩リスクはその代表です。売却検討が従業員や取引先に早期に知れると、人材流出や取引の停止につながる恐れがあります。NDAの締結など、情報管理を徹底することが必要です。

表明保証の問題も重要です。最終契約書には「この会社に関する一定の事実を保証する」表明保証条項が設けられます。後から事実と異なることが判明した場合、売り手に損害賠償責任が生じることがあるため、デューデリジェンス前に自社の財務・法務状況を自ら整理しておくことが肝心です。

また、アーンアウト(売却後の業績連動で追加対価を受け取る仕組み)やロックアップ(売却後一定期間、経営者が会社に留まる条件)が交渉で出てくることもあります。これらは条件によって経営者の負担やリスクが変わるため、契約内容の細部まで理解した上で署名することが不可欠です。自分一人で判断するには難しい局面も多く、中立的な立場のアドバイザーに内容を確認してもらうことで、思わぬ不利条件を避けることができます。


条件の妥当性が気になる方へ

M&Aの交渉では「提示された条件が妥当かどうか」を売り手が自分で判断するのは難しく、情報格差が生じやすい局面です。M&Aインサイトでは、完全無料・成功報酬なしで、売り手に寄り添う中立的な第三者意見(M&Aセカンドオピニオン)を提供しています。提示された条件や進め方に疑問を感じたときは、お気軽にご相談ください


後継者不在に備える——今から始める準備のポイント

後継者問題に備えて会社の準備を進めている経営者のイメージ

後継者問題は「いつか取り組む課題」から「今すぐ考え始める課題」へと変わりつつあります。準備を早く始めるほど、経営者が持てる選択肢は広がります。

事業承継の相談先の選び方については、こちらの記事で詳しく解説しています。

早期着手が選択肢の幅を広げる理由

M&Aに限らず、あらゆる承継手段において「時間」は最大の資産です。M&Aを例にとると、体力・判断力がある段階で情報収集を始め、財務状況を整え、自社の強みを磨いておくことで、より多くの買い手候補にアプローチでき、条件交渉も余裕を持って進められます。

逆に、経営者の健康上の問題が表面化してから慌てて動き始めると、相手に足元を見られたり、本来得られるはずの条件を逃したりするリスクが高まります。一般的に、引退を念頭に置いているなら5年前からの準備開始が理想とされています。

会社の「磨き上げ」で企業価値を高める

M&Aや親族承継を問わず、次世代に引き継ぎやすい会社にするための「磨き上げ」は非常に有効な準備です。具体的には、以下のような取り組みが企業価値の向上につながります。

  • 財務の見える化:決算書・試算表を定期的に整理し、売上・利益・キャッシュフローの状況を把握しやすい状態に保つ。
  • 業務の標準化・マニュアル化:経営者や特定の従業員に頼った属人的な業務を減らし、誰でも理解できる形に整える。
  • 顧客基盤・取引先との関係強化:特定顧客への依存度が高い場合はリスク分散を図る。長期契約・反復取引の増加は評価を高めます。
  • 法務リスクの整理:未締結の契約、紛争リスクのある案件、未処理の個人保証・経営者保証の状況を確認する。
  • 財務的な課題の解消:借入金の圧縮、不要な資産の整理、不採算部門の見直し。

これらは「M&Aのため」だけでなく、経営の健全性を高める取り組みでもあります。

事業承継計画の策定

後継者問題の解決に向けた具体的な道筋を「事業承継計画」として文書化しておくことも有効です。いつ、誰に、どのような条件で引き継ぐかの大まかな方針を立て、専門家に相談しながら実行に移すための工程表を作ることで、行動が具体化します。

中小企業庁や事業承継・引継ぎ支援センターは、こうした計画策定の相談にも応じており、無料で利用できる公的窓口が全国47都道府県に設置されています。

個人保証・経営者保証の問題

後継者問題を考える際に避けて通れないのが、個人保証(経営者保証)の問題です。多くの中小企業経営者は会社の融資に対して個人保証を入れており、M&Aで株式を譲渡した後もこの保証が残るケースがあります。「経営者保証に関するガイドライン」は2022年6月改定・2023年4月施行され、主たる借り手の変更時における保証の扱いの整理が進みました。さらに2024年8月に改訂された「中小M&Aガイドライン(第3版)」でも、M&A時の経営者保証の取り扱いに関するガイダンスが強化されています。ただし、経営者保証の解除は金融機関との個別協議が必要であり、状況は会社ごとに異なります。早い段階から金融機関や専門家に相談し、どのように対処するかを確認しておくことが重要です。

後継者がいない場合の税務・法務リスクと見落としがちな対策

事業承継における税務・法務リスクを専門家と確認する経営者のイメージ

承継問題を進める中で、税務と法務は特に注意が必要な領域です。一般的な記事では触れられにくいポイントを中心に整理します。

相続税・贈与税の特例措置については、事業承継税制(特例措置)の要件・メリット・手続きで詳しく解説しています。

株式の集約と名義問題

M&Aで会社を売却する際、まず必要なのが株式の整理です。長年の経営の中で、会社の株式が親族・元役員・第三者などに分散していることがあります。株式が分散したままでは売却交渉がスムーズに進まないだけでなく、一部の株主が反対した場合に取引そのものが成立しなくなるリスクもあります。

現在の株主構成を確認し、必要に応じて株式の集約・整理を行っておくことが事前準備の重要な一歩です。株主名簿が適切に管理されていない会社では、この段階で問題が発覚することもあります。

事業承継税制の活用と注意点

親族内承継を選ぶ場合、事業承継税制の活用は税負担軽減の観点から重要な検討事項です。法人版事業承継税制では、後継者が一定の要件を満たした上で先代経営者から自社株式を承継した場合、贈与税・相続税の納税が猶予されます。ただし、認定取消しリスクや継続要件など、制度の仕組みは複雑です。

2025年版中小企業白書(中小企業庁)によると、令和7年度税制改正において個人版事業承継税制の事業従事要件が事実上撤廃されるなど、制度は改正が続いています。最新の要件は国税庁または税理士に確認することをお勧めします。

M&A後の表明保証リスクへの備え

前述のとおり、M&Aの最終契約には表明保証条項が含まれます。「会社に偶発債務はない」「訴訟を抱えていない」「財務諸表は正確である」などの保証を売り手が行う形が一般的です。売り手にとっては、これらが事実と異なった場合の責任を問われる条項であり、軽視できません。

デューデリジェンスの前に弁護士・税理士と連携して自社の法務・税務リスクを棚卸しし、問題がある場合は事前に相手方へ正確に開示しておくことが、後々のトラブル回避につながります。

よくある失敗パターンと対策

後継者問題で失敗しないための対策を確認している経営者のイメージ

後継者問題を抱える経営者が陥りやすい失敗には、一定のパターンがあります。事前に知っておくことで回避できます。

「まだ早い」という先送りが招く選択肢の消滅

最も多い失敗が、準備の先送りです。60代前半までに動き始めれば選択肢は多いですが、70代に入ってから考え始めると、健康状態や判断力の問題が重なり、後継者探しも条件交渉も思い通りに進まないことが増えます。「まだ元気だから」という感覚が、気づいたときには最適なタイミングを逃していたという結果につながりがちです。

仲介会社の言いなりになってしまう

M&Aを進める際、仲介会社は買い手と売り手の双方から手数料を受け取るケースが多く(いわゆる「両手仲介」)、必ずしも売り手の利益を最大化することだけに注力できる立場にはありません。提示された条件を「これが相場」と言われても、本当に妥当かどうかは独立した立場の専門家に確認しなければわかりません。

情報を一つのチャネルだけから得ることを避け、必要に応じて中立的な立場のセカンドオピニオンを活用することが、自分に有利な条件での成約につながります。

事業をブラックボックス化したまま進める

経営者自身の頭の中だけに業務ノウハウが入っている状態でM&Aに臨むと、デューデリジェンスで「経営者に依存しすぎており、引き継ぎ後の事業継続に懸念がある」と評価され、評価額の引き下げや交渉の破談につながることがあります。少なくとも2〜3年前から、業務の可視化・マニュアル化を進めておくことが重要です。

従業員への説明が後手に回る

M&Aの交渉中は秘密保持の観点から従業員に伝えられないこともありますが、成約後の説明が雑だと、不信感や離職を招きます。クロージング後の従業員向け説明の場の設定・内容・タイミングについて、買い手と事前に十分にすり合わせておくことが、円滑なPMI(統合後のマネジメント移行プロセス)の第一歩です。

後継者がいない会社の経営者が今すぐ使えるチェックリスト

後継者問題の対策チェックリストを確認している中小企業経営者のイメージ

現在の状況を整理し、次に取るべきアクションを明確にするためのチェックリストです。該当する項目を確認してみてください。

現状把握

  • [ ] 後継者候補(親族・社内)が明確にいない、あるいは断られている
  • [ ] 会社の株主構成を把握している
  • [ ] 直近3期分の決算書を整理・保管している
  • [ ] 主要取引先・顧客との契約書が整備されている
  • [ ] 個人保証・経営者保証の内容と範囲を把握している

準備の進捗

  • [ ] 事業承継に向けた専門家(税理士・M&Aアドバイザー等)に相談済み
  • [ ] 事業承継計画(骨子だけでも)を作成している
  • [ ] 経営者に属人化した業務のリストアップと標準化に着手している
  • [ ] 自社の企業価値の概算(簡易算定)を把握している
  • [ ] 事業承継・引継ぎ支援センターの存在を知っている

M&Aを検討中の方

  • [ ] M&Aの基本的な流れ(NDA〜DA〜クロージング)を理解している
  • [ ] 提示された条件が自分にとって妥当かどうかを第三者に確認できている
  • [ ] 複数の専門家・仲介会社から情報を得て比較検討している

チェックが入らない項目が多いほど、今すぐ着手すべき準備事項が残っています。一つひとつ確認しながら、次のステップへ進みましょう。

よくある質問(FAQ)

事業承継・後継者不在についてよくある疑問を専門家に相談しているイメージ

Q1. 後継者がいなければ会社は廃業するしかないのですか?

廃業は選択肢の一つですが、必ずしも唯一の道ではありません。近年はM&Aによる第三者承継が急速に普及しており、後継者がいない中小企業でも買い手が見つかるケースは増えています。まずは自社の状況を整理し、専門家に相談してみることをお勧めします。廃業を決断するにしても、事前に選択肢を比較した上で判断することが、後悔のない結論につながります。

Q2. 業績が悪い会社でもM&Aはできますか?

業績が赤字であっても、土地・設備・許認可・顧客リスト・技術・ブランドなど、財務諸表に表れない価値を持つ会社がM&Aで成立するケースはあります。ただし、業績が良いほど買い手の選択肢は広がり、条件も有利になりやすいことは事実です。まずは現状を専門家に相談し、自社に譲れる価値があるかどうかを客観的に見てもらうことが出発点となります。

Q3. M&Aにはどのくらいの費用がかかりますか?

売り手にとって主なコストは仲介会社やFAへの成功報酬です。レーマン方式に基づく料率が一般的で、売却金額の数%程度が目安ですが、案件規模・依頼先によって大きく異なります。事業承継・引継ぎ支援センターは無料の公的相談窓口ですが、センター経由で民間業者と連携する場合は費用が発生するケースもあるため、内容を事前に確認することをお勧めします。また、デューデリジェンスに対応するための税理士・弁護士費用も別途かかることが多いため、事前に概算を把握しておくとよいでしょう。

Q4. 従業員の雇用はM&A後も守られますか?

雇用継続は交渉事項の一つです。多くのM&Aでは、買い手側も事業の継続的な運営を目的としているため、従業員の雇用継続を前提とした交渉がなされる場合が多いです。ただし、「全員の雇用を何年間維持する」という条件をどこまで契約書に明記できるかは案件によって異なります。経営者として従業員の処遇に強い希望がある場合は、初期の打ち合わせ段階から明確に条件として提示することが重要です。

Q5. 事業承継・引継ぎ支援センターはどんな機関ですか?無料で使えますか?

事業承継・引継ぎ支援センターは、国(中小企業庁)が設置する公的な相談窓口で、全国47都道府県(48か所)に拠点があります。後継者問題・M&Aの相談を無料で受け付けており、専門家(支援担当者)がアドバイスや引き継ぎ支援を行います。令和6年度の第三者承継(M&A)成約件数は2,132件と過去最高を更新しており(独立行政法人中小企業基盤整備機構、2025年5月公表)、年々活用が広がっています。また、創業希望者と後継者不在企業をマッチングする「後継者人材バンク」事業も同センターが運営しており、令和6年度の成約件数も過去最高の106件に達しました。まず公的機関に相談することで、その後の方向性を整理しやすくなります。

Q6. M&Aを進めていたが、提示された条件に納得できない。どうすればいいですか?

M&Aの交渉では、売り手経営者が情報面で不利な立場に置かれやすい局面があります。「この条件が妥当かどうかわからない」「交渉の進め方に疑問がある」と感じた場合は、現在の仲介会社とは独立した立場の専門家にセカンドオピニオンを求めることが有効です。契約締結前であれば条件の見直しを求めることもできます。一度サインしてしまう前に、第三者の目を入れることを強くお勧めします。

まとめ——後継者がいない会社の経営者が今日からできること

後継者問題の解決に向けて前向きに一歩踏み出す経営者のイメージ

後継者不在は深刻な問題ですが、「どうすることもできない」という絶望的な状況ではありません。日本全国で2社に1社が同じ課題を抱え、その多くが廃業以外の形で解決策を見つけています。

重要なのは、選択肢を正しく知り、早いうちから準備を始めることです。M&Aという手段は、会社の価値を正当に評価してもらいながら従業員と事業の未来を守る方法として、多くの経営者に選ばれるようになっています。廃業が唯一の出口ではないという事実は、ぜひ知っておいていただきたいことです。

本記事で解説した内容を整理すると、今日から取り組めることは次のとおりです。

  1. 自社の株主構成・直近の財務状況を確認する
  2. 事業承継・引継ぎ支援センターや税理士に現状を相談してみる
  3. 業務の棚卸し・マニュアル化に着手する
  4. M&Aを視野に入れるなら、複数の情報源から情報収集を始める

「どれが自分に合うか、まだ判断がつかない」という段階でも、中立的な立場の専門家に話を聞いてもらうことで、道が開けることがあります。


M&Aの条件や進め方について、中立的な立場からアドバイスを受けたい方へ

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