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建設業許可はM&Aで承継できる?経営事項審査と売却事例

長年かけて取得した建設業許可が、会社の合併や事業譲渡、あるいは廃業・相続を機に失われてしまう——そんなリスクを事前に知らず、痛い目を見た経営者は少なくありません。「許可番号ごと引き継げると思っていたのに、実際は一から新規申請になった」「手続き期間中に入札に参加できなかった」といった事態は、建設業の事業承継において繰り返されてきたトラブルです。
建設業は、許可を持っていることが受注の前提条件となるケースが多く、許可が途切れると取引先との契約継続や公共工事への入札参加資格に直接影響します。経営者が変わっても事業を止めずに続けるためには、許可の承継を正しく理解しておくことが不可欠です。
そこで本記事では、建設業許可の承継に関する基礎知識から、令和2年の建設業法改正で新設された「事前認可制度」の活用方法、法人成り・合併・分割・相続など状況別の手続き、申請に必要な書類一覧、さらに経営事項審査への影響まで、実務に即した情報を体系的に解説します。
この記事の監修者

森沢 雄太
一般社団法人
M&Aセカンドオピニオン協会
代表理事
外資系銀行でのウェルスマネジメント業務を経て、日本M&Aセンターに入社。譲渡側アドバイザーとして100件超の成約に関与し、野村證券出向や福岡支店立ち上げも経験。2018年に日本投資ファンド立ち上げに参画し、投資先の再生にも成功。2022年、合同会社M&Aプレップを創業し、仲介会社・ファンドへの支援やオーナー向け売却準備、買収支援など幅広く展開。2024年には売却支援事業拡大のため株式会社企業経営支援機構を設立し代表に就任。加えて、M&Aにおける利益相反や情報格差の是正を目的とし、代表理事として一般社団法人M&Aセカンドオピニオン協会を設立。
建設業許可の承継とは?制度の概要と背景

建設業許可の承継とは、経営者の交代や法人の組織再編に際して、既存の建設業許可を新たな事業主体へ引き継ぐ手続きのことです。
建設業M&Aの全体像と売却の流れについては、こちらの記事をご参照ください。

建設業は建設業法(昭和24年法律第100号)に基づき、一定の規模を超える工事を請け負う場合に許可が必要とされています。許可が不要な「軽微な建設工事」とは、建築一式工事にあっては請負代金が1,500万円未満、または延べ面積150平方メートル未満の木造住宅工事であり、建築一式工事以外は請負代金が500万円未満です(いずれも消費税・地方消費税を含む金額で判定。国土交通省「建設業の許可とは」)。これを超える工事を請け負う場合は許可が必要となります。
この許可は個人・法人を問わず事業主体に対して交付されるものであり、原則として別の事業主体へ自動的に引き継がれるものではありませんでした。
従来の制度では、事業承継に伴い許可が一度消滅し、後継者が新規申請するまでの期間、許可なしで工事を受注できない「空白期間」が生じるという大きな問題がありました。この空白期間に入札に参加できず、取引先との契約が一時的に滞るケースが建設業界では繰り返されてきました。
こうした課題を解消するため、令和2年(2020年)10月に建設業法が改正され、一定の要件を満たす場合に事前に認可申請を行い、承継後もそのまま許可を維持できる制度が新設されました。この改正により、計画的に事前準備を進めれば許可を円滑に引き継ぐことが可能となり、事業承継を検討している建設業者にとって大きな選択肢が広がりました。
令和2年建設業法改正の主な変更点
| 項目 | 改正前 | 改正後 |
|---|---|---|
| 許可の引き継ぎ | 原則不可(消滅→新規申請) | 事前認可制度等により引き継ぎ可能 |
| 空白期間 | 発生しやすい | 事前手続きで回避可能 |
| 対象となる承継 | — | 合併・分割・事業譲渡・法人成り・相続 |
| 申請タイミング(事業譲渡・合併・分割・法人成り) | 承継後 | 承継実行前に認可申請(事前認可) |
| 申請タイミング(相続) | — | 被相続人の死亡後30日以内に相続認可申請 |
| 許可番号 | 新番号に変更 | 原則として旧番号を引き継ぐことが可能 |
(参照:国土交通省「建設業法及び公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律の一部を改正する法律」令和元年6月公布・令和2年10月施行)
M&Aの手法によって「承継認可が必要なケース」と「不要なケース」がある
建設業のM&Aを検討する際に多くの方が見落としがちな重要ポイントがあります。それは、承継の手法によって「建設業許可の承継認可申請が必要かどうか」が異なるという点です。
株式譲渡の場合、買い手が対象会社の株式を取得するため、会社の法人格そのものは変わりません。その結果、建設業許可はそのまま会社に帰属し続けるため、承継認可申請は不要です。この場合の手続きは、役員変更・経営業務管理体制・営業所技術者等(専任技術者)の在籍確認と、必要に応じた変更届の提出が中心となります。
一方、事業譲渡・合併・分割では許可の帰属主体が変わるため、建設業法上の「事前認可申請」(承継実行前に申請)が必要です。相続については、被相続人の死亡後30日以内に「相続認可申請」(建設業法第17条の3)を行う手続きであり、事前認可とは異なります。
以下に承継手法ごとの許可対応を整理します。
| 承継手法 | 法人格の変化 | 承継認可申請の要否 | 申請タイミング |
|---|---|---|---|
| 株式譲渡 | 変わらない | 不要(変更届のみ) | — |
| 事業譲渡・法人成り | 変わる | 必要(事前認可) | 承継実行前 |
| 合併 | 変わる | 必要(事前認可) | 承継実行前 |
| 会社分割 | 変わる | 必要(事前認可) | 承継実行前 |
| 相続 | 変わる(個人→相続人) | 必要(相続認可申請) | 死亡後30日以内 |
本記事で主に解説する「建設業法上の承継手続き」は、事前認可(事業譲渡・合併・分割・法人成り)および相続認可申請のいずれかが必要となるケースです。
建設業許可が承継できるケース一覧

建設業法上、許可の承継が認められる主なケースは、事業譲渡・合併・分割・法人成り・相続です。このうち、事業譲渡・合併・分割・法人成りは承継実行前に事前認可申請が必要であり(建設業法第17条の2)、相続は被相続人の死亡後30日以内に相続認可申請を行う手続きです(建設業法第17条の3)。それぞれの特徴と手続きの概要を理解しておくことが、スムーズな承継の第一歩になります。
なお、事前認可の対象となるケース(事業譲渡・合併・分割・法人成り)については、「承継元が保有するすべての業種の許可」を承継先に引き継ぐことが原則であり、一部業種のみを選択して引き継ぐことはできません(相続の場合も同様)。詳細は「事前認可を受けるための5つの要件」の要件④をご参照ください。
ケース1:個人事業主が法人を設立する場合(法人成り)
個人で建設業許可を取得していた事業主が法人を設立し、事業を移管するケースです。建設業界では高齢の代表者が引退を機に後継者名義の法人へ移行するパターンが多く見られます。
法人成りの場合、従来は個人の許可が消滅し、新設法人が改めて新規申請する必要がありました。令和2年改正後は、一定の要件を満たすことで、個人事業主から新設法人への「建設業に関する事業の全部譲渡」として事前認可を受けることができます(関東地方整備局「事業承継等の事前認可制度」)。なお、事前認可が認められるためには各許可行政庁の定める要件を満たす必要があるため、事前に担当窓口へ確認することが重要です。
ケース2:法人間の事業譲渡(第三者承継)
建設業に関する事業の全部を別の法人に譲渡するケースです。後継者がいない場合に第三者企業へ売却する「第三者承継」がこれに該当します。対象は「建設業に関する事業の全部譲渡」であり、特定業種のみの部分的な譲渡は事前認可の対象外となります。
認可を受けると、承継先は「建設業者としての地位」をまるごと引き継ぐことになります。これには許可・監督処分歴・経営事項審査の結果等が含まれますが、経審の結果が各発注機関の入札参加資格審査にどのように反映されるかは、発注機関ごとの運用に依存するため個別に確認が必要です(千葉県「建設業許可の承継の手引」、関東地方整備局「事業承継等の事前認可制度」)。
ケース3:会社の合併
吸収合併(存続会社が消滅会社の建設業者としての地位を引き継ぐ)または新設合併(新設会社が両社の地位を引き継ぐ)がこれに当たります。合併の場合は会社法上の手続きと建設業法上の認可手続きを並行して進める必要があります。
吸収合併の場合、消滅会社の建設業者としての地位(許可・経審の結果・届出義務等を含む)が存続会社に承継されます。存続会社と消滅会社の双方が建設業許可を保有していた場合は、それぞれの建設業者としての地位が統合される形となりますが、重複業種の整理や一般建設業・特定建設業の区分の扱いは個別判断となるため、許可行政庁に事前確認することが必要です。
ケース4:会社の分割
会社分割(吸収分割・新設分割)に伴い建設業部門を切り出す場合です。対象となるのは、「建設業部門を引き継ぐ新たな建設業者を新設する場合」または「建設業に関する事業が吸収分割により全部譲渡される場合」です(関東地方整備局「事業承継等の事前認可制度」)。
分割承継会社または新設分割設立会社が建設業の許可を引き継ぐには、認可申請が必要です。事業の一部を切り出してグループ会社や子会社へ移管するケースで多く利用されますが、「建設業に関する事業の全部」が対象である点に注意が必要です。
ケース5:相続による承継
個人事業主が死亡した場合、相続人が建設業許可を引き継ぐことができます。ただし、「相続の届出」ではなく、建設業法第17条の3に基づく「相続の認可申請」が必要です(申請様式:第22号の10)。この手続きは事前認可(第17条の2)とは異なり、被相続人の死亡後に行う申請です。
相続認可申請は、被相続人が亡くなった日から30日以内に許可行政庁(都道府県知事または国土交通大臣)へ提出する必要があります。申請が受け付けられると、認可または不認可の処分があるまでの間は、相続人は被相続人の建設業許可を受けたものとして取り扱われます。処分が確定した後、相続人は被相続人の建設業者としての地位を正式に承継します。
なお、相続の場合は一部業種のみの承継を行うことはできません。30日以内に申請を行わなかった場合、承継が認められず新規取得が必要になる可能性があるため、速やかに許可行政庁へ連絡することが重要です。
事前認可を受けるための5つの要件

令和2年の改正で新設された事前認可制度(建設業法第17条の2)を利用するには、以下の要件をすべて満たすことが必要です。認可申請は承継の実行前に行い、認可を受けることが承継の前提条件となります。
要件の充足状況は都道府県ごとに確認方法が異なる場合もあるため、申請先(都道府県知事または国土交通大臣)に事前に相談することをお勧めします。
要件①:譲渡人または合併・分割前の会社が建設業許可を保有していること
承継の対象となる建設業許可が有効であることが前提です。許可の有効期間(5年)内に認可申請を行う必要があります。許可が期限切れになった後では事前認可の対象外となるため、時期に注意が必要です。
要件②:譲受人または承継会社が経営業務の管理体制要件を満たすこと
建設業許可の取得・維持には、経営業務の管理を適正に行う体制が必要です。令和2年改正で「経営業務の管理責任者(経管)」という個人要件から、「常勤役員等(経営業務の管理責任者)」単独による体制、または「常勤役員等とこれを直接補佐する者による体制」のいずれかを満たせば許可要件を充足できる仕組みに移行しています(国土交通省「建設業許可基準の見直し(令和2年)」)。
承継を受ける側も、この経営業務管理体制の要件を満たす役員等の常勤配置が必要となります。具体的な確認事項は許可行政庁によって異なるため、事前相談で必要書類を確認することが不可欠です。
要件③:営業所技術者等(専任技術者)の配置
営業所ごとに、許可を受けようとする業種に対応した営業所技術者等の常勤配置が必要です。令和6年12月13日施行の改正により、旧称「専任技術者」は「営業所技術者等」に改称されました(以下「営業所技術者等(専任技術者)」と表記します)。
承継後も同一の営業所技術者等(専任技術者)が引き続き常勤することが確認できれば問題ありませんが、退職・異動が見込まれる場合は代替人材の確保を事前に進めておく必要があります。
要件④:承継元のすべての業種の許可を承継すること
事前認可で引き継げるのは、承継元が保有する許可業種のすべてです。「一部業種のみ引き継ぐ」という選択はできません(関東地方整備局・千葉県「建設業許可の承継の手引」)。
承継元が現に有する業種のうち、承継先への承継を要しない業種がある場合は、認可申請日前までに承継を要しない業種について廃業届を提出する必要があります(相続の場合を除く)。この点を見落とすと、引き継ぎたくない業種の許可ごと引き継ぐことになるため、事前の整理が重要です。
建設業には土木工事業・建築工事業・電気工事業など29業種があり、引き継ぐすべての業種について、承継後も営業所技術者等(専任技術者)を配置できることが条件となります。
要件⑤:欠格要件に該当しないこと
建設業法上の欠格要件に該当しないことが必要です。現行の欠格要件には、破産者で復権を得ない者、一定の刑罰・処分歴がある者、暴力団員等、そして「精神の機能の障害により建設業を適正に営むにあたって必要な認知・判断・意思疎通を適切に行うことができない者として国土交通省令で定めるもの」などが含まれます。
なお、令和元年の整備法改正により、「成年被後見人」を一律に欠格とする条項は削除され、心身の状況を個別に審査する規定に改められています(国土交通省「成年被後見人等の権利制限に係る見直し」)。法人の場合は、役員等(取締役・執行役・顧問・相談役・5%以上の個人株主等を含む)や建設業法施行令第3条に規定する使用人が欠格要件に該当しないことが求められます。
事前認可申請の手続きの流れ

事前認可申請は、承継の種類(合併・分割・事業譲渡・相続)によって手続きの細部が異なりますが、大まかな流れは共通しています。
M&A全体の手続きの流れとスケジュールについては、M&Aの手続き全体の流れで詳しく解説しています。
承継が完了してから動き始めると許可の空白期間が生じるリスクがあるため、承継実行の少なくとも3〜6か月前から準備を開始することを強くお勧めします。
STEP1:事前相談(承継計画確定前)
許可行政庁(都道府県の建設業担当窓口、または地方整備局)に事前相談を行います。複数の都道府県で営業所を構える場合(大臣許可の場合)は、国土交通省の各地方整備局に相談します。
この段階で、認可申請に必要な書類の種類と、承継完了までの想定スケジュールを確認しておくことが重要です。
STEP2:必要書類の収集・作成(承継計画確定後)
認可申請に必要な書類を収集・作成します。法人の場合は登記簿謄本(履歴事項全部証明書)や財務諸表の整備が必要になるため、税理士と連携して書類を準備することが一般的です(主な必要書類は次章で詳述)。
STEP3:認可申請の提出
許可行政庁へ認可申請書類を提出します。申請後、行政による審査が行われます。審査期間は許可行政庁によって異なります。国土交通大臣許可(関東地方整備局)では、承継予定日の90日前までに申請を行う必要があり、標準処理期間は90日とされています。都道府県知事許可では行政庁ごとに異なり、例えば千葉県では標準処理期間45日・遅くとも承継事実の60日前までに申請するよう案内されています。いずれも承継実行日より前に認可が取得できるよう、早期に事前相談を行うことが不可欠です。
STEP4:認可の取得
認可が下りたことを確認してから、承継(譲渡・合併・分割等)を実行します。この順序が重要で、認可前に承継を実行してしまうと事前認可制度の適用外となる場合があります。なお、認可は「承継の法的効力発生の前提条件」であり、実際の承継の効力は合併・譲渡等の法的手続きの効力発生日に生じます。
STEP5:承継後の変更届
承継完了後に必要な変更届を提出します。商号・代表者・役員・営業所の変更など、登記内容の変更に伴う届出を30日以内に行う必要があります(建設業法第11条)。
認可申請に必要な書類一覧

認可申請に必要な書類は許可行政庁や承継の種類によって異なりますが、一般的に求められる書類は以下の通りです。様式番号は承継の種類によって異なります。事前に許可行政庁の最新案内を必ず確認してください。
| 書類の種類 | 様式番号の目安 | 内容・備考 |
|---|---|---|
| 認可申請書 | 事業譲渡:第22号の5、合併:第22号の7、分割:第22号の8、相続:第22号の10 | 承継の種類に応じた様式(行政窓口または国土交通省HPで取得) |
| 事業承継に関する契約書の写し | — | 譲渡契約書・合併契約書・分割計画書等(種別に応じた書類) |
| 登記事項証明書 | — | 法人の現在の登記内容(発行後3か月以内のもの) |
| 経営業務管理体制に関する証明書類 | 常勤役員等証明書 等 | 経歴・常勤確認書類(職歴証明書・建設業許可申請書の写し等) |
| 営業所技術者等(専任技術者)の資格証明書類 | — | 資格証のコピー・実務経験証明書等(業種ごとに必要) |
| 財務諸表 | — | 直近1〜2期分の決算書類(税理士作成が望ましい) |
| 誓約書・欠格要件確認書 | — | 欠格要件非該当の申告(役員等・令3条の使用人分を含む) |
| 組織図・営業所一覧 | — | 承継後の組織・営業所体制 |
| 確認書類(納税証明書等) | — | 許可行政庁・申請類型により求められる書類が異なるため、最新の手引きで確認 |
(参照:国土交通省関東地方整備局「建設業許可申請・変更の手引き」)
承継後の経営事項審査(経審)への影響

建設業許可の承継が完了した後に必ずチェックしておきたいのが、経営事項審査(経審)の取り扱いです。
経営事項審査とは、建設業者の経営状況・経営規模・技術力・社会性を客観的に評価する制度で、公共工事の入札参加資格審査に必要とされています(建設業法第27条の23)。
事前認可により建設業者としての地位を承継した場合、制度上は経営事項審査の結果も承継対象に含まれます(千葉県「建設業許可の承継の手引」、関東地方整備局「建設業許可の承継等について」)。ただし、経審の結果が各発注機関の入札参加資格審査にどのように反映されるかは、発注機関ごとの運用に依存するため、承継後は各機関に個別確認することが重要です。
また、以下の点は承継後に別途対応が必要なため、見落とさないよう注意してください。
承継後に公共工事への入札参加を継続するためには、各発注機関(都道府県・市区町村・国の機関等)への入札参加資格の変更手続きが別途必要です。これは経審の承継とは独立した手続きであり、発注機関ごとに確認・更新の作業が生じます。また、承継後の次回経審(次の審査基準日以降の審査)については、承継後の財務内容をもとに改めて受審することが必要になります。経審の有効期間(審査基準日から1年7か月)と承継スケジュールを事前に照らし合わせ、入札参加資格が途切れないよう計画的に準備を進めることが重要です。
建設業の承継と企業価値評価:許可・実績をどう評価するか

建設業をM&Aにより第三者に承継する場合、企業価値の評価において建設業許可や施工実績が重要な要素になります。
一般的な企業価値評価の手法については、中小企業のM&A企業価値評価の手法で詳しく解説しています。
一般的な企業価値評価手法(純資産法・DCF法・EBITDAマルチプル法・年買法など)に加えて、建設業特有の評価要素として以下の点が重視される傾向があります。
保有する許可業種の種類と級別(一般建設業・特定建設業の別、29業種のうちどれを保有しているか)は、買い手側の事業拡張ニーズと照らし合わせて評価されます。特に、1級施工管理技士などの国家資格保有者が多い会社は、技術力の証明として高く評価される傾向があります。
また、公共工事における経営事項審査の評点(P点・W点)も重要な指標です。評点が高い事業者ほど落札実績が積みやすく、安定した受注基盤を持つと判断されます。
施工実績についても、工事の種類・規模・元請け比率・発注者の属性(公共/民間の割合)が詳細に検討されます。売り手として企業価値を最大化したい場合、売却の2〜3年前から財務諸表の適正化や受注実績の見直しを始めることが有効とされています。
具体的な評価額については業界動向・財務状況・個別の取引条件によって大きく変動するため、M&Aの条件交渉を始める前に、専門家に評価の妥当性を確認することをお勧めします。M&Aインサイトでは、提示された条件が本当に売り手にとって適正かどうか、無料でセカンドオピニオンをお伝えすることができます(無料相談はこちら)。
建設業許可承継の事前準備チェックリスト

建設業許可を確実に承継するために、事前に確認・準備しておくべき事項をまとめました。承継計画を立てたら、このチェックリストを参照しながら準備を進めてください。
許可・書類の確認
- 現在の建設業許可の有効期間を確認している(有効期限まで余裕があるか)
- 許可業種が29業種のうちどれかを把握している
- 一般建設業・特定建設業の別を確認している
- 許可番号・管轄の許可行政庁を確認している
- 直近2期分の決算書・財務諸表を整備している
- 過去5年分の工事実績台帳を整理している
- 承継後に引き継ぎたくない業種がある場合、認可申請前に廃業届の提出を検討している(相続を除く)
人員・組織の確認
- 経営業務管理体制(常勤役員等または常勤役員等+補佐者体制)の要件を満たす候補者を確認・確保している
- 各営業所の営業所技術者等(専任技術者)(引き継ぐ業種に対応した資格保有者)の在職を確認している
- 承継後の役員等(役員・顧問・相談役・5%以上の個人株主等)および令3条の使用人の欠格要件非該当を確認している
- 常勤役員等の健康保険・厚生年金・雇用保険の加入状況を確認している
手続き・スケジュールの確認
- 許可行政庁(都道府県窓口または地方整備局)に事前相談を行った
- 認可申請から認可取得までの標準審査期間を確認している(大臣許可:90日、知事許可:行政庁ごとに確認)
- 承継実行日よりも前に認可が取得できるスケジュールで動いている
- 承継後30日以内に必要な変更届の種類を確認している
- 経営事項審査(経審)の次回審査スケジュールを把握している
- 承継後の入札参加資格の変更・更新手続きを各発注機関ごとに確認している
M&A・事業承継全般の確認
- 承継の形態(株式譲渡/法人成り・第三者売却・合併・分割・相続)を決定し、建設業許可の承継認可が必要かどうかを確認している
- 税理士・行政書士・弁護士等の専門家体制を整えている
- 従業員・協力会社への説明・引き継ぎ計画を立てている
- 取引先との契約継続に必要な手続きを確認している
建設業の承継でよくある失敗パターンと対策

実務で見られる典型的な失敗パターンを整理しておきます。いずれも事前の準備と専門家への相談で防ぐことができる問題です。
建設業のM&A条件に不安がある方は、M&Aセカンドオピニオンにご相談ください。

失敗パターン①:許可の空白期間が発生した
承継を実行した後に認可申請を行ったため、認可が下りるまでの間、許可なしで受注ができなくなるケースです。令和2年改正後でも、事前認可申請を行わずに承継を先行してしまうと空白期間が発生します。対策は、必ず承継の実行前に認可申請を行い、認可取得を確認してから承継を実行することです。
失敗パターン②:営業所技術者等(専任技術者)が不在になった
承継直前または直後に営業所技術者等(専任技術者)が退職・転職し、許可業種の維持要件を満たせなくなるケースです。代替の技術者が見つかるまでの間、当該業種の許可が廃業扱いになるリスクがあります。対策は、承継前から技術者の在籍状況を定期的に確認し、退職リスクに備えた人材確保策を講じておくことです。
失敗パターン③:入札参加資格の更新手続きを失念した
承継後に各発注機関への入札参加資格の変更手続きを失念し、入札参加資格が一時的に失われるケースです。経審の承継とは別に、各発注機関への登録変更が必要な点を見落とした場合に生じます。公共工事の比率が高い事業者では売上への直接的な打撃となります。対策は、承継スケジュールを確定した段階で、取引のある発注機関ごとに変更手続きのスケジュールを整理しておくことです。
失敗パターン④:協力会社・取引先との関係が途切れた
代表者の交代や法人名の変更に伴い、既存の協力会社や元請業者との信頼関係が損なわれるケースです。建設業は人的ネットワークが受注に直結するため、PMI(統合プロセス)の管理が他業種以上に重要です。対策は、承継計画の策定段階から関係者への丁寧な説明と引き継ぎ計画を組み込むことです。
失敗パターン⑤:承継認可が否認・不受理となった
認可申請を提出したにもかかわらず、否認または受理されないケースも存在します。典型的な要因として、以下のようなケースが挙げられます。
技術者の実態を伴わない形式的な在籍(名義貸しの疑義がある場合)は、行政による調査の対象となり得ます。また、承継先の常勤役員等に経営業務の実態が伴わない場合や、事業の実体移転が認められない「形式だけの承継」と判断されるケースでも認可が認められないことがあります。
対策は、承継前から行政書士等の専門家を交えて書類の実態適合性を確認し、申請書類の根拠となる事実(常勤の実態・技術者の在籍確認書類等)を十分に準備しておくことです。
建設業の事業承継を巡る市場動向

建設業における事業承継の必要性が高まっている背景を理解しておくことは、承継の方向性を考えるうえで重要です。
事業承継の手段としてM&Aを選ぶ判断基準については、事業承継とM&Aの違いと選択基準で詳しく解説しています。
帝国データバンクの調査(2024年)によれば、経営者の平均年齢は全業種で60.7歳に達しており、建設業でも高齢化が進行しています。後継者が未定の中小企業の割合は依然として高い水準にあり、帝国データバンク「全国企業後継者不在率動向調査(2025年)」によれば、全業種の後継者不在率は50.1%、業種別では建設業が57.3%と全業種の中で最も高い水準となっています。
建設業は技能者の育成や許可の維持に長い年月を要するため、一度廃業してしまうと地域のインフラ整備・維持管理を担う担い手が失われることになります。こうした背景から、中小企業庁・国土交通省は事業承継の円滑化を積極的に支援しており、「中小M&Aガイドライン(第3版)」(中小企業庁、令和6年8月改訂)は、中小M&A市場の健全な環境整備と支援機関における支援の質の向上を目的として改訂されており、中立的なセカンドオピニオンの活用なども位置づけられています。
廃業よりも第三者承継を選ぶことで、従業員の雇用継続・取引先への影響最小化・経営者個人の個人保証問題への対処など、複数のメリットが生まれます。ただし、第三者承継が常に最適解とは限らず、自社の状況・経営者の希望・後継者候補の有無などを総合的に検討することが重要です。
よくある質問(FAQ)

Q1. 令和2年の改正前に取得した許可は、改正後の事前認可制度を使えますか?
はい、使えます。令和2年10月1日以降に承継の手続きを行う場合であれば、許可の取得時期を問わず事前認可制度を活用することができます。ただし、許可の有効期間(5年)内に認可申請を行う必要があるため、更新と認可申請のスケジュールを同時に管理することをお勧めします。
Q2. 個人事業主から法人成りした場合、許可番号はそのまま引き継げますか?
事前認可を受けた場合、原則として旧許可番号を引き継ぐことができます(許可行政庁の判断による)。法人成りの場合も要件充足の確認が必要であり、許可行政庁への事前確認が欠かせません。条件を満たさない場合は、新設法人が改めて新規申請を行うことになります。
Q3. 相続で許可を引き継ぐ場合、申請の期限はありますか?
相続による認可申請は、被相続人が亡くなった日から30日以内に行う必要があります(建設業法第17条の3)。この手続きは事前認可(第17条の2)とは異なり、死亡後に行う申請です。申請が受け付けられると、認可または不認可の処分があるまでの間は、相続人は被相続人の建設業許可を受けたものとして取り扱われます。30日以内に申請を行わなかった場合、承継が認められず新規取得が必要になる可能性があるため、速やかに許可行政庁へ連絡することが重要です。
Q4. 建設業許可を承継した後、新たに業種を追加したい場合はどうすればよいですか?
承継した許可の業種以外の業種を追加する場合は、承継とは別に業種追加の申請(既存の許可への業種追加)を行う必要があります。業種追加には営業所技術者等(専任技術者)の配置など新たな要件確認が必要です。承継と業種追加を同時に計画している場合は、スケジュールを調整してまとめて手続きできないか、許可行政庁に確認することをお勧めします。
Q5. 建設業以外にも許可が必要な業種(産業廃棄物収集運搬業など)を兼業している場合、承継手続きはどうなりますか?
産業廃棄物収集運搬業許可など、建設業許可とは別の許可・登録が必要な業種についても、それぞれの根拠法に基づいた承継手続きが別途必要です。建設業許可の承継手続きのみでは他の許可は引き継がれないため、それぞれの許可を所管する行政窓口に個別に確認する必要があります。事業承継の際は、自社が保有する許可・登録の全リストを作成し、それぞれの引き継ぎ方法を整理することが重要です。
Q6. 承継後も公共工事の入札に参加し続けるには何が必要ですか?
公共工事の入札参加継続には、建設業許可の継続に加え、以下の2点への対応が必要です。
一つ目は経営事項審査(経審)の扱いです。制度上は事前認可による承継によって経審の結果も承継対象に含まれます。ただし、実際の入札参加資格への反映は各発注機関の運用に依存するため、個別に確認することが重要です。次回経審(次の審査基準日以降)については承継後の財務内容をもとに改めて受審することになるため、有効期間(審査基準日から1年7か月)との兼ね合いを事前に確認してください。
二つ目は、各発注機関への入札参加資格の変更手続きです。経審の承継とは独立して、各発注機関(都道府県・市区町村・国の機関等)ごとに入札参加資格の変更・更新の手続きが必要となります。承継後に速やかに各機関へ連絡し、必要な手続きを確認することが重要です。
Q7. 建設業の承継をM&Aで検討しています。どこに相談すればよいですか?
建設業の承継には、建設業法・会社法・税務が複雑に絡み合います。行政書士(許可申請)、税理士(財務・税務)、弁護士(契約)、M&Aアドバイザーなど複数の専門家が関わる場合がほとんどです。M&A仲介会社に相談する前や、既に仲介会社から提案を受けている場合でも、提示された条件が売り手にとって本当に適正かどうかを中立的な立場から確認することをお勧めします。条件の評価に不安を感じた場合は、無料でセカンドオピニオンを提供しているサービスを活用することも一つの方法です(M&Aインサイトの無料相談はこちら)。
まとめ:建設業許可の承継は早めの準備が成否を分ける
建設業許可の承継は、令和2年の建設業法改正によって「事前認可制度」が整備されたことで、許可を途切れさせずにスムーズに引き継ぐ環境が大きく改善されました。しかし、認可申請には経営業務管理体制・営業所技術者等(専任技術者)の要件確認、財務書類の整備、申請書類の作成など多くの準備が必要であり、承継実行の半年以上前から動き始めることが望ましいとされています。
特に以下の4点は、承継の成否に直結する重要事項です。
- 承継の実行前に認可を取得する(空白期間ゼロ)。なお相続の場合は被相続人の死亡後30日以内に相続認可申請を行う
- 承継元のすべての業種の許可を承継することが原則(一部業種のみの承継は不可)
- 営業所技術者等(専任技術者)の在籍と要件充足を継続して確保する
- 制度上は経審も承継対象だが、各発注機関への入札参加資格変更と次回経審の受審は別途対応が必要
また、第三者へのM&A・売却を検討している場合は、許可業種・施工実績・経審評点が企業価値評価の重要な要素となります。売り手としての適正な価値を把握するためにも、M&A仲介会社からの提案に対してセカンドオピニオンを得ることは有益です。
M&Aインサイトでは、建設業を含む事業承継・M&Aに関するご相談を完全無料・成功報酬なしで承っています。「今の条件が適正かどうか分からない」「仲介会社から提案を受けたが第三者の意見を聞きたい」といったご相談にも、中立的な立場でお応えします。