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歯科医院のM&A|医院売却・承継の相場と流れ

長年にわたって地域の患者さんを診てきた歯科医院。その一方で、「後継者が見つからない」「体力的に引退のタイミングを考え始めた」「経営を続けることへの不安が大きくなってきた」――そんな悩みを抱えている院長先生は、近年ますます増えています。
しかし、歯科医院の売却や承継は、一般的な不動産売却とも、通常の会社売却とも異なる特殊なプロセスが求められます。医療法上の規制、個人開業か医療法人かによるスキームの違い、患者やスタッフへの影響など、検討すべき要素は多岐にわたります。「どこに相談すればいいか分からない」「相場や手数料の実態がつかめない」という声は少なくありません。
そこで本記事では、歯科医院の売却を検討している院長先生に向けて、売却方法の種類、価格相場と企業価値の算定方法、売却の流れ、税金とコストの考え方、成功のポイント、よくある失敗例、そして売却後の働き方まで、実務的な視点から体系的に解説します。
この記事の監修者

森沢 雄太
一般社団法人
M&Aセカンドオピニオン協会
代表理事
外資系銀行でのウェルスマネジメント業務を経て、日本M&Aセンターに入社。譲渡側アドバイザーとして100件超の成約に関与し、野村證券出向や福岡支店立ち上げも経験。2018年に日本投資ファンド立ち上げに参画し、投資先の再生にも成功。2022年、合同会社M&Aプレップを創業し、仲介会社・ファンドへの支援やオーナー向け売却準備、買収支援など幅広く展開。2024年には売却支援事業拡大のため株式会社企業経営支援機構を設立し代表に就任。加えて、M&Aにおける利益相反や情報格差の是正を目的とし、代表理事として一般社団法人M&Aセカンドオピニオン協会を設立。
歯科医院の売却・承継が増えている背景

歯科医院の売却や事業承継を検討するケースが増えているのは、個人的な事情だけでなく、業界全体の構造的な変化が背景にあります。
医療法人によるM&Aの仕組みと手続きについては、こちらの記事をご参照ください。

帝国データバンクの「全国社長年齢分析調査(2024年)」によると、日本企業の経営者(社長)の平均年齢は60.7歳に達しています。また、同社の「全国後継者不在率動向調査(2024年)」では、後継者が「いない」または「未定」とした企業は全体の52.1%に上っており、後継者問題は歯科業界でも深刻な課題です。
歯科業界が直面している課題
歯科医院を取り巻く経営環境は、この10年で大きく変化しました。コンビニよりも多いと言われるほど供給が増える一方(厚生労働省医療施設動態調査(2025年12月末概数)では歯科診療所数は6万7,000施設超)、少子高齢化による患者構成の変化、診療報酬改定、設備投資の負担増など、経営を継続するうえでの難しさは増しています。
特に、デジタルX線や口腔内スキャナー、CAD/CAMなど最新の設備投資は数百万円から数千万円規模になることもあり、小規模な個人歯科医院では設備の更新が経営上の大きな負担となっています。
廃院よりも売却・承継が選ばれる理由
こうした状況の中で、かつては引退時に「閉院・廃院」を選ぶことが一般的でした。しかし廃院には、医療機器の撤去費用、内装の原状回復費用、医療廃棄物の処理費用など、多額のコストがかかります。地域によっては数百万円規模の出費が生じるケースもあります。
一方、売却・承継では、患者や地域医療への継続性を保ちつつ、対価を得て引退することができます。スタッフの雇用も維持されやすく、患者側からも「かかりつけ医が変わらない」という安心感につながります。廃院コストを回避できる点でも、財務的なメリットがあります。
歯科医院の売却方法:M&Aと居抜きの違いを理解する

歯科医院を売却する方法は大きく2つに分かれます。個人開業か医療法人かという院の形態によっても、選べるスキームが異なります。
M&A(事業譲渡・持分譲渡)
M&A(合併・買収)は、歯科医院の事業そのものや、医療法人の出資持分を買い手に引き渡す手法です。近年は歯科業界でも、歯科グループやファンド、異業種からの参入など、買い手の多様化が進んでいます。
個人開業の歯科医院の場合、主なスキームは「事業譲渡」です。開業に必要な設備・内装・スタッフの引き継ぎなどをまとめて引き継いでもらう形になります。患者情報については、適法な手続きを経たうえで承継することが必要です(詳細は「患者情報の管理と承継準備」セクションを参照)。なお、事業譲渡ではスタッフの雇用契約は自動的に承継されるわけではなく、個々の従業員から個別の同意を得ることが必要です(民法625条1項)。
医療法人の場合は「持分譲渡(出資持分の譲渡)」が代表的な手法ですが、医療法人は株式会社と異なり株式がないため、一般的な株式譲渡とは仕組みが異なります。出資持分とは、払戻請求権や残余財産分配請求権という財産権であり、議決権(経営権)とは別のものです。医療法人の社員は出資持分の有無や額に関係なく1人1個の議決権を有するため(厚生労働省「医療法人の基礎知識」)、実務上は出資持分の譲渡に加えて社員・理事・理事長の変更を組み合わせることで経営権の移転が行われるのが一般的です。なお、持分なし医療法人の場合は持分譲渡という手法が使えないため、社員構成の変更や役員交代など別のスキームを検討する必要があります。
居抜き売却
居抜き売却とは、設備・内装などをそのままの状態で次の買い手に引き渡す方法です。買い手にとっては初期投資を抑えられる点で魅力的であり、特に開業を検討している若い歯科医師から需要があります。
ただし、リース契約については当然に承継されるわけではありません。リース会社への申請・審査を経た名義変更(地位承継)が必要であり、審査の結果によっては承継が認められないケースもあります。その場合、現オーナーが残債を清算するか、買い手が新たに再契約する形になります。売却前にリース会社へ確認しておくことが重要です。
M&Aと居抜きは混同されがちですが、居抜きは「物件・設備の引き渡し」が主眼であるのに対し、M&Aは「事業や経営権の移転」が主眼という点で本質的に異なります。患者情報やスタッフの引き継ぎを含むかどうか、対価の計算方法なども変わってきます。
売却方法の比較
| 項目 | M&A(事業譲渡) | 居抜き売却 |
|---|---|---|
| 対象 | 事業・経営権全体 | 設備・内装・物件 |
| 適した形態 | 個人・医療法人どちらも | 個人開業が中心 |
| 患者・スタッフ引き継ぎ | 含むことが多い(個別同意が必要) | 物件次第でケースバイケース |
| 売却価格の水準 | 概して高くなりやすい | 設備の残存価値が基準 |
| プロセスの複雑さ | 高い(専門家が必要) | 比較的シンプル |
| 主な相談先 | M&A仲介・アドバイザー | 不動産会社・M&A仲介 |
歯科医院の売却価格相場と企業価値の算定方法

歯科医院の売却価格は、「いくらで売れるか」という問いに対して一律の答えがあるわけではありません。院の規模、立地、収益力、設備の状態、患者数など多くの要因によって変動します。
医療機関の企業価値評価の具体的な手法については、医療機関の企業価値評価の手法で詳しく解説しています。
主な評価手法
歯科医院の企業価値評価には、主に以下の手法が用いられます。なお、実際の価格交渉では複数の手法を組み合わせて検討されることが一般的です。
時価純資産法+営業権(のれん)加算方式は、個人歯科医院に最もよく用いられる評価手法です。資産(医療機器、設備など)から負債を差し引いた「時価純資産」に、「営業権(のれん)」を加算する形で算出します。のれんとは、患者基盤の厚さや院の信用力、立地の優位性など、財務諸表に現れない無形の価値を指します。一般的には年間の営業利益の数年分程度が目安として参考にされることがありますが、これは業界の慣行であり公式な基準ではなく、実際には案件ごとに交渉によって決まります。近年は財務指標の多様化により、EBITDAや将来キャッシュフローを重視した個別交渉も増えています(中小M&Aガイドライン第3版、2024年8月改訂)。
DCF法(割引キャッシュフロー法)は、将来のキャッシュフローを現在価値に割り引いて評価する手法です。規模の大小を問わず理論上は適用可能ですが、小規模な個人歯科医院では将来予測の前提に不確実性が高く、補助的な参考指標として使われることが多い傾向があります。大規模な医療法人や複数院を持つグループでは主要な評価手法として活用されることがあります。いずれにおいても専門家による分析が不可欠です。
EBITDAマルチプル方式は、利払い・税引き・減価償却前利益(EBITDA)に業界の倍率をかけて評価する方法です。M&A業界では参考指標として使われることがありますが、歯科業界に特化した公的な倍率データは存在せず、あくまで参考の一つとして扱われます。
売却価格を左右する主な要因
- 月次患者数と患者単価(保険診療のみか自由診療も扱うか)
- 立地条件(駅近・商業地・住宅地など)
- 設備の種類と更新状況(ユニット台数、デジタル設備の有無)
- スタッフの在籍状況と勤続年数
- 医療法人か個人開業かの法人形態
- 院長の年齢と売却後の関与意向(しばらく勤務継続が可能かどうか)
- 賃貸物件か自己所有物件か、建物・土地の状況
高く売れる歯科医院の特徴
買い手の視点から評価が高まりやすい歯科医院には共通する特徴があります。患者数が安定していること、特に定期メンテナンス患者(リコール患者)が多いことは大きな強みです。自由診療の比率が高いと収益性の評価につながりやすく、スタッフが長く在籍していて離職率が低い院は引き継ぎリスクが低いと判断されます。立地が良く、駅から近い、あるいは人口が増えている地域にある院も評価されやすい傾向があります。
歯科医院売却の流れ

歯科医院の売却プロセスは、一般的に以下のステップで進みます。M&Aによる売却を前提として説明します。全体のスケジュールは、案件の複雑さや買い手の見つかりやすさによって異なりますが、おおむね6か月から1年半程度を要することが多いです。
M&A全体の手続きの流れと各ステップの詳細については、M&Aの一般的な手続きの流れで詳しく解説しています。
事前検討・情報収集(1〜2か月)
売却を決意する前に、まず「なぜ売るのか」「売却後はどうしたいか」という目的を整理することが重要です。引退して別の活動に専念したいのか、院の継続と患者・スタッフの引き継ぎを最優先したいのか、売却価格を最大化したいのかによって、選ぶスキームや交渉の優先順位が変わります。
また、医療法人の場合は定款変更や社員総会の決議が必要なケースがあり、事前確認が欠かせません。
M&A専門機関との相談・契約(1〜2か月)
M&A仲介会社、M&Aアドバイザー(FA:ファイナンシャル・アドバイザー)、事業承継・引継ぎ支援センター(公的機関)などに相談を開始します。専門機関と契約する際は、手数料体系(着手金・月額報酬・成功報酬)や秘密保持の範囲を必ず確認してください。
なお、成功報酬の計算には「レーマン方式」が広く使われており、取引金額等に応じて段階的な料率を乗じる計算方式です。ただし、計算の基準となる金額(譲渡価額基準・総資産基準など)は仲介会社によって異なり、同じ取引でも最終的な手数料額に大きな差が生じることがあります。具体的な率・計算基準は契約前に書面で明示してもらい確認することが重要です(中小M&Aガイドライン第3版では手数料の透明性確保が推奨されています)。
NDA(秘密保持契約)は、情報が外部に漏れて患者やスタッフに悪影響が出ないよう、早期の段階で締結します。
企業概要書(IM)の作成・買い手候補へのアプローチ(2〜4か月)
仲介会社が院の財務情報や診療状況をまとめた企業概要書(IM:インフォメーション・メモランダム)を作成し、候補となる買い手にアプローチします。初期段階では院名を伏せた「ノンネームシート」で打診することが多く、院の秘密保持が守られます。
トップ面談・意向表明書(LOI)の提出(1〜2か月)
関心を示した買い手候補との間で、院長と相手方の経営者や担当者が直接話し合うトップ面談が行われます。引き継ぎ後の方針やスタッフ・患者への対応について意見をすり合わせる重要な場であり、この段階での相性確認は売却後の円滑な移行に直結します。実務的には、トップ面談を経た後に買い手から意向表明書(LOI)が提出されるケースが多く見られます。LOIは買い手が売り手に対して買収の意向と希望条件を示す書面です。
基本合意書(MOU)の締結(1〜2か月)
価格・条件の大枠について売り手と買い手の双方が合意できたら、基本合意書(MOU:メモランダム・オブ・アンダースタンディング)を締結します。基本合意書は法的拘束力が限定的なことが多いですが、独占的交渉権や秘密保持義務については法的拘束力が認められるのが一般的です(中小M&Aガイドライン第3版)。なお、MOU締結に至るまでの条件は、実務上、売り手と事前にすり合わせを行ってから合意するケースも多くあります。
デューデリジェンス(DD)の実施(目安1〜2か月、小規模院では数週間の場合も)
デューデリジェンスとは、買い手側が売り手の財務・法務・税務・労務などを詳細に調査するプロセスです。財務DDでは過去3年程度の財務諸表や収支が確認され、法務DDでは契約関係やリース・不動産の権利関係が精査されます。
売り手としては、過去の税務申告書、医療機器のリース契約、建物賃貸借契約、スタッフの雇用契約書などを事前に整理しておくことが重要です。DDで想定外の問題が発覚すると価格の見直しを求められることがあるため、正確な情報開示が求められます。小規模な歯科医院では数週間程度で完了することもありますが、医療法人や複数院の場合は2〜3か月を要するケースもあります。
最終契約書(DA)の締結・クロージング(1〜2か月)
DDの結果を踏まえて最終的な売却条件を交渉し、最終契約書(DA:デフィニティブ・アグリーメント)を締結します。表明保証(売り手が資産・負債・法的問題について保証する条項)も含まれます。その後、対価の支払いと経営権の引き渡しが行われ、クロージングが完了します。
売却後はロックアップ条項(院長が一定期間の在籍・関与義務を負う条件)やアーンアウト条項(業績目標達成時に追加対価が支払われる条件)が付くことがあります。条件の内容は専門家と十分に確認してください。
なお、個人歯科医院の事業譲渡では、診療所の開設者変更に伴い保健所への廃止届・開設届、保険医療機関の指定申請、厚生局への手続きなどが別途必要になります。手続きの具体的な内容は地域やスキームによって異なるため、保健所・厚生局・専門家に事前に確認することが重要です。
歯科医院売却にかかる税金

売却時の税金は、個人開業か医療法人かによって、そして選択するスキームや譲渡する資産の種類によって大きく異なります。売却前に税理士への相談が不可欠です。
会社売却時の税金の基本的な仕組みと節税対策については、会社売却時の税金と節税対策で詳しく解説しています。
個人歯科医院の場合
事業譲渡では、譲渡する資産の種類によって課税の区分が異なります。
医療機器(機械器具)・のれん(営業権)・その他の有形固定資産の売却益は、原則として「総合課税の譲渡所得」として扱われます(国税庁No.3105)。保有期間が5年を超えるものは長期譲渡所得として2分の1が課税対象(他の所得と合算のうえ累進税率を適用)、5年以下のものは短期譲渡所得として全額が他の所得と合算されます。株式等の譲渡益のような一律20.315%(所得税15%+住民税5%+復興特別所得税0.315%)の申告分離課税が事業譲渡全体に適用されるわけではない点に注意が必要です。なお、資産の種類(棚卸資産か固定資産かなど)や取得価額によっては所得区分が異なる場合があるため、具体的な計算は必ず税理士に確認してください。
また、事業譲渡では消費税の取り扱いにも注意が必要です。売り手が消費税の課税事業者である場合、医療機器・のれん(営業権)などの課税資産と、土地・有価証券などの非課税資産とを対価の額を合理的に区分し、課税資産の合計額に消費税率を乗じて計算します(国税庁「営業の譲渡をした場合の対価の額」)。医療機器・建物・のれんなどは原則として消費税の課税対象であり、土地は非課税です。なお、免税事業者(年間課税売上高が一定額以下の場合)には消費税の申告・納付義務が生じないため、自院の課税区分を事前に確認してください。
資産の種類・保有年数・取引構造によって計算は複雑になるため、具体的な計算は必ず税理士に依頼することを強く推奨します。
医療法人の場合
持分あり医療法人の出資持分を譲渡する場合、基本的には出資持分を譲渡した個人(出資者)の側で譲渡所得課税が発生するのが中心です(申告分離課税、国税庁No.1463)。法人側に法人税等が発生するかどうかは、退職金の支給、資産の譲渡、基金・役員変更スキームなど、取引の具体的な内容によって異なります。持分の譲渡だけで一概に法人側にも課税が発生するとは言えず、スキームの詳細を専門家と十分に確認することが不可欠です。
医療法人の場合、持分ありか持分なしかによって税務上の取り扱いが異なります。2007年の医療法改正以降に設立された医療法人は持分なしが原則となっており、持分なし医療法人の場合は持分譲渡という手法が使えないため、理事長の交代や社員の変更といった別のスキームが必要になります。
節税の視点とスキーム選択
売却にかかる税負担は、どのスキームを選ぶかによって変わります。個人開業の状態で売却する場合と医療法人化した後に売却する場合とでは、手取り額が異なるケースがあります。ただし、節税を目的とした短期的な法人化は税務当局から問題視される可能性があるため、専門家と慎重に検討してください。制度は改正される可能性があるため、最新の情報は国税庁または税理士に確認することを推奨します。
売却成功のために事前に準備すること

売却の準備が早ければ早いほど、より有利な条件での売却が実現しやすくなります。「そろそろ考えはじめた」という段階から動き出すことが望ましいです。
財務・経理の整備
過去3〜5年分の決算書・確定申告書・月次の収支データを整理します。売上の内訳(保険・自由診療の比率)や、患者数・リコール率などの数字も準備しておくと、買い手との交渉でスムーズです。院長個人の経費と医院の経費が混在している場合は、分離しておくことが望ましいです。
契約・法的書類の確認
建物賃貸借契約、医療機器リース契約、スタッフの雇用契約、業者との取引契約などを整理します。特に賃貸物件の場合、オーナーからの転貸・名義変更の承認が得られるかどうかが売却の可否に直結することがあります。リース契約についても、承継にはリース会社の審査が必要であるため、事前に確認しておくことが重要です。
患者情報の管理と承継準備
歯科医院の事業譲渡では患者リスト・予約情報・カルテ情報など、個人情報(要配慮個人情報を含む)の承継が伴います。個人情報保護法では、事業承継(合併・事業譲渡等)に伴う個人データの提供については第三者提供の例外規定(法第27条第5項第2号)が設けられており、承継に伴う引き継ぎ自体が一概に違法とはなりません。ただし、承継後の利用目的の範囲・秘密保持・告知方法などを事前に整理することが重要です。個人情報保護委員会も合併・組織再編等の際の注意事項を案内していますので、専門家と相談のうえ適切な対応を検討してください。
売却タイミングの見極め
業績が比較的安定しているときに売却準備を始めることが重要です。業績が落ちてから売却を急いでも、相場よりも低い価格でしか売れないことが多く、交渉力も弱まります。健康上の問題など急ぎの理由がある場合を除いて、院の収益が安定している時期に動き始めることを検討してください。
売却を検討している段階で、条件の妥当性や相場観について第三者の中立的な意見を得ることも、判断の精度を高める一手です。もし仲介会社から提示された条件や価格が適正かどうか確認したい場合は、M&Aインサイトの無料相談をご活用ください。
歯科医院売却前チェックリスト

売却に向けた準備状況を確認するためのチェックリストです。「できている」項目が多いほど、スムーズな売却につながります。
- 過去3〜5年分の決算書・確定申告書が整理されている
- 月次の患者数・売上データが記録されている
- 保険診療と自由診療の売上比率が把握できている
- 医療機器・設備のリスト(購入年・リース有無・リース残債)がある
- 建物賃貸借契約書を保管・内容を把握している
- スタッフの雇用契約・就業規則が整備されている
- 院長の個人保証・借入状況を把握している
- 医療法人の場合:定款・社員名簿・出資持分の内容を確認している
- 患者情報の管理方法と承継時の対応を確認している
- 信頼できる税理士・弁護士への相談ルートがある
- 売却後の自分のキャリアプラン・生活設計について整理している
売却後の働き方と院長のセカンドキャリア

歯科医院を売却した後の院長の立場は、交渉次第でさまざまな形があります。多くの競合コンテンツでは「売却前後の手続き」に焦点が当たりがちですが、売却後の自分自身のライフプランまで見据えた意思決定が、後悔のない結果につながります。
売却後も一定期間は院に残るケース
買い手にとっては、患者や地域からの信頼が急に失われないよう、元院長が一定期間は診療を継続してくれることが理想的なケースも多いです。売却後1〜3年程度、雇用医師や顧問という形で関与し続けることを条件に交渉するケースがあります。これをロックアップ条項(キーマン条項)と呼び、院長が一定期間の在籍・関与義務を負う条件を指します。売却価格や条件に影響することがあります。
完全引退・リタイアを選ぶケース
年齢や体力的な理由から、売却と同時に診療から退く選択をする院長も多くいます。この場合、売却対価の資産運用計画、退職後の生活費の見通し、歯科医師免許を活かした別の活動(非常勤勤務、訪問歯科診療、学校歯科医、地域歯科保健活動など)を事前に考えておくことが安心につながります。
別の医院を開業・グループ化するケース
売却資金を元手に、新たな形で歯科業界に関わり続ける選択肢もあります。特に、複数院の経営を志向していた院長が、法人形態の整理を経てより効率的な経営体制に移行するためにM&Aを活用するケースも見られます。
売却にありがちな失敗パターンと対策

歯科医院の売却において、経験が少ない院長が陥りやすい失敗パターンを整理します。事前に知っておくことで、リスクを大幅に減らすことができます。
歯科医院の売却条件に不安がある方は、M&Aセカンドオピニオンにご相談ください。

秘密保持が守られずスタッフ・患者に情報が漏れた
M&Aの情報は秘密保持が大前提ですが、院長が身近な人に話したことが広まってしまったり、管理が甘くて情報漏洩したりするケースがあります。スタッフが「院が売られる」と聞いて一斉退職すると、企業価値が大幅に下がります。売却が公表されるタイミングと告知方法は、交渉の段階から計画的に準備することが重要です。
売却価格だけで相手を選び、引き継ぎが失敗した
提示価格が高い買い手が必ずしも理想的な引き継ぎ先とは限りません。患者やスタッフへの対応方針、診療理念が大きく異なると、売却後に多くのスタッフが離職したり、患者が離れたりするリスクがあります。価格だけでなく、経営方針や引き継ぎ体制についても丁寧にすり合わせることが大切です。
デューデリジェンスで想定外の問題が発覚した
過去の帳簿処理のずれ、未払い残業代、設備のリース残債など、DDの段階で初めて明確になる問題が出ると価格の見直しを求められたり、取引が破談になるリスクもあります。事前に自己DDを行い、弱点を把握したうえで対応策を用意しておくことが望ましいです。
焦って安値で売却してしまった
健康問題などの事情から急ぎで売却しようとすると、相場より低い価格でも受け入れてしまうことがあります。急ぎの場合でも、複数の候補から提案を受けて比較検討することが重要です。相場観を正確に把握していれば、大幅な値崩れを防ぐことができます。
非財務的価値を高めて売却価格を最大化する視点

財務データだけでなく、「無形の価値」を可視化することが売却価格の向上につながります。
ブランド力・地域での信頼の「見える化」
院の歴史、地域での口コミ・評判、患者満足度に関するデータ(Googleレビューの件数・評価など)を整理することで、数字には表れにくい「院のブランド力」を買い手に伝えることができます。
患者基盤の質と深さ
患者数の総数だけでなく、平均通院頻度、年齢層の分布、特定疾患や自由診療の受診比率などを整理すると、「どれだけ安定した収益が期待できるか」という見通しが明確になります。特に定期検診・メンテナンスで定期来院している患者数は重視されます。
組織文化・スタッフ定着率
スタッフが長く在籍しており、役割分担が明確で組織として機能している院は、引き継ぎ後のリスクが低いと評価されます。マニュアルの整備状況や採用・研修体制も評価対象になります。
よくある質問(FAQ)

Q1. 歯科医院の売却は誰に相談すればよいですか?
M&A仲介会社、M&Aアドバイザー(FA)、税理士・公認会計士、弁護士、そして中小企業庁が設置する「事業承継・引継ぎ支援センター」(全国各都道府県に設置)が主な相談先です。支援センターは公的機関で相談料は原則無料ですが、対応できる案件規模やサポート範囲に限りがある場合もあります。M&A仲介会社は案件化から成約まで一貫してサポートしてくれますが、手数料体系を事前に確認することが重要です。どの相談先が適切かを判断するためにも、複数の機関・専門家に話を聞いてみることをお勧めします。
Q2. 売却価格の目安はどのくらいですか?
歯科医院の売却価格は、院の規模・収益力・立地・設備状況などによって大きく異なります。一般的な評価では「時価純資産+のれん(営業利益の数年分程度が目安)」を参考にして試算されることがありますが、これはあくまで参考値であり、実際の価格は交渉によって決まります。同じ月商でも、患者層の安定度や設備の状態、スタッフの定着率によって評価額に大きな幅が生じます。まず専門家に具体的な試算を依頼することを推奨します。
Q3. 売却にかかる費用・手数料はどれくらいですか?
M&A仲介会社やFAに支払う手数料は、成功報酬型が中心です。成功報酬の計算には「レーマン方式」が広く使われており、取引金額等に応じて段階的な料率を乗じる計算方式です。ただし、計算の基準となる金額(譲渡価額基準・総資産基準など)は仲介会社によって異なり、同じ取引でも手数料額に大きな差が生じることがあります。着手金や月額顧問料が別途かかるケースもあります。中小M&Aガイドライン第3版では仲介会社等に対して手数料の透明性確保が求められており、契約前に手数料体系を書面で確認することが重要です。なお、仲介会社から提示された手数料が業界の慣行と比べて妥当かどうかを第三者に確認したい場合は、M&Aインサイトの無料相談もご活用ください。
Q4. 売却後も院に残って働くことはできますか?
はい、可能です。売却後に雇用医師や顧問として一定期間診療を継続する形は、歯科医院M&Aではよく見られるスキームです。患者との継続的な信頼関係を保ちたい買い手からも、こうした「移行期間の関与」を求めるケースがあります。条件(期間・報酬・勤務形態)は個々の交渉によって決まります。
Q5. 医療法人化してから売却するほうが有利ですか?
医療法人化のメリットとデメリットは、税務・法務・院の規模・将来計画によって異なります。持分あり医療法人の場合は出資持分の譲渡というスキームが使え、場合によっては税負担が変わるケースがあります。ただし、短期間での法人化→売却は税務上のリスクを伴う可能性があるため、税理士と十分に相談したうえで判断することが重要です。
Q6. 業績が悪い歯科医院でも売却できますか?
業績が厳しくても売却できるケースはあります。立地の良さや患者基盤の潜在力、設備の状態によっては評価されることがあります。ただし、業績が悪化した状態で急いで売却に動くと価格が大幅に下がるリスクがあるため、できるだけ早い段階で相談を始めることを推奨します。
Q7. スタッフへの告知はいつ行うべきですか?
基本的には、最終契約書が締結されてから告知するのが一般的です。交渉中の段階でスタッフに知られると、情報が広まってスタッフの離職が起きるリスクがあります。告知のタイミングと方法は、買い手と事前に合意しておくことが重要です。なお、事業譲渡ではスタッフの雇用契約は当然に承継されるわけではなく、一人ひとりから個別の同意を得ることが必要です(民法625条1項)。引き継ぎ後の雇用条件(給与・勤務形態が維持されるかなど)をできる限り明確にしたうえで伝えることで、スタッフの不安を和らげることができます。
Q8. 売却にかかる期間はどれくらいですか?
案件の複雑さや買い手が見つかるスピードによって大きく異なりますが、相談開始から成約・クロージングまでおおむね6か月から1年半程度を想定しておくのが現実的です。準備が整っていてスムーズに進んだ場合は半年未満で成約するケースもありますが、医療法人の場合は手続きが複雑で時間がかかることもあります。
まとめ:歯科医院の売却を成功させるために
歯科医院の売却は、「閉院してゼロにする」のではなく、長年積み上げてきた患者基盤・スタッフ・院の文化を次の担い手に引き継ぐ選択肢です。本記事のポイントを整理します。
売却方法(M&A・居抜き)と自院の形態(個人・医療法人)の組み合わせで、選べるスキームが決まります。売却価格は財務的な数字だけでなく、患者基盤の安定性や非財務的な価値によっても変わります。早めに準備を始め、財務・法務・税務の整理を先行させることが、有利な条件での売却につながります。専門家(仲介会社・税理士・弁護士)への早期相談が、失敗リスクを下げる最大の手段です。
歯科医院の売却は人生の大きな意思決定です。どのスキームが自院に合っているか、価格の妥当性はどうか、引き継ぎ先の経営方針に問題はないか――こうした判断を一人で抱え込まず、中立的な立場の専門家に確認を求めることが、後悔のない売却への近道です。
M&Aインサイトでは、完全無料・成功報酬なしの立場から、院長先生の状況に合わせた中立的なアドバイスを提供しています。「まだ検討段階だけど話を聞いてみたい」という段階でのご相談も歓迎しています。