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会社売却のベストタイミングはいつ?業績・年齢・市況から判断する方法

「自分の会社をいつ売却すればいいのか、その判断に迷っている」——多くの中小企業経営者が、事業承継や成長戦略を考える中でこの問いに直面します。会社の業績は決算のたびに変わり、後継者の有無、自身の健康状態、そして市場環境も刻一刻と変化していきます。「今売るべきか、まだ待つべきか」を一人で判断するのは、決して簡単なことではありません。
判断を誤ると、本来得られたはずの企業価値を十分に引き出せないまま交渉を進めてしまったり、逆に好機を逃して条件が悪化してから慌てて動くことになったりするケースも少なくありません。会社売却のタイミングは、業績・経営者自身の状況・外部環境という複数の要素が絡み合って決まるものであり、単一の指標だけで判断できるものではないのです。
そこで本記事では、会社売却の基礎知識から、タイミングを見極めるための具体的な視点、企業価値評価との関係、実務上の準備・費用、そしてよくある質問まで、売り手経営者が知っておくべき情報を体系的に解説します。
この記事の監修者

森沢 雄太
一般社団法人
M&Aセカンドオピニオン協会
代表理事
外資系銀行でのウェルスマネジメント業務を経て、日本M&Aセンターに入社。譲渡側アドバイザーとして100件超の成約に関与し、野村證券出向や福岡支店立ち上げも経験。2018年に日本投資ファンド立ち上げに参画し、投資先の再生にも成功。2022年、合同会社M&Aプレップを創業し、仲介会社・ファンドへの支援やオーナー向け売却準備、買収支援など幅広く展開。2024年には売却支援事業拡大のため株式会社企業経営支援機構を設立し代表に就任。加えて、M&Aにおける利益相反や情報格差の是正を目的とし、代表理事として一般社団法人M&Aセカンドオピニオン協会を設立。
会社売却とは?基礎知識と事業譲渡との違い

会社売却とは、経営者が保有する自社の株式や事業そのものを第三者(買い手企業や個人)に譲渡し、経営権を移転する取引を指します。一般に「M&A(Mergers and Acquisitions=合併と買収)」と呼ばれる手法の一つで、中小企業においては後継者不在の解決策や、事業の選択と集中を目的として活用されるケースが増えています。
会社売却の全体像(メリット・デメリット・流れ・税金・相場)をまとめて確認したい方は、こちらの記事もあわせてご覧ください。

会社売却の対象範囲と主な手法
会社売却と一口に言っても、その手法にはいくつかの種類があります。代表的なものが株式譲渡・事業譲渡・会社分割・合併です。株式譲渡は会社の株式を譲渡することで経営権そのものを移転する方法、事業譲渡は会社の一部または全部の事業のみを切り出して譲渡する方法です。会社分割は会社の事業の一部を切り離して他社に承継させる組織再編行為、合併は複数の会社が法的に一つになる手法を指します。中小企業のM&Aでは、手続きが比較的シンプルな株式譲渡が用いられることが多い傾向にあります(詳しい違いは後述します)。
中小企業のM&Aで多く用いられる株式譲渡の仕組みや手続きの流れについては、こちらの記事で詳しく解説しています。
会社売却と事業譲渡の違い
会社売却(株式譲渡)と事業譲渡は混同されやすい概念ですが、明確な違いがあります。株式譲渡は会社そのもの(法人格)を丸ごと譲渡するため、契約関係や許認可、雇用契約などが原則としてそのまま買い手に引き継がれます。一方、事業譲渡は事業の一部または全部を個別の資産・契約として譲渡するため、取引先との契約や許認可、従業員の雇用契約は原則として個別に移転手続き・同意取得が必要になります。売却する範囲や税務上の取り扱いも異なるため、どちらの手法を選ぶかはタイミングの検討と並行して整理しておくべき論点です。
会社売却が注目される背景
近年、中小企業の間で会社売却・M&Aへの関心が高まっている背景には、後継者不在の問題があります。帝国データバンクの調査(2025年)によれば、後継者の決定状況を分析可能な全国約27万社を対象とした集計で、後継者不在率は50.1%に達しており、多くの中小企業が事業承継の担い手を見つけられない状況にあります。会社売却は、こうした後継者不在の課題を解決する有力な選択肢の一つとして、経営者の間で選択されるようになっています。
会社売却・M&A市場の最新動向

会社売却のタイミングを考えるうえで、自社の状況だけでなく、M&A市場全体の動向を把握しておくことも重要です。
経営者の高齢化と事業承継ニーズの高まり
帝国データバンクの調査(2024年)によると、全国の社長の平均年齢は60.7歳に達しており、経営者の高齢化が進んでいます。経営者の年齢が上がるほど、後継者の確保や引退後の生活設計を見据えた事業承継の検討が現実的な課題となります。こうした背景から、中小企業庁は2024年8月に「中小M&Aガイドライン(第3版)」を改訂しました。既存の登録M&A支援機関には2024年12月末までに第3版への遵守宣言が求められ、2025年1月以降は新規に登録する支援機関も含めて第3版に基づく運用が行われています。同ガイドラインでは、M&A支援機関の質の向上や、経営者が安心してM&Aを進められる環境整備が示されており、中小企業のM&Aを後押しする制度的な土台が整いつつあります。
さらに2025年8月5日には「中小M&A市場改革プラン」が公表され、その後も中小企業のM&A市場の健全な発展に向けた基準資料として参照されながら、取り組みが進められています。制度の内容は今後改正される可能性があるため、最新情報は中小企業庁の公表資料でご確認ください。
買い手側の動きとニーズの変化
会社売却を検討するにあたっては、買い手側の動向も無視できません。事業の選択と集中を進める大手企業や、成長投資の一環として中小企業の買収を進めるファンド、同業種内でのシナジー(相乗効果)を狙う中堅企業など、買い手のタイプは多様化しています。業界再編が進む局面では、買い手が積極的に候補企業を探す動きが強まるため、売り手にとっても好条件を引き出しやすいタイミングとなる可能性があります。
会社を売却する4つのメリット

会社売却には、経営者にとって複数のメリットがあります。タイミングを検討する前提として、まずは売却によって何が得られるのかを整理しておきましょう。
創業者利益(売却益)を獲得できる
長年かけて育ててきた会社を譲渡することで、経営者自身が創業者利益(売却益)を得られる可能性があります。株式譲渡による売却益には譲渡所得税が課され、税率は原則として20.315%(所得税・復興特別所得税・住民税を合わせた申告分離課税、国税庁)です。得られる売却益の水準は会社の業績や資産状況、市場環境によって大きく変動するため具体的な金額を事前に断定することはできませんが、老後の生活資金や次の事業への元手として活用できる点は、会社売却の大きな魅力の一つです。
後継者問題・事業承継課題の解決
親族内に後継者がいない、あるいは社内に経営を引き継げる人材が育っていないという場合でも、会社売却によって第三者に経営を引き継ぐことで、事業と従業員の雇用を守りながら会社を存続させることができます。前述の通り後継者不在率が5割を超える状況の中、会社売却は事業承継の有力な選択肢として位置づけられています。
個人保証・経営者保証からの解放
中小企業の経営者の多くは、金融機関からの借入に対して個人保証(経営者保証)を差し入れています。会社売却によって経営権を移転する際、買い手企業や金融機関との事前協議・交渉を通じて、この個人保証を解除できるケースがあります。ただし、保証解除の可否や条件は個別の契約・交渉次第であり、必ず解除されるとは限らない点には注意が必要です。
大手・成長企業の傘下でのさらなる成長機会
自社単独では実現が難しかった事業拡大も、資本力やノウハウを持つ買い手の傘下に入ることで実現しやすくなる場合があります。買い手企業とのシナジーによって、既存事業の拡大や新規事業への展開が加速する可能性がある点も、会社売却のメリットとして挙げられます。
会社売却のデメリット・見落としがちなリスク

会社売却にはメリットがある一方で、経営者が見落としがちなデメリットやリスクも存在します。誠実な意思決定のためには、これらも正しく理解しておく必要があります。
経営権の喪失と方針転換のリスク
株式譲渡によって経営権を譲渡すると、それまで経営者自身が持っていた意思決定権は買い手に移ります。売却後も一定期間は経営に関与できる契約を結ぶケースもありますが、最終的な経営方針の決定権は買い手側に移行するため、自社の理念や社風が変化する可能性がある点は理解しておく必要があります。
従業員・取引先への影響
会社売却は、従業員の雇用条件や取引先との関係にも影響を及ぼす可能性があります。株式譲渡の場合は雇用契約がそのまま引き継がれるのが原則ですが、買い手企業の組織再編や事業方針の変更によって、労働条件や取引条件が見直されることもあります。従業員や主要取引先に対する情報開示のタイミングや伝え方は、売却プロセスにおいて慎重な配慮が求められる論点です。
情報漏えいのリスク
売却の検討段階では、候補となる買い手候補に自社の財務情報や事業計画などの機密情報を開示する必要があります。交渉が不成立に終わった場合でも情報が外部に漏れるリスクはゼロではないため、秘密保持契約(NDA)を締結したうえで、開示する情報の範囲やタイミングを段階的にコントロールすることが重要です。
会社売却の代表的な3つの方法と違い

会社売却には複数の手法があり、それぞれメリット・デメリットや税務上の取り扱いが異なります。タイミングを検討する際は、どの手法を選ぶかによって準備すべき内容も変わってくるため、あわせて理解しておきましょう。
| 手法 | 概要 | 主なメリット | 主な留意点 |
|---|---|---|---|
| 株式譲渡 | 会社の株式を譲渡し経営権を移転 | 手続きが比較的シンプル、契約関係が原則そのまま引き継がれる | 簿外債務なども含めて会社ごと引き継がれる |
| 事業譲渡 | 事業の一部・全部を個別資産として譲渡 | 譲渡する事業の範囲を選別できる | 契約・許認可の個別移転手続きが必要 |
| 会社分割 | 事業の一部を切り離して他社に承継 | 組織再編として包括承継が可能 | 手続きが複雑で専門家の関与が不可欠 |
中小企業のM&Aでは、手続きの簡便さから株式譲渡が選ばれる傾向がありますが、事業の一部だけを譲渡したい場合や、特定の負債・契約を切り離したい場合には事業譲渡や会社分割が検討されます。いずれの手法を選ぶ場合も、税務上の取り扱いが異なるため、税理士など専門家への確認が欠かせません。
会社売却のベストタイミングを見極める3つの視点

ここが本記事の中心テーマです。会社売却のタイミングは、大きく分けて「業績」「経営者自身の状況」「市場・外部環境」という3つの視点から総合的に判断する必要があります。
視点1:業績から見るタイミング
一般的に、会社の業績が好調で、成長トレンドにあるタイミングは、企業価値評価が高まりやすく、買い手からの関心も集めやすい時期とされています。売上・利益が安定的に伸びている状態は、買い手にとって将来のキャッシュフロー予測がしやすく、評価の根拠にもなりやすいためです。
一方で、業績が悪化している、あるいは赤字であることが必ずしも会社売却を諦める理由になるわけではありません。技術力や顧客基盤、事業のポテンシャルなど、決算数値だけでは表れない強みが評価されるケースもあります。業績が芳しくない場合ほど、早めに専門家に相談し、悪化がさらに進む前に選択肢を検討しておくことが望ましいといえます。
視点2:経営者自身の心身・意欲から見るタイミング
会社売却の意思決定において、経営者自身の体力や気力、意欲の状態も重要な判断材料です。経営者が高齢化し、体力の衰えを感じ始めた段階、あるいは事業に対する意欲が低下してきた段階では、早めに売却の検討を始めることが望ましいとされています。経営者の意欲が十分にあるうちに準備を進めた方が、磨き上げ(企業価値を高める取り組み)や交渉に前向きに取り組みやすく、結果として良い条件を引き出しやすくなるためです。
逆に、経営者の判断力や意欲が低下してから慌てて検討を始めると、準備不足のまま交渉に入らざるを得ず、望ましい条件での売却が難しくなる可能性があります。
視点3:市場・外部環境から見るタイミング
業界再編の動きが見られる時期や、景気が好調な局面は、買い手企業の投資意欲が高まりやすく、売り手にとって有利な条件を引き出しやすいタイミングとされています。同業他社のM&A動向や、金融機関の融資姿勢、業界全体の景況感などは、定期的にアンテナを張っておくことが望ましいでしょう。
ただし、市場環境は経営者自身でコントロールできるものではありません。市場が良いタイミングを待ち続けている間に、経営者自身の年齢や体力、業績が変化してしまうこともあるため、3つの視点をバランスよく見ながら、総合的に判断することが重要です。
「今のタイミングが適切かどうか」は、一人で抱え込まず専門家の視点を借りることも有効な選択肢です。
【ケース別】会社売却タイミングの考え方

ここまでの3つの視点を踏まえ、経営者が置かれている状況別にタイミングの考え方を整理します。
業績好調・経営意欲が高いケース
業績が好調で、経営者自身の意欲も高い場合は、あえて売却を急ぐ必要はないという考え方もできます。一方で、業績のピークがいつまで続くかは不確実であるため、企業価値が高い状態を維持できているうちに、選択肢の一つとして検討を始めておくことにも意味があります。
業績が悪化・赤字のケース
業績が悪化している、あるいは赤字であっても、事業そのものに将来性がある場合は売却の可能性が残されています。ただし、業績悪化が長期化するほど資金繰りが厳しくなり、交渉の選択肢が狭まっていく傾向があるため、早めに専門家へ相談し、現状の企業価値や選択肢を把握しておくことが重要です。
後継者不在が理由のケース
親族内・社内に後継者がいない場合、経営者の年齢や健康状態にかかわらず、早い段階から準備を始めることが望ましいとされています。事業承継・引継ぎ支援センターなどの公的機関でも、早期の相談が推奨されています。準備期間が長く確保できるほど、磨き上げや候補先探しに十分な時間をかけられ、結果として良い条件での売却につながりやすくなります。
業界再編が進んでいるケース
自社が属する業界で再編の動きが活発化している場合、買い手候補が増え、競争的な条件での売却が期待できる可能性があります。一方で、再編の波に乗り遅れると、業界内での自社の立ち位置が相対的に弱くなり、条件面で不利になることも考えられます。業界動向は日頃から情報収集を続け、変化の兆しを早めに察知することが大切です。
企業価値評価とタイミングの関係

会社売却のタイミングを検討するうえで、自社の企業価値がどのように評価されるかを理解しておくことも欠かせません。
企業価値評価の主な手法
企業価値評価の代表的な手法には、DCF法(将来のキャッシュフローを現在価値に割り引いて評価する方法)、EBITDAマルチプル(類似企業の売買事例をもとに、利益に一定の倍率をかけて評価する方法)、純資産法(貸借対照表上の純資産をベースに評価する方法)、年買法(純資産に一定年数分の利益を加算する簡便的な評価方法)などがあります。年買法は中小企業のM&Aで参照されることのある考え方の一つですが、公的な標準評価手法として位置づけられているわけではなく、実務上はDCF法やEBITDAマルチプルなど他の手法と組み合わせて評価額の妥当性を検証するのが一般的です。
各評価手法の考え方をさらに詳しく整理した企業価値評価(バリュエーション)の3つの方法も参考にしてください。
EBITDAマルチプルの倍率は、業種や規模だけでなく、成長性・収益の再現性、買い手が期待するシナジー効果の大きさによっても変動し、公的機関による統一的な基準値は公表されていません。具体的な倍率を断定的に示すことはできないため、自社の場合の評価は専門家に個別に確認することをおすすめします。
タイミングによって評価額が変動する理由
企業価値評価は、直近の業績データだけでなく、将来の成長性や市場環境の見通しも織り込んで算定されます。同じ会社であっても、業績が上向きのタイミングで評価すれば将来性を高く見積もられやすく、業績が下降局面にあるタイミングでは保守的に評価されやすい傾向があります。また、のれん(買収額が純資産を上回る差額部分で、ブランド力や技術力・顧客基盤など無形の価値を反映するとされる項目)の評価も、買い手が期待するシナジー効果の大きさによって変動します。このように、企業価値評価は「いつ」評価するかによって結果が変わりうるものであり、タイミングの検討と企業価値評価は切り離せない関係にあります。
意外と見落とされがちな2つの視点:税制動向とライフプラン設計

会社売却のタイミングというと、業績や市場環境の話に注目が集まりがちですが、実務ではあまり語られない、しかし経営者にとって重要な視点が2つあります。
税制・制度の動向を踏まえたタイミング検討
会社売却に伴う譲渡所得や、事業承継に関連する税制は、法改正によって内容が変わることがあります。前述の中小M&Aガイドラインの改訂や、事業承継税制(一定の要件を満たす場合に贈与税・相続税の納税が猶予・免除される制度)の適用要件なども、時期によって変わる可能性があります。例えば法人版事業承継税制(特例措置)は、特例承継計画の提出期限が令和9年(2027年)9月30日までとされています(2026年7月時点、中小企業庁)。売却を検討するタイミングでは、その時点での最新の制度内容を国税庁や中小企業庁などの公的機関の情報で確認することが欠かせません。税制の変更点によっては、売却の実行時期を数か月単位で調整した方が有利になるケースもあるため、税理士など専門家に早めに相談しておくことをおすすめします。
売却後のライフプラン・キャリア設計との連動
会社売却のタイミングは、経営者自身の「売却後にどう生きるか」というライフプランとも密接に関わっています。売却によって得られる資金をどのように活用するか、引退してセカンドライフを送るのか、あるいは新たな事業に挑戦するのか、売却後もロックアップ(キーマン条項。売却後も経営者が一定期間会社に関与する義務を負う契約条項)に応じて経営に関与し続けるのかによって、望ましい売却のタイミングや契約条件は変わってきます。業績や市場環境だけでなく、経営者自身が「売却後にどのような人生を送りたいか」を早い段階でイメージしておくことが、後悔のないタイミングの選択につながります。
会社売却の流れ・期間・費用の目安

会社売却を検討し始めてから実際に完了するまでには、一定のプロセスと期間、そして費用が必要です。タイミングを逆算して準備を進めるためにも、大まかな流れと費用感を把握しておきましょう。
検討・準備からクロージング・PMIまでの各ステップをより詳しく知りたい方は、M&Aの流れをご覧ください。
会社売却の流れと期間の目安
| ステップ | 主な内容 | 期間の目安 |
|---|---|---|
| 準備・専門家選定 | 売却の目的整理、M&A仲介会社やアドバイザーの選定、NDAの締結 | 1〜2か月 |
| 企業価値評価・資料作成 | IM(企業概要書)・ノンネームシートの作成、自社の企業価値評価 | 1〜2か月 |
| 候補先選定・交渉 | 買い手候補への打診、意向表明書(LOI)・基本合意書(MOU)の締結 | 2〜4か月 |
| デューデリジェンス(DD) | 買い手による財務・法務・事業の調査 | 1〜2か月 |
| 最終契約・クロージング | 最終契約書(DA)の締結、表明保証条項の確認、決済(クロージング) | 1か月程度 |
全体としては、検討開始から成約まで半年〜1年程度かかるケースが一般的とされますが、業種や案件の複雑さ、交渉の進捗によって前後します。LOI(意向表明書)は買い手が意向や希望条件の概要を示す文書で、独占交渉権の希望が盛り込まれることもありますが必須ではありません。MOU(基本合意書)はLOIをベースに双方が合意した基本的な取引条件を確認する文書であり、法的拘束力の範囲が異なる点に注意が必要です。実務上はLOIの段階ですでに売り手と大枠の条件がすり合わされていることも多く、MOU締結後は独占交渉権の付与とともにデューデリジェンスへと進むのが一般的な流れです。候補先選定・交渉の段階では、条件面だけでなく、買い手候補の資金の裏付けや取引を最後まで実行できる体制についても、交渉の中で確認しておくとタイミングの見極めに役立ちます。
最終契約書(DA)には、表明保証(売り手が開示した情報の正確性を保証する条項)や、クロージング(決済・経営権移転を実行する手続き)、エスクロー(売買代金の一部を第三者機関に一時的に預託し、表明保証違反等が生じた場合の補償原資とする仕組み)などの条項が盛り込まれることがあります。専門用語が多く登場する段階でもあるため、契約内容は必ず専門家とともに確認することが重要です。
会社売却にかかる費用・手数料
会社売却を進めるにあたっては、いくつかの費用が発生します。タイミングを検討する際は、これらの費用も踏まえて資金計画を立てておく必要があります。
M&A仲介会社やアドバイザーに支払う仲介手数料は、レーマン方式と呼ばれる計算方法が用いられることが一般的です。レーマン方式は、譲渡金額(または移動資産額)を一定の段階に区分し、区分ごとに異なる料率を掛け合わせて手数料を算出する方式で、中小M&Aガイドライン(第3版)でも紹介されています。ただし、料率の水準や区分の基準は仲介会社ごとに異なり、業界共通の公式な統一料率が存在するわけではありません。同ガイドラインでは手数料体系について契約前に明確な説明を行うことが求められており、契約前に必ず個別に確認する必要があります。
また、仲介手数料のほかにも、デューデリジェンスに対応する税理士・公認会計士・弁護士への専門家費用や、株式譲渡の場合は譲渡所得税(税率20.315%、国税庁)などの税務コストが発生します。事業譲渡の場合、譲渡対象資産のうち建物・棚卸資産・特許権・営業権(のれんを含む)などの課税資産には消費税が課される一方、土地や債権などは非課税とされ、株式譲渡とは税務上の取り扱いが異なります。手数料や税金の具体的な金額は案件ごとに大きく異なるため、早い段階で税理士に相談し、手取り額のシミュレーションをしておくことをおすすめします。
スキーム別の税金の計算方法や節税対策について詳しくは、会社売却にかかる税金で解説しています。
タイミングを逃さないための実務チェックリストと失敗しやすいパターン

最後に、会社売却のタイミングを逃さないために、経営者自身で確認できる実務チェックリストと、失敗しやすいパターンを整理します。準備には一定の時間がかかるため、実際に売却を意識し始めてから半年〜1年程度前を目安に、下記のような準備に着手しておくことが望ましいとされています。
実務チェックリスト
- 直近3期分の決算書・試算表が整理されているか
- 個人資産と会社資産が明確に分離されているか(役員貸付金・借入金の整理を含む)
- 主要な契約書(取引先・賃貸借・許認可等)の一覧が整理されているか
- 後継者の有無、事業承継の方向性について自分の考えが整理できているか
- 売却によって得た資金の使い道・引退後の生活設計についてイメージできているか
- 交渉の中で、買い手候補の資金の裏付けや取引を実行しきる体制を確認する視点を持てているか
- 信頼できる相談先(M&A仲介会社、税理士、事業承継・引継ぎ支援センター等)を把握しているか
失敗しやすいパターンと対策
会社売却のタイミングで失敗しやすいパターンの一つが、「業績が悪化してから慌てて動き出す」ケースです。業績悪化が進んでからでは、買い手候補や交渉の選択肢が狭まり、望ましい条件を引き出しにくくなります。もう一つは、「良い条件を求めて待ちすぎる」ケースです。市場環境や自社の業績は常に変動するため、完璧なタイミングを待ち続けているうちに、経営者自身の年齢や健康状態、業界動向が変化してしまうことがあります。
こうした失敗を避けるうえで、契約前に第三者の視点を取り入れるセカンドオピニオンという選択肢も有効です。詳しくはこちらの記事をご覧ください。

これらの失敗を避けるためには、業績・経営者自身の状況・市場環境という3つの視点を定期的に点検し、「今の自社であれば、どのような条件で売却できそうか」を早い段階から把握しておくことが有効です。中立的な第三者の意見を早めに取り入れることで、こうした判断のズレを防ぎやすくなります。
会社売却のタイミングに関するよくある質問(FAQ)
Q1. 赤字の会社でも売却できますか?
赤字であることが、直ちに売却を不可能にするわけではありません。技術力や顧客基盤、将来性などが評価され、赤字でも買い手が見つかるケースはあります。ただし、業績悪化が続くほど選択肢は狭まる傾向があるため、早めに専門家へ相談することをおすすめします。
Q2. 会社売却を検討していることは、従業員や取引先に知られてしまいますか?
検討の初期段階では、秘密保持契約(NDA)を締結したうえで、ノンネームシート(社名を伏せた形で事業概要のみを示す資料)を用いて限られた候補先にのみ打診するのが一般的です。情報開示の範囲とタイミングは段階的にコントロールできるため、むやみに情報が広まらないよう仲介会社と相談しながら進めることが重要です。
Q3. 会社売却にはどのくらいの期間がかかりますか?
案件の内容にもよりますが、検討を始めてから成約まで半年〜1年程度を見込むケースが一般的です。前述の「会社売却の流れと期間の目安」で示した通り、準備を早めに始めるほど、余裕を持ったスケジュールで進めやすくなります。
Q4. 会社売却後、経営者は引退しなければなりませんか?
必ずしも引退が前提ではありません。契約内容によっては、ロックアップ(キーマン条項)として一定期間は経営に関与し続けるケースや、顧問・アドバイザーとして関わり続けるケースもあります。売却後どのような形で関わりたいかを、事前に自分の希望として整理し、交渉の中で伝えることが大切です。
Q5. 会社売却の相場はどのくらいですか?
会社の規模や業種、収益力、資産状況によって大きく異なるため、一律の相場を示すことはできません。前述のDCF法や年買法などの評価手法を用いて、自社固有の状況を踏まえた評価を受けることが必要です。具体的な評価額を知りたい場合は、専門家に相談することをおすすめします。
Q6. 個人保証は会社売却によって必ず解除されますか?
会社売却(株式譲渡)によって経営権が移転しても、既存の個人保証(経営者保証)が自動的に解除されるとは限りません。買い手企業や金融機関との事前協議・交渉を通じて解除の手続きを進める必要があり、案件によっては一定期間、保証が残るケースもあります。契約交渉の段階で、保証解除の見通しについて確認しておくことが重要です。
まとめ
会社売却のベストタイミングは、業績・経営者自身の心身や意欲・市場環境という3つの視点を総合的に見て判断するものであり、単一の指標だけで決まるものではありません。業績が好調なうちに検討を始める、経営者の意欲が高いうちに準備を進める、業界再編の動きにアンテナを張っておくといった心がけに加え、税制動向や売却後のライフプランといった視点も踏まえて、早め早めに情報収集と準備を進めることが、後悔のない選択につながります。
今が売却のタイミングとして適切なのかどうか、自分だけでは判断がつかないと感じている場合は、一人で抱え込まず、中立的な第三者の視点を取り入れることも有効な選択肢です。
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※本記事の内容は一般的な情報提供を目的としており、税務・法務等の最終判断は税理士・弁護士等の専門家にご確認ください。制度・統計データは執筆時点のものであり、最新情報は各公的機関の公表資料でご確認ください。
監修:森沢雄太(一般社団法人M&Aセカンドオピニオン協会 代表理事/日本M&Aセンター出身/M&A成約実績100件超)