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廃業とM&A売却を徹底比較|手取り・税金・雇用・手続きの違いと後悔しない判断軸

後継者も見当たらず、体力的にも経営を続けるのが難しくなってきた——そういった局面で「会社をたたもうか」と考える経営者は年々増えています。しかし、実際に動き始めようとしたとき、多くの方が「廃業とM&A(会社売却)のどちらを選ぶべきか」という問いに直面します。
どちらも会社の出口戦略であることは同じですが、手取り額、税金の種類、従業員・取引先への影響、手続きの流れ、そして経営者自身のその後の人生設計まで、実際の違いは非常に大きいです。にもかかわらず、「廃業の方が手軽そう」「M&Aは大企業のもの」という思い込みだけで判断し、後から大きく後悔するケースは少なくありません。
そこで本記事では、廃業とM&A(会社売却)を多角的に比較し、それぞれのメリット・デメリット、税金・費用の違い、手続きの流れ、そして判断に迷ったときの考え方まで、実務的な視点から詳しく解説します。自社にとってどちらが最善の選択肢なのかを整理する上での参考にしてください。
この記事の監修者

森沢 雄太
一般社団法人
M&Aセカンドオピニオン協会
代表理事
外資系銀行でのウェルスマネジメント業務を経て、日本M&Aセンターに入社。譲渡側アドバイザーとして100件超の成約に関与し、野村證券出向や福岡支店立ち上げも経験。2018年に日本投資ファンド立ち上げに参画し、投資先の再生にも成功。2022年、合同会社M&Aプレップを創業し、仲介会社・ファンドへの支援やオーナー向け売却準備、買収支援など幅広く展開。2024年には売却支援事業拡大のため株式会社企業経営支援機構を設立し代表に就任。加えて、M&Aにおける利益相反や情報格差の是正を目的とし、代表理事として一般社団法人M&Aセカンドオピニオン協会を設立。
廃業とM&Aの本質的な違いを押さえる

廃業とM&Aを比較する前に、まずそれぞれが何を意味するのかを明確にしておきましょう。両者は「会社を終える・手放す」という点では似ていますが、事業や雇用の行く末において根本的に異なる選択肢です。
廃業とは何か
廃業とは、事業活動を自主的に停止するプロセスのことです。会社(法人)の場合は株主総会での解散決議、清算人の選任、債権者への公告、清算結了登記という法定の手続きを経て法人格を消滅させます。個人事業主の場合は廃業届(事業廃止届)の提出など、法人とは異なる手続きが必要です。
廃業は「自主的な終了」という点で、倒産(支払不能・債務超過により事業継続が困難になった状態)や休業(一時的に事業を止めること)とは区別されます。会社が廃業する場合、解散と清算という2つの段階があり、株主総会の解散決議から清算人の選任、債権者への公告、清算結了登記まで、一定の法的手続きが必要です。
廃業・倒産・休業の違いをまとめると以下のとおりです。
| 用語 | 意味 | 主な特徴 |
|---|---|---|
| 廃業 | 自主的に事業を終了する(法人の場合は解散・清算、個人事業主の場合は廃業届の提出等) | 任意・計画的に進められる |
| 倒産 | 支払不能・債務超過により事業継続が困難になった状態。法的整理(破産・民事再生等)や私的整理(任意整理等)が行われることがある | 経営危機の結果として生じる状態であり、対処の手段はケースによって異なる |
| 休業 | 一時的に事業を停止する(再開を前提) | 法人格は存続する |
M&A(会社売却)とは何か
M&Aとは「Mergers and Acquisitions」の略で、日本語では「合併・買収」と訳されます。中小企業の文脈では、経営者が株式や事業を第三者(買い手企業や個人)に売却し、対価を受け取る「会社売却」を意味することがほとんどです。
代表的な手法には、株式譲渡(会社の株式を譲渡する方法)、事業譲渡(特定の事業や資産などを譲渡する方法)、会社分割などがあります。事業の継続を図る点は共通していますが、従業員や取引先との契約関係がどのように承継されるかは手法によって異なります。株式譲渡では原則として会社の契約関係がそのまま存続する一方、事業譲渡では雇用契約や取引契約について個別の承諾や移転手続きが必要になる場合があります。
両者の本質的な違いは「事業の継続性」
廃業は事業を終わらせる選択であり、M&Aは事業を残しながら経営者が退く選択です。この一点が両者を分ける本質的な違いです。手取り額や税金といった財務的な差異も、この継続性の有無から派生しています。
廃業とM&Aを6つの軸で比較する

廃業とM&Aを選ぶ前に、複数の観点から比較することが重要です。以下の比較表で全体像を把握してください。
| 比較軸 | 廃業 | M&A(会社売却) |
|---|---|---|
| 事業・会社の存続 | 消滅する | 事業は買い手の下で継続することが多い |
| 従業員の雇用 | 原則として雇用終了(解雇・退職) | 条件交渉次第で継続雇用が可能 |
| 取引先との関係 | 原則として終了 | 買い手に引き継がれることが多い |
| 手取り額(経営者) | 残余財産の分配のみ(小さくなりがち) | 株式譲渡なら経営者個人が売却対価を受領。事業譲渡は会社が対価を受領し、配当・清算等を経て経営者に還元 |
| 税金の種類 | 法人税・住民税・残余財産のみなし配当への所得税等 | 個人株主(居住者)の株式譲渡益に原則20.315%の申告分離課税(国税庁) |
| 手続きの期間 | 数か月〜1年以上 | 3か月〜1年以上(小規模案件では短期成約もあり) |
| 個人保証の扱い | 負債が残る場合は保証債務が継続するリスク(廃業だけでは自動消滅しない) | 金融機関との合意のうえで解除される場合がある(自動的に解除されるわけではない) |
| 初期コスト | 解散登記・清算費用など数十万〜数百万円程度 | 仲介手数料・アドバイザー費用(成功報酬制が多い) |
事業と雇用が残るかどうか
廃業を選択すると、長年培ってきた技術・ノウハウ・ブランド・顧客基盤はすべて消滅します。従業員は雇用終了(解雇または退職)となり、雇用保険の手続きが必要になります。経営者にとって「従業員を路頭に迷わせたくない」という思いは強く、廃業を決断する上での最大の心理的ハードルのひとつです。
M&Aでは、買い手との交渉の中で「現在の従業員の雇用継続」を条件として盛り込むことが可能です。もちろん成約後の扱いは買い手の経営判断に委ねられますが、廃業に比べて雇用が守られる可能性はずっと高くなります。
取引先との関係はどうなるか
廃業の場合、取引先への通知と取引終了の手続きが必要になります。長年の関係に終止符を打つことは、経営者にとっても取引先にとっても大きな影響を及ぼします。特に地域の中小企業では、廃業が地域サプライチェーンに与えるダメージも無視できません。
M&Aでは、買い手企業が既存の取引関係を継続するケースが多く、取引先への影響を最小限に抑えられることが多いです。ただし、M&Aの検討・交渉中は情報管理が重要であり、関係当事者間で合意した適切な時期まで取引先への開示を控えるのが一般的です。
手取り額と税金の差が重要
経営者の手元に最終的に残る金額は、廃業とM&Aで大きく異なる場合があります。廃業の場合、資産を処分価格で換金するため、帳簿価額より低い価格での売却になりやすく、のれんの価値もゼロになります。手取り額は「資産の処分価格 – 負債の弁済額」から法人税等を差し引いた残余財産の分配という形になります。
M&Aでは、のれん(ブランド・顧客基盤・技術力などの無形価値)が買い手に評価され、売却価格に反映されることがあります。個人株主(居住者)が株式を譲渡する場合、売却益は原則として20.315%(所得税15%、住民税5%、復興特別所得税0.315%)の申告分離課税の対象となります(国税庁)。この税率は、廃業・清算時の残余財産分配に課される累進税率と比べて有利になるケースも多く、手取り額の観点でM&Aが有利になる場面があります。
廃業のメリットと注意点

廃業がすべての面で不利というわけではありません。廃業を選ぶ合理的な理由も存在します。それぞれの状況に合った選択をするために、廃業のメリットと注意点を正確に把握しておきましょう。
廃業のメリット
廃業の最大のメリットは、手続きの自由度と確実性です。買い手を探す必要がなく、自分のタイミングで事業を終えられます。特に、事業の将来性が乏しく買い手がつきにくい場合や、負債が大きく財務状況が複雑な場合は、廃業の方がシンプルな解決策になることがあります。
資産超過で負債を弁済できる場合は、清算によって借入金を返済・弁済したうえで事業を終えることができます。残余財産があれば手元に戻ってきます。長年の経営プレッシャーから解放されることも、経営者の健康・精神的な側面では大きな意味を持ちます。
また、M&Aと違って第三者との交渉が不要なため、情報漏洩のリスクが低い点も、経営者にとって廃業を選ぶ理由のひとつです。
廃業の注意点
廃業は「手続きが楽」と思われがちですが、実際には株主総会の解散決議、清算人の選任、官報への公告(2か月以上の期間が法定)、債権者への通知、資産の換金・処分、確定申告と清算確定申告、解散登記・清算結了登記と多くのステップがあります。手続き全体には半年から1年以上かかることも珍しくなく、税理士・司法書士などの専門家のサポートが不可欠です。
特に重要な点として、廃業(通常の清算)だけでは、借入金や個人保証が自動的に消えるわけではありません。資産超過で負債をすべて弁済できる場合は問題ありませんが、負債が残る場合は特別清算(裁判所の監督下で行う手続き)や破産手続きが別途必要になることがあります。負債の状況によっては、廃業を検討し始めた段階で早めに弁護士に相談することが重要です。
また、廃業は事業の消滅を意味するため、従業員の雇用終了に際して退職金の支払いや雇用保険手続き、場合によっては原状回復工事なども必要となり、まとまった費用が発生することがあります。
M&A(会社売却)のメリットと注意点

M&Aには廃業にはない多くのメリットがありますが、注意点も理解しておく必要があります。正確な情報をもとに選択肢を検討することが、後悔のない判断につながります。
会社売却(M&A)の全体像と具体的な進め方は、次の記事で詳しく解説しています。

M&Aのメリット
最大のメリットは、引退後の資金確保と従業員・取引先の保護を同時に実現できる可能性です。株式譲渡では経営者個人が売却対価を現金で受け取れます(事業譲渡の場合は会社が対価を受け取るため、経営者個人が受け取るには配当・清算などの手続きを経る必要があります)。いずれの場合も事業は継続されます。
個人保証からの解放も重要なポイントです。M&Aの成立に伴い、買い手が金融機関に対して保証の差替えや解除交渉を行うケースがあります。ただし、これは金融機関との合意によって実現するものであり、M&Aの成立だけで自動的に保証が解除されるわけではありません。「経営者保証に関するガイドライン」(金融庁・中小企業庁)に基づく交渉を経て解除される場合があります。
後継者不在(帝国データバンク「全国企業後継者不在率動向調査(2025年)」によれば後継者不在率は50.1%)という問題を抱える中小企業にとって、M&Aは廃業を回避しながら事業を存続させる現実的な選択肢として、中小企業庁の「中小M&Aガイドライン(第3版)」(2024年8月改訂・公表、M&A支援機関登録制度において2025年1月より適用)でも重要な選択肢として位置付けられています。
さらに、専門家を活用することで、経営者の実務負担を大幅に軽減しながら手続きを進めることができます。
M&Aの注意点
M&Aは必ずしも「すぐに買い手が見つかる」ものではありません。買い手探しから最終成約まで、一般的に3か月〜1年以上の時間がかかります(案件の規模・状況によって大きく異なります)。また、すべての会社がM&Aの対象になるわけではなく、財務状況、事業の収益性、業界の将来性、人材・技術・顧客基盤などが買い手の評価に影響します。
仲介会社やアドバイザーへの手数料(多くはレーマン方式などの成功報酬制)が発生する点も理解しておく必要があります。手数料体系の詳細は契約前に専門家に確認することをお勧めします。
デューデリジェンス(DD:買い手による精密調査)の過程では、経営者にとって準備の手間や精神的な負荷がかかる局面もあります。
廃業とM&Aでかかる税金を比較する

税金の比較は、どちらを選ぶかを判断する上で非常に重要な要素です。ただし、個々の状況によって大きく異なるため、必ず税理士等の専門家に確認することを強くお勧めします。
会社売却(株式譲渡・事業譲渡)でかかる税金の詳細は、会社売却にかかる税金の全体像で詳しく解説しています。
廃業(清算)でかかる主な税金
廃業・清算の過程では、以下のような税金が発生します。
まず、事業最終年度の法人税および住民税(地方税)が課税されます。清算中に資産を売却した際のキャピタルゲインに対しても法人税が課税されます。
清算手続きにおいて株主への残余財産分配が行われる場合、その分配額のうち税法上の計算により算定される部分がみなし配当として扱われ、株主個人に所得税・住民税が課税されます。また、それ以外の部分は株式の譲渡収入とみなされ、株式の取得費等との差額について譲渡所得の計算が行われます。みなし配当は原則として総合課税(累進税率)の対象となり、配当控除の適用が受けられる場合があります(なお、上場株式等の配当所得については申告分離課税を選択できる場合がありますが、中小企業の清算時に対象となる非上場株式のみなし配当については総合課税が基本となります)。さらに、残余財産の確定申告(清算確定申告)が必要です。在庫や固定資産の売却に消費税が課税される場合もあります。
M&Aでかかる主な税金
個人株主(居住者)が株式を譲渡する場合、売却益(譲渡対価から取得費・手数料を差し引いた額)に対して原則20.315%(所得税15%・住民税5%・復興特別所得税0.315%)の申告分離課税が適用されます(国税庁の税率規定に基づく)。この税率は廃業・清算時の残余財産分配に課される累進税率の所得税より低くなるケースも多く、手取り額の観点から株式譲渡が有利になる場面があります。
事業譲渡の場合は、会社(法人)が対価を受け取るため法人税の対象となり、その後株主への配当として分配する際にさらに所得税が課税される二重課税の構造になります。
なお、税務処理は個々の会計・税務状況によって異なります。最終的な判断は必ず税理士・公認会計士等の専門家にご確認ください。
| 税金の種類 | 廃業(清算) | M&A(株式譲渡) |
|---|---|---|
| 法人税 | 清算中の事業所得・資産売却益に課税 | 原則不要(個人株主の場合) |
| 所得税 | 残余財産のみなし配当部分に課税(総合課税・累進税率が原則)、株式譲渡収入部分には譲渡所得課税 | 個人株主(居住者)の譲渡益に20.315%(申告分離課税)(国税庁) |
| 消費税 | 資産売却時に課税される場合あり | 株式譲渡は原則非課税 |
| 住民税 | みなし配当所得に課税 | 譲渡益に5%(申告分離課税)(国税庁) |
廃業とM&Aでかかる費用を比較する

廃業にかかる主な費用
廃業(解散・清算)には以下の費用が発生します。費用の総額は会社規模や財務状況によって大きく異なります。
- 登記費用:解散登記・清算結了登記の登録免許税(数万円程度)と司法書士報酬
- 官報公告費用:数万円程度
- 税理士報酬:清算確定申告作成費など(数十万円程度〜)
- 弁護士費用:特別清算・破産手続きや債権者交渉が必要な場合など
- 不動産の原状回復費用:オフィス・店舗の退去時に発生することがある
- 従業員への退職金・解雇予告手当
M&Aにかかる主な費用
M&Aでは主に以下の費用が発生します。
- 仲介手数料・アドバイザー費用:多くは成功報酬制(売却価格に応じたレーマン方式が一般的とされている。中小M&Aガイドライン第3版では手数料体系の透明性確保が求められている)
- デューデリジェンス対応費用:買い手側の負担となることが多いが、売り手側も資料整備や確認対応の工数が発生する
- 法務費用:最終契約書の作成・レビューなど弁護士報酬
- 税務費用:税務DD対応や譲渡後の申告にかかる税理士費用
廃業と比べて初期の現金支出は少ない場合が多いですが、売却が成立しなかった場合は手間と時間だけが消費されるリスクもあります。
廃業とM&Aの手続きの流れと期間を比較する

手続きの流れと期間も、選択を左右する重要な要素です。どちらも「すぐに完了する」と思い込むのは危険で、計画的な準備が不可欠です。
M&A(会社売却)の手続きの各ステップと期間の詳細は、M&A(会社売却)の流れと手続きで詳しく解説しています。
廃業の手続きの流れと期間の目安
廃業手続きには以下のステップが必要で、全体として半年から1年以上かかることがあります。
- 廃業の意思決定と事前準備(税理士・弁護士への相談、取引先・従業員への通知計画の策定)
- 株主総会の開催と解散決議(取締役会で廃業方針を固め、株主総会で決議。特別決議が必要)
- 清算人の選任と解散登記(法務局への登記申請。2週間以内に実施)
- 官報への公告と債権者への通知(法定の債権者申出期間:最低2か月間)
- 資産の換金・処分と債務の弁済(この段階で時間がかかることも多い)
- 確定申告・清算確定申告(税務署への申告)
- 残余財産の分配(株主へ)
- 清算結了登記(法務局。清算結了から2週間以内)
特に官報公告の期間が最低2か月必要なため、この点を見落として「すぐに完了できる」と思い込むのは危険です。また、負債が残る場合は特別清算・破産等の手続きが別途必要となり、さらに期間が長くなります。
M&Aの手続きの流れと期間の目安
M&Aの一般的な流れは以下のとおりです。買い手探しから成約まで、3か月〜1年以上を想定しておく必要があります(案件の規模・状況によって大きく異なります)。
- 相談・意向確認(M&A仲介会社や専門家への相談)——数週間〜2か月程度(案件により大きく異なる)
- 企業価値の概算評価と候補の方向性整理
- NDA(秘密保持契約)の締結と情報開示
- IM(企業概要書)の作成と買い手候補へのアプローチ——1〜3か月程度
- トップ面談(経営者と買い手候補の対話)
- LOI(意向表明書)の受領と買い手の絞り込み
- 基本合意書(MOU)の締結
- デューデリジェンス(買い手による精密調査)——1〜3か月程度
- 最終契約書(DA・株式譲渡契約書等)の締結
- クロージング(対価の受け渡し・株式移転・経営権の引き継ぎ)
各ステップの間には交渉・確認が繰り返されるため、焦らず着実に進めることが成功の鍵です。
M&Aで売れる可能性を左右する会社の強みと特徴

M&Aを検討するにあたり、「自社が売れるかどうか」は経営者にとって最も気になる点のひとつです。これを正確に把握しておくことで、廃業とM&Aの選択をより現実的に判断できます。
赤字や債務超過でもM&Aで売却できるケースについては、赤字でも会社は売れるのかで詳しく解説しています。
買い手が評価しやすい価値
以下のような特徴を持つ会社は、買い手から評価されやすい傾向があります。
- 安定した売上・利益の実績(黒字基調であること)
- 独自の技術・ノウハウ・特許・資格(許認可を含む)
- 固定顧客や長期契約による安定した顧客基盤
- 優秀な従業員・人材の定着
- 地域や業界内でのブランド・信用力
- 在庫・設備などの有形資産の状態が良好であること
売却の難易度が上がりやすい状況
逆に以下のような状況だと、買い手探しが難しくなることがあります。ただし、必ずしも「売れない」というわけではなく、専門家に相談することで解決策が見つかる場合もあります。
- 債務超過や赤字が続いている
- 経営者の個人的なスキルや人脈に依存しすぎている(属人化が強い)
- 業界の将来性が見込みにくい
- 許認可が特定の経営者に紐付いている
- 財務・税務の記録が整備されていない
赤字であっても売却できたケースや、廃業予定だった会社が買い手と出会って存続したケースも実際に存在します。「うちには価値がない」と決めつける前に、専門家に評価してもらうことが大切です。
廃業が増える背景と市場動向

廃業やM&Aを考える上で、現在の中小企業を取り巻く環境を知っておくことは重要です。数字で現実を把握することで、より冷静な判断ができます。
休廃業・解散の現状
東京商工リサーチの調査によれば、日本における休廃業・解散の件数は増加傾向が続いています。2024年は6万2,695件(前年比25.9%増)と過去最多を更新し、さらに2025年は6万7,210件(前年比7.2%増)と3年連続で過去最多を更新しました(東京商工リサーチ)。注目すべきは、廃業・解散する企業の中に黒字の会社が一定数含まれているという点です。同調査(2025年)では赤字企業率は47.2%であり、裏返すと半数超が黒字であるにもかかわらず廃業・解散を選択しています。後継者不在、経営者の高齢・健康上の理由、将来への不安などが主な廃業理由とされています。
帝国データバンク「全国企業後継者不在率動向調査(2025年)」によれば、全国の中小企業における後継者不在率は50.1%に達しています。また、同データバンク(2024年)では経営者の平均年齢が60.7歳に達しており、高齢化に伴う事業承継問題は深刻さを増しています。
M&A市場の動向
こうした背景を受け、中小企業のM&A件数は増加傾向にあります。中小企業庁が推進する「中小M&Aガイドライン(第3版)」(2024年8月改訂・公表)の整備や、M&Aマッチングプラットフォームの普及により、中小企業・小規模事業者がM&Aを活用しやすい環境が整ってきました。中小企業庁「中小M&A市場改革プラン」(2025年8月5日公表)においても、中小企業のM&A活用促進が引き続き重要政策として位置付けられています。
廃業かM&Aか迷ったときの判断の考え方

「廃業にするかM&Aにするか」に迷ったとき、どのような視点で考えればよいでしょうか。以下の整理が参考になります。
廃業を検討する理由の多くが後継者不在です。M&Aで事業を残す方法については、後継者不在で廃業を考える前にで詳しく解説しています。
廃業かM&Aか迷ったとき、中立的な立場から判断を助けてくれる専門家への相談も一案です。

財務状況から判断する
まず自社の財務状況を整理しましょう。
- 実質的な資産超過(資産 > 負債)かどうか
- 債務超過(負債 > 資産)の場合はその規模
- 直近の収益性(黒字か赤字か、どの程度か)
- 個人保証・担保の状況
資産超過で収益性もある場合はM&Aを検討する価値が大きく、売却対価による手取り増加が見込めます。債務超過が深刻な場合は廃業(場合によっては特別清算・破産等の法的手続き)を検討することになりますが、この場合も専門家への相談を早めに行うことが重要です。
経営者自身のビジョンと健康状態
判断には経営者自身の状況も重要です。
- 引退後の生活資金としてまとまった対価が必要かどうか
- 従業員・取引先の行く末をどこまで重視するか
- 経営から完全に手を引きたいか、一定期間は関与を続けても構わないか
- 健康状態や家族の状況から、手続きにどれだけ時間をかけられるか
自分の内側にある優先事項を言語化することが、判断のぶれを防ぐ上で有効です。
条件の妥当性や選択肢の整理について迷っている段階で、中立的な立場から相談を受けてもらうことも一案です。M&Aインサイトの無料相談では、完全無料・成功報酬なしで売り手経営者に寄り添ったアドバイスを提供しています。
廃業後・M&A後の経営者のライフプランを比較する

財務的な比較だけでなく、「その後の人生」という視点も意思決定に大きな影響を与えます。廃業とM&Aでは、経営者のその後の選択肢にも差が生まれることを知っておくことが重要です。
廃業後の経営者の選択肢
廃業を選んだ経営者は、事業とともにこれまでの社会的役割が一段落します。手元に残る資金の多寡にもよりますが、完全引退、再就職、あるいは新たな起業や顧問・コンサルタントとしての活動など、さまざまな選択肢があります。
一方で、廃業によって得られる資金が限られる場合、引退後の生活設計に不安が生じることがあります。特に中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)や小規模企業共済などを活用していなかった場合は、手元資金が想定より少なくなるリスクがあります。
廃業後の経営者の中には、業界での経験を活かして再起業や後進の指導に携わる方もいますが、会社の看板がなくなることで社会的なつながりが急激に変化し、精神的な喪失感を覚えるケースも報告されています。
M&A後の経営者の選択肢
M&A(特に株式譲渡)では経営者個人が売却対価を現金で受け取れるため、引退後の生活資金の確保という観点では廃業より有利になるケースが多くあります(事業譲渡の場合は会社が対価を受け取るため、経営者個人が受け取るには配当・清算などの手続きが必要です)。
また、買い手との合意次第では、一定期間は現場に残りながら事業の引き継ぎに携わることもできます(ロックアップ期間の設定など)。これは急に現場から離れることへの不安を緩和するとともに、従業員・取引先への責任を果たしながら経営者としての役割に区切りをつけられるという点で、精神的な負担が少ないという声も聞かれます。
売却後に経営への関与が終わった後は、蓄積した経験を社会に還元するコンサルタント活動、投資、あるいはゆっくりとした余暇の時間など、多様なライフプランが開けてきます。
廃業・M&A判断チェックリスト

以下のチェックリストを活用して、自社の状況を整理してみてください。専門家への相談前の準備としても役立ちます。
財務面の確認
- 直近3期の決算書・確定申告書を手元に用意している
- 資産超過か債務超過かを確認している
- 個人保証・担保の有無と金額を把握している
- 引退後の生活資金として必要な金額をおおよそ把握している
- 小規模企業共済・経営セーフティ共済などの加入状況を確認している
事業面の確認
- 事業の将来性(業界動向・競合状況)を整理している
- 自社の強み(技術・顧客・人材・ブランド等)を言語化できる
- 後継者の有無を確認している
- 従業員の雇用を守れるかどうかを優先事項として考えている
- 主要取引先・契約の一覧を作成している
プロセス面の確認
- 廃業・M&Aに関わる手続きの期間(数か月〜1年以上)を把握している
- 税理士・弁護士等の専門家に相談できる体制がある
- 取引先・従業員への通知タイミングと方針を考えている
- M&Aを検討する場合は、中立的な専門家への相談も視野に入れている
廃業とM&Aに関するよくある質問(FAQ)
Q1. 赤字や債務超過でも会社を売却できますか?
黒字かどうか・債務超過かどうかだけが売却可否を決める唯一の基準ではありません。赤字であっても、技術・顧客・許認可・人材・土地などに独自の価値がある場合には、買い手がつくことがあります。債務超過が深刻な場合は、スキームや条件の工夫が必要になることもありますが、まず専門家に状況を伝えて評価を受けることが先決です。「売れるかどうか」は事前に決めつけず、相談してから判断することをお勧めします。
Q2. 廃業と倒産・休業はどう違うのですか?
廃業は経営者が自主的に事業を終了させることを指します。倒産は支払不能・債務超過に陥り事業継続が困難になった状態のことで、その対処として法的整理(破産・民事再生・会社更生・特別清算など)や私的整理(任意整理など)が行われることがあります。廃業と倒産は別概念であり、経営が苦しくなく自主的に事業を終了する場合は「廃業」、経営危機の結果として処理が行われる場合が「倒産」です。休業は一時的に事業を停止することで、将来の再開を前提としている点が廃業と異なります。状況によっては廃業ではなく休業を選択し、売却先を探す時間を確保するという方法もあります。
Q3. M&Aと廃業で、手取り額はどちらが多くなりますか?
一般的には、のれんの価値が評価されるM&A(特に株式譲渡)の方が手取り額が多くなるケースが多いとされています。廃業では資産を処分価格で換金するためのれんの価値はゼロになり、資産額を超えた対価を得ることはできません。ただし、会社の財務状況・負債の規模・資産の種類・個人保証の有無など多くの要因によって異なるため、専門家に具体的なシミュレーションを依頼することが重要です。
Q4. M&Aの手続きはどのくらいの期間がかかりますか?
買い手探しから最終成約(クロージング)まで、一般的には3か月〜1年以上かかると考えておく必要があります(案件の規模・状況によって大きく異なります)。小規模案件では短期成約もありますが、デューデリジェンスや交渉に時間がかかるケースも多くあります。一方、廃業も官報公告の期間(最低2か月)などがあるため、「すぐに終わる」とは限りません。どちらも計画的に進めることが重要です。
Q5. M&Aを考えていると知られたくない。秘密は守られますか?
M&Aの検討は、情報管理が非常に重要です。専門家との相談段階ではNDA(秘密保持契約)を締結し、情報開示の範囲を厳格に管理することが一般的です。従業員・取引先・競合他社への情報漏洩は、交渉が破断するリスクや事業への悪影響を招く可能性があるため、情報管理の徹底は成功の条件のひとつです。信頼できる専門家を選ぶ際は、情報管理の方針も確認するようにしてください。
Q6. 廃業とM&Aの判断に迷ったとき、誰に相談すればよいですか?
顧問税理士・弁護士への相談はもちろん有効ですが、M&Aの場合はM&A仲介会社やFAに相談するのも一つの方法です。ただし、仲介会社は成約によって報酬を得る立場であるため、経営者の立場から中立的に判断を助けてくれる第三者のアドバイスも活用することをお勧めします。完全無料・成功報酬なしで中立的な立場から相談を受け付けているサービスもあります。M&Aインサイトの無料相談では、売り手に寄り添ったセカンドオピニオンをご提供しています。
まとめ:廃業とM&A、最善の選択のために
廃業とM&A(会社売却)は、どちらが絶対に優れているというものではありません。会社の財務状況、事業の将来性、経営者のビジョン、従業員・取引先への責任感、そして引退後のライフプランなど、複数の要素を総合的に考えた上で判断することが重要です。
ただし、多くのケースで廃業を選んだ後に「もう少し早くM&Aを検討していればよかった」という声が聞かれます。その理由は、廃業が取り消しのきかない選択であるのに対し、M&Aを検討し始めても「売れなければ廃業に戻る」という選択肢が残るからです。
まずはM&Aの可能性があるかどうかを専門家に評価してもらい、その上で判断するというアプローチが、後悔の少ない選択につながります。
廃業かM&Aか、選択に迷っている経営者の方は、中立的な立場からアドバイスを受けられる専門家への相談を早めに検討してください。M&Aインサイトでは、完全無料・成功報酬なしで、売り手経営者の立場に寄り添った中立的なセカンドオピニオンを提供しています。ぜひ無料相談・お問い合わせからお気軽にご連絡ください。
監修者:森沢雄太(一般社団法人M&Aセカンドオピニオン協会 代表理事/日本M&Aセンター出身/M&A成約実績100件超)