「そろそろ会社を誰かに引き継ぎたいが、何から始めればよいかわからない」「自分の代で廃業するしかないのか」——そう感じている経営者の方は少なくありません。
日本の中小企業では、経営者の高齢化が急速に進む一方で、後継者が見つからないまま廃業を選んでしまうケースが増え続けています。長年かけて築いてきた会社や技術、雇用をどう未来へつなぐか。これは、今の日本が抱える非常に重要な経営課題です。
しかし「会社継承(事業承継)」という言葉は知っていても、具体的に何をどう進めればよいのか、どんな方法があるのか、税金はどうなるのか——わからないことが多すぎて、一歩踏み出せない経営者の方も多いのではないでしょうか。
そこで本記事では、会社継承(事業承継)の基本的な意味から種類・流れ・税金・公的支援制度まで、中小企業の経営者が最初に知っておくべき情報を体系的に解説します。会社の将来を考えはじめた段階から読んでいただける内容です。

M&Aセカンドオピニオン協会
代表理事 森沢 雄太
外資系銀行でのウェルスマネジメント業務を経て、日本M&Aセンターに入社。譲渡側アドバイザーとして100件超の成約に関与し、野村證券出向や福岡支店立ち上げも経験。2018年に日本投資ファンド立ち上げに参画し、投資先の再生にも成功。2022年、合同会社M&Aプレップを創業し、仲介会社・ファンドへの支援やオーナー向け売却準備、買収支援など幅広く展開。2024年には売却支援事業拡大のため株式会社企業経営支援機構を設立し代表に就任。加えて、M&Aにおける利益相反や情報格差の是正を目的とし、代表理事として一般社団法人M&Aセカンドオピニオン協会を設立。
会社継承(事業承継)とは何か

会社継承とは、現在の経営者が培ってきた会社の経営を、後継者へ引き渡すことを指します。ビジネスの世界では一般的に「事業承継」という言葉が使われており、両者はほぼ同じ意味として扱われています。
単に「代表取締役の名前が変わる」だけではありません。会社が持つ経営権、資産、取引先との関係、従業員の雇用、蓄積されたノウハウや技術——これらすべてを次世代へ適切に引き継ぐプロセス全体が、事業承継です。
中小企業庁は事業承継を「企業の熱い想いや技術を次の世代へつなぐこと」と表現しており、単なる法的手続きではなく、会社が持つ本質的な価値を守り継ぐ取り組みとして位置づけています。
「継承」と「承継」——言葉の違いを正確に理解する
「会社継承」と「事業承継」は日常的に混用されますが、本来は字義に違いがあります。
「継承」は「引き継ぐ」という意味合いが強く、物や地位・文化などを受け継ぐ場面で幅広く使われる言葉です。一方、「承継」は法律・ビジネス用語として使われることが多く、「前の権利・義務・地位を受け継ぐ」というより厳密な意味を持ちます。
ビジネス・法務の文脈では「事業承継」が正式な表現として定着しており、中小企業庁や金融機関の公式資料でも「事業承継」が使われます。本記事でも以降は「事業承継」を基本表記とします。
事業承継で引き継ぐ3つの要素

事業承継では、次の3つの要素を後継者へ移転することが求められます。この3つを漏れなく計画することが、承継を成功させる前提条件となります。
人(経営権)の承継
代表者としての権限・株主としての権利を後継者に移す作業です。株式の大多数を保有している経営者の場合、自社株をどのタイミングでどのような方法で移転するかが、税負担にも直結する重要テーマとなります。
経営権の承継は単なる手続きではなく、後継者が組織をまとめ、取引先や金融機関から信頼を得られるよう準備する「人づくり」のプロセスでもあります。
資産の承継
不動産・設備・現預金といった有形の資産だけでなく、借入金などの負債も含めてバランスシート全体を後継者へ引き継ぎます。個人保証や担保提供など、現経営者が会社のために個人として負っている義務も整理が必要です。
資産の承継では、相続や贈与を通じた株式移転に伴う税金処理が大きな課題になりやすく、早期から税理士・弁護士と連携して計画を立てることが重要です。
知的資産の承継
顧客・取引先との信頼関係、従業員が持つ技術・スキル、経営理念・ブランド、社内の業務プロセスや暗黙知——こうした数字に表れにくい経営資源を「知的資産」と呼びます。
知的資産は有形資産と比べて引き継ぎが難しく、後継者育成の期間が十分に取れないと、承継後に顧客離れや従業員の離職といった問題が生じるリスクがあります。後継者との時間をかけたコミュニケーションと、マニュアル化・文書化による見える化が有効です。
事業承継の3つの種類

事業承継には大きく3つの方法があります。それぞれにメリット・デメリットがあり、会社の状況や経営者の意向によって適切な手法は異なります。
| 種類 | 概要 | 主なメリット | 主な課題 |
|---|---|---|---|
| 親族内承継 | 子息・配偶者など家族に引き継ぐ | 従業員・取引先の理解を得やすい | 後継者の意欲・能力の確認が必要 |
| 社内承継 | 役員・従業員が引き継ぐ | 業務知識がある人材を選べる | 株式取得資金の確保が課題になりやすい |
| M&Aによる承継 | 第三者企業・個人に売却して引き継ぐ | 後継者不在でも会社を存続できる | 交渉・手続きに時間とコストがかかる |
親族内承継
子供や配偶者など、家族の誰かに会社を引き継ぐ方法です。かつては最も一般的な形態でしたが、「子供が継ぐ意思を持っていない」「適切な後継者候補がいない」といった理由から、近年は比率が低下傾向にあります。
従業員や取引先から受け入れられやすく、経営理念の継続性が保ちやすいという強みがある一方、後継者の能力・意欲が会社の将来を左右するため、早い段階から育成計画を立てることが必要です。
社内承継(従業員承継)
長年会社を支えてきた幹部社員や役員に承継する方法です。業務や社内事情をよく知る人材が経営を引き継ぐため、引き継ぎ後のスムーズな経営が期待できます。
一方で、会社の株式を取得するための資金を後継者が自力で用意することは容易ではなく、MBO(マネジメント・バイアウト)と組み合わせた資金調達スキームの検討が現実的な課題となります。
M&Aによる承継(第三者承継)
後継者が社内外に見つからない場合に選択肢として浮上するのが、M&Aによる第三者への承継です。買い手企業・個人に株式や事業を譲渡することで、会社の存続と雇用の維持を同時に実現できます。
近年は中小企業向けのM&Aマッチングサービスが充実し、数千万円規模の小さな会社でも成立するケースが増えています。売り手にとっては会社を売却することで現金化できるメリットもあります。ただし、適切な相手先の選定や条件交渉には専門的な知識が必要です。
事業承継の基本的な流れ

事業承継は「思い立ったらすぐ完了する」ものではなく、後継者育成も含めると相当な時間を要します。公的機関や専門家は一貫して早期着手を推奨しており、準備が遅れるほど選択肢が狭まる傾向があります。大まかな流れを把握しておくことで、今自分がどの段階にいるかを正確に認識できます。
ステップ1:現状把握と課題整理
まず、会社の財務状況・株式構成・経営資源・後継者候補の有無などを「見える化」します。誰に何を引き継ぐかを考える前に、現時点での自社の姿を正確に把握することが出発点です。
ステップ2:後継者の選定と育成
後継者候補が決まったら、経営者としての知識・ネットワーク・判断力を育てる期間が必要です。特に親族内承継・社内承継の場合、育成には最低でも数年のリードタイムが求められます。
ステップ3:事業承継計画の策定
いつ、どのような手順で何を引き継ぐかを具体的に文書化した「事業承継計画」を作成します。税金対策・株式移転スキーム・関係者への告知タイミングなどを計画に落とし込むことで、準備が具体的に進みます。
ステップ4:関係者への周知と合意形成
従業員・取引先・金融機関・親族など、利害関係者への説明と合意形成は、承継を円滑に進めるうえで欠かせないプロセスです。特に従業員への周知は、タイミングと伝え方に慎重な配慮が必要です。
ステップ5:法的手続きと引き継ぎの実行
株式譲渡・経営権移転・各種登記変更・個人保証の整理といった法的手続きを実施します。M&Aの場合は、意向表明・基本合意の後にデューデリジェンス(DD:会社の実態調査)を実施し、その後に最終契約書(DA)を締結するという流れが実務上の標準的なプロセスです。
事業承継にかかる税金の種類

事業承継を検討するうえで避けて通れないのが税金の問題です。承継方法によって発生する税金の種類が異なるため、事前に把握しておくことが重要です。
相続税・贈与税
親族内承継で自社株を後継者へ移転する際、相続または贈与を通じて移転することが一般的です。株式の評価額が高い場合、相続税・贈与税の負担が大きくなる可能性があります。
これに対応するため、国は「事業承継税制(非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予制度)」を設けており、要件を満たした場合に納税を猶予・免除することが可能です。活用には要件の確認と計画的な手続きが必要なため、早期に税理士へ相談することをお勧めします。
株式譲渡にかかる税金
M&Aで株式を第三者に譲渡した場合、売却益(譲渡所得)に対して所得税・復興特別所得税・住民税を合わせて約20.315%が課税されます。まとまった売却益が生じるケースでは、税負担をあらかじめシミュレーションしておくことが重要です。
事業譲渡にかかる税金
株式ではなく事業そのものを譲渡する「事業譲渡」の場合、法人税や消費税が発生することがあります。どの手法が税務上有利かは個別状況によって異なるため、税理士・公認会計士との事前確認が不可欠です。
中小企業における事業承継の現状と課題

2025年版中小企業白書によると、後継者不在率は近年減少傾向にあるものの、日本の中小企業経営者の平均年齢は2024年時点で60.7歳に達しており、60歳以上の経営者が過半数を占める状況が続いています。後継者が見つからないことが廃業の一因となるケースもいまだ少なくありません。
こうした状況は、雇用の喪失・地域経済の衰退・技術やノウハウの断絶といった社会的損失につながります。業績が良好であっても後継者不在で廃業を選ばざるを得ないケースも多く、「黒字廃業」という現象が問題視されています。
一方で、近年はM&Aによる第三者承継の認知が広がり、後継者がいなくても会社を存続させる選択肢が現実的になっています。中小企業基盤整備機構の集計によると令和6年度の第三者承継成約件数は2,132件に達しており、中小企業においても選択肢として着実に広がっています。
会社継承を失敗しないためのポイント

事業承継には「準備が遅れた」「後継者との認識が合わなかった」「税金対策が不十分だった」といった失敗パターンが存在します。代表的な注意点を整理します。
早めの着手が何より重要
専門家や公的機関は一貫して早期着手を推奨しており、遅くとも経営者が60代に差しかかる前後には事業承継を意識し始めることが望ましいとされています。後継者育成・株式移転・税金対策のいずれも、時間的余裕があるほどより多くの選択肢を取ることができます。「まだ先の話」と考えているうちに選択肢が狭まるケースが非常に多いため、早期着手が最大の対策です。
相続トラブルの予防策を講じる
親族内承継では、株式を特定の後継者に集中させることで他の相続人との間に不満が生じやすくなります。遺言書の作成・生命保険を活用した代償分割の準備・家族間の事前合意など、早期から相続対策を進めておくことがトラブルの予防につながります。
情報管理に細心の注意を払う
M&Aを検討する際、交渉段階での情報漏洩は従業員の動揺や取引先の不安を招くリスクがあります。誰に、いつ、どのように情報を開示するかのスケジュール管理は、承継を円滑に進めるうえで欠かせない配慮です。
専門家を適切に活用する
事業承継には税務・法務・財務・M&A実務など多岐にわたる専門知識が必要です。税理士・弁護士・M&Aアドバイザーなどの専門家を早期から関与させることで、見落としやリスクを最小化できます。
また、主に仲介会社から提示された条件が妥当かどうか、自分だけでは判断しにくいと感じる局面では、中立的な第三者の意見を求めることも有効です。M&Aインサイトでは、売り手経営者に向けた無料のセカンドオピニオン相談を提供しており、成約実績100件超の専門家が対応しています。費用は一切かかりません。
会社継承に活用できる公的支援制度

国・都道府県・中小企業基盤整備機構は、中小企業の事業承継を後押しするさまざまな支援制度を設けています。
事業承継・引継ぎ支援センター
全国47都道府県に設置された事業承継・引継ぎ支援センターは、事業承継に関する相談を無料で受け付ける公的窓口です。中小企業基盤整備機構が全国本部として各センターをサポートしており、後継者マッチング支援や専門家紹介なども行っています。初めて相談する窓口として活用しやすい機関です。
事業承継税制
法人版事業承継税制(特例措置)は、非上場株式の贈与・相続に伴う税金を一定条件のもとで猶予・免除する制度です。省令改正による延長を経て、現在の特例承継計画の提出期限は令和9年9月30日(2027年9月30日)、実際の贈与・相続を行う期限は令和9年12月31日(2027年12月31日)とされています。適用期限については今後も延長を行わない方針が政府・与党の税制改正大綱で示されているため、活用を検討している場合は早めに専門家に相談することをお勧めします。活用には要件の確認と計画的な手続きが必要なため、最新の要件は中小企業庁の公式情報でご確認ください。
事業承継・M&A補助金
事業承継やM&Aに伴う専門家費用・設備投資等の一部を補助する制度です。令和7年度より「事業承継・引継ぎ補助金」から「事業承継・M&A補助金」に名称・制度内容が変更され、「事業承継促進枠」「専門家活用枠」「PMI推進枠」「廃業・再チャレンジ枠」の4枠で公募が実施されています。毎年公募が行われており、補助上限額や対象経費は年度によって異なります。活用を検討する場合は公募期間を確認し、早めに準備することが重要です。
後継者人材バンク
後継者のいない事業者と、起業・独立を希望する個人をマッチングする仕組みです。地域の事業承継・引継ぎ支援センターが運営しており、M&Aとは異なるかたちで第三者への承継を実現できます。
まとめ:会社継承は「早期着手」と「正しい情報収集」がすべての出発点

会社継承(事業承継)は、経営者が長年築いてきた会社・雇用・技術を未来へつなぐ重要なプロセスです。本記事で解説した内容を振り返ると、以下のポイントが重要です。
- 事業承継では「経営権・資産・知的資産」の3要素を引き継ぐ
- 方法は「親族内承継・社内承継・M&Aによる承継」の3種類
- 準備には相当な時間を要するため、早期の着手が最大の対策
- 税金・法務・M&A手続きには専門家の活用が不可欠
- 公的支援制度(センター・税制・補助金)を積極的に活用する
「まだ具体的に動く段階ではない」と感じている方も、まずは自社の現状を整理するところから始めることをお勧めします。情報収集と専門家への相談は早ければ早いほど、より多くの選択肢につながります。
事業承継の進め方・承継方法の選び方・条件の妥当性など、どんな段階のご疑問も無料相談からお気軽にご相談ください。
