管工事・設備工事業のM&A|許可承継と売却のポイント

管工事会社のM&A・事業承継を検討する経営者のイメージ

「後継者が見つからないまま、このまま廃業するしかないのだろうか」「管工事という専門性の高い事業を、誰かに正しく引き継いでもらう方法はないだろうか」——管工事会社を経営する方の中には、こうした悩みを一人で抱えている経営者が少なくありません。給排水設備や空調設備、ガス管工事といった専門工事は、資格や経験を持つ技術者に支えられている事業です。だからこそ、後継者不在は単なる経営課題にとどまらず、地域のインフラを支える技術と雇用をどう次世代へつなぐかという問題でもあります。

近年、こうした課題への現実的な解決策として、M&Aによる事業承継を選ぶ管工事会社が増えています。株式譲渡や事業譲渡によって会社や事業を第三者に引き継ぐことで、後継者問題を解決しながら、従業員の雇用や取引先との関係を維持できる可能性が広がるためです。一方で、管工事業には建設業許可や技術者の配置といった業界特有の論点があり、一般的なM&Aの知識だけでは対応しきれない実務上の注意点も存在します。

そこで本記事では、管工事業界の市場動向からM&Aの手法、費用相場、そして管工事業ならではの許認可・技術者資格の承継実務まで、売り手経営者が押さえておくべきポイントを体系的に解説します。

M&A全体の基本的な仕組みや流れを先に押さえておきたい方は、こちらの記事もあわせてご覧ください。


目次

管工事業とは-定義と対象範囲、関連工事との違い

管工事業の対象範囲(給排水・空調設備)を確認するイメージ

管工事業とは、建設業法で定められた29の建設業許可の業種区分の一つで、冷暖房設備・給排水設備・衛生設備・空気調和設備・ガス管配管設備などの設置工事や、その配管に関連する工事を指します。具体的には、ビルや住宅の給排水衛生設備工事、冷暖房・空調設備工事、ガス配管工事、浄化槽工事などが管工事業の代表的な業務範囲です。工場やオフィスビル、病院、商業施設、集合住宅など、建物の種類を問わず必要とされる設備であるため、新築工事だけでなく、老朽化した設備の改修・メンテナンス需要も安定して存在する点が特徴です。

管工事業の主な工事内容

管工事業に該当する工事には、大きく分けて設備の新設と改修・メンテナンスの二つの領域があります。新設工事では、建物の建築工事と並行して給排水管や空調ダクトを設置する作業が中心となり、改修工事では、老朽化した配管の更新や、省エネ性能の高い空調設備への切り替えなどが多くを占めます。近年はデータセンターや大型商業施設向けの空調設備工事、既存ビルの省エネ改修工事といった需要も拡大しており、単なる設置工事にとどまらず、設計段階からの提案力や専門的な施工管理能力が求められる場面が増えています。

関連する建設業種との違い

管工事業は、電気工事業や土木工事業といった他の建設業許可業種と混同されやすい面がありますが、対象とする設備や工法が異なります。電気工事業は主に電気設備の配線・配電工事を扱い、土木工事業は道路や橋梁、上下水道の本管といった土木構造物の工事を扱うのに対し、管工事業は建物内外の配管設備そのものに特化しています。実務上は、電気工事業や土木工事業の許可をあわせて保有し、複合的な設備工事を請け負う管工事会社も多く、M&Aを検討する際には自社がどの許可区分をどこまでカバーしているかを整理しておくことが、買い手候補との条件交渉を円滑に進めるうえでも重要になります。

管工事業界の市場動向とM&Aが注目される背景

管工事業界の市場動向を分析するイメージ

管工事業界でM&Aによる事業承継が注目される背景には、建設投資全体の底堅い需要と、業界が抱える構造的な人材課題という、相反する二つの要因があります。

建設投資の見通しと管工事業への影響

国土交通省が公表した令和7年度(2025年度)の建設投資見通しによれば、建設投資額は前年度比3.2%増の75兆5,700億円と見込まれています。内訳は、政府投資が25兆2,100億円(前年度比0.7%増)、民間投資が50兆3,600億円(同4.5%増)となっており、民間主導での投資拡大が全体を押し上げる構図です。管工事は新築工事だけでなく、既存建物の設備更新・省エネ改修にも欠かせない工種であるため、建設投資全体の増加は管工事会社の受注機会の拡大につながりやすいと考えられます。

また、国土交通省がとりまとめている「設備工事業に係る受注高調査」(主要20社を対象とした調査)によれば、令和7年7月(2025年7月)の管工事受注高は1,966億円で、前年同月比47.5%増(民間29.2%増、官公庁217.6%増)となりました。ただし、この調査は月次で変動が大きい統計であり、単月の伸び率の背景要因を統計だけから断定的に読み取ることはできません。単月の結果をそのまま将来のトレンドと断定することも避けるべきで、あくまで需要が底堅く推移している傾向の一つとして捉えるのが適切です。

技能者の高齢化・人材不足という構造的課題

一方で、建設業就業者の高齢化は深刻な課題です。総務省「労働力調査」令和6年平均をもとに国土交通省が作成した資料によれば、建設業就業者のうち55歳以上が36.7%を占める一方、29歳以下は11.7%にとどまっています。管工事業は資格取得や実務経験の蓄積に一定の年月を要する専門職であるため、若手人材の確保・育成が業界全体の課題となっており、これが後継者不在や技術承継の問題と直結しています。

全国の建設業許可業者数の動向

国土交通省「建設業許可業者数調査の結果について」(令和7年5月16日発表)によれば、令和6年度末(2025年3月末)時点の全国の建設業許可業者数は483,700業者で、2年連続の増加となり、前年度比4,317業者増となりました。業種別(管工事業のみ)の内訳は本記事執筆時点で確認できていないため断定はできませんが、建設業全体として許可業者数が増加傾向にある中、M&Aによる業界再編・事業承継の動きも並行して進んでいるとみられます。

管工事会社がM&Aを選択する理由

管工事会社の事業承継を検討する経営者のイメージ

市場動向を踏まえたうえで、実際に管工事会社の経営者がM&Aという選択肢を検討する背景には、主に次のような理由があります。

後継者不在という構造的課題

帝国データバンクの「全国『後継者不在率』動向調査(2025年)」(2025年11月21日公表)によれば、全国企業の後継者不在率は50.1%で、前年比2.0ポイント改善したものの、依然として半数程度の企業が後継者不在の状態にあります。管工事業は専門性の高さから親族内承継のハードルが高く、後継者不在の課題がより顕著に表れやすい業種の一つといえます。M&Aは、親族や社内に適任者がいない場合でも、事業そのものを第三者に引き継ぐことで会社の存続を図れる選択肢です。

技術承継と人材確保

管工事業では、給排水・空調・ガス配管といった専門工事に対応できる技術者の存在が事業の核となります。後継者不在のまま経営者が引退すれば、培ってきた技術やノウハウ、資格保有者との関係性も失われかねません。資本力のある買い手企業とのM&Aによって、技術者の雇用継続と技能伝承の受け皿を確保しつつ、教育体制や労務環境を強化できる可能性が広がります。

資金調達と経営基盤の強化

管工事会社の多くは中小企業であり、大型工事への対応や設備投資、人材採用のための資金調達に制約を抱えるケースが少なくありません。買い手企業のグループ入りによって資金調達力や信用力が強化されれば、これまで受注が難しかった規模の工事や、複数エリアにまたがる案件への対応も視野に入りやすくなります。

許認可の維持と事業継続性の確保

建設業許可は事業継続の前提となる重要な資格ですが、経営者の高齢化や後継者不在によって事業を畳まざるを得なくなれば、許可も失効してしまいます。M&Aによって事業そのものを第三者に引き継ぐことは、許可を有効に維持しながら、取引先や従業員との関係を継続させる手段としても機能します。

管工事会社のM&Aの手法と違い

株式譲渡と事業譲渡の違いを比較検討するイメージ

管工事会社のM&Aで用いられる代表的な手法には、株式譲渡・事業譲渡・会社分割・合併があります。それぞれ対象となる範囲や手続き、許認可の扱いが異なるため、自社の状況に合った手法を選ぶことが重要です。

株式譲渡とは、会社の株主が保有する株式を買い手に譲渡し、経営権を移転する手法です。法人格そのものは変わらないため、契約関係や許認可も原則としてそのまま維持されやすく、中小企業のM&Aで最も多く用いられています。事業譲渡は、会社の一部または全部の事業(資産・契約・従業員など)を個別に買い手へ譲渡する手法で、譲渡対象を柔軟に選べる一方、契約や許認可を個別に移転する手続きが必要になります。会社分割は、会社の事業の一部を切り出して既存または新設の会社に承継させる手法で、合併は複数の会社が一つの法人に統合される手法です。

株式譲渡の具体的な仕組みやメリットについては、こちらの記事で詳しく解説しています。

手法 対象 許認可の扱い 株主総会決議 主な特徴
株式譲渡 会社の株式(経営権) 原則として維持されやすい 原則不要(定款に譲渡制限がある場合は、機関設計に応じて取締役会または株主総会等、定款の定めに従った機関の承認が必要) 中小企業M&Aで最も一般的。手続きが比較的シンプル
事業譲渡 事業の全部または一部(資産・契約等) 個別に許可の再取得・承継手続きが必要となる場合が多い 事業の全部または重要な一部の譲渡は原則必要(会社法467条) 譲渡対象を柔軟に選別できる一方、契約の個別移転が必要
会社分割 事業の一部(権利義務を包括承継) 会社によって扱いが異なるため個別確認が必要 原則必要(承継資産が小規模な簡易分割や、支配関係にある会社間の略式分割に該当する場合は決議不要となる例外あり) 労働契約は労働契約承継法に基づき包括的に承継される。既存会社に承継させる吸収分割と、新設会社に承継させる新設分割の二類型がある
合併 会社全体(消滅会社が存続会社に統合) 存続会社の許可の状況による 原則必要(簡易合併・略式合併に該当する場合は決議不要となる例外あり) 一方の会社が存続する吸収合併と、すべての会社が消滅して新会社を設立する新設合併の二類型があり、建設業許可の扱いは存続会社・新設会社いずれかによって異なる

なお、会社法467条では、事業の全部または重要な一部の譲渡には原則として株主総会の特別決議が必要とされています。この5分の1基準は、株主総会決議の要否に関わる法定基準であり、譲渡する資産の帳簿価額が総資産額の5分の1を超えない場合には、事業の重要な一部の譲渡に該当する場合であっても株主総会決議が不要となる例外(簡易譲渡)が定められています。なお、この例外は「事業の全部の譲渡」には及ばない点に注意が必要です。どの手法が自社に適しているかは、譲渡対象の範囲や税務上の影響、許認可の承継方法によって変わるため、税理士や弁護士など専門家に個別に確認することをおすすめします。

管工事会社を売却するメリット

管工事会社を売却するメリットを表すイメージ

管工事会社がM&Aによって会社や事業を売却することには、経営者・従業員それぞれの立場から見て複数のメリットがあります。

第一に、後継者問題の解決です。親族や社内に後継者がいない場合でも、M&Aによって事業を第三者に引き継ぐことで、廃業を避けながら会社の存続を図ることができます。第二に、従業員の雇用維持です。廃業すれば従業員は職を失いますが、M&Aによる事業承継であれば、多くの場合、買い手企業のもとで雇用が継続される可能性が高まります。第三に、創業者利益の獲得です。長年かけて築いてきた会社の企業価値を株式譲渡益として受け取ることで、引退後の生活資金や次の事業への再投資に充てることができます。

第四に、経営基盤の強化です。買い手企業の資本力・営業基盤・システムなどを活用できれば、これまで単独では難しかった大型案件への対応や、複数エリアへの展開が可能になる場合があります。買い手にとっても、地域に根差した顧客基盤や熟練技術者を獲得できる点は、M&Aを検討する大きな動機の一つです。第五に、個人保証・経営者保証からの解放です。多くの中小企業経営者は金融機関からの借入に個人保証を提供していますが、M&Aによる株式譲渡・事業承継に伴って、この個人保証を解除できるケースがあります(保証解除の可否は金融機関や個別の契約内容によって異なるため、事前に確認が必要です)。

管工事会社を売却するデメリット・リスク

管工事会社売却のデメリット・リスクを確認するイメージ

一方で、M&Aによる会社売却には、売り手経営者が事前に理解しておくべきデメリットやリスクも存在します。

まず、経営権を手放すことによる意思決定の自由度の低下が挙げられます。株式譲渡後は買い手企業の意向が経営に反映されるようになり、これまでのような独立した経営判断ができなくなる場合があります。次に、従業員や取引先の不安です。M&Aの検討段階で情報が漏れると、従業員が動揺したり、取引先が今後の関係継続に不安を抱いたりする可能性があるため、情報管理の徹底が欠かせません。

また、想定していた条件で売却できないリスクもあります。企業価値評価の結果、希望する価格に届かなかったり、買い手候補との交渉がまとまらず時間だけが経過してしまったりするケースは珍しくありません。加えて、デューデリジェンス(DD、買い手による詳細な企業調査)の過程で、簿外債務や許認可上の問題、未払い残業代といった課題が発覚し、価格交渉や契約条件に影響することもあります。こうしたリスクを事前に把握し、必要な準備を整えておくことが、納得できるM&Aの実現につながります。M&Aの検討を始めたばかりの段階で判断に迷う点があれば、契約前の早い時期に中立的な第三者へ相談しておくことも一つの方法です。

管工事会社のM&Aの流れとプロセス

管工事会社のM&Aの流れを確認するイメージ

管工事会社がM&Aを進める際の標準的な流れは、おおむね以下のようなステップで進みます。会社の規模や交渉状況によって期間は前後し、半年から1年程度で完了する事例が多い一方、許認可の状況や買い手企業の社内稟議プロセス等によっては1年以上を要することもあるため、時間的な余裕を持って準備を進めることが望まれます。

M&Aの流れについては、検討からクロージング・PMIまでの手順を別記事で詳しく解説しています。

ステップ 主な内容 期間の目安
準備・情報整理 決算書・許可情報等の整理、仲介会社・FAへの相談 1〜2ヶ月
相手先の探索・打診 ノンネームシート・IM(企業概要書)による打診、候補先の選定 1〜3ヶ月
トップ面談・意向表明 経営者同士の面談、意向表明書(LOI)の提示 2週間〜1ヶ月
基本合意(MOU) 大枠の条件について基本合意書を締結(法的拘束力は限定的) 2週間〜1ヶ月
デューデリジェンス(DD) 財務・法務・労務・許認可等の詳細調査 1〜2ヶ月
最終契約(DA)・クロージング 最終契約書の締結、表明保証、代金決済、経営権の移転 2週間〜1ヶ月
PMI(統合プロセス) 組織・業務・システムの統合、従業員への説明 クロージング後数ヶ月〜1年程度

意向表明書(LOI)は買い手候補が譲受意向を示す書面、基本合意書(MOU)はその後の交渉の大枠(価格の目安・独占交渉権の有無・スケジュール等)を確認する書面で、いずれも最終契約書(DA)とは異なり法的拘束力を持たない条項が中心です。最終契約書には、売り手が申告した財務内容や許認可の状況等に誤りがないことを保証する表明保証条項が盛り込まれるのが一般的で、内容に相違があった場合は損害賠償等の対象となり得ます。最終契約書の締結とクロージング(決済・経営権移転の実行)をもって、M&Aの手続きは完了しますが、その後のPMI(統合プロセス)こそが、買い手・売り手双方の強みを組み合わせて生まれるシナジー(相乗効果)を実際に引き出せるかどうかを左右する重要な局面であることも忘れてはなりません。

管工事会社の企業価値評価と価格相場

管工事会社の企業価値評価と価格相場を検討するイメージ

M&Aにおける企業価値評価には複数の手法があり、それぞれ考え方や適した場面が異なります。実務上は一つの手法に頼るのではなく、複数の手法を組み合わせて相場観を形成するのが一般的です。

評価手法 概要 管工事業での留意点
年買法(時価純資産+営業権) 時価純資産に、数年分の営業利益(のれん相当額)を加算する簡便な手法 中小企業のM&Aで広く使われるが、単独ではなく他手法と併用されることが多い
DCF法 将来のキャッシュフローを現在価値に割り引いて評価する手法 将来の受注見通しの精度に評価結果が左右されやすい
EBITDAマルチプル法 類似企業の評価倍率をEBITDA(利払い・税引き・償却前利益)に乗じて算定 類似する上場企業・取引事例が限られるため、幅を持たせた参考値になりやすい
純資産法 貸借対照表上の純資産(時価修正後)をベースに評価 保有する重機・車両等の資産価値評価が結果に影響する

価格相場については、会社の規模・収益力・保有する許認可や有資格技術者の在籍状況、取引先との関係性など、個別要因によって大きく変動するため、一律の相場を提示することはできません。インターネット上には具体的な金額水準を示す情報も見られますが、あくまで目安として捉え、自社の実際の価値は複数の評価手法と専門家の意見を踏まえて総合的に判断することが重要です。

企業価値評価(バリュエーション)の3つの代表的な算定方法については、こちらの記事で詳しく解説しています。

管工事会社のM&Aにかかる費用・手数料

管工事会社のM&A費用・手数料を確認するイメージ

M&Aを仲介会社やFA(ファイナンシャル・アドバイザー)に依頼する場合、一般的に成功報酬を中心とした手数料が発生します。代表的な算定方式がレーマン方式で、譲渡金額の水準に応じて段階的に料率を下げていく計算方法です。

レーマン方式による成功報酬の計算方法については、こちらの記事で詳しく解説しています。

レーマン方式と総称される成功報酬の算定方法には、株式価値そのものを基準とする「株価ベース」、株式価値に負債額を加えた「移動総資産ベース」のほか、有利子負債のみを加算する「企業価値ベース」など複数の考え方があり、どの基準額を採用するかによって報酬額が変わります。基準額の定義や呼称は仲介会社・FAごとに異なり、一般に紹介されることが多い料率の目安は次のとおりですが、公的に統一された標準料率が存在するわけではありません。

基準となる金額の区分 料率の目安
5億円以下の部分 5%程度
5億円超10億円以下の部分 4%程度
10億円超50億円以下の部分 3%程度
50億円超100億円以下の部分 2%程度
100億円超の部分 1%程度

このほか、契約時に発生する着手金、月額の顧問料(リテイナーフィー)、中間合意時に発生する中間金など、報酬体系は会社によってさまざまです。中小M&Aガイドライン第3版(2024年8月30日公表、2025年1月1日適用)では、契約締結前に算定方法・最低報酬額を含む17項目について書面で説明することが求められており、レーマン方式の料率テーブルや最低手数料、買い手側に支払われる報酬の算定方法など、手数料に関する重要事項を契約前に書面で開示することが、M&A支援機関登録制度に登録する仲介者・FAに実務上求められています。また、同制度(ma-shienkikan.go.jp)に登録している支援機関は、自社の手数料体系を制度のデータベース上で公表することも義務付けられています。契約を検討する際は、こうした開示情報をもとに、提示された条件が自社にとって妥当なものかを確認する姿勢が欠かせません。なお、事業譲渡では譲渡対象資産の内容に応じて消費税の課税関係が生じる場合があり、株式譲渡では株主個人が得る譲渡益に課税が生じるなど、手数料以外にも税務面で確認すべき論点があります。詳細は税理士に個別に確認することをおすすめします。

管工事業界に特有の実務論点-許認可・技術者資格の承継

建設業許可・技術者資格の承継を確認するイメージ

管工事業のM&Aでは、他業種にはない実務上の論点として、建設業許可や技術者資格の承継、施工中工事の引き継ぎ、労災・安全衛生体制の承継といった点に特に注意が必要です。

建設業許可と営業所技術者等の要件

建設業法では、建設業許可を受けるための要件の一つとして、営業所ごとに一定の資格または実務経験を持つ技術者を配置することが求められています(建設業法第7条・第15条)。この要件は従来「専任技術者」と呼ばれてきましたが、2024年12月13日施行の建設業法改正により、制度上の名称が「営業所技術者等」(営業所技術者・特定営業所技術者の総称)に変更されました。管工事業の営業所技術者等となり得る者には、1級・2級管工事施工管理技士等の国家資格保有者や、一定年数以上の実務経験を有する者などが該当します。もし現在の経営者自身がこの営業所技術者等を兼務している場合、M&A後もその人物が継続して在籍するか、代わりとなる有資格者を確保できるかが、許可の維持に直結する重要な論点になります。

株式譲渡の場合、法人格そのものは変わらないため、建設業許可も原則として維持されやすいとされていますが、役員変更や営業所技術者等の在籍状況、経営業務の管理体制、社会保険の加入状況など、許可要件を維持できているかどうかの確認は別途必要です。事業譲渡や会社分割を伴うスキームでは、許可の再取得や承継手続きの要否が個別の状況によって異なります。2020年10月に施行された改正建設業法では、建設業法第17条の2・第17条の3に基づく「事業承継等の事前認可制度」が整備され、一定の要件を満たす場合に限り、合併・会社分割・事業譲渡等に伴う建設業許可の承継について事前に認可を受けることで、許可の空白期間を生じさせずに地位を引き継げるようになりました。ただし、この制度を利用できるかどうかや実際の手続きは許可行政庁・個別の状況によって異なるため、行政書士など建設業許可の専門家、必要に応じて許可行政庁へ事前に確認することが欠かせません。

施工中工事の引き継ぎ

管工事は着工から竣工まで数ヶ月から数年に及ぶ工事も珍しくなく、M&A実行時点で複数の工事が施工中であるケースが一般的です。株式譲渡であれば契約主体(法人)自体は変わらないため、請負契約は原則としてそのまま継続しますが、事業譲渡の場合は個別の請負契約について、発注者や元請企業の承諾(契約上の地位の移転)が必要になることが一般的です。施工体制台帳の更新や、下請企業への通知といった実務対応も発生するため、進行中の案件がある場合は、どのタイミングでどのように引き継ぐかをあらかじめ買い手候補と擦り合わせておく必要があります。

労災・安全衛生体制の承継

建設現場では、労働安全衛生法に基づく安全衛生管理体制(安全衛生責任者の配置、元請・下請間の連絡調整等)が重要な役割を担っています。株式譲渡の場合は労働保険関係が法人単位でそのまま存続するため大きな変更は生じにくい一方、事業譲渡等では雇用保険・労災保険等の労働保険関係の手続き(資格喪失・取得の届出や保険関係成立届等)が必要になる場合があるため、労働局や社会保険労務士への確認が推奨されます。加えて、現場ごとの安全衛生管理のノウハウや責任者の在籍状況についても、買い手候補との間で早期に共有しておくことが、M&A後の現場運営を円滑にするポイントです。

M&A実行前に確認しておきたいチェックリスト

管工事会社がM&Aの準備を進める際、少なくとも次の項目については早い段階で整理・確認しておくことをおすすめします。

  • 建設業許可の種類・有効期限・営業所技術者等(専任技術者)の氏名と資格内容
  • 営業所技術者等が譲渡後も継続して在籍する見込みがあるか
  • 施工中案件の請負契約書と、契約上の地位の移転可否
  • 労働保険・社会保険の加入状況と、従業員の雇用契約の内容
  • 個人保証・経営者保証の内容と、金融機関への確認状況
  • 決算書・税務申告書等、財務関連資料の整理状況

提示された手数料・条件は妥当か-セカンドオピニオンという選択肢

セカンドオピニオンによる契約条件の確認を相談するイメージ

M&Aの検討を進める中で、仲介会社やFAから具体的な手数料体系や契約条件を提示される場面が出てきます。中小M&Aガイドライン第3版によって書面での事前説明義務が強化されたとはいえ、提示された料率や契約条件が自社にとって妥当な水準なのか、他社と比べて特別な条件が含まれているのかを、専門知識のない経営者が単独で判断するのは容易ではありません。

こうした場面で活用できるのが、契約締結前に中立的な第三者へ意見を求める「セカンドオピニオン」という考え方です。M&Aインサイトが提供するセカンドオピニオンは、完全無料・成功報酬なしで、売り手に100%寄り添う立場から、提示された手数料体系や契約条件が業界の一般的な水準と比べて妥当かどうかを確認できるサービスです。仲介会社やFAとの契約自体を否定するものではなく、あくまで契約を結ぶ前に「この条件で進めて問題ないか」を客観的に確認する、もう一段階の安心材料として活用いただけます。

セカンドオピニオンの具体的な活用法や相談先の選び方については、こちらで詳しく解説しています。

管工事業のように専門性が高く、許認可や技術者資格の承継といった業界特有の論点が絡む場合は特に、契約条件の細部まで見落とさず確認しておくことが、後悔のないM&Aにつながります。

提示された条件に不安がある方は、無料のセカンドオピニオンをご活用ください

管工事会社のM&Aで失敗しやすいパターンと対策

管工事会社のM&Aで失敗しやすいパターンへの対策を検討するイメージ

管工事会社のM&Aでは、他業種と共通する失敗パターンに加えて、業界特有の落とし穴も存在します。あらかじめ典型的なパターンを把握しておくことで、多くのトラブルは未然に防ぐことができます。

一つ目は、価格交渉に意識が集中し、許認可承継の確認がおろそかになるパターンです。譲渡価格の条件面ばかりに気を取られ、営業所技術者等(専任技術者)の処遇や許可承継の手続きを後回しにした結果、クロージング間際になって許可要件を満たせないことが判明し、スケジュールが大きく遅延するケースがあります。二つ目は、営業所技術者等本人の離脱を想定していないパターンです。譲渡後に本人が退職・引退してしまい、後任の有資格者を確保できずに許可維持が困難になる事態も起こり得ます。

三つ目は、情報漏洩による従業員・取引先の動揺です。M&Aの検討段階で情報が外部に漏れると、優秀な技術者の離職や、取引先との関係悪化を招くおそれがあります。秘密保持契約(NDA)の締結と、社内での情報共有範囲の限定が欠かせません。四つ目は、デューデリジェンスを軽視して契約を急いでしまうパターンです。買い手側の詳細な調査を面倒だと感じ、必要な資料開示や説明を怠ると、契約後に想定外の問題が発覚し、表明保証違反等のトラブルに発展することがあります。これらのパターンに共通する対策は、早い段階から専門家の支援を受け、時間的な余裕を持って準備を進めることに尽きます。

よくある質問

管工事会社を売却しても、建設業許可はそのまま引き継げますか?

株式譲渡の場合は法人格が変わらないため、建設業許可も原則として維持されやすいとされています。ただし、営業所技術者等(従来「専任技術者」と呼ばれていた要件)が譲渡後も継続して在籍するかどうかが許可維持の重要な条件となるため、事前の確認が必要です。事業譲渡や会社分割を伴う場合は、許可の再取得や承継手続きが必要になることがあるため、行政書士等の専門家に個別に相談することをおすすめします。

施工中の工事は、M&A後どうなりますか?

株式譲渡であれば契約主体(法人)自体は変わらないため、請負契約は原則としてそのまま継続します。事業譲渡の場合は、個別の請負契約について発注者や元請企業の承諾を得たうえで、契約上の地位を移転する手続きが一般的に必要になります。進行中の工事がある場合は、引き継ぎのタイミングを買い手候補とあらかじめ擦り合わせておくことが重要です。

従業員は解雇されてしまうのですか?

株式譲渡の場合、雇用契約の当事者である会社自体は変わらないため、法的には従業員の雇用は原則として継続されます。事業譲渡の場合は、個々の従業員との間で転籍について同意を得る手続きが必要になりますが、多くのM&Aでは従業員の雇用維持を前提に交渉が進められます。ただし、いずれの手法でも、統合後の経営方針や組織再編によっては処遇・配置の変更、場合によっては人員体制の見直しが行われる可能性はゼロではないため、契約条件の中でどこまで雇用継続が約束されているかを確認しておくとよいでしょう。

個人保証・経営者保証はM&A後どうなりますか?

M&Aによる株式譲渡・事業承継を機に、金融機関との交渉によって経営者保証が解除されるケースがあります。ただし、保証解除の可否は金融機関の判断や契約内容によって異なるため、M&Aの検討段階で早めに金融機関へ相談し、解除に向けた条件を確認しておくことが望まれます。

仲介会社・FAへの手数料はどのくらいかかりますか?

多くの場合、譲渡金額に応じて段階的に料率が下がるレーマン方式が用いられますが、公的に統一された標準料率は存在せず、実際の料率は仲介会社・FAごとに異なります。中小M&Aガイドライン第3版により、契約前に算定方法・最低報酬額等を書面で説明することが求められているため、複数の情報を比較したうえで契約を検討することをおすすめします。

小規模な管工事会社でもM&Aの対象になりますか?

会社の規模にかかわらず、後継者不在や技術承継の課題を抱える管工事会社は、M&Aによる事業承継の対象になり得ます。近年は小規模事業者向けのM&A支援体制も整いつつあり、事業承継・引継ぎ支援センター等の公的機関でも、第三者承継に関する相談を受け付けています。まずは自社の状況を整理したうえで、複数の相談窓口に問い合わせてみることをおすすめします。

セカンドオピニオンは本当に無料で利用できますか?

M&Aインサイトが提供するセカンドオピニオンは、完全無料・成功報酬なしで、売り手に寄り添う中立的な立場から相談を受け付けています。仲介会社やFAとの契約を検討している段階はもちろん、まだ具体的な相手先が決まっていない情報収集の段階からご相談いただけます。

まとめ

管工事業界は、建設投資の底堅い需要が見込まれる一方で、技能者の高齢化や後継者不在といった構造的な課題を抱えています。M&Aによる事業承継は、こうした課題を解決しながら、従業員の雇用や取引先との関係、そして培ってきた技術を次世代へつなぐための現実的な選択肢の一つです。株式譲渡・事業譲渡といった手法の違い、企業価値評価の考え方、費用・手数料の仕組みを理解したうえで、管工事業ならではの建設業許可・技術者資格の承継実務にも早い段階から目を向けることが、後悔のないM&Aの実現につながります。

M&Aの検討を進める中で、仲介会社やFAから提示された条件に少しでも疑問や不安を感じたときは、契約を急ぐ前に、中立的な第三者の視点を取り入れてみることをおすすめします。

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本記事は、一般社団法人M&Aセカンドオピニオン協会 代表理事であり、日本M&Aセンター出身、M&A成約実績100件超を持つ森沢雄太氏監修のもと作成しています。記事内で紹介した統計・制度情報は執筆時点のものであり、最新の内容は各公的機関・専門家にご確認ください。

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